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「インド太平洋戦略はゴミ山に捨てるべき」中国が激しい言葉で日本を中傷する本当の理由

プレジデントオンライン / 2021年7月28日 11時15分

共産党100周年式典での習近平国家主席=2021年7月1日、中国・北京 - 写真=EPA/時事通信フォト

■「日本の主張は、完璧な誤りで、無責任」と批判

「日本はわが国の国防や軍事活動を不当に批判し、一方的に騒ぎ立てている。断固、抗議する」
「台湾情勢の安定が『日本の安全保障に重要』というのは、完璧な誤りで、無責任だ」
「台湾は中国の一部。中国は必ず台湾を統合する」
「台湾問題は中国の内政に属し、外国勢力の介入は許さない」

7月13日に日本が公表した「防衛白書」(2021年版)に対する中国政府(国防部や外務省)の抗議である。どの抗議も非常に激しい表現だ。中国の習近平(シー・チンピン)政権はどうしてここまで強く反発するのだろうか。

■米中対立に焦点を当てた特集ページを新設

公表された防衛白書はこれまでと違い、激化するアメリカと中国の対立に焦点を当てた特集ページが新たに設けられた。台湾海峡や東シナ海、南シナ海での軍事的緊張、香港や新疆(しんきょう)ウイグル自治区での人権問題などを大きく取り上げ、中国政府を厳しく批判している。安全保障上の悪化の理由を中国の国力が増したことによる「パワーバランスの変化」とも指摘している。

とくに台湾情勢については、防衛白書として初めて「日本の安全保障はもとより国際社会の安定にとって重要」との見解を示した。台湾の周辺空海域で戦闘機や軍艦を使った中国軍の行動が活発化し、これに対してアメリカが戦闘機を台湾に売却する方針を示すなど「台湾支援を強化している」と言及し、「日本も一層緊張感をもって注視していく必要がある」と訴えている。

さらに防衛白書は、沖縄県の尖閣諸島周辺海域での中国海警船の領海侵入について「そもそも国際法違反」と批判し、接続水域での連続航行が2020年は333日で過去最多に達し、同年10月には領海侵入が過去最長の57時間にも及んだことを取り上げ、「中国の挑発行為の激化」を強調している。

今年2月に施行された海警法についても「適用海域が曖昧で、国際法との整合性の観点から大きな問題がある」と指摘した。

■政権の正当性を国民に信じ込ませる必要がある

こうした日本政府の主張に対し、中国政府は「尖閣諸島は中国領土の不可分の一部だ」「日本が自由で開かれたと主張するインド太平洋構想は、歴史的逆走の産物で、ゴミの山に捨てるべきだ」などと露骨に反発する。

耳障りな言葉を並び立てる習近平政権のこの戦術は「戦狼外交」と呼ばれる。強い言葉で相手国を罵倒し、自国の正当さを何度もアピールする好戦的外交戦術である。「嘘も百回言えば真実になる」や「三人、虎を成す」ということわざの類を地で行くものだ。

戦狼外交の戦術は外交だけではなく、内政にも大きく役立つ。14億人超という世界最大の人口を維持するためには、政権の正当性を国民に信じ込ませる必要がある。戦狼外交によって自国の政府が常に正しいと国民に思わせることで、政権に対する反発心を抑え、分断や内乱が未然に防げるというわけだ。

しかしながら、いまの中国は一人っ子政策の失敗で少子高齢化の大波が押し寄せている。また、世界第2位の経済大国にまでのし上がったが、その裏側では貧富の格差が大きく広がり、社会不安を抱えている。

■「激しい言葉で反発したのは、痛いところを衝いたから」

7月16日付産経新聞の社説(主張)は「令和3年版防衛白書の特徴は、力による現状変更を進める中国によって台湾をめぐる緊張が高まることへの警戒感を示したことだ」と書き出し、こう主張する。

台湾の夜の高雄港
写真=iStock.com/JavenLin
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/JavenLin

「尖閣諸島(沖縄県)や南シナ海、北朝鮮などの問題に加え、台湾の安全保障を重視する姿勢を示したのは妥当である」

沙鴎一歩も「妥当」だと思う。

産経社説は防衛白書への中国側の一連の反発に対し、「激しい言葉で反発したのは、白書が中国の痛いところを衝いたからだろう。中国は白書をののしるよりも、軍用機や空母での台湾への露骨な脅しをやめるべきだ」と訴える。

防衛白書は台湾情勢の安定化が国際社会のために欠かせないと強調しているが、習近平政権は欧米の民主主義国家が国際社会として一致団結し、中国を批判することをかなり警戒している。習近平国家主席は国際社会に弱い。

■防衛白書は「懸念」ではなく、「脅威」と記すべきだった

産経社説は「中国を苛立たせた白書だが物足りなさもある」と指摘し、その理由をこう解説する。

「中国を『脅威』と明記せず、昨年同様、『わが国を含む地域と国際社会の安全保障上の強い懸念』とするにとどめた点だ。白書に反発し、尖閣を奪おうとすることこそ脅威の証だ。脅威の認識を明確にしなければ国民に危機感が十分に伝わらず、外交や防衛政策を展開しにくくなる」

「脅威」は威力による脅しを指し、「懸念」は不安や心配を意味する。明らかに習近平政権の安全保障を無視する行動は「脅威」そのものである。産経社説が主張するように防衛白書は「懸念」ではなく、「脅威」と記すべきだった。

この連載で指摘してきたように、習近平政権は台湾に対しては軍事的脅しを続け、香港では強制力や言論弾圧で民主派を排除した。軍事力をバックに東シナ海や南シナ海に人工の軍事要塞を築き、尖閣諸島周辺の海域では中国海警船が侵入を繰り返しては日本漁船を追い回している。どれも国際社会のルールに大きく背く行動であり、決して許されない。

台湾や香港だけでなく、新疆ウイグル自治区のジェノサイド(集団殺害)という問題についても、絶対に譲ることのできない「核心的利益」、他国の口出しを認めない「内政干渉」と断言し、弾圧を続けている。

それにもかかわらず、日本政府は習近平政権を「脅威」とは断定することを避けた。これでは中国の増長は止まらないだろう。

北京の抗議
写真=iStock.com/LCKK
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/LCKK

■「中国と平和的で安定した関係を」と訴える朝日社説

7月14日付の朝日新聞の社説は「対中、懸念のその先は」との見出しを立て、書き出しからこう訴える。

「中国の軍事的台頭に対する強い警戒感が伝わってくる。一方で、信頼醸成への取り組みや対話が進んでいない現状もある。中国と平和的で安定した関係を築くには何をすべきか。政府は懸念の先を示す必要がある」

朝日社説が訴えるように「平和的で安定した関係」が構築できるのならば、異論を挟む余地はない。しかし、それが難しいという現状をどう受け止めているのだろうか。あまりに理想主義ではないだろうか。

■「信頼醸成に資する取り組みの扱いは素っ気ない」と揶揄

朝日社説は書く。

「中国の国防費は日本の防衛費の約4倍。潜水艦や艦船、戦闘機など近代的な装備の数でも自衛隊を大きく上回る――。中国の急速な軍事力の増強ぶりを、白書はグラフや写真を織り交ぜて紹介。尖閣諸島周辺では『力を背景とした一方的な現状変更の試み』が『執拗に継続』されているとして、中国海警船の活動が過去最多、過去最長を更新したデータを列挙した」

グラフや写真、それに具体的データの掲載は、中国の脅威を伝えるためには欠かせない。それを朝日社説は「いずれも、国民にわかりやすく現状を訴える狙いがあるのだろう。他方、防衛当局間の交流など、信頼醸成に資する取り組みの扱いは素っ気ない」と揶揄するから情けない。朝日社説は中国の脅威や国防の重要性をどう考えているのか。

■中国は「脅威」なのか、それとも「懸念」なのか

さらに朝日社説は防衛白書が「脅威」を使わずに「懸念」を使用したことを評価し、次のように書くから驚かされる。

「ただ、中国に対する全般的評価は、『安全保障上の強い懸念』であるという、昨年の表現を踏襲した。防衛省内では、『脅威』など『懸念』より強い文言とすべきかをめぐって議論があったようだが、最終的には前回同様に落ち着いた。妥当な判断といえる」

どうして「妥当な判断」なのか。間違った判断ではないか。ちなみに、前述した産経社説は「物足りなさがある」と指摘していた。中国は「脅威」なのか、それとも「懸念」なのか。沙鴎一歩は産経社説のほうが現実を正しく捉えていると考える。

朝日社説は主張する。

「攻撃的な発信が対抗措置を招き、相互不信から軍拡競争へつながる事態は避けねばならない。また、偶発的な衝突がエスカレートしないよう、意思疎通を緊密にすることも不可欠である」

安全保障上、「軍拡」よりも「軍縮」を求め、意思疎通を緊密に実行することは大切である。だが、相手は共産党の一党支配下にある中国だ。あからさまに自国の利益を最優先し、他国と争う覇権主義を厭わない国家と意思疎通を図ること自体が難しいのである。朝日社説はそこをどう考えているのか。

■いまの習近平政権が「協調」に応じるわけがない

頂点に君臨する習近平国家主席は定年制を廃し、トップの地位の続投を狙っている。建国の父・毛沢東が就いていた中国共産党の「党主席」のポストを復活させ、自ら就くことも画策している。それは中国共産党が中国国家より上に位置するという考えがあるからだ。朝日社説はおのれのことしか念頭にない習近平氏との意思疎通をどう図れというのか。

最後に朝日社説は「力による対決ではなく、協調による共存をめざすには、外交や経済を含めた総合的な戦略と重層的なアプローチが必須である。防衛省・自衛隊のみならず、政府全体としての取り組みが問われている」と指摘するが、沙鴎一歩には絵に描いた餅のように思えてならない。

いまの習近平政権が「協調」に応じるわけがない。「共存」よりも自国の利益を優先する政権である。

時間はかかるが、日本と欧米の民主主義国家とが力を合わせて強固な対中国包囲網を築き上げ、政治的かつ経済的に、そして国際的に習近平政権を追い込み、国民中心の国家のあるべき姿を理解させるしか道はない。

その道は長く、険しい。だが、決して諦めてはならない。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)

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