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「タリバン勝利を祝福」アメリカ撤退を喜ぶ中国は、本当にアフガンでうまくやれるのか

プレジデントオンライン / 2021年8月25日 18時15分

中国の王毅・国務委員兼外相は、天津で中国を訪問しているアフガニスタン・タリバンの政治委員会責任者バラダル氏一行と会見した。タリバン宗教委員会と宣伝委員会の責任者が同行している。〔新華社=中国通信〕=2021年7月28日 - 写真=中国通信/時事通信フォト

8月16日、中国政府はアフガニスタンを制圧したタリバンに対して「友好的で協力的な関係を引き続き発展させていく用意がある」と表明した。ジャーナリストの高口康太さんは「中国はアフガニスタンの油田や鉱山に460億円以上の投資をしており、友好関係を結ぶことのメリットは大きい。だが、存在感が高まるほどテロの標的となるリスクも高まる」という――。

■中国外相のタリバン勝利を祝福するかのような発言

「アフガタニスタン情勢は20年前に戻った、米国の大失敗」
「アフガニスタンの教訓から台湾当局は学ぶべきだ」

タリバンの攻勢によってアフガニスタンの首都カブールは陥落した。人民日報系列の中国紙「環球時報」は上述の見出しの社説を連日にわたり掲載し、米国の無力をあざわらった。メディアだけではない、中国政府からも同様のメッセージが発せられている。

カブール陥落からさかのぼること約2週間、7月末には中国の王毅(ワン・イー)外相が中国・天津市でタリバンの代表者と会見した。

席上、王外相は「米国と北大西洋条約機構(NATO)のアフガニスタンからの撤退は、米国の対アフガニスタン政策の失敗を意味するものである。アフガニスタン人民は自国を安定させ、発展させる重要なチャンスを得た」と、まるでタリバンの勝利を祝福するかのような発言を行っている。

米中の対立が激化するなかで、米国の失点が中国の得点になる……。ついついそうした目で見てしまいがちだが、実際にはアフガニスタン情勢の転換は中国にとっても厳しい課題である。

■対テロ戦争を名目に100万人のウイグル族を拘束

「中国と国際社会はともに対テロ戦争を戦っている」とは、これまで中国政府が繰り返し語ってきたメッセージだ。

中国
写真=iStock.com/JordiStock
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/JordiStock

2009年7月5日に新疆(しんきょう)ウイグル自治区ウルムチ市で起きたウイグル族と漢族の衝突事件は、少なくとも197人の死者が出た惨事となった。

その後も自治区内外でウイグル族関連の事件は繰り返され、2013年には天安門広場に自動車が突入、炎上する事件が起きたほか、2014年には雲南省昆明市の駅で、刃物を持った5人のウイグル族が刃物をふるって31人を殺害する事件も起きた。

こうした一連の事件の後、中国政府はイスラム原理主義に傾倒している可能性がある者を予防的に拘束するなど、新疆ウイグル自治区における警戒、監視体制を強化した。収容者の数は100万人に達するとも言われていた。

■「イスラム原理主義勢力は敵だ」と叩き込まれてきたが…

ウイグル族への強権的弾圧は人権侵害だとして国際社会の批判を集めてきたが、中国政府は反テロ戦争への取り組みだと反論してきた。米国のアフガニスタン介入と中国の新疆ウイグル自治区における取り組みは同じ国際的な対テロ戦争という枠組みにある。

それにもかかわらず、中国のみを批判するのはダブルスタンダードなのではないか、と。

この中国政府の論理から考えれば、タリバンの勝利は国際的な対テロ戦争の失敗であり、別の戦線で共同歩調を取っていた中国にとっても危機となるのは当然のはず。こっそり主張を転換し米国だけが失敗したと話をすりかえているわけだ。

もっとも、いきなりの方向転換は中国人民にも戸惑いを与えている。というのも対テロへの取り組みは中国国内で散々宣伝されてきた。

「反恐 宣伝」と画像検索すると、武装警察が子どもたちを守るかのように立っているポスターや、アニメ風イラストの警官のポスターなどがずらり出てくる。たんに市民に安心を与えるものだけではなく、「テロ関連の情報を手に入れたらすぐ通報を」という呼びかけもある。

2014年成立の反スパイ法では外国のスパイやテロに関する情報を通報するのは中国国民の義務とされているので、その義務を果たせというわけだ。

■強引な軌道修正に国民も混乱

ポスターだけではない。テレビ、そして中国版ティックトックのドウインやその他の動画サイトなど、さまざまなサービスでこうした対テロ対策は呼びかけられてきた。

前述のウイグル族による暴力事件の記憶もあり、中国人の多くは「ウイグル族」「テロ」「イスラム原理主義」、そして「タリバン」などがセットとしてイメージされているだけに、中国政府がいきなり軌道修正をしてもついていくことは難しい。

中国国有テレビ局CCTV(中国中央電視台)は16日、「60秒で理解、タリバンの前世と今」と題したショートムービーを、ソーシャルメディアに公開した。動画ではタリバンとはもともと難民キャンプの学生が主力で、貧困層の支持を受け実力を拡大した勢力だと説明している。

しかし、この動画は公開後まもなく削除された。仏メディアのRFIは、中国SNSで「テロの話がすっぱりなくなってるんだが?」「バーミヤン大仏の破壊の話はどうなったの?」などなど、疑義を呈するコメントが多く付けられたためだと指摘している。

■チャイナマネーでアフガニスタン情勢は安定するのか

国際社会と対テロ戦争で協調という旧来の主張を修正したとしても、中国にとっての安全保障、新疆ウイグル自治区の安定という悩みのタネが消えたわけではない。王外相とタリバン代表との会談でも、この点が強調された。王外相は次のように述べている。

戦争
写真=iStock.com/Zeferli
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Zeferli

「ETIM(東トルキスタン・イスラム運動)は国連安保理にリストアップされた国際的テロ組織であり、中国の国家安全と領土の一体性に対する直接的脅威である。ETIM取り締まりは国際社会の共同の責任だ。

アフガニスタン・タリバンはETIMなどすべてのテロ組織と完全に一線を引き、徹底して有効な取り締まりを行い、地域の安全と安定、発展と協力の対する障害を取り除くための積極的な働きを示し、有利な条件を作り出して欲しい」

これに対し、タリバン側からは「いかなる勢力であれ、アフガニスタンの領土を利用して、中国に危害を与えることを絶対に認めない」との返答があったという。

今後、タリバンが国家建設を進めるためにはチャイナマネーの支援を受けられるかは大きなポイントだけに、こうした合意が成立するのは自然だろう。しかし、中国側が期待するような安定が実現できるかは未知数だ。

たとえ、タリバンが反中国政府の勢力に直接支援を行わなかったとしても、治安が悪化しガバナンスの効かないアフガニスタンを拠点として、そうした組織が力を蓄える可能性はある。

■新疆ウイグル自治区への影響は未知数

2001年に発足したのが上海協力機構だ。正規加盟国は中国、ロシア、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、ウズベキスタン、インド、パキスタンの8カ国だ。

軍事、政治、経済、科学技術、文化など多方面での協力を目指した機関とうたわれているが、中国は主に新疆ウイグル自治区の治安強化のための国際的テロ対策協力機関として活用してきた。

新疆ウイグル自治区は約5700キロメートルと長い国境線を持ち、インド、パキスタン、アフガニスタン、タジキスタン、キルギス、カザフスタン、ロシア、モンゴルと国境を接している。これだけ長大な国境線を監視することは容易ではない。

新疆独立派の組織は中国が手を出せない国外に拠点を持ち、必要な時に国境を越えて新疆に入ってくるため、中国政府は手を焼いていた。この対策には隣国の協力が不可欠だった。

アフガニスタンも上海協力機構に準加盟国として加わっているが、タリバン支配下のアフガニスタンで政府の統治能力が低下すれば、有効な協力は期待できない。

■海外の影響で原理主義化していくウイグル族

また、文化面でも中国は警戒を強めている。イスラム教の影響力は国境を簡単に飛び越える。もともとウイグル族の多くは世俗主義的なイスラム教徒が大半を占めたとされるが、国外のイスラム原理主義の影響によって、厳格に信仰を守る者が増えたという。

中国
写真=iStock.com/Rat0007
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Rat0007

海外の影響を断ち切るために、中国政府はインターネットやUSBメモリなどを通じて流通する書籍や動画を徹底的に禁止したほか、ラマダン(断食月)を守らず食事をさせる、飲酒をすすめる、ひげをそらせる、ブルカの禁止といった、文化面からイスラム原理主義を排除しようという動きを強めてきた。

ラマダン中のウイグル人に強制的に食事させることが新疆ウイグル自治区の安定につながるのかははなはだ疑問ではあるが、これまで大まじめに取り組んできた政策であることに間違いはない。

タリバン支配下のアフガニスタンから広がるイスラム原理主義文化の影響、この浸透をどう食い止めるかも中国にとっては大きな課題となるだろう。

■アフガニスタンにとって中国は第2の貿易相手国

安全保障という最大の課題に続くテーマが経済問題となる。貿易、投資、インフラ建設という3分野いずれも、中国のプレゼンスは大きい。

中国商務部刊行の報告書「対外投資協力国(地域)別ガイド:アフガニスタン編(2020年版)によると、中国は2019年度に11億5700万ドルをアフガニスタンに輸出している。

電機製品、医薬品、機会設備、衣料品が主な輸出品目だ。アフガニスタンにとって中国は12億4700万ドルのイランに次ぐ、第2の貿易相手国である。イランとの貿易額は2015年をピークに減少しており、このままいけば最大の貿易相手国となるのも時間の問題であろう。

中国政府の統計によると、中国の対アフガニスタン直接投資はアムダリヤ盆地の油田やメス・アヤナクの銅山プロジェクトなどで、2019年末時点で累計4億1900万ドルに達している。現時点ではたいした金額ではないとはいえ、アフガニスタンが擁する豊富な天然資源の開発が進めば、メリットは大きい。

また、天然ガス・パイプライン建設、通信網・電力網敷設、道路建設などのインフラ建設についても、中国企業は数多く受注している。

国際支援によるインフラ建設プロジェクトは多いが、安全性を考えて参入には慎重な企業が多いなか、大胆にリスクを取る中国企業の存在感が高まっているという。

■中国がイスラム武装勢力の標的になるリスクは高まる

もっとも米軍の撤退で、ビジネス人員のリスクも高まっている。米国が多額のコストを費やして維持しているアフガニスタンの治安に中国はタダ乗りしているとは、これまでも指摘されてきたところだ。米国なきアフガニスタンでどのように国民の安全を守るのか。

中国の大ヒット映画「戦狼 ウルフ・オブ・ウォー」(2017年)は、アフリカ亡国の内戦に巻き込まれた中国民間人を、元中国軍兵士と人民解放軍が救うというストーリーだ。

映画のラストには中国のパスポートの上に、世界のどこであろうとも中国政府は国民を守るとのメッセージが映し出される。愛国映画でありながら、中国映画興行収入歴代1位の大ヒットとなった同作だが、アフガニスタンでは映画通りとはいかないだろう。

本稿執筆中の8月20日、パキスタン南西部のグワダルで、中国人が乗った車を標的とした自爆攻撃が行われた。イスラム武装勢力の「バルチスタン解放軍」が犯行声明を出している。パキスタンの経済分野で中国の存在感は高まる一方なだけに、政府にダメージを与えるテロの対象にもなりやすい。

米軍なきアフガニスタンでも今後同様の構図となるだろう。中国の存在感が高まれば高まるほどに、標的となるリスクもまた大きくなる。

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高口 康太(たかぐち・こうた)
ジャーナリスト/千葉大学客員准教授
1976年生まれ。千葉県出身。千葉大学人文社会科学研究科博士課程単位取得退学。中国経済、中国企業、在日中国人社会を中心に『週刊ダイヤモンド』『Wedge』『ニューズウィーク日本版』「NewsPicks」などのメディアに寄稿している。著書に『なぜ、習近平は激怒したのか』(祥伝社新書)、『現代中国経営者列伝』(星海社新書)、編著に『中国S級B級論』(さくら舎)、共著に『幸福な監視国家・中国』(NHK出版新書)『プロトタイプシティ 深圳と世界的イノベーション』(KADOKAWA)などがある。

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(ジャーナリスト/千葉大学客員准教授 高口 康太)

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