打者でメジャー最強になった大谷翔平が投手でもメジャー最強になるために必要なこと
プレジデントオンライン / 2021年8月26日 10時15分
■メジャーの壁を乗り越えオールスター選出された大谷
大谷選手がピッチャーとバッターの両方でオールスターゲームに選ばれたことは、驚きとともに、同じ日本人としての喜びを感じました。
私がアメリカにいたのはもう10年近く前(2010~12年、ニューヨーク・メッツなどに在籍)です。当時より現在のメジャーリーグのレベルは数段上です。
2010年ごろ、ストレートの平均球速は91マイル(約146キロ)を少し上回る程度だったのが、2020年は93マイル(約150キロ)を超えているんです。
そもそも日米の野球には大きな違いがあります。移動1つ取っても、西海岸から東海岸へは飛行機で5時間かかり、その上に3時間の時差があるわけです。
技術的なところでいえば、日本で首位打者を3回獲得した青木宣親選手(現・ヤクルト)がメジャーから帰って来て「向こう(メジャー)の感じで打っていたら、ちょっとタイミングが合わない。日本には日本に合った打ち方がある」と言っていたように、タイミングの取り方にしても、その違いにどう対応するかという問題があります。
大谷選手はメジャーに行ってから、打つ時に足を上げずに軽くステップをする感じに変化し結果をだしていきました。その適応能力の高さも彼のすごさの1つになると思います。
■打者としての大谷の魅力
バッターとしての大谷選手の最大の魅力は、打球を遠くに飛ばすということです。
その理由は、去年と比べても体がさらに大きくなっていることでしょう。
私は福岡ソフトバンクホークスの投手として、北海道日本ハムファイターズ時代の大谷選手と何度か対戦していますが、細身だった当時と印象はずいぶん変わりました。
野球界には今でもウエートトレーニングに対して否定的な人もいる中で、彼は体を強くする、大きくするという選択をしたのだと思います。
それは昨年のケガの影響もあったでしょうし、日本よりも長いシーズンでメジャーの選手を相手に1年間戦っていく上で、どういう身体づくりをしたらいいかというところを熟考した結果だと思います。
もともと反対方向にもホームランが打てるバッターですが、今年はこの弾道の低さでスタンドに入っちゃうんだとか、こんなに飛ぶんだと思うような打球が多くなりました。比較的、苦手にしていた内角球をホームランにしてしまうようになったことも含め、ビルドアップによってスイングスピードがさらに上がったことが関係していると思います。
■ほぼ真ん中の球でも抑えられる
今の大谷選手を見ているとピッチャーとバッター、どちらを気持ち良さそうにやっているかというと、バッターのほうが楽しそうに映ります。ですが、私はもともと、大谷選手はピッチャーのほうがいいと思っていました。自分がピッチャーだったという事もあるとは思います。
ピッチャーとしてのすごさは、変化球の変化量の多さもありますが、やはり平均93.3マイル(約150キロ)の球の速さや強さです。
他のピッチャーであれば、内外角のボールの出し入れであったり、内角の厳しいところを攻めて外角を広く見せるといった配球をしないと抑えられない。
それが大谷選手の場合は、追い込んだ時にはスプリットやスライダーといったボールになる変化球を振らせようという意図は見えますが、それ以外はほぼ真ん中近辺の球で抑えてしまっているわけです。
オールスターを見ていても、1イニングに限定した場合、球速は100マイル(約160キロ)を超えます。先発で長いイニングを投げるとなるとペース配分を考える必要がありますが、短いイニングだけなら常に全力でいける。1イニング限定のクローザーなら、今のピッチングスタイルで構わない。クローザーの適正はあると思います。
そう考えると先発だけでなくクローザー、あるいはセットアッパーもできるという、超オールラウンドなピッチャーになる可能性があるわけです。もちろん、そこは監督やコーチの考えもありますし、一番は本人が何を望んでるかというところになると思いますが、ピッチャーとしてまだまだ大きな可能性を秘めているということになります。
たとえば今年は野手、来年は先発投手、その次はクローザーと、1年ごとに役割を変えていったらそれぞれでタイトルが獲れそうです。いろんなタイトルを獲って欲しい、そこが彼に感じるロマンですよね。
■投手としてもメジャートップになるには
ただ、大谷選手とメジャーのトップクラスの投手を比べた場合、見劣りする部分もあります。大きな課題はコントロール。今はそこまで細かい制球力がなくても勝てているのですが、これで両サイドに投げ分けられるようになれば、まだまだ伸びていく可能性はありますし、トップクラスのピッチャーに近づくことができます。
そのためには、投手としての精度を上げ、狙ったコースにある程度キッチリ投げられるように、どれだけトレーニングの時間を費やすことができるかが課題ですね。
メジャーでは全体的に「投げすぎはよくない」との考え方が強いので、たとえばブルペンでの投球数やキャンプでも投げる時間が決められていますし、イニング間の投球もできない。
大谷選手の場合はそれにプラスしてバッティング練習もやらないといけない。そう考えると、二刀流を続けている限りは、時間が圧倒的に足りません。
今シーズン、投手としては現状が精いっぱいなのかもしれません。あとは試合で投げながら、どんどん状態を上げていく、感覚をつかんでいくというやり方しかないと思っています。
少なくとも二刀流というのは年齢的に若くないとできないと、私は考えます。大谷選手自身もおそらく年齢を考えて、二刀流をやるためにはどれくらいの体力が必要かというところも踏まえての今だと思いますので、来シーズン以降は自分の体とも相談しながら、どのようなプランを考えていくかになるでしょうね。
■ベーブ・ルース以来の大記録も視野に
今シーズン、大谷選手がこのまま最後まで二刀流を続けていったら、どんな成績を残すのか。こうして年間を通して、ほぼ休みなく二刀流をやり続けるというのは初めてなので、8月に入って少し疲れが見えたようにも感じましたが、8月18日のタイガース戦では両リーグでも一番乗りで40号に到達しました。
だからバッターとしては、今年はホームランのタイトルを獲るかどうかというところになってくるのではないでしょうか。ホームラン50本、60本というところに期待したいですね。
ピッチャーとしては、後半戦は“省エネ”といいますか、打たせて取ることも意識しているように見えます。球数を抑えられている分、前半戦よりも長いイニングを投げることができているので、クオリティースタート(先発6回以上投げて自責点3以下の試合)が続いています。これは投手としての大谷選手の進化だと思いますし、8勝はチームトップの勝利数です。(8月24日現在)結局、ピッチャー専任でやっていても素晴らしい記録が出ていたんじゃないかと思っています。ベーブ・ルース以来という、同一シーズンのふた桁勝利とふた桁ホームランの記録達成を狙ってほしいですね。
■大谷の活躍が「既存の野球」を変える
大谷選手のような存在が出てくることによって、野球自体も変わってきます。
今まではどんなに才能のある選手でもバッターとピッチャーの二択だったのが、大谷選手が二刀流で成功しているのを見て、今の子供たちは「こんなこともできるんだ」と思うわけです。
そんな大谷選手に憧れて野球を始める子供たちはこれからも増えていくでしょうし、野球をよく知らなくても大谷選手は好きという人も少なくないと聞きます。プロ野球における国民的スターが不在といわれる中、野球人気の陰りを抑える意味でも、今の彼の活躍は非常に大きな意味を持つと思います。
これまでの野球、メジャーリーグの歴史を考えたときに、おそらく大谷選手の活躍には、日本人以上にアメリカのファンの方が驚いていると思います。
MLBの主人公のような扱いを受けていましたし、大谷選手がやっていることというのは、それぐらいすごいことです。
私も対戦したことがあるので、おじいちゃんぐらいになったら自慢しようと思っています(笑)。国を挙げて、なんとかあの遺伝子を保存しないといけないという、今やそのぐらいのレベルの選手ですね。
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野球解説者
1979年生まれ、北海道出身1997年、ドラフト2位でヤクルトスワローズに入団。2003年にクローザーに転向。最優秀救援投手や、優秀バッテリー賞を獲得。2009年11月にFA権を行使し、2010年シーズンからMLBニューヨーク・メッツに入団、5勝を挙げる。2012年シーズンまでMLBでプレー。その後、福岡ソフトバンクホークス、ヤクルトに在籍し、2020年シーズンを持って引退。
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(野球解説者 五十嵐 亮太 聞き手・構成=菊田康彦)
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