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「肌色の何が悪いの?」SNSにそう書く人たちは人種差別の本当の問題点を分かっていない

プレジデントオンライン / 2021年8月31日 10時15分

※画像はイメージです - 画像=iStock.com/Rudzhan Nagiev

今春、ファミリーマートが「はだいろ」の女性用下着を自主回収した。ネットでは評価する声の一方、「肌色に差別の意図はない」という否定的意見も根強くあった。ドイツ出身のコラムニスト、サンドラ・ヘフェリンさんは「黒人差別だけでなく世界ではアジア人差別も根強い。日本人は差別されることにもっと敏感になったほうが良い」という――。

■根強い「肌色の何が悪いの?」という反論

昨年、アメリカの医薬品大手「ジョンソン・エンド・ジョンソン」(J&J)がBLM運動(Black Lives Matter「黒人の命は大事だ!」)の影響を受け、アジアや中東で売られていた「肌を白くするためのクリーム」の販売を中止しました。

今春には日本の花王も「肌の色の多様性」に配慮するために「美白という表現を取りやめる」ことを発表。ファミリーマートが「はだいろ」と表記されたプライベートブランドの肌着22万5000枚を自主回収したことも記憶に新しいです。

今回は日本と海外を比べながら「肌の色と多様性にまつわること」について考えます。

肌色や美白化粧品の扱いについて、日本では疑問の声も聞かれます。「言葉狩り」という反論や、「美はあくまでも美」として社会問題と切り離して考えるべきという意見も少なくありません。

日本に限らず、ヨーロッパでも「黒人の肌の色がメディアなどでどのように扱われるか」という点で、「黒人の当事者」と「その国のマジョリティー」の間には依然として大きな隔たりが見受けられます。

■「食べ物」に例えられてきたマイノリティーの肌の色

筆者の出身地であるドイツで人気のお菓子に「外側がチョコレートで包まれているマシュマロ」があります。昔からドイツの色んな会社のものが売られていますが、これが地域によっては2000年代まではNegerkuss(和訳:「黒ん坊キッス」)と呼ばれていました。

マシュマロキッス
マシュマロキッス(写真=Rainer Zenz/CC-BY-SA-3.0/Wikimedia Commons)

そういった影響もあってか、ドイツでは、「黒人の肌の色はチョコレートみたいでかわいい」という旨の発言を聞くことがあります。

昔から「肌の色を食べ物にたとえないでほしい」という黒人からの抗議の声はありました。しかしそういった黒人当事者の声は無視され、ドイツのマジョリティーである白人の「かわいいからいいじゃないか」という意見が幅を利かせていました。

現在はNegerkuss(和訳:「黒ん坊キッス」)の呼び方は変わり、Schokokuss(和訳:「チョコキッス」)、またはSchaumkuss(和訳:「マシュマロキッス」)と呼ばれるようになりました。

しかしドイツでは今でも「黒人の肌の色をチョコレートなどの食べ物にたとえる人」が後を絶ちません。長年お菓子メーカーがNegerkuss(和訳:「黒ん坊キッス」)という言葉を当たり前のように使ってきた弊害は今も出ているのです。

一方で日本人を含む東洋人の容姿についても、食べ物で例える表現が残っています。ドイツでは今でも「アーモンドのような目」と言う人がいます。しかし、たとえ褒めているのだとしても人の身体を食べ物にたとえることにはやはり違和感があります。

「アーモンドのような目」にしても「チョコレートのような肌」にしても、筆者が一番問題だと感じるのは、東洋人や黒人が違和感を伝えても、「かわいいと思って言っているだけだから、別にいいじゃない?」という白人側のマジョリティー側の感覚で、当事者のメッセージがかき消されてしまうことです。

■しばしば問題になる「時代についていけていない人」

8月8日には野球解説者の張本勲氏が「サンデーモーニング」(TBS系、毎週日曜朝)で、東京五輪女子フェザー級で金メダルを獲得した入江聖奈選手について「女性でも殴り合い好きな人がいるんだね。嫁入り前のお嬢ちゃんが顔を殴り合って。こんな競技好きな人がいるんだ」と発言し、物議を醸しました。

発言を受けて、日本ボクシング連盟の内田貞信会長はTBSに対して「女性およびボクシング競技を蔑視したと思わせる発言があった」と抗議し、張本氏は翌週15日の放送で謝罪しています。

昔は若い女性について「嫁入り前」「お嬢ちゃん」という言葉はわりと日常的に使われていました。女性は「おしとやか」であるべきとの社会通念もありました。そういった背景があることから、高齢の張本氏に対して「現在の価値観に沿った考え方をすべきだと求めるのは酷だ」という意見も見られます。

実は「昔の感覚のまま発言してしまい、問題になる人」はドイツにもいます。

※画像はイメージです(画像=iStock.com/Rudzhan Nagiev)

ドイツでは2016年に旅行代理店Thomas Cookの管理職だった男性従業員が、職場の社員食堂で働くカメルーン出身の女性に数回に渡り「黒ん坊キッスがほしい」などと声をかけ、これが人種差別とセクハラに該当するとして同社から解雇通告受けたことが報じられました。

男性従業員がそれまでの勤続年数十年の間にそれ以外に特に問題を起こしていなかったことから、フランクフルトの労働裁判所は解雇を無効としたものの、会社側はマスコミに対して「カメルーン出身の女性に対する同氏の肌の色をからかうような言動は一度限りのものではなく、数回にわたり行われた挑発的なものだった」と発表しました。

この例から見てとれるのは、男性がいわゆる昔ながらの「男性優位」の姿勢を崩さず、相手の女性が嫌がっていても「おかまいなし」だったことです。

■ドイツの鬼ごっこの名前は「黒い男が怖い人!」

ドイツ人の多くが「黒人に対する人種差別」に鈍感なのは、昔ながらの子供たちの遊びであった鬼ごっこの名前から見ても明らかです。

ドイツではかつてWer hat Angst vorm schwarzen Mann?(和訳:「黒い男が怖い人!」)という名の「鬼ごっこ」がはやっていました。

この遊びでは鬼となった人が、ほかの子供全員に対して「黒い男が怖い人は?」と大きな声で呼びかけ、他の子供たちが全員「黒い男なんか、怖くないよ!」と叫び返します。鬼が「それでも黒い男が来たら?」と聞き返すと、全員がまた同時に「そうしたら皆で逃げる!」と叫び、ワーッと逃げていく遊びです。

筆者がこの鬼ごっこをしていた子供の頃を思い出してみると、自分の中の「黒い男」のイメージは黒人ではなく、「目以外の顔や頭、体が黒いストッキングのようなものですっぽり覆われているような男の人」でした。「黒い男」の正体はドイツで諸説あるのです。「黒い男」の正体が「煙突掃除夫」だったという説もあれば、「死刑執行人」だったいう説、また黒死病(ペスト)を患っていた人という説も――。

しかし「黒い男」が黒人という説も否定はされてはいないため、現在ではこのフレーズを耳にすることはありません。人種差別につながるとして、鬼ごっこの名前もWer hat Angst vorm weissen Hai?(和訳:「白いサメが怖い人!」)に変更されました。

■嫌な思いをしてきた当事者の声を聞くべきだ

白人のドイツ人の中からは「この遊びの黒い男の正体が黒人だとは限らないのだから、イチイチ気にするのは細か過ぎる」という意見もよく聞くのです。

先日筆者と年齢の近い黒人のドイツ人女性に話を聞く機会があり、この鬼ごっこについて聞いてみました。彼女は「私は子供の頃、この遊びが本当に嫌だった。仮に黒い男の正体が黒人ではなかったとしても、『黒』が悪い文脈でしか出てこなかったから」と語りました。

「当事者であるか否か」によって、とらえ方が全く違うという良い例だと思います。

日本でも子供たちに親しまれてきた『ちびくろサンボ』という絵本が、当事者の黒人の声によって絶版になったことがあります。その際にも「差別の意図はないのに騒ぎ過ぎ」という日本人の意見がありました。

しかし「長年親しまれてきたこと」であっても、その絵本や遊びに出てくる当事者が「嫌な気持ちにさせられる」と声を上げたら、パブロフの犬のように「差別の意図はなかった」と即反論を試みるのではなく、声を上げた人の意見を真摯(しんし)に受け止める必要があるのではないでしょうか。

■「貴女の肌の色のファンデーションはありません」

黒人女性が「自分の肌の色を活かした化粧をしたい」と思っても、それがままならないこともあります。

筆者が以前あるイベントで知り合った、黒人と日本人のハーフの女性モデルさんの事例です。彼女は「東京でファッションショーに出演した際に、メイクさんが黒人の肌の色のファンデーションやパウダーを用意していなかった」と語っていました。

さまざまな色のファンデーション
※画像はイメージです(画像=iStock.com/HstrongART)

「美のプロ」が集まっている場でさえ、自分の肌の色に合う化粧品が用意されていない。そして消費者の絶対数が少ないとはいえ、自分の肌に合う商品が店頭に並んでいない。当然、当事者は疎外感を味わうことになります。

「肌色」という言葉に関してもしかりです。「肌色」という言葉について、「差別の意図はない」と考える人は少なくありません。でも「肌色」という言葉を使う人が「黒人の肌」を思い浮かべていることはまれなのです。

いま日本にはアフリカにルーツを持つ人を含めさまざまな肌の色の人が住んでいます。たとえ言葉狩りだという批判があっても、「肌の色は一つでない」ということを自分の中で日々意識していることが大事です。

それと同時に差別全般に「敏感になる」ことも必要だと思います。

■まずは「東洋人差別」に敏感になろう

とはいえ日本では人種差別に鈍感な人が少なくありません。その背景には「自身が差別されることにも鈍感」であることが関係している気がしてなりません。

たとえば東洋人がマイノリティーである国では、「東洋人の目の形を揶揄(やゆ)するジェスチャーをされる」という差別に遭遇することがあります。目尻を指で横に引っ張る「つり目ポーズ」がその典型です。

今年6月1日にイタリアで開催された、国際バレーボール連盟(FIVB)女子バレーボール・ネーションズリーグの試合で、セルビア代表のサンヤ・ジュルジェヴィッチ選手が対戦相手のタイ人選手にこのポーズをし問題化。CNNの報道によると、FIVBの関連団体はサンヤ・ジュルジェヴィッチ選手に出場停止2試合の処分を下し、セルビアのバレーボール連盟に米ドル換算で2万2000ドル(約240万円)相当の罰金を科しました。

筆者が驚いたのは、日本ではこの「つり目ポーズ」を「別に差別だと思わない」と発言している人がいることです。

SNSでは「誰々さんは東洋人だけれど目が大きいから、つり目ポーズをされるのが不思議」だとか「アイプチを使えば、目が大きくなるので、つり目ポーズはされないはず」などのどこかトンチンカンな意見が目立ちます。

「つり目ポーズ」をする人は、アジア人を差別しているからそのようなジェスチャーをするわけです。「アイプチ」や「目の大きさ」の議論は的外れだと言わざるを得ません。

■中国人も日本人も“東洋人”

「つり目ポーズ」には「やーい、中国人!」とからかう言葉が伴うことがあります。

サンドラ・ヘフェリン『なぜ外国人女性は前髪を作らないのか』(中央公論新社)
サンドラ・ヘフェリン『なぜ外国人女性は前髪を作らないのか』(中央公論新社)

差別されているのはあくまでも中国人であって、日本人は差別されていないと思い込もうとする日本人もいます。これは誤りです。

筆者は、日本人はどこか「アジア人」や「東洋人」という言葉をひとごとのようにとらえる傾向があると感じています。アジア人や東洋人とは「日本以外のアジアの人たち」であって、日本人は“例外”と考える人も少なくないと思います。

「自分がアジア人であり東洋人であること」、そして「アジア人がマイノリティーである国に行けば差別の対象となること」をしっかりと受け止める必要があります。対処法を探っていく過程を経験していれば、他人(たとえば黒人)が受ける差別にも敏感になれると思います。

もう「肌色に差別の意図はない」と軽々にはいえないはずです。

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サンドラ・ヘフェリン(さんどら・へふぇりん)
著述家・コラムニスト
ドイツ・ミュンヘン出身。日本語とドイツ語の両方が母国語。自身が日独ハーフであることから、「ハーフ」にまつわる問題に興味を持ち、「多文化共生」をテーマに執筆活動をしている。ホームページ「ハーフを考えよう!」 著書に『ハーフが美人なんて妄想ですから‼』(中公新書ラクレ)、『体育会系 日本を蝕む病』(光文社新書)、『なぜ外国人女性は前髪を作らないのか』(中央公論新社)など。

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(著述家・コラムニスト サンドラ・ヘフェリン)

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