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「氷河期世代の長男は一生働かない」40歳・不肖の息子の人生を背負う親の莫大な代償

プレジデントオンライン / 2021年7月20日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/csheezio

就職氷河期世代の男性(40)はこれまで一度も働いたことがない。半ばひきこもり状態であることを、実家で同居する年金暮らしの父親(73)からたびたび叱責され、関係は悪い。父親がファイナンシャルプランナーに家計相談すると、一定の資産があるおかげで、両親が他界後、長男が80代になっても赤字転落は免れることがわかった。それにより父親の不安や焦りは軽減されたものの、“一生無職”を貫く長男の老後のために身代わりで払う代償の大きさとは――。

■就職氷河期世代の40歳男性、努力はしたが働かないまま今に至る

私(ファイナンシャルプランナー)の事務所は東京にありますが、面談による相談だけでなく、郵送での相談も受け付けています。地方にお住まいの方も東京に来ることなく相談できるようにと始めましたが、コロナ禍で面談を避けるために利用する人も増えました。

今回ご紹介するのは、5年ほど前の相談ですので、新型コロナとは関係ありませんが、郵送でのご相談の申込みでした。

【家族構成】
・父親:73歳(年金生活)年金額198万円
・母親:70歳(年金生活)年金額85万円
・長男:40歳(無職)
【資産】
・預貯金:約3500万円
・自宅:戸建て持ち家
【家計】
・収入 年283万円(夫婦年金合計)
・支出 年252万円
(内訳)
生活費 年210万円(月17万5000円)
住居費 年30万円
保険料 年12万円

■73歳父「社会復帰をさせ、自立した生活ができるようにしたい」

ご相談を申し込んできたのは父親(73)です。子供は息子(40)ひとりですが、ひきこもり状態で仕事をしていません。大学卒業時は就職氷河期で、就職が決まらないまま卒業を迎えてしまいました。資格取得を目指したものの、なかなか試験に合格できず、就職もしないままに時間だけが経過し、ますます就職が難しくなってしまいました。

親は、長男が仕事をするようにと、いろいろと手を打ちましたが、うまくいきませんでした。結局、一度も働いたことがありません。特に父親は仕事をしない長男をたびたび叱責しましたが、本人はかえって心を閉ざしてしまい、ひきこもり状態になってしまったそうです。

今では親子の会話もほとんどありません。

手紙の文面では、「なんとか社会復帰をさせ、自立した生活ができるようにしたい」と、父親の心境がつづられていました。

■生涯にわたって“働けない”ことを前提にシミュレーションを作成

郵送でのご相談の場合は、こちらから「質問シート」という記入用紙を送ります。そこに家計の状況や保有資産額、家族の状況などを記載してもらい、返送してもらいます。私は、いただいた情報を分析し、将来の家計状況をシミュレーションします。将来の状況が厳しいと予想されれば、改善策を提案します。

一般の家計相談の場合は、ご相談者夫婦が、80歳、90歳になるぐらいまでを分析しますが、働けない子どものご家族からの相談では、子どもが80歳、90歳になるまでを分析していきます。

子供の年齢によっては、かなり長い分析となり、誤差が小さくないのですが、現状から将来の状況を把握していただくことが目的です。

親が健在なうちは、働かない子どもがいても、それほど問題はありません。特に介護費用がかさばらなければ、親の年金で当面の生活費は賄えます。しかし、親が亡くなった後は、貯蓄を取り崩しながらの生活になります(親は、平均的な年齢で亡くなるものとして計算します)。

本人の平均寿命ぐらいまで貯蓄が維持できるようであれば、ひと安心です。ひきこもりの子は支出が少ないことも多く、けっして無理な話ではありません。

逆に、早期に貯蓄が枯渇し、資金不足となる場合は、何らかの対応策を検討します。自宅の売却を行ったり、兄弟姉妹で遺産の配分を考慮してもらったりすることもあります。

子どもが少しでも収入を得られれば、本人の老後の状況はかなり改善されます。しかし、基本は子どもが生涯にわたって“働けない”ということを前提にシミュレーションを作成します。もちろん、働けるようになればそれに越したことはないのですが、シミュレーションではあえて悪い状況が続くものとして、対応策を考えておきたいものです。

■長男が40年後に80代になっても赤字転落せず、貯蓄が維持できる

今回も、「質問シート」に記入していただいた情報を基に分析をし、現在の状況が続いた場合での長男の将来の家計状況のシミュレーションを作成しました(父親は87歳で他界、母親は90歳で他界、長男ひとり暮らしの際の支出は月13万7000円という想定)。

将来の家計状況シミュレーション

この家族の場合は、親がある程度の金融資産(貯金3500万円)と自宅(戸建て持ち家)を保有しており、さらに、ひとりっ子ですべての財産を相続することができたため、長男が40年後に80代になっても貯蓄が維持できそうでした(長男が85歳時の親の貯金残高は約900万円)。本人が浪費家でなかったことも幸いしたようです。現状、家族3人の基本生活費(食費や光熱水費、日用品費など)は月11万2000円で、長男のための特別大きなコストはないようです。

■父親からの電話「困るよ。これでは息子に見せられない」

私はご提案資料に書きました。

「現状では、ご長男の老後まで貯蓄が維持できそうで、親亡き後もそれほど心配はありません。ただし今後、支出が増えてしまうと資金不足となることもありますので、くれぐれも油断は禁物です」

こちらから送ったご提案資料が届いたころ、父親から電話がかかってきました。

「困るよ。これでは息子に見せられない」

父親は、今のままだと将来は厳しい状況になることを見せて、本人に危機感を持たせたいと考えていたようです。それまでも「このままでは将来生きていけない」と、長男の奮起を促す叱責を繰り返しており、私の家計診断もその材料としたかったようです。そのために私にシミュレーションの作成を依頼したのに、届いた結果が「今のままで問題ない」では怒るのも無理からぬことです。

確かにこのままの状態が続けば、親亡き後、長男は親が築いた貯蓄を取り崩しながら生活していくことになってしまいます。

しかし、長男は収入を得られないものの、浪費家ではなく、支出は多くありません。「自立した生活」とは言えないまでも、比較的「堅実な生活」であり、ひきこもりの子どもの中では、比較的良いケースだと言えるでしょう。ささやかな生活を維持していけば、生活保護などの公的支援を受けずに、生涯を送ることは十分に可能です。

水たまりに移るブランコ
写真=iStock.com/Elena_P
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Elena_P

■「お金が不足すれば働くわけではない、安心させてあげてください」

「お金が不足すれば働くようになる、というものでもありません。このままでも心配ないと、まずは安心させてあげてください」

私は言いました。父親の返事の声からは、怪訝そうな顔を浮かべている様子が想像できました。

このあたりは、郵送での相談の至らない点かもしれません。面談でのご相談であれば、いろいろと話ができますので、十分なコミュニケーションが取れます。ご相談に来られたご家族も、こちらの意図を汲み取ってくれます。その点、郵送だけのやり取りでは気持ちの問題など、お互いに把握が難しい部分があります。

その時のご相談はそれで終わりましたが、数年後に父親からまた連絡をもらいました。それによると、提案書を受け取った時は納得できなかったけれども、「働かなくても生きていくことはできる」とわかり、親としても焦らなくなったそうです。無理に働くことを勧めなくなり、就職の話はしなくなりました。

すると徐々に、親子で会話が増え、コミュニケーションが取れるようになってきたそうです。まだまだ社会復帰ができたと言える状況ではありませんが、以前と比べると、家の中がギスギスすることなく、雰囲気が良くなってきたと、明るい声で報告してくれました。

子どもが50歳前後になると、親の心境にも変化が生じてくるケースが少なくありません。「子どもが立ち直ることを諦める」とも言えますが、「子どもの現状を受け入れる」ということでもあります。

すると親子の関係が、それまでの敵対関係ではなくなり、打ち解けた関係に変わってくるというのです。子どもにとっても、親が自分の現状を受け入れてくれてこそ、心を開こうという気になるのではないでしょうか。

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村井 英一(むらい・えいいち)
ファイナンシャルプランナー
「働けない子どものお金を考える会」メンバー。 大手証券会社で個人顧客の投資相談業務を長年行い、ファイナンシャルプランナーとして独立後は、資産運用に限らず、家計の見直し、住宅購入、老後資金など幅広い相談を受ける。 特に、長期にわたる家計のシミュレーション分析を得意とし、ひきこもりや障害を持つお子さんとそのご家族の資金計画を行っている。

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(ファイナンシャルプランナー 村井 英一)

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