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「4割が失敗するのにメリットなし」歯医者で絶対に受けてはいけない"ある治療"

プレジデントオンライン / 2021年8月28日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/anatoliy_gleb

日本と海外では歯科治療の内容が大きく異なる。歯科医の堀滋さんは「特に注意してほしいのは『歯の神経を取る』という根管治療だ。日本では成功率が6割と低く、メリットもほとんどないのに、広く行われている。歯の神経を取ってしまうと、取り返しがつかない」という――。(第1回)

※本稿は、堀滋『ウイルスも認知症も生きづらいのも、すべて歯のせい?』(小学館)の一部を再編集したものです。

■日本のむし歯治療は時代遅れになっている

【患者】子どもの頃から歯医者さんに行っていますけど、むし歯の原因がなんなのかとか、聞いたことがありませんでした。

【歯科医】日本で一般的に行われている歯科の診療というのは、むし歯治療を中心に考えられているのです。モグラ叩きのようにむし歯が出てきたら治すという繰り返しですね。でも、むし歯になってしまったことには根本的な原因がある。その原因に対するアプローチが足りないというのが問題でしょうね。

【患者】海外では違うんですか?

【歯科医】そうですね。すでに世界的には「治療」よりも「予防」を重視した先端医療が導入されています。しかし、日本の保険制度では予防のためのケアは保険適用外ですからね。

特に歯科の保険診療は決められた手法、決められた材料、保険で認可されたものしか使えません。それが、時代に合わせて進歩すればいいのですが、治療法や使用材料は、わたしが開業した30年前とほとんど変わっていませんね。

【患者】だから、先生は保険診療を止めて、自由診療のクリニックを開業されたんですね。

【歯科医】わたしは昭和34年生まれなんですが、当時の平均寿命は60歳ぐらいでした。みんなむし歯が多くて、むし歯の洪水のような状態。だから、とにかく削って詰めるという、短時間で効率的に行える治療が必要な時代だったんですね。

でも、寿命も短かったので治療の繰り返しで歯がなくなっていても、困らなかったんです。つまり予防も必要なかった。その時代に考えられた保険制度が、人生100年時代の今もまだ続いてしまっている。

【患者】なるほど。時代遅れと言われるわけですね。

■むし歯治療に使われる詰め物がむし歯を増やしている

【歯科医】保険診療は、歯科治療の大量生産みたいなもの。そもそも削ったり詰めたりする行為にしか報酬が設定されていないので、一人の患者さんにかける時間も短くなる。だから、原因除去も行わないし、患者さんの生活習慣を改善するような話をする時間もないんですよ。

【患者】わたしが今まで受けていた治療もそんな感じです。それが普通だと思っていました。

【歯科医】歯科材料も日本と海外の差が開いてきています。たとえば、今、保険診療で詰め物をするときはパラジウム合金が使われています。パラジウム合金というのは、スウェーデンでは十数年も前からむし歯が再発しやすく、アレルギーの原因にもなるということで使用禁止になっています。

【患者】そうなんですか⁉

【歯科医】パラジウム合金は、むし歯の再発を起こしやすい上に金属アレルギーの原因のひとつといわれています。だから、日本では保険適用外のセラミックがスウェーデンでは一般的な歯科材料として使用されているんですよ。

【患者】え。スウェーデン人になりたい……。

【歯科医】金属のかぶせ物や詰め物は歯とのすき間をセメントで埋めるため、時間が経つとセメントが劣化してすき間ができます。そこから細菌が入って、またむし歯になってしまう。

【患者】だから一度治療した歯が、またむし歯になってしまうんですね。

■むし歯をドリルで大きく削る治療法は間違っている

【歯科医】前にも言いましたが、むし歯治療を4~5回繰り返すと歯がなくなる。それは、日本の歯科治療では「予防拡大」といって、むし歯をドリルで大きく削るのが当たり前に行われていたからです。

世界的には、可能な限り歯を削る量を少なくするMI(ミニマルインターベンション)治療が主流になってきています。当院でも「マイクロスコープ」という治療用の顕微鏡を見ながら視野を拡大して治療を行うことで、歯を削る量を最小限にしています。

口の中から見た歯科治療のイメージ
写真=iStock.com/kazuma seki
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazuma seki

【患者】日本の歯科治療の遅れが身に染みます。そういう、最新治療が標準になってほしいですが……。

【歯科医】現状では、難しいでしょうね。制度の問題が大きい。患者さんにとって最善の治療を提供しようと思ったら、保険制度がネックになってしまうんですよ。

【患者】中高年になると、「いよいよ根の治療をやる」とか「神経を取ることになった」といった話を友だちから聞くことが増えました。こういう治療って、むし歯の末期治療ですか?

【歯科医】そうですね。神経を取る治療というのは、歯医者さんで「根の治療」とか「根管(こんかん)治療」と呼ばれるもの。これは、むし歯が神経まで達しているときに、神経を取って、歯の根の深い部分まできれいに掃除をして封鎖するという治療です。

ただし、歯医者さんで「神経を取る」と言われたときは、その治療を本当にやるべきか慎重に考えたほうがいいですよ。

【患者】そうなんですか?

■神経を取る治療の成功率はあまり高くない

【歯科医】実は、日本では保険で行う根の治療の成功率が世界に比べてものすごく低いんです。これは、初めて根の治療を行った場合のデータですが、アメリカで専門医が神経を取る治療を行った場合、成功率は90%。ところが、日本だと60%ぐらいです(※)

【患者】え? 4割も失敗? 失敗するとどうなるんですか?

【歯科医】再治療しますが、そのたびに歯が薄くなり、歯が割れて抜歯になって、インプラントを入れる……というパターンですね。

【患者】まさか、神経を取ってもむし歯が再発して、また治療するなんて想像していませんでした。しかも、結局、抜くことになってしまうなんて……。

【歯科医】そもそも神経を取るときの治療は無菌に近い状態でやらないと、将来的にまた炎症を起こすということが専門医の間ではわかっているんです。そのため、治療には「ラバーダム」というゴムのマスクを用いて、細菌だらけのだ液が患者さんの歯の内部に入らないようにして治療する必要がある。

【患者】ラバーダム……? そんな治療、見たことないです。

【歯科医】「ラバーダム防湿法」というんですが、設置に手間も時間もコストもかかるのに保険点数に反映されていないので、使っている歯科医がとても少ないんですよ。しかし、わたしは必須のものだと考えています。

なぜなら、歯科治療では消毒液をはじめいろいろな化学物質や有機物を使用せざるをえない。ラバーダム防湿法を行えば、そういう有害なものが粘膜から吸収されないようにもできる。

(※)須田英明「わが国における歯内治療の現状と課題」

■歯の神経を気軽に取ってはいけない

【患者】歯を削ったときは、だいたい口の中に溜まっただ液や削りカスを、ガ~ッと機械で吸い出されるのがふつうでしたが……。

【歯科医】そうですよね。だから、この治療法にすれば、だ液と歯を完全に隔離させられるので、それらを飲み込むこともない。認知症リスクのところでお話ししたアマルガムという銀歯の除去も、このラバーダムを用いて除去しないと危険です。

また、ラバーダムを装着していると防湿作用があるので、人工の歯を作ったときなども接着しやすくなる。

【患者】全然知りませんでした。わたしが神経を取ることになったときは、ラバーダム治療をお願いしたいです。

【歯科医】いやいや。そもそも、神経を気軽に取ってはダメ。当院では、神経を取らなければならないケースは1年間で1~2本もないくらい。最新の手法を用いれば、かなり進行したむし歯でも神経を残せる時代です。

【患者】えっ。神経を取らずに治療できるんですか?

【歯科医】神経を取ることはすべて最悪の結果につながります。そのときは「痛みがなくなってよかった」と安心するかもしれませんが、安易にやることじゃないんです。

【患者】痛くても取らないほうがいいんですね。

【歯科医】神経を取るのは一生の問題。たしかに、最先端医療では、取った神経を一部再生できるという研究も進んできています。しかし、一般的ではありません。今の歯科医療では残せる神経はできるだけ残したほうがいいという方針が常識になっています。

【患者】歯の神経を取ってしまうと、どんな問題が起こるんですか?

■神経を取るメリットはほとんどない

【歯科医】わたしたちが歯の神経と言っているものは、歯の中心の空洞の中にある歯髄(しずい)のことです。歯髄には神経組織と血管が集まっていて、歯に栄養を運んだり、食べ物を噛んだときの刺激を脳に伝えたりしています。

この歯髄を取れば、歯に血液が行かなくなる。そうすると、歯に栄養が行かないだけでなく、白血球の免疫作用も働かなくなるので、細菌の侵入に対する防御力がなくなります。つまり、感染症になりやすくなるとか、ばい菌の毒素が全身に回りやすくなる原因になるんです。

【患者】あれ? それじゃ、せっかく治療しても余計悪くなっているような……。

【歯科医】そう。神経を取ってしまうと歯は弱る一方。しかも、痛みを感じないので、むし歯が再発しても気づきにくくなります。神経を取るメリット全然なしじゃないですか。だから、歯医者さんで「神経を取る」「取っても何の問題もない」と言われたらそれは大間違い。

今は「歯髄温存療法」といって、神経を取らずに治療できる方法もあります。神経については、時間やお金をかけても取らないようにするのが一番!

【患者】先生のお話を聞いていたら、歯や口の中がいかに大切かということがだんだんわかってきました。でも、自分の歯を守るのってなかなか難しそうですね。

デンタルミラーと美しい歯
写真=iStock.com/Moncherie
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Moncherie

■歯が20本以下の人は、20本以上の人より医療費が10万円も高い

【歯科医】そうですね。わたしはもともと医者と歯科医の家系に生まれて、大学では口腔外科に進み、医科と歯科の橋渡しをするような勉強をしてきました。卒業後は大学病院で、口腔がんの患者さんの治療にたずさわりもしました。

それで、歯だけでなく全身の健康を強く意識するようになったんです。当時は30代で若かったこともあり「いい治療を提供していけばむし歯が治って患者さんがどんどん減るはずだ」と思っていたんですよ。でも、残念ながら患者さんは減らない。

1回治しても、また同じ患者さんがむし歯になってやってくる。これはどうしてなんだろうと。

【患者】どうしてなんですか?

【歯科医】痛みを失くすとか、むし歯の部分を削って詰めるという対症療法では、根本治療にはならないんです。丁寧に一生懸命治療しても治らない。むし歯が治った患者さんが、今度は歯周病になってやってくる。

無力感におそわれましたし、さすがに「これはおかしいな」と思うわけです。

【患者】しかも、歯だけでなく、全身の健康も損なう……。

【歯科医】実は、日本では歯が20本以上残っている人といない人では、年間にかかる医療費に10万円以上の差が出るというデータもあります。アメリカでも、1年間で3回以上歯科に来院があった人、ようするに歯科で定期健診などを行っている人とそうでない人では、医療費が倍ぐらい違うというデータもある。

■お金をかけなくても歯を大切にすることはできる

【患者】ということは、歯の治療は投資だと思ってしっかりお金をかければ、結局、医療費が浮くということですかね?

堀滋『ウイルスも認知症も生きづらいのも、すべて歯のせい?』(小学館)
堀滋『ウイルスも認知症も生きづらいのも、すべて歯のせい?』(小学館)

【歯科医】違います! 歯にお金をかけるんじゃなくて、歯を大事にしましょうという話をしているんです。お金をかければ歯がよくなるという考え方も間違い。そもそも、日頃のケアをきちっとしていれば、お金をかける必要はなくなります。そこにお金はかかりませんよね。

【患者】そうですね。失礼しました……。

【歯科医】やはりきちっと予防をしていかないと意味がないということ。これまで60年持たせればよかった歯は、寿命が延びたことによって、そこから20年、30年、40年と使い続けなければならなくなっています。

だから、歯に対する価値観を昔と変えなければいけない。治療をするなら最善の治療を選び、予防を怠らないようにしましょう。そうやって歯を大切にすれば、天然の歯だったら100年でも持つ可能性がありますよ。

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堀 滋(ほり・しげる)
サウラデンタルクリニック院長(旧堀歯科診療所院長)
1959年生まれ。日本大学松戸歯学部卒業。昭和大学歯学部付属歯科病院口腔外科勤務の後、日本橋中央歯科診療所などを経て、1990年に東中野にて堀歯科診療所を開設。歯学部卒業後も診療の傍ら、スウェーデン・イエテボリ大学で実践されている歯周病治療など、海外の最新治療を学び、治療に取り入れている。

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(サウラデンタルクリニック院長(旧堀歯科診療所院長) 堀 滋)

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