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「メダル獲得に感激してコロナ禍など忘れる」菅首相の狙い通りにさせていいのか

プレジデントオンライン / 2021年7月31日 11時15分

東京都で新型コロナウイルス感染者が2848人と過去最多を更新し、記者団の質問に答える菅義偉首相=2021年7月27日午後、首相官邸 - 写真=時事通信フォト

■日本が連日金メダルを獲得しても忘れてはならないこと

7月23日に開幕した東京オリンピックは連日、日本勢が金メダルを獲得している。

最初の日本の金メダルは、柔道男子60キロ級の高藤直寿(28)だった。前回リオデジャネイロ五輪で銅メダルとなった雪辱を果たした。報道陣のインタビューには「豪快に勝つことはできなかったが、これが僕の柔道」と涙声で語った。これが実に良かった。

柔道男子73キロ級の大野将平(29)も期待通りに五輪連覇の金メダル獲得を達成した。同じ柔道で「きょうだいで金メダル」を目標にがんばった男子66キロ級の阿部一二三(23)と女子52キロ級の詩(21)は、兄と妹そろって見事に金メダルに輝き、夢を実現した。

ソフトボールでは日本がエースの上野由岐子(39)を軸に宿敵アメリカを制して優勝した。卓球新種目の混合ダブルスは水谷隼(32)と伊藤美誠(20)のコンビが勝ち、日本としては初めての卓球オリンピックの金メダル獲得となった。

驚いたのが、新種目のスケートボード女子ストリートでの日本史上最年少の金メダル。記者会見で「(ご褒美は)焼き肉です」と笑顔を見せた中学1年の西矢椛は、13歳10カ月26日での金メダル獲得だった。1992年のバルセロナ五輪の競泳女子200メートル平泳ぎを14歳6日で金メダルを獲得した岩崎恭子を抜いた。

■国民を選挙のための票田としか考えていない

日本選手の金メダルの吉報は続き、この沙鴎一歩も原稿を書く手を止めてついテレビのライブ放映に夢中になってしまう。

なるほど、これが菅義偉政権の狙いなのだろう。菅首相はワクチン接種のスピードを上げることで新型コロナを収束に向かわせるとともに、東京オリンピック・パラリンピックを成功させ、その成功をテコに自民党総裁選と衆院総選挙に勝って首相を続投することを目指している。

首相官邸には「五輪が開幕すれば、国民はメダルの獲得に感激し、新型コロナ禍など忘れてしまう」との声がかなり前からあった。菅政権は国民を選挙のための票田としか考えていない。私たちを馬鹿にするのは止めてほしい。

たとえ東京五輪でメダル獲得が続いても決して忘れてはならない。東京オリンピックの開催中も新型コロナの感染は増え続け、緊急事態宣言下であることに変わりはない。金メダル獲得を喜ぶ声が上る一方で、重症化して苦しむ患者や、軽症で隔離状態となる感染者は多い。なかには運悪く死亡する人もいる。医療の逼迫(ひっぱく)も懸念される。

■7月末には感染の75%以上がデルタ株に置き換わる

7月27日の火曜日、東京都は「都内で新たに10歳未満から100歳以上までの男女合わせて2848人が新型コロナに感染している」と発表した。1週間前の火曜日の2倍以上の感染者数に上り、過去最多である。1日に2000人を超えるのは、第3波の今年1月15日以来となる。

感染者のうち65歳以上の高齢者の割合は2%台で、30代以下が7割を占める。40代、50代の入院が増え、インド由来の変異ウイルスの「デルタ株(L452R)」の割合も急速に増加。感染経路は「家庭内」が最も多く、これに「職場内」「会社・施設内」「会食」が続いている。

楽観的に見れば、今後さらにワクチンの接種層が広がり、全体の感染者は減り、重症者や死者も減るとは思う。いわゆる集団免疫の獲得だが、そこまで行きつくにはどれだけ早くても10月以降だろう。ただし、これもウイルスが大きく変異しなければ、という楽観的な仮定である。

国立感染症研究所によると、デルタ株の感染力はイギリスで確認された変異ウイルスの「アルファ株(N501Y)」と比べても1.4倍の感染力があり、このまま感染が広がると、7月末には感染の75%以上がデルタ株に置き換わる。

東京都が4回目の緊急事態宣言に入ったのが、7月12日の月曜日だった。それから2週間となる26日の月曜日は1429人の感染が確認され、1日の感染者数が1000人を超えるのは7日連続となった。

■本当に東京五輪を中止しなくていいのだろうか

2848人という過去最多の感染者数を記録したことに、菅総理大臣は首相官邸で記者団に質問されて次のように語った。

「各自治体と連携しながら、強い警戒感を持って、感染防止にあたっていく。重症化リスクを7割減らす新たな治療薬を政府で確保しているので、徹底して使用していくことも確認した」
「改めて国民の皆さんには、不要不急の外出は避けていただき、オリンピック・パラリンピックは、テレビなどで観戦をしてほしい」
「車の制限やテレワークのほか、皆さんのおかげで人流は減少しているので、(東京オリンピックを中止するような)心配はない」

本当に東京五輪を中止・中断しなくていいのだろうか。もはや、「首相を続投したい」とのおのれの欲望を優先するような首相は信用できない。与党議員からは8月24日から始まる東京パラリンピックの中止を求める声が上り、自民党内では「今度の衆院選は菅さんでは負ける。選挙の顔となる党総裁を新たにすえ、新首相のもとで選挙戦を戦うべきだ」との意見も出ている。

曇天の国会議事堂
写真=iStock.com/kanzilyou
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kanzilyou

7月28日には都内の感染者が3000人を超え、7月29日には1日の全国の感染者が初めて1万人を超えた。過去最多の感染者数の更新が続いている。

■「開催の国民の賛否は割れたままで、政府の責任は重い」と毎日社説

7月25日付の毎日新聞の社説は「東京五輪とコロナ対策 感染拡大防止を最優先に」との見出しを掲げ、「1964年以来2度目となる東京オリンピックの競技が続く中、新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めがかからない」と書き出し、こう指摘している。大きな1本社説である。

「大会の1年延期決定を主導した安倍晋三前首相や後継の菅義偉首相は、『人類が新型コロナに打ち勝った証し』にすると繰り返してきた」
「だが、世界はいまだ大流行の渦中にある。国内でもワクチン接種が遅れ、東京都には4度目の緊急事態宣言が出されている」

そもそも、新型コロナウイルスに「打ち勝つ」というのは、人間の思い上がりである。人類が誕生するずっと以前からこの地球上に存在していたのがウイルスだ。重要なのはワクチンと治療薬を駆使して、新型コロナとの共存を考えることである。ワクチンで人類が根絶できたウイルスは天然痘(痘瘡、疱瘡)のウイルスだけである。

WHO(世界保健機関)は1980年5月に天然痘を地球上から根絶したことを宣言し、当時、これでワクチンによってウイルスに勝てると考えた。しかし、それは間違いだった。翌1981年にはHIV(エイズウイルス)が人類の前に出現し、人の免疫を破壊してさまざまな症状を起こして死に至らしめるエイズという病が広がっていった。

毎日社説は訴える。

「菅首相自身が『異例の開催』と認めざるを得ないような状況である。宣言下の開催について、国民の賛否は割れたままだ。政府の責任は重い」

沙鴎一歩も間違いなく菅首相の責任は重いと思う。

■菅政権は「五輪中断」も念頭に置いて行動してほしい

毎日社説は主張する。

「政府や大会組織委員会は、感染拡大を防ぐことを最優先すべきだ。大会をきっかけに、国内外で状況が悪化する事態は避けなければならない」

巨大イベントの五輪は選手や関係者らおよそ5万人が集まる。集まれば当然、新型コロナの感染は拡大する。オリンピックの開催と防疫は真逆にある。そこを菅首相はどう考えているのか。

毎日社説は「今回は開催の意義が問われ続けた。コロナ禍に苦しむ国民から『何のための五輪なのか』という疑問が噴き出した」「にもかかわらず、組織委や政府から明確なメッセージが出されないままだ」と指摘するが、菅首相にはメモ書きを読み上げるのではなく、自分の生の声で五輪の意義を語ってほしい。

毎日社説は感染対策の問題点を挙げる。

「選手らに対しては、外部と遮断した環境で感染を防ぐ『バブル方式』が採用されている。だが、空港や宿泊施設などで十分に機能していない」
「国内では感染の『第5波』が広がりつつある。現在の拡大ペースが続いた場合、東京の新規感染者数は8月初旬に過去最多の2600人規模になる計算だという。インドで初めて確認され、感染力が強いとされるデルタ株の増加も心配だ」

菅政権が第5波が起きていることを十分に認識し、確実な対策を採っていないことが大きな問題である。

毎日社説は訴える。

「感染者数が急増して医療体制の逼迫が生じるようなことがあれば、政府や組織委は競技の打ち切りを含め適切な対応を取るべきだ。その際の判断基準を早急に示さなければならない」

すでに医療体制が逼迫しつつあるとの情報もある。菅政権は「五輪中断」も念頭に置いて行動してほしい。

■「分断と不信のなかで幕を開ける、異例で異様な五輪」と朝日社説

7月23日付朝日新聞の社説は「五輪きょう開会式 分断と不信、漂流する祭典」との見出しでこう書き出す。

「東京五輪の開会式の日を迎えた。鍛え抜かれたアスリートたちがどんな力と技を披露してくれるか。本来ならば期待に胸躍るときだが、コロナ禍に加え、直前になって式典担当者の辞任や解任が伝えられ、まちには高揚感も祝祭気分もない」

「コロナ禍」「直前の辞任と解任」などに抑え込まれ、開会直前になっても盛り上がらなかったのは事実である。それを冒頭から指摘する朝日社説は、東京オリンピック・パラリンピックの中止の決断を菅首相に求めてきただけはある。

さらに朝日社説は「社説はパンデミック下で五輪を強行する意義を繰り返し問うてきた。だが主催する側から返ってくるのは中身のない美辞麗句ばかりで、人々の間に理解と共感はついに広がらなかった」と指摘し、「分断と不信のなかで幕を開ける、異例で異様な五輪である」と言い切る。

新聞史上、オリンピックを「異例で異様」と表現した社説はこれが初だろう。それだけ朝日社説は東京五輪の開催を断行した菅政権を潰し、革新政権の誕生を願っているのだ。そこで思い出すのが、「3・11」の東日本大震災と福島原発事故における旧民主党政権の大失敗である。革新政権が常に正しいとは限らない。

■菅首相は安倍前首相の傀儡であってはならない

朝日社説は政権と五輪の関係をこう振り返る。

「16年大会の招致に失敗すると東日本大震災からの復興を目的に持ち出し、当時の安倍首相は原発事故の影響を『アンダーコントロール(管理下にある)』と国際社会にアピールした。現実を欺くこの演説などで招致を果たした後も、コンパクト五輪構想の破綻、経費の膨張、招致をめぐる買収疑惑、責任者の相次ぐ交代など、運営の根幹を揺るがす事態が続いた」
「理念と説明を欠き、不都合なことには目をふさいで暴走する体質は、コロナ禍が起きても変わらず、一層顕著になった」

朝日社説のこの指摘の通りだ。そんな安倍政権の体質は、いまの菅政権にそのまま継承されている。菅首相は安倍晋三前首相を補佐する官房長官だったからといって菅首相は安倍前首相の傀儡であってはならない。

朝日社説は「五輪といえばどんな無理も通るというおごりと、根拠なき楽観論の行き着いた果てが、『緊急事態宣言下での無観客開催』といえる」とも指摘するが、これにも賛成である。

さらに「この1年4カ月は、肥大化・商業化が進んで原点を見失った五輪の新しい形を探る好機だった。実際、大会組織委員会にもその機運があったという」と書き、問題点をこう挙げる。

「国際オリンピック委員会(IOC)と、その背後にいる米国のテレビ局や巨大スポンサーの意向が壁となって、将来につながる挑戦にはほとんど手をつけられなかった」
「あわせて浮き彫りになったのがIOCの独善的な体質だ。判断ミスを重ねた末に、何とか無観客開催にたどり着いたというのに、バッハ会長は菅首相に再検討を求めた。また、『日本の選手が活躍する姿をみれば、日本国民の感情も少し和らぐと自信を持っている』とも述べ、ひんしゅくを買った」

バッハ会長は日本人を馬鹿にしていないか。かつてバッハ会長もアスリートの1人だったはず。五輪選手として活躍したころを思い出してほしい。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)

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