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「転勤も残業も嫌がらない」それしか取り柄のない会社員ではこれから確実に仕事を失う

プレジデントオンライン / 2021年8月25日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/tdub303

フードデリバリーの配達員などの「雇われない働き方」が注目を集めている。その働き方にはどんなリスクがあるのか。労働法に詳しい神戸大の大内伸哉教授は「リスクがあるのはギグワーカーだけではない。日本の雇用システムは崩壊しつつあり、古い働き方をしている会社員も失職のリスクがある」という――。

■デジタル技術の発達が人間の仕事を奪いつつある

街中で、少し大きな箱を背負って自転車に乗る人をみかけることが増えた。フードデリバリーの配達員だ。広い意味での「アルバイト」の一つだが、特定の会社に雇用されず、それゆえ労働法の適用を受けず、自営業という形態で働くところに特徴がある。仕事は単発の臨時的なものであり、即興の演奏を意味する「ギグ」という音楽用語をつかった「ギグワーク」という名で呼ばれることが多い。

ギグワークは、いわゆる「雇われない働き方」の代表だ。会社員のように定時に出勤する必要はないし、誰かに指揮監督されて働くわけでもない。受ける指示は仕事をするうえでの必要最小限のものだし、気が進まないときは仕事を断ることができ、もちろん残業が命じられることもない。安定した収入は望めないが、それは必ずしも欠点ではない。むしろ、やればやるだけ収入が増えるというわかりやすさがあり、体力さえあればかなり稼げるのがこの働き方の魅力だ。

こうした自由な働き方は、会社員にはできない。しかし、会社員がこの働き方にすぐに飛びつきたくなるかというと、そうではなかろう。会社員には、会社という組織に所属することにより、自由を犠牲にしても、さまざまな保障や安定が得られるという大きなメリットがある。このメリットがあるからこそ、「いつでも、どこでも、なんでもやる」という拘束的な働き方やワーク・ライフ・バランスの犠牲も我慢できた。

ただ、この会社員の安定が危うくなっている。デジタル技術の発達が、人間の仕事を奪いつつあるからだ。安定もなく、自由もないとなると、この働き方は一転して最悪なものとなりかねない。

■セーフティネットの手厚さが会社員のメリットだった

ギグワーカーと会社員の最も大きな違いは、セーフティネットにある。とくにこれが明確に現れるのは、何らかの理由で働けなくなったときだ。

会社員であれば、業務上のケガで働けなくなった場合には労災保険が適用され、療養費は無料であるし、休業時の所得もトータルで8割まで補償される(これは正社員だけでなく、非正社員も同じだ)。また業務上ではないケガや病気の場合も、健康保険に加入していれば最長1年半、3分の2の所得補償(傷病手当金)がある。仕事を失った場合には、雇用保険による失業給付もある。ところが、雇われない働き方の場合には、労災保険も雇用保険もない。加入する国民健康保険には傷病手当金はない(なお、健康保険や雇用保険は、労働時間数などの要件があるので、アルバイトなどの多くの非正社員も加入できない)。

政府も、会社員と自営業者との間の格差を等閑視しているわけではない。例えば、2021年3月に、「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」を出して、フリーランスと取引する発注企業に「優越的地位の濫用」(正当な理由なく報酬支払期日を延長したり、報酬を一方的に減額したり、作業のやり直しを命じたりすることなど)をしないよう注意を喚起している。ただ、これによってフリーランスに何か具体的な権利が認められているわけではないので、労働法によって権利が認められている会社員とは、保障の程度が大きく異なる。

また、労災保険については、一定の業種や職種の自営業者も特別に加入できる制度があり、フードデリバリーの配達員も、6月にそのリストに追加された(施行は9月)。ただ、この制度は、加入は任意で、保険料は自己負担なので、会社に加入が義務付けられ、保険料も全額会社負担である会社員と比べると、セーフティネットとして見劣りがする。

これまでは、セーフティネット面からみれば、会社員がなかなかその働き方を捨てられないのには十分な理由があった。

自営業者は、「自分がボス」なので、頼れるのも自分だけだ。一方、会社員には、会社という頼れる組織がある。安心感という点では、会社員のほうが格段に大きい。でも、こうした安心感は、いつまでも持ち続けられるわけではない。

■機械化の流れは至るところで起きている

今日、働き方の将来を考える際に、つねに念頭に置いておくべきなのは、デジタル技術の発達だ。そう遠くない未来に、デジタル技術が社会のすみずみまで浸透し、デジタルトランスフォーメーション(DX)が起こる。それが雇用に及ぼす影響を一言で言えば、省人化・無人化だ。

変化はすでに起きている。工場や倉庫だけでなく、接客などの対人サービスもロボットに置き換わりつつある。海外のコンビニや一部の駅のキオスクでみられるように小売店の無人化は今後拡大するだろう。フードデリバリーなどの配達サービスも、自動運転やドローンが実用化されると、人手は不要となる。

スーパーのレジを担当するロボットのイメージ
写真=iStock.com/onurdongel
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/onurdongel

■20年後には約半分の仕事がAIやロボットに置き換わる

会社員のなかには、自分のやっている仕事は、アルバイトやギグワーカーがやるような単純なものではないので、そう簡単に機械には代替されないと思っている人も多いだろう。しかし2015年12月に野村総合研究所が発表したレポートによると、10~20年後、日本の労働人口の約49%は、その就いている職業が人工知能(AI)やロボットに置き換えられる。そこでの事務職の大半がなくなるという予想は、すでに現実化しつつある。銀行の窓口業務は、オンライン化により減少中だ。定型的なパソコン業務も、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の普及により自動化が広がっている。

もちろん、AIやロボットにできないこともたくさんある。ある個人がやっている仕事をそのまま機械が代替できるような場合は、それほど多くないかもしれない。職場がAI登載のアンドロイドだけになるというのは、SFの世界だ。だからといって、会社員が安心できるわけではない。

かつての駅には、どの改札口にも駅員がいた。切符が適正か確認して、それにはさみを入れるという作業を、ロボットがやるのはかなり難しいだろう。しかし、自動改札機を導入すれば、有人改札と同じ作業目的を達成でき、人間は不要となる。機械は、人間とは違うやり方で、正確で、迅速に、そしてしばしば安価に同じ目的を達成してしまう。自動改札機は一例だが、DXは、同じようなことが企業内、さらには社会生活や行政機関にも及んでいく。このようにして、人間の仕事はなくなっていくのだ。

■蓄積した知識や経験ではAIには太刀打ちできない

しかしDXのインパクトは、こうした省人化・無人化だけにとどまらない。これだけなら既存の業務の効率化にとどまるだけの話だ。DXの真のインパクトは、実は人間がこれまでやれなかったようなことも、やれるようにするところにある。なかでも重要なのが、AIが大量のデータを学習して、正解(精度の高い予測)を提案できることだ。

気象予報、クレジットカードの不正請求の発見、放射線画像からのがんの発見などが典型例だし、AIをつかって個人ごとの最適学習を可能とするアダプティブ・ラーニングは近未来の標準的な学習法だ。求人企業と求職者との間のマッチングにも利用が可能だ。学生が求人情報サイトをどのように閲覧したかの行動ログから、その内定辞退率を予測することもできる(このビジネスは、学生からのデータの収集方法に不手際があり、社会問題となった)。

AIの予測精度を高めるためには、良質なデータが十分にそろうことが必要だ。データがなければAIは力を発揮できない。しかし、最近はWeb上のデータだけでなく、現実世界のデータが、あらゆるところに設置されたカメラやセンサーで収集されインターネットをとおして大量に蓄積できるようになった。人間では捉えられないものまでデータとして把握され、それをAIが解析し、その成果が社会に還元されていく。DX時代の働き方は、こうしたことができるAIとの共存を前提としなければならない。

ベテラン社員は、これまでは、蓄積してきた知識や情報、豊富な経験に裏付けられた勘の鋭さなどによって、社内で優位性を発揮することができた。しかし、こうした知識、情報、勘では、AIに太刀打ちできない。DXを一番脅威に感じるのは、これまでのスキルが使えなくなるベテラン社員だろう。

もっとも、AIも万能ではない。データが十分に集まらない領域で正解を模索するといった作業は、AIにはまだできない。例えば、先例にとらわれず、新たなアイデアで仕事をしてきたような人は、当面はAIに代替されることはないだろう。つまり、今後必要とされるのは、過去の成功モデルを壊し、革新的なアイデアを企業に注入してくれるような知的創造性を備えた人材だ。一方、これまで重用されてきた、忠実に過去の成功モデルを踏襲できるというタイプの人材の居場所はなくなるだろう。

■通年採用、副業容認…崩壊する日本型雇用システム

多くの学生が、厳しい就職活動を経て内定を得るために必死の努力をするのは、それにより、正社員という地位を得て、安定を得るためだ。安定があるからこそ、転勤を命じられたり、残業や休日出勤を命じられたりするなど拘束性が強い働き方も耐えられる。しかも、その安定は、単なる期待ではなく、法律によっても解雇規制という形で保障されている。これが従来の常識だった。

就職面接を待つ人々
写真=iStock.com/BartekSzewczyk
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/BartekSzewczyk

確かに、労働契約法という法律では、解雇は客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と認められない場合には無効となると定められている。これは、元々は裁判所で認められていたルールであり、戦後に確立した日本型雇用システムの中核にある長期雇用慣行と密接不可分のものとして形成されたものだ。

しかしその日本型雇用システムは音を立てて崩れようとしている。これまでの会社員たちが耳を疑いたくなるような動きが起きている。例えば、新卒定期一括採用を見直して通年採用や初任給の格差などを導入する動きがある。これは、いわば雇用の入り口のところからの改革だ。これまでは自社への忠誠を求めてきたのに、一転して、副業を容認したり、別会社への転籍を積極的に推奨したりする動きも現れている。また正社員と非正社員の処遇の格差解消をめざす動きは、正社員からすればその優位性を剥奪する動きであり、これも日本型雇用システムを内部から崩していくものだ。

■新時代に適合できない会社員が解雇される可能性は十分にある

こうして日本型雇用システムが崩れていくと、このシステムと密接な関係をもっていた解雇規制も影響を受けざるを得ない。そもそも法律は、何が何でも雇用を保障すると定めているのではない。解雇には正当な理由が必要で、解雇をする際には適切な解雇回避をすべきだというのが、この法律のポイントだ。何が正当な理由で、何が適切な解雇回避かは、解釈に幅があり、それは最終的には裁判官が判断することだ。

従来の日本型雇用システムの下では、本人の能力不足や企業経営の悪化といった程度では正当な理由とは認められず、仮に正当な理由があっても、長期雇用の暗黙の約束をしている正社員には、解雇回避義務を重く課すという、厳格な解釈がなされてきた。だから重大な非違行為をおかすようなことでもないかぎり、正社員の雇用は安泰だった。しかし今後、社内でのDXが急速に進行してAIやロボットが人間の業務を代替するようになると、新しい技術環境に適合できない者は、正社員であっても、裁判所が、解雇の正当な理由を認め、かつ会社ができる解雇回避の措置にも限界があるとして、解雇を有効と認める可能性は十分にあるのだ。

■創意工夫する能力がDX時代には求められている

DX時代では、会社に雇われて、その指示を受けてやっていたような仕事の大半は機械が行う。つまり、雇用労働者の多くは不要となる。もちろん自営でやるとしても、機械でできるような仕事では稼いでいけない。結局、どのように働こうが、機械に負けないスキルなしでは、どうしようもないのだ。

会議でクリエイティブなアイデアを出し合う人々
写真=iStock.com/Sushiman
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Sushiman

では、どのようにしたら、そうしたスキルを身につけられるのか。教育の重要性は、いつの時代も言われてきたことだが、現在では深刻さが格段に増している。日本型雇用システムでは、会社が長期雇用を前提とした正社員に教育訓練を施してきた。日本の職業教育は、会社が担ってきたのだ。しかし、日本型雇用システムが機能しなくなると、もはや会社に頼ることはできない。雇われない働き方となると、なおさらだ。誰かに教えてもらうという受け身の姿勢では、激しい改革の波にのみ込まれてしまう。自分の職業能力は自分で磨くという意識改革がまずは必要だ。

では、何を学習すればよいのか。その答えを得るのは簡単なことではない。変化の激しい雇用社会における将来予測は、きわめて難しいからだ。ただ少なくとも言えるのは、いま存在している職業のスキルを習得しても、それが10年後には使えなくなる危険があるということだ。だからこそDXが高度に進行し、AIやロボットが日常的に仕事や生活の領域に入り込んでいる状況を想定して、そこから現在やるべきことを逆算して備えることが必要なのだ。そこで意識しておいたほうがよいのは、AIやロボットは、人間社会の抱える社会課題を解決するための手段にすぎないことだ。どのような社会課題を、どのように機械を使って解決するかを考えるのは、人間がやるべき仕事だ。そこで創意工夫して社会に貢献できる能力こそが、DX時代に求められるものだ。

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大内 伸哉(おおうち・しんや)
神戸大学大学院 法学研究科教授
1963年生まれ。東京大学法学部を卒業後、同大学院修了。近著として『誰のためのテレワーク?』『労働法で企業に革新を』、『人事労働法』、『会社員が消える』など。

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(神戸大学大学院 法学研究科教授 大内 伸哉)

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