「年収を半期ごとに下げていく」次々と露呈するPwCジャパンの危うい組織風土
プレジデントオンライン / 2021年7月24日 11時15分
■裁判所が証拠の提出を命じたが、それにも応じていない
大手会計事務所PwCジャパンでパワハラを受けた女性社員Aさんが同社とその代表らを相手取って訴訟を起こした問題を筆者が報じて、約1年になる。
上司の海外出張に不審な点があるとして説明を求めたAさんは、その後、一方的に降格や減給などなどのパワハラを受け、これを不服としてAさんは労働審判を東京地裁に申し立てた。労働審判でAさんの主張が認められたが、PwCジャパンはその後Aさんを解雇した。
Aさん側は地位確認や未払い賃金の支払いなどを求めて争いの場を東京地裁での民事裁判に移したが、この審理が遅々として進んでいない。
新型コロナウイルスの蔓延で公判を開けないことに加えて、PwCジャパン側が証拠をなかなか提出しないからだ。痺れを切らした裁判所がPwCジャパン側に証拠の提出を命じたが、それにも応じておらず、降格・減給についての審理はまだ行われてもいない。
■「パワハラは、身体に危害を与えない些細な事件」と説明
当初、東京地裁の担当裁判官は、PwCジャパン側の代理人弁護士から和解の申し出があったため、Aさん側に和解を勧告した。PwCジャパン側が提案した和解条件は、金銭面でAさんに対して有利な条件だったらしい。こうした労働関係の争いは、多くが裁判に至る前に和解で決着する。裁判になると事件として広く知られてしまうからだ。PwCも本格的な訴訟に移行して「PwC事件」などとして裁判記録に名前が残ってしまう前にカネで解決したかったのだろう。
しかしAさん側は和解には応じなかった。「PwCジャパン側の謝罪が一切ない」というのがその理由だ。社内で一方的に不名誉な処分を下されて広められ、それが再就職に悪影響を及ぼしているだけに、Aさんは強く謝罪を求めている。
一方、PwC側は労働審判で負けたにもかかわらず、その後さらにAさんを解雇しており、裁判ではその正当性のみを主張している。その理屈は、Aさん側がパワハラ問題を金融庁や日本公認会計士協会などへ通報したことについて「パワハラは、身体に危害を与えない些細な事件なので、公益通報事由ではない」というもので、理解に苦しむ。
■どさくさに紛れて懲戒請求の取り下げまで和解案に盛り込む
Aさん側の怒りの矛先は、PwCジャパン側の代理人弁護士にも向けられている。当初、代理人弁護士らは中立を装ってAさんから話を聞き出し、その後、寝返るようにしてPwCジャパン側の弁護人に回っているからだ。
Aさん側は森・濱田松本法律事務所に所属する代理人弁護士について、第二東京弁護士会に懲戒請求を提出。本来、PwCジャパンの利益と代理人弁護士に対する懲戒請求は何の関係もないはずであり、これをどさくさに紛れて懲戒請求の取り下げまで和解案に盛り込むのは弁護士倫理に違反しているであろうというわけだ。
Aさんが和解案を蹴ると、PwCジャパン側の弁護士らは「和解に応じない場合は控訴する」と通告してきた。PwCジャパン側は裁判が始まっても準備書面すら提出しようとしなかったのに、もう控訴をちらつかせているのだから、一審での敗北をすでに見越しているのだろう。トイレで用を足す前にお尻を拭くようなもので、せっかちな話だ。
■「実は多くの人が短期間で辞めさせられている」
7月13日にようやく原告と被告の双方が証人の選定に入り、原告のAさん側は筆者を証人に立てたい意向を示しただそうだ。被告の弁護団はこれに反対しているが、それはもっともな話で、筆者が証人として出廷したり陳述書を提出すれば、PwCジャパン側はその中身に何を盛り込まれるか、分かったものではないからだろう。
なにしろ社内で「メディアの取材に応じるな」とお触れが出ているにもかかわらず、今もPwCジャパン関係者からの情報提供は続いている。その中には、倫理上の問題ではなく、法的な問題を含んだ、かなり刺激的な内容の内部資料(たとえば監査先に関わる情報など)の提供を申し出るケースもあった。
これには時期的な影響もあるようだ。PwCジャパンでは5月が業績評価の面談時期で、内部からは「実は多くの人が短期間で辞めさせられている。手持ちの案件が乏しいのはPwCジャパンの事情なのに『働いていない』として人事評価を下げ、年収を半期ごとに下げていく」という説明があった。
■第三者に内部通報のできる仕組みだったはずが…
いまも筆者のSNSには、PwCジャパン関係者の「あしあと」が後を絶たない。PwCジャパンのHP上には「コンプライアンスライン情報については、第三者であるベーカー&マッケンジー法律事務所(外国法共同事業)に開設したE-Mailアドレスに通報することもできます」と記され、同法律事務所が内部通報の窓口になっていた。
しかし実際には2月1日から通報先が「エシックス・ヘルプライン」と呼ばれるPwC内の窓口に切り替えられており、外部に通報したり助けを求めたりすることはできなくなっているのだ。
これでは内部通報窓口というよりも、社内の不満分子をあぶり出す仕掛けであり、こうした事情もSNSの「あしあと」となって表れているのだろう。問題を解決せずに社員に上からプレッシャーをかければ、不満が横からはみ出るのは当たり前だ。
PwCジャパンが山積する問題を抱えていることは間違いない。少なくとも直近の裁判については目を背けることなく、真摯に向き合うべきはないだろうか。そうした事案はまだ続くかもしれないのだから。
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ジャーナリスト
1967年生まれ。 愛知県出身。法政大学法学部卒。日本公社債研究所(現格付投資情報センター)アナリスト、日本経済新聞社証券部記者などを経て、現在は経済ジャーナリスト。月刊誌『FACTA』でオリンパスの不透明な買収案件を暴き、第18回「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」の大賞を受賞。 著書に『サムライと愚か者 暗闘オリンパス事件』(講談社)などがある。
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(ジャーナリスト 山口 義正)
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