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「宗教パワーがどんどん落ちている」都議選の全員当選を公明党が喜んでいない本当の理由

プレジデントオンライン / 2021年7月29日 11時15分

東京都議選で当選確実の候補者の名前に花を付ける公明党の山口那津男代表(左)と石井啓一幹事長=2021年7月4日夜、東京都新宿区の公明会館 - 写真=時事通信フォト

7月4日に投開票された東京都議会選挙で、公明党は候補者全員が当選を果たした。『宗教問題』編集長の小川寛大さんは「公明党は候補者を確実に当選させる力をもっているが、それを今後も続けられるとは限らない。なぜなら支持団体である創価学会の『宗教パワー』が衰えているからだ」という――。

■都政関係者の「公明党が悪い」という声

「公明党の動きは怪しいよ。何か証拠があるわけじゃないけど」

7月4日投票の東京都議会議員選挙が終わった後、ある自民党都連関係者は静かな怒気を見せながら、そんな感想を漏らした。

今回の都議選に関しては、多くの政界関係者が「勝者なき戦いだった」と総括する。なるほど、都議会の定数127に対し、主要各党の獲得議席数は自民33、都民ファーストの会31、公明党23、共産党19、立憲民主党15といったところ。

まるで、どんぐりの背比べのような拮抗(きっこう)状態だ。選挙協力をした自民+公明や、共産+立憲といった野党連合の構図を考えても、都議会の過半数を確保できる勢力は存在しない。

今後の都政が混迷の度を深めるだろうことは必至だ。

一方で選挙前、政界周辺では小池百合子都知事が特別顧問を務める都民ファースト(都ファ)の壊滅的敗北と、自公勢力による過半数確保という観測が広がっていた。実際、多くの政治ジャーナリストや選挙ウオッチャーは、今回の都議選結果に関し事前の予想を外している。

そしてその目算ミスの中心は、「都ファが意外に負けなかった」ことと、「自民があまり伸びなかった」ことを予測できなかった点にある。その原因が何だったのかに関しては、現在各所でさまざまな分析が行われている。

ただ冒頭にあげたように、一部都政関係者の間から「公明党が悪い」という声が出てきている事実があるのだ。

■「公明党はああいう党なんだ」

前述のように、今回の都議選に自民と公明は選挙協力関係を結び、挑んだ。しかし2017年の前回都議選において、公明がタッグを組んでいた相手は都ファだった。

16年12月、都議会公明党は突如「自民党との信義が崩れた」と表明。それまで国政同様に協調していた自民との関係を断って、都ファと協力する道を選択する。そして17年都議選で都ファ・公明連合は圧勝。その後の都議会運営でもタッグを組みながら、さまざまな予算や条例を通してきた。

それが今年3月、公明は「小池都知事との関係は是々非々」と表明し、次期都議選に関して自民と選挙協力すると、再度の「手のひら返し」をしてみせたのである。

2016年7月の東京都知事選挙で、2位の候補に100万票差をつけて圧勝した小池氏。翌年に入ってもその圧倒的な小池フィーバーは収まらず、「このまま自民党とくっついて都議選に突入したら、公明党は壊滅する」との危機感から、当時の公明は自民との縁切りを選択する。

ただしその後、小池フィーバーは収まり、また東京五輪や新型コロナウイルス感染拡大などへの対応姿勢に関して小池都知事への批判が高まっていく状況を見て、公明は今春、小池・都ファをも見限った。

新宿アルタビジョンにうつる小池百合子都知事
写真=iStock.com/Fiers
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Fiers

無節操としか言いようのないこの公明の態度だが、政界の反応は意外に静かだった。

「公明党とは、ああいう党なんだという認識がもう、よく悪くも一般的になってしまっている。大阪のほうの動きに比べたら、むしろ東京は大人しいくらいじゃないんですか」(ある自民党国会議員)

■“無節操さ”の源流である大阪維新との関係

彼の言うように、近年の公明の無節操さの源流をたどっていくと、それは2010年代に入って大阪政界で台頭してきた大阪維新の会との関係に行きつく。

橋下徹・元大阪府知事を擁し、大阪で圧倒的人気を誇る維新の前に、大阪公明党は妥協的な態度をとり続けてきた。維新の看板政策である大阪都構想に対しても、迷走を重ねた末に賛意を表明。

現在では「大阪府政・市政において、もはや公明は維新の衛星政党と化している」(大阪の野党関係者)といった評さえ存在する状況になっている。この維新への対応をひとつの起点とし、近年の公明は何かの理念、政策に沿って動くというよりも、ただ「強いものに従う」だけの政党と化しているのではないかという疑念、批判が、政界には生まれているのである。

そういう露骨な生存本能に従った党運営をしていることの結果なのか、公明は確かに選挙では強い。今回の都議選でも、どの党もパッとした成果を上げられなかった中で、公明は23人の候補を全員当選させた。公明が都議選で候補全員を当選させたのは、これで8回連続である。

一方で、「今回の都議選で、公明は自分のところで精いっぱいだったのではないか」という観測も存在する。

当初の下馬評に比して、自民が意外に議席を伸ばせなかったところから出てきている意見で、つまり「公明は自分の選挙には熱心だったが、自民への協力はなおざりだったのではないか」という批判的な声が、自民関係者の一部から上がっているわけだ。

■「小池さんはジャンヌ・ダルクみたいでカッコいい」

「実を言えば、いまなお創価学会のなかで、小池人気はそこそこの熱を持っている」

そう証言するのは、東京在住のある古参学会員だ。

「特に旧婦人部(創価学会婦人部は今年5月、「女性部」に改組)のオバチャンたちの間では、今なお『小池さんはジャンヌ・ダルクみたいでカッコいい』といった評価さえ存在する」(同前)

小池都知事に対する批判勢力がよく口にするロジックに、「小池都政はポピュリズム的だ」というものがある。しかしそれゆえ、ワイドショーの主要視聴者であるところの主婦層などの間では、小池人気は一貫して高い。

創価学会は「民衆の城」を自称し、池田大作名誉会長には「庶民の王者」なる呼び名もある。つまり客観的事実として、創価学会はインテリや富裕層ではない人々の間に、根を張ってきた宗教団体なのだ。

ただそれゆえに、彼ら民衆の城は「小池流ポピュリズムに、いまなお巧みにからめとられてしまっていないか」(同前)との見方が存在する。

無論そうした事情をも超えて、強力な統制で個々の会員たちを束ね、巨大な宗教票にまとめ上げていくのが、本来の創価学会の真骨頂である。しかし近年の創価学会には、そうした宗教パワーの低下、欠如が散見されるのも事実なのだ。

■じわじわと進む「宗教パワーの減衰」

例えば2018年の沖縄県知事選挙。

在日米軍・普天間飛行場の返還計画のあり方や、辺野古基地新設の是非を重要なテーマとして争われた選挙だが、選挙後の各種調査データから、沖縄の公明票の3割近くが、公明が推薦していた自民系候補に投じられず、当選した玉城デニー氏に流れたことが明らかになっている。

宜野湾市の風景
写真=iStock.com/MasaoTaira
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/MasaoTaira

また20年に大阪市で行われた、大阪都構想の是非を問う住民投票でも、公明は維新支持、つまり都構想賛成の意思を明確に表明していたにもかかわらず、公明票は賛成・反対でほぼ五分五分に割れ、都構想は否決されている。

このように近年の公明票、つまり創価学会員たちの意思は、しばしば「本部の宗教的統制力」を超えて、「自分たちの内側にある素朴な庶民としての感情」に基づき、独自の行動をとるパターンが散見されるのである。

「ちょっと時間をかけて分析しないといけないが、今回の都議選でも学会員の票が自民候補への協力に向かわず、小池支持の観点から都ファに流れたような傾向があったのなら、よく組織というものを見直さなければならないだろう」(同前)

公明票の動きにこうした変化の傾向が本当に表れているのであれば、その原因のひとつは確実に、近年の理念なき公明党の政界遊泳に帰せられるべきだろう。しかし、そうした状況を生んでいるものとしてもうひとつ注目しなければならないのが、先にも述べた創価学会の「宗教パワー」の減衰である。

■12年間で200万票以上も得票数が減少

周知の通り、創価学会のカリスマ・池田大作名誉会長は、もう10年近く公の場に姿を現しておらず、その肉声も発表されていない。

今年93歳の池田氏の健康状態が現在どのようなものなのかに関して、ここで考察することは避ける。しかし、創価学会とは「その宗教指導者が10年近くにわたって具体的な指導を行っていない宗教団体」という、かなり特異な組織になってしまっていることは事実なのだ。これで宗教的な統制力を発揮しろというほうが無理な話ではあろう。

宗教政党とは、その母体である宗教団体の理念を現実社会で実現させるために活動する政治団体のはずである。しかし創価学会の場合、その宗教的理念が何であるのかが、近年あまり熱心に追究されなくなったという不満が、内部からも多く上がっている。

現在の創価学会、公明党を支えているのは、池田名誉会長と実際に触れあったことのある高齢層の会員である。彼らが自分たちの子や孫を一生懸命活動に駆り立てることによって、何とか創価学会は一定の形を保っているとも言えるのが実際のところだ。

つまり、創価学会はいま長期的な低落傾向に落ち込んでおり、その裏付けとして、国政選挙で全国から集める比例票が減り続けているという事実がある。

例えば公明党がその歴史の中で最も大量の比例票を集めたのは、2005年の衆議院議員選挙のときで、その数実に898万7620票。それが直近の衆院選である17年では、697万7712票、実に12年間で約200万の公明票がどこかへ消えていった。19年の参院選では653万票とさらに票数を減らしている。

公明党の衆議院選挙における得票数(比例代表)の推移
出典=総務省「衆議院議員総選挙・最高裁判所裁判官国民審査結果」

この焦りから、公明党は各種の選挙のたびに何としても目の前の議席を死守し、既得権益にしがみつこうとする姿勢が強くなっており、それが誰の目にもはっきりと見える形で表れたのが、大阪と東京における、維新と小池百合子氏への迷走した対応だったと考えられる。

■創価学会、公明党の失策は大多数の国民に影響を与えている

公明党は現実にさまざまな議会に議席を有している関係上、否応なく多くの日本国民の生活に影響を与える。それが大阪で2度に及んだ都構想に関する住民投票であり、またどの党もがイニシアチブを握れない形で終わった今回の都議選である。

創価学会、公明党が、自らの失策で崩壊に向かうのは自己責任である。そして、大多数の国民にとり、宗教団体としての創価学会が今後どうなるかといったことは、本来、何の関係もない。しかし、現実には、公明党の迷走という形で、大多数の国民生活に深刻な影響を与えつつある。

カリスマなき日本最大の新宗教団体の衰微は、今後の日本をどう変えてしまうのか。まずは次の総選挙に注目が集まっている。

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小川 寛大(おがわ・かんだい)
『宗教問題』編集長
1979年、熊本県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。宗教業界紙『中外日報』記者を経て独立。2014年、宗教専門誌『宗教問題』編集委員、15年、同誌編集長に就任。著書に『神社本庁とは何か 「安倍政権の黒幕」と呼ばれて』(ケイアンドケイプレス)、『南北戦争 アメリカを二つに裂いた内戦』(中央公論新社)がある。

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(『宗教問題』編集長 小川 寛大)

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