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「たくさん食べればがん予防が期待できる」世界の長寿地域で定番化している"ある食材"

プレジデントオンライン / 2021年8月30日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Amarita

健康で長生きするためにはなにを食べればいいか。京都大学名誉教授の家森幸男さんは「世界の長寿地域で共通して食べられているのが大豆。大豆は『健康食の王様』であり、ほとんどのがんや糖尿病の予防が期待できることや、更年期障害の症状を抑える効果がある」という――。(第3回)

※本稿は、家森幸男『遺伝子が喜ぶ「奇跡の令和食」』(集英社インターナショナル)の一部を再編集したものです。
※編集部註:タイトルを一部変更しました。初出時は「食べれば食べるほどがんを予防できる」としていましたが、誤解を招く恐れがあるため、「たくさん食ればがん予防が期待できる」としました。(9月2日13時50分追記)

■大豆は「健康食の王様」

長寿の秘密を握る素材のひとつとして「大豆」があります。英語ではソイ・ビーンズ、ソイとも言います。

日本語の「醬油」という言葉がなまって、ソイと言われるようになったことからも分かるように欧米には元々、大豆がありませんでした。ヨーロッパで大豆の本格栽培が始まるのは19世紀になってからとも言われています。

しかも、欧米では、この大豆をもったいないことに家畜の飼料用として主に栽培していて、食用にする習慣はほとんどありません。これは実に憂うべきことです。大豆にはすばらしい健康増進パワーがあります。まさに「健康食の王様」だと思います。

そもそも私たちの世界調査は、脳卒中ラットに大豆を食べさせたところ、脳卒中を防いで長生きしたというところから始まっています。当時はまだ大豆の成分である「イソフラボン」も何も検出できていない時代でしたが、大豆が長寿の秘密にかかわる食材であることは当初から予想がついていました。

ちなみに尿中のイソフラボンは大豆の摂取量を反映します。これが多いと大豆をたくさん食べていて、少ないとあまり食べていないことになります。世界調査の結果を分析するとやはり予想通りで、中国・貴陽やハワイのヒロ地区など、多くの長寿地域では大豆が食べられていたのです。

■大豆をよく食べている地域では血圧もコレステロール値も低い

大豆を食べている長寿地域の中でも印象深かったのは前述した中国の貴陽です。

この地域では大豆や大豆製品が本当によく食べられていました。豆腐、納豆、豆乳といった日本でもおなじみの大豆製品以外にも、干し豆腐、沖縄の「豆腐よう」のような発酵した豆腐、豆腐を発酵させたチーズ風のものなど、ひじょうにバラエティ豊かなのです。

干し豆腐と大豆
写真=iStock.com/chengyuzheng
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/chengyuzheng

さらには豆腐を原料にした「豆腐麺」もありました。見た目はうどんのような麺で、これを豆乳のスープで食べるのです。Wソイフードです。ファストフードも豆腐です。市場では焼いた厚揚げのようなものが売られていて、出勤前のOLさんがハンバーガーのように立ち食いする姿が見られました。

とにかく大豆を徹底利用して、食べつくす知恵に感心しました。大豆こそ、貴陽の人たちの長寿を守る重要な食材だったのです。実際、貴陽の人たちの血圧は私たちの調査に赴いた、中国12カ所の中で広州についで低い数値でした。

血圧が低ければ当然、脳卒中も心臓死も起きにくくなります。この地域の人たちが長寿なのも当然と納得しました。

私たちの調査では、大豆をよく食べる地域では一様に血圧、コレステロール値が低く、心臓病、心臓死が少ないという結果が出ました。さらには肥満も少ないのです。

逆に大豆を食べない地域では「死の四重奏」と言われる肥満、高血圧、高脂血症、糖尿病が多く、また寿命も短命になってしまっています。では大豆がなぜスーパー健康食なのでしょうか。これには3つの秘密があります。

■大豆に含まれるたんぱく質は、肉や魚と同じくらい質が高い

大豆にはたんぱく質、脂質、炭水化物という、私たちの体にとってなくてはならない3大栄養素がバランスよく含まれています。特にたんぱく質です。大豆は「畑の肉」と言われるように、実に30%が植物性たんぱく質です。

さらに特筆すべきはその「質」です。たんぱく質の質は「アミノ酸スコア」といって、食品に含まれる必須アミノ酸のバランスで見ることができます。大豆のアミノ酸スコアは牛肉・豚肉などの肉類、アジ、サケなどの魚と同じ100です。

植物性のたんぱく質はトウモロコシ、そば、バナナなどにも含まれていますが、肉や魚などの動物性たんぱくに比べると、劣る場合が多いのですが、大豆は魚や肉と肩を並べるほど良質なのです。

また大豆は脂質、カロリーが低いという利点があります。大豆と同じ量のたんぱく質を肉で摂ると、カロリーも高く、余分な脂肪も摂ることになってしまいます。さらに大豆のたんぱく質は悪玉コレステロールを下げることも研究によりわかっています。

大豆といえばイソフラボンというぐらい、みなさんに知られている成分です。イソフラボンはフラボノイドの一種で、女性ホルモンに似た働きをするといわれています。イソフラボンは実に多くの健康増進効果を持っています。

以下にまとめてみましょう。

・血圧を低下させる
・悪玉コレステロールを下げ、心臓病を予防する
・更年期障害の症状を抑える
・骨粗しょう症を予防する
・乳がん、前立腺がんの予防
・ほとんどのがんの死亡率を低下させる
・肌を若々しく保つ

まさに体にとっていいことずくめの働きをしてくれることがおわかりでしょう。

■動物実験で効果が実証されたイソフラボン

実は私たちが世界調査を始めたころはまだイソフラボンの存在は知られていませんでした。1990年ごろになって大豆にイソフラボンという成分がある事実が注目されるようになり、私たちも早速ラットを使って研究を始めることにしました。

ところがなんと当時、イソフラボンは1グラム100万円という時代です。動物実験にとても使えるものではありません。いきなり挫折かと思われましたが、幸運なことに、ある大豆を扱う企業から、それまでは捨てられていたイソフラボンをいただいて、研究に着手することができました。

メスの脳卒中ラットから卵巣を取り除いて、わざと更年期の状態にします。言うなれば「更年期ラット」です。すると急に毛がバサバサになり、皮膚のつやがなくなります。

また、オスのようによく食べて肥満にもなり、骨からカルシウムが溶けだして骨粗しょう症になります。まさに人間の女性の更年期障害と同じです。また急に脳卒中も増えます。

この「更年期ラット」に大豆の胚軸を混ぜたエサを与えます。イソフラボンは大豆の胚軸に最も多く含まれているのです。

すると見る見るうちに毛づやがよくなり、肥満が解消されました。骨が溶けだす現象が抑えられ、骨粗しょう症の発生も緩やかになりました。更年期の諸症状が改善されたのです。さらには脳卒中の発生も抑えられました。

あまりにも見事な結果が確認され、急いで世界中の人から集めた尿をチェックしてみました。それまで尿中のイソフラボン量は調べていなかったのです。世界調査で集めた24時間尿はすべて冷凍保管してありますから、こういうときに迅速に対応できるのが私たちの強みです。

その結果、大豆を食べている地域の女性は閉経以降も血圧やコレステロールが低く抑えられていることがわかりました。イソフラボンが更年期の症状を和らげていることが実際に確認されたのです。

■骨粗しょう症や心筋梗塞を防げる

イソフラボンの摂取で「骨粗しょう症」も防ぐことができることがわかっています。ハワイに移住した高齢女性の尿で、骨密度の低い人と高い人を比べたところ、骨密度の高い人は尿中にイソフラボンが多く出ていたのです。

さらにはイソフラボンと心筋梗塞における死亡率の関係を調べてみたところ、こちらも明らかな関係がありました。イソフラボンの摂取量が多ければ多いほど、心筋梗塞による死亡率が低く、イソフラボン摂取量の少ないところでは死亡率が高くなっていたのです。

同様に男性の前立腺がん、女性の乳がん、さらにほとんどのがんの死亡率もイソフラボンの量が多ければ多いほど、低下することが確認できました。

魚介類にも多く含まれているマグネシウムですが、大豆にもたっぷり含まれています。マグネシウムというと「金属」というイメージが強いかもしれませんが、私たちの体に欠かせない微量ミネラルです。

マグネシウムは私たちの体内において、「酵素」の働きをサポートしています。私たち人間は食べ物を食べて、それを消化・吸収して、エネルギーを作り、体を動かしています。この作業すべてに関わっているのが「酵素」です。

マグネシウムを豊富に含む食材
写真=iStock.com/piotr_malczyk
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/piotr_malczyk

私たちは酵素の働きなしに体を動かすことはできません。マグネシウムはこのうち、300もの酵素反応に関わっているといわれているのです。マグネシウムはなくてはならないという理由がおわかりでしょう。

またマグネシウムは動脈硬化や糖尿病、肥満、高血圧の予防や改善にも一役買ってくれることがわかってきています。先ほどタウリンは生命の素といっていいほど重要な栄養素だと述べましたが、マグネシウムもまた、ひじょうに重要な生命の素といえます。

■マグネシウムを摂取することで脳卒中を予防できる

塩分の打ち消す栄養素の話をしましたが、マグネシウムも塩分を体外に排出させる作用を持っています。

このことは30年前に行った脳卒中ラットの実験ですでにわかっていることです。脳卒中ラットに塩分1%(味噌汁程度)の水を与えるとたった2カ月ほどで脳卒中を起こします。

ところが塩分入りの水を与えても、一緒に十分な量のマグネシウムを与えることで、脳卒中の発症を遅らせることができ、寿命が2倍に延びたのです。それから30年後、ついに人間でもこのことが証明されました。

血圧が高めの人を集め、毎日600ミリグラムのマグネシウムを摂ってもらったところ、12週間もすると血圧が下がることが確かめられ、血中のマグネシウム量も増えたと報告されました。血圧を上げないための仕組みである「ナトリウムポンプ」の話をしましたが、このとき、ナトリウムポンプの働きを助けてくれるのがマグネシウムです。

ナトリウムポンプを動かすATPアーゼという酵素は、マグネシウムと結合することで初めて働くのです。つまり、マグネシウムがないと、ATPアーゼを使って塩分(ナトリウム)を細胞から追い出すことができないのです。塩の摂りすぎになりがちな現代人こそ、マグネシウムをしっかり摂取すべきなのです。

■大豆を食べることで肥満と糖尿病を予防できる

ところが日本人のマグネシウム摂取量は激減してきています。マグネシウムは大豆のほか、玄米や麦に多く含まれています。しかし精白した白米では、マグネシウムの含量は6分の1にまで低下してしまいます。

またマグネシウムはわかめやひじき、干しエビやするめなどの乾物、野菜やきのこにも含まれていますが、これらも現代の日本人の食生活では不足しがちです。その不足しがちなマグネシウムが大豆、そして魚にたっぷり含まれているのです。

今、日本では糖尿病がひじょうに増えています。厚労省の調査では糖尿病患者は1000万人、将来的に糖尿病になる可能性が高い「予備軍」がさらに1000万人いるとされています。もはや国民病といっていいでしょう。

糖尿病はご存じの通り、血液中の糖(血糖値)が慢性的に高くなる病気です。血糖値が高い状態が続くことで、血管がダメージを受け、脳梗塞や心筋梗塞などの合併症も起こりやすくなってしまいます。

ところが大豆を摂ることで血糖値を抑え、糖尿病を予防することができるのです。兵庫県で50代の人に対して行った調査ですが、納豆を1日1パック以上食べる人は、1パック以下の人と比べて血糖値が正常な人が多いことがわかりました。

納豆
写真=iStock.com/taa22
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/taa22

大豆をあまり食べない人は食べる人に比べて血糖値が高い人が3倍以上もいます。また大豆には肥満防止の効果もあります。図表1はマグネシウムと肥満の関係を調べたものです。世界の人をマグネシウムの摂取量を多い人から少ない人まで5分割し、肥満との関係を見ています。

マグネシウム摂取が多いと肥満者が少ない
出所=『遺伝子が喜ぶ「奇跡の令和食」』

マグネシウムをたくさん摂っている人は肥満が少ないことがわかります。またマグネシウムの摂取量の多い人は高血圧、高脂血症が少ないこともわかっています。

■1日に必要な大豆は納豆1パック半

このほかにも大豆の健康成分は多くあります。炭水化物、たんぱく質、脂質の3大栄養素のほかに、食物繊維、カリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、亜鉛、リン、ビタミンE、ビタミンB1、葉酸など、多種多様な栄養素が含まれていることも見逃せません。

さらには悪玉コレステロールを低下してくれる大豆レシチン、抗酸化作用を持つ大豆サポニンといった成分も豊富に含まれています。

ではこのすばらしい健康効果を持つ大豆、はたして1日にどのぐらい食べればいいのでしょうか。私たちの研究でイソフラボンの量から割り出した大豆の必要量は「60グラム」です。

家森幸男『遺伝子が喜ぶ「奇跡の令和食」』(集英社インターナショナル)
家森幸男『遺伝子が喜ぶ「奇跡の令和食」』(集英社インターナショナル)

大豆を1日60グラム食べることで、脳卒中や心臓死も防げますし、そして乳がん、前立腺がんを防ぎ、あらゆるがんも抑えることができるのです。大豆60グラムというと、納豆1パックと半分です。

「納豆1パック」はかつては60グラムだったのですが、どんどん小型化されていってしまい、昨今は多くが40グラムパックになってしまいました。ですから1パックでは足りません。

幸い、大豆には豆腐や豆乳などさまざまな加工製品があります。毎朝のヨーグルトに、大豆をすりつぶした粉であるきな粉を混ぜるのも悪くありません。また、最近は大豆たんぱくそのものをバー状にしたソイプロテインといったものも売られていますし、肉のように食べられる「大豆ミート」も売っています。

飽きないようこれらをローテーションして毎日食べたいものです。

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家森 幸男(やもり・ゆきお)
京都大学名誉教授
1937年生まれ。京都出身。67年京都大学大学院医学研究科博士課程修了。病理学専攻。米国国立医学研究所客員研究員、京都大学医学部助教授、島根医科大学教授、京都大学大学院人間・環境学研究科教授などを経て現職。NPO法人世界健康フロンティア研究会理事長。上原賞・岡本賞・日本高血圧学会特別功労賞受賞、瑞宝中綬章受章。科学技術庁長官賞、日本脳卒中学会賞、米国心臓学会高血圧賞、日本循環器学会賞、ベルツ賞、杉田玄白賞、紫綬褒章受賞。著書に『世界一長寿な都市はどこにある?』(岩波書店)、『ついに突きとめた究極の長寿食』(洋泉社)、共著に『健康長寿の食べ方 早死にする食べ方』(海竜社)など多数。

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(京都大学名誉教授 家森 幸男)

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