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「欧州一の環境大国」ドイツで環境政党の"支持離れ"が進んでいる根本原因

プレジデントオンライン / 2021年8月28日 10時15分

2021年8月23日、ドイツ・デュッセルドルフの競馬場で行われた75年前のノルトライン・ヴェストファーレン州の設立記念式典に出席したキリスト教民主同盟(CDU)のアンゲラ・メルケル首相 - 写真=EPA/時事通信フォト

■強まる与党への逆風、総選挙を控えるドイツでも

コロナ禍の収束にめどが立たない日本では、総選挙のタイミングが後ずれしている。緊急事態の期限は9月12日だが、このままでは延長が必至だろう。こうした中で総選挙の前哨戦である横浜市長選が8月22日に行われ、野党系候補の山中竹春氏が菅総理の支援した小此木八郎氏に大差で勝利、与党・自民党への逆風の強さを表す結果となった。

他方で、ヨーロッパのドイツは9月26日に総選挙を控えているが、こちらはまれに見る混戦となっている。躍進が予想され、一時は次期の首相を輩出する可能性さえ指摘された環境政党、同盟90/緑の党の勢いが目に見えて失速しているためだ。代わって台風の目となっているのが、それまで劣勢であった中道左派政党、社会民主党(SPD)だ。

世論調査会社フォルサ(Forsa)が8月24日に公表した最新の調査によれば、SPDの支持率は23%とメルケル首相を擁する「保守連合」〔キリスト教民主民主同盟(CDU)と姉妹政党の同社会同盟(CSU)の連合〕の支持率22%を抜いて一位に浮上、同盟90/緑の党の支持率(18%)を引き離した。

ドイツの主要政党の支持率の推移
出典=Forsa

このようにドイツの総選挙は文字通り「三つ巴(どもえ)」の様相であり、情勢は混沌(こんとん)としている。当初、次期の連立政権の組み合わせは保守連合と同盟90/緑の党による「黒緑連立」になるという見方が有力であった。しかし同党の失速とSPDの復調を受けて、一転して次期の連立政権にも引き続きSPDが参加する可能性が高まっている。

むしろSPDを核に、保守連合と同盟90/緑の党が参加する「赤黒緑連立」の組み合わせが生まれるという見方さえ強まってきた。SPDは政権政党としての経験も豊かであり、保守連合とも長年にわたってパートナーを組んできた。一方、同様に左派の政党として同盟90/緑の党ともうまく付き合うことができると考えられるためだ。

SPDの首相候補であるショルツ財務相兼副首相の人気が国民の間で高いことも、このシナリオの蓋然(がいぜん)性を物語る。Forsaが有権者に対して、首相候補に直接投票できるなら誰に投票するか尋ねたところ、回答者の29%がショルツ氏を選択、与党連合のラシェット氏の17%や同盟90/緑の党のベーアボック氏の15%を引き離した。

2018年2月14日、集会に参加する同盟90/緑の党のアンナレーナ・ベーアボック氏
2018年2月14日、集会に参加する同盟90/緑の党のアンナレーナ・ベーアボック氏(写真=Bündnis 90/Die Grünen Nordrhein-Westfalen/CC BY-SA 2.0/Wikimedia Commons)

■政権運営の経験不足…環境政党「同盟90/緑の党」の失速原因

それではなぜ同盟90/緑の党が失速し、SPDが復調したのだろうか。一つに、総選挙が近づくにつれて、SPDの政権政党としての経験を有権者が再評価したことがあると考えられる。言い換えれば、これは政権政党としての経験に乏しい同盟90/緑の党に対して、有権者が慎重な見方を強めているということにほかならない。

同盟90/緑の党に関しては、同党の首相候補であるベーアボック共同党首に数々の醜聞が生じたことも逆風に働いた。ベーアボック氏に関しては今年の初夏以降、自身の所得や経歴、著作に関してさまざまな疑惑が浮上、政治家のスキャンダルには寛容なドイツとはいえ、さすがに有権者の心証が悪化する事態は免れなかったようだ。

同盟90/緑の党が掲げる選挙公約に対して有権者が反発している側面も看過できない。とりわけ炭素税の大幅な引き上げに言及したことは、有権者の強い反発を招いた。具体的に言うと、現行だと2023年に1トン当たり35ユーロ(約4500円)となる炭素税の負担額を、同党は60ユーロ(約7700円)まで引き上げると主張した。

それでも20%近い支持率を維持しているという意味で、有権者の同盟90/緑の党に対する支持には根強いものがある。保守連合とSPDに代わる第三の選択肢として、同盟90/緑の党が一定のプレゼンスを確立していることに間違いはない。とはいえ「環境先進国」とされるドイツでも、環境政党への支持が広がり切らない現実がある。

■外交でも「卓袱台返し」を主張する同盟90/緑の党

環境対策そのものは時代の要請であり、保守連合もSPDもその必要性を十分に理解している。問題は手段であり、保守連合やSPDは現実主義的なアプローチで臨もうとしている。それに比べると、環境政党である同盟90/緑の党のそれはやはり原理主義的であり、実現可能性に乏しかったりバランス感覚を欠いていたりする側面が否めない。

過激な主張は環境対策だけではない。同盟90/緑の党は外交の分野でも、これまで保守連合やSPDが積み上げてきた実績を否定するような主張を展開している。平和の理念に燃えると言えば聞こえが良いが、悪く言えばそれは「卓袱(ちゃぶ)台返し」であり、与党連合とSPDからは舌鋒(ぜっぽう)鋭く批判され、有権者の支持離れをもたらしたようだ。

例えばドイツとロシアとの間を結ぶガスパイプライン「ノルドストリーム2」は、ドイツが気候変動対策を進めるうえで不可欠な天然ガスの安定的な調達に資すると期待される計画だ。しかし同盟90/緑の党は、天然ガスが化石燃料の一種であることや安全保障上の懸念があることなどを理由に、同計画を受け入れないと表明した。

また国防費の支出を国内総生産(GDP)の2%以上にする北大西洋条約機構(NATO)での取り決めに関しても、同盟90/緑の党はその見直しを交渉すると選挙公約に盛り込んでいる。米国との関係にひびが入りかねないばかりか、他の欧州連合(EU)諸国との関係にも暗い影を差すリスクがある主張を、同盟90/緑の党は平然と展開しているわけである。

■“まれに見る安定”から混迷へ

同盟90/緑の党の選挙公約は、現実主義的な有権者から見れば十分に原理主義的であるが、それでも党内の左派から糾弾された末に成立した「妥協の産物」であった。そこには、現実路線を強くすれば、与党連合やSPDとの間で明確な立ち位置の違いを示すことができないため、原理主義を修正しきれない環境政党が持つ悲しき性がある。

かつて同盟90/緑の党は、1998年から2005年までの間、SPDと連立を組んだ経験がある。フィッシャー元副首相兼外相など国民的な人気を誇る政治家も輩出、再生可能エネルギーの普及にも大きく貢献した。とはいえ、これらの政策はすでに保守連合やSDPに引き継がれており、同盟90/緑の党ではなければならない理由はない。

原理主義的な主張を展開しなければ、中道の有力政党の間に埋没することになる。とはいえ、過激な主張を展開すればするほど、その実現可能性に疑いを持つ有権者から支持が離れていく。足元の同盟90/緑の党の支持率の失速は、過激な主張を展開する環境政党や民族主義政党が抱える「ジレンマ」をよく示していると言えよう。

いずれにせよ、9月26日のドイツ総選挙は混戦が必至であり、組閣協議は越年も視野が入る。今回の総選挙で首相職から引退するメルケル首相は、4期16年にわたる長期政権を率いてきた。いわばメルケル首相は、ドイツ政治にまれに見る「安定」をもたらしたわけだが、その最後の置き土産が「動揺」だという点が、なんとも皮肉である。

安定の末に動揺が生じるというのは、日本も同様かもしれない。安倍晋三前首相時代は盤石であった自民党だが、次回の総選挙では、コロナ対策の遅れを受けて有権者から厳しい評価が下されると予想される。一方で、受け皿となる有力な政党も存在せず、日本の政治もまたドイツとは異なる形で混迷の度合いを強めること必至である。

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土田 陽介(つちだ・ようすけ)
三菱UFJリサーチ&コンサルティング 調査部 副主任研究員
1981年生まれ。2005年一橋大学経済学部、06年同大学院経済学研究科修了。浜銀総合研究所を経て、12年三菱UFJリサーチ&コンサルティング入社。現在、調査部にて欧州経済の分析を担当。

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(三菱UFJリサーチ&コンサルティング 調査部 副主任研究員 土田 陽介)

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