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「時給相場は2500円→1500円に」辞退者が相次いだ"五輪バイト"のつらすぎる現実

プレジデントオンライン / 2021年8月25日 10時15分

柔道会場で応援のため盛り上がる関係者席。手前はマスク着用を促す掲示物を掲げるスタッフ=2021年7月31日、東京・日本武道館 - 写真=時事通信フォト

■「日本のおもてなし」の裏で振り回された現場

8月8日、開催さえも危ぶまれた東京五輪は閉幕した。ネット上は、各国選手や役員からによる日本への賛辞で溢(あふ)れている。ほぼ無観客下で開催された異例の五輪だったが、ボランティアをはじめとする運営関係者の努力や心遣いが実を結んだ結果ではないだろうか。

こうした人々の努力もあって、選手らには少なからず「日本のおもてなし」を感じてもらうことができ、表向きには感動を呼んだように見える。ところがその裏側では、開催の是非や観客の有無に関する政府の決定の遅さに翻弄され、「ヒトの手配」に振り回された人材派遣会社や、不本意な仕事に従事させられた人々がいる。いったいどんなことが起きていたのか、改めて目を向けてみたい。

■無観客開催で大量に集めた人手が不要に

開幕2カ月前になっても新型コロナウイルスの感染状況が改善しない中、「大会へのサポート人員派遣」を準備していた人材紹介会社各社の間では「五輪は中止だろう」という観測が支配的だったという。

ところが、政府が強行開催に傾く中、5月末ごろから「大会の会場運営に携わる関連業者」による、ヒトの手配を希望するオーダーが増えてきた。依頼案件によっては、必要人員が数十人、あるいは100人を超えるものもあった。人材紹介の業界関係者によると「これだけの人数を集めるには普段なら半年間、少なくとも3~4カ月かけて進める規模」なのだという。

五輪とパラリンピックの関係施設に入るための入場証(アクレディテーションカード)の申請締め切りは6月末と定められていることから、慌ててヒトをかき集めた様子が見て取れる。

その後、7月初旬に政府は「無観客開催」を決めた。場内外の誘導や案内係など、観客対応の仕事そのものが蒸発し、あらゆる手を尽くして集めた人員の多くは不要となった。こうして、採用されても仕事がないボランティアやアルバイトは報酬の有無にかかわらず、従事する業務は当初のプランとは大きく変えざるを得なくなった。

■ボランティアと有償アルバイトの違いとは

そもそも、今回の東京大会でボランティアとアルバイト(大会の委託業者から有償で雇われた従事者)の仕事の区分けはどのように行われていたのだろうか?

ボランティアは大きく分けて、組織委員会が募集していた人員(当初の募集人数は8万人)のほかに、「シティキャスト」という競技開催自治体が集めていた人員から構成されている。大会運営の大部分はこのボランティアが支えているといっても過言ではなく、いずれも「無報酬」で仕事が割り振られる。

組織委募集のボランティアはその多くが、実際に競技が行われる会場内での補助的活動を行っていたように見受けられた。ともあれ観客を入れた競技がほとんどなかったため、本来の姿が見通せないのだが、学生と思しきボランティアは会場内での入場者への案内や補助業務を担っていた。

一方、シティキャストは国内外からの旅行者に対する観光・交通案内や競技会場までの観客の案内等を行うものだ。東京都をはじめ、競技会場のある自治体がそれぞれ募集し、運営に当たった。

新国立競技場
写真=iStock.com/Ryosei Watanabe
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Ryosei Watanabe

ただ今回は、実際に観客を入れて実施されたのは宮城県でのサッカーと福島県でのソフトボール、静岡県での自転車競技にとどまった(茨城県は学校連携プログラムで児童が観戦したのみ)。有料入場者として入れた観客はチケットの総販売枚数の3.5%程度で、その分観客担当ボランティアも9割程度は不要になった可能性が高い。

■最大時給2500円が最終的に1000円ダウン

ここまでは、メディアやSNSを通じて賞賛が送られたボランティアの姿だ。ではその陰で、大会の委託業者が引き受けた業務に携わる有償アルバイトの仕事内容と報酬はどのようなものだったのか。

筆者が調べたところでは、募集がピークに達した6月時点で、例えば遠隔地会場でのサポート業務やパブリックビューイング会場での対応、あるいは海外メディア人員へのサポートなどの業務について、時給2000円を超えるような仕事があった。このほか、通行止めとなった道路を通る人やドライバーに迂回(うかい)路を案内する仕事や、会場周辺のごみ拾いなど選手とは直接関わらない、競技会場の外での業務が主だった。中には深夜・早朝帯の業務で時給2500円を超えるものもあった。

ただしこれらの求人は、無観客開催が決まった7月を境に時給がどんどん下がり、1500~1600円程度まで落ち込んでいる。

筆者が観客として競技会場を訪れた際は、競技会場へのゲート(空港さながらの検問所もあった)より外のエリアで、大会の委託業者関連の業務に携わるアルバイトの姿があった。

例えば、観客向けシャトルバスの運行管理をはじめ、炎天下に晒(さら)されるリスクがある駐車場での誘導、さらに関係者と観客が入場前に行う検温作業などだ。なお、必要人数の最適化という面ではどこもおざなりだったようで、どこかしこもヒトが余っているように見受けられた。

■通訳で採用されたのに実際は「ゴミ拾い」?

6月中に集められた人員にはアクレディテーションカードが順次交付されたわけだが、無観客開催がカード交付申請締め切りの後に決まったことから、当然のことながら人手が大量に余り、業務内容の変更を迫られるケースが続発した。

今年の夏は梅雨明け以降の暑さが顕著で、五輪期間中の猛暑も予想された。アルバイトの中には、涼しい室内での仕事に応募したはずが、炎天下に晒される「キツい外での仕事」に振り替えられる対象案件も多かったという。仕事の条件が違うからせめて屋内仕事に、と訴えても聞き入れられず、この時点で辞めても「自己都合での辞退」と判断され、泣き寝入りするしかないケースもあった。

匿名を条件に取材に応じた人材派遣会社の担当者は、「外国人向けの通訳案内と聞いて、バイリンガルのスタッフにお願いした仕事では、元請けさんから改めて回ってきた説明は、仕事内容はよく分からないが、ゴミ拾いなどの雑用係となるという返事。われわれとしても五輪を直前に控えた時期に別の仕事に切り替えることはできず、どうしようもなかった」と話す。

そのほか、都内各所で実施される予定だったパブリックビューイングの中止で、そこに投入される予定のアルバイトは解雇された。遠方の会場でまとまった期間、泊まり込みで観客整理に当たる予定だった仕事も全て吹き飛んでいる。「せっかく仕事を紹介したのに、政府判断のドタバタで求職者からの信用を失ってしまった」とこの担当者は嘆く。

筆者が歴代大会を見てきたひとりとして、今回の東京大会のスタッフ運営を振り返ると、全体印象として、ボランティアが従事するような業務にもアルバイトのような格好をした人が割り振られていた。ボランティアが予想以上にたくさん辞退したのか、それとも条件の厳しい仕事には就かせないということだったのか……。

■バス運転手の宿舎は「トイレも風呂も洗面台も共用」

今回の東京五輪は歴代大会と違い、コロナ感染という大きなリスクを負っての開催となった。海外から来る選手役員らには、隔離期間を免除する代わりに、選手村と競技会場との行き来程度しか行動範囲を許さないという厳しい規定を設けた。とはいえ、隔離なしに行動が許可されている海外の人らの対応に直接当たることになる日本側スタッフの懸念は少なくなかったようだ。

例えばこんな話がある。

五輪の関係者輸送のために、全国津々浦々にある観光バス会社から車両とともに運転手が招集され、隔離なしで日本に上陸した選手らへの対応に迫られた。

炎天下、屋根のない場所での車両誘導はきつかったことだろう(成田空港にて)
筆者撮影
炎天下、屋根のない場所での車両誘導はきつかったことだろう(成田空港にて) - 筆者撮影

筆者と旧知のバス会社運転手は、選手を乗せるバスや専用車の運転手に指名された。しかし、彼はワクチンを1回しか接種できていない段階で徴用され、「もし選手たちからウイルスをもらったら……」と懸念を漏らしていた。

運転席の後ろにビニールの幕を下げたくらいで、本当に感染対策になるのか甚だ疑問だが、さらにショッキングなのは、こうした地方から集められた運転手の宿舎の様子だった。トイレも洗面所も共用で、風呂は大浴場のみという条件下での寝泊まりが求められていたという。

折しもこの時期の都内は新規感染者数が2000人に迫ろうとしており、現在の5000人規模への拡大懸念が伝えられていた時期だ。果たして運転手の間での感染は本当になかったのか、と訝ってしまう。

■五輪のために東京に集まった人々が故郷に戻ったら…

一方、スタッフの中でも選手と関わる仕事が多いボランティアたちは、かなりの至近距離で選手らと対応していた。空港での案内をはじめ、選手村と競技会場の行き来で、ボランティアが行き先を確認するのに選手らのスマホ画面を覗き込む機会も多く、超至近距離でおしゃべりする格好となった。

とりあえず五輪は見かけ上、無事に終わったようだ。しかし目下、ほとんどの都道府県で新規感染者数が連日のように過去最多を更新している。五輪に引き続き行われるパラリンピックをめぐっては、開幕前の23日時点で、関係者の感染はすでに140人を超えた。パラアスリートの補助のためには、車椅子での移動の手伝いなど、対応距離がより近いサポートが必要となる。大会関係者から選手らへの感染が広がりはしないか、と心配するばかりだ。

よもや、全国各地から集まって五輪に従事するために東京へと集まったさまざまな人々が故郷に戻ることでコロナ感染を広げてはいないか。もし仮に、各地からの人員徴用が昨今のデルタ株拡散の原因のひとつだとしたら、「五輪の強行開催」ははたして妥当だったのかどうか、と疑問に思わずにはいられない。

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さかい もとみ(さかい・もとみ)
ジャーナリスト
1965年名古屋生まれ。日大国際関係学部卒。香港で15年余り暮らしたのち、2008年8月からロンドン在住、日本人の妻と2人暮らし。在英ジャーナリストとして、日本国内の媒体向けに記事を執筆。旅行業にも従事し、英国訪問の日本人らのアテンド役も担う。■Facebook ■Twitter

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(ジャーナリスト さかい もとみ)

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