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「コロナは言い訳」西武のプリンスホテル売却は"やめられない悪癖"だ

プレジデントオンライン / 2021年9月7日 9時15分

2011年2月21日、ザ・プリンスパークタワー東京。左は東京タワー(東京・港区) - 写真=時事通信フォト

西武ホールディングスがプリンスホテルなどの所有するホテルの売却を検討している。金融アナリストの高橋克英さんは「西武は2006年、ニセコのホテルやスキー場を米国大手金融機関のグループ会社に譲渡した。西武は今回の売却でも同じことをしようとしている」という――。

■プリンスホテルが売却される

西武ホールディングス(西武HD)が、プリンスホテルなどの所有するホテルを売却する方針だと報じられている。売却対象となるのは、国内のプリンスホテル40施設のうち、約10施設となる見込みで、売却総額は1000億円を超える見通しだ。東京・芝公園に隣接する「ザ・プリンスパークタワー東京」に加え、「札幌プリンスホテル」や「びわ湖大津プリンスホテル」のほか、ゴルフ場やスキー場などのレジャー施設も売却候補という(時事ドットコム「西武HD、40施設売却へ ホテルなど、1000億円超で」)。一方、「軽井沢プリンスホテル」や「品川プリンスホテル」などは、グループ会社の継続保有することになる見込みだという。

2021年内に売却物件の選定を行い、売却後もプリンスホテルとして営業する。このため、プリンスホテルは、2022年4月以降は、運営に特化することになる。とはいうものの、買収側(所有者)にとって、採算性が改善しなければ、後述するニセコの事例のように、「プリンスホテル」ブランドから、ヒルトンやマリオットなど世界的ブランドを有するほかの運営会社に変わる可能性も高いといえよう。プリンスホテル売却の背景には、コロナ禍による業績悪化があるという。西武HDは鉄道事業に加え、ホテル・レジャー事業の比率が大きく、プリンスホテルの稼働率の低下で、202億円の減損損失が発生するなど、2020年度は過去最大の723億円の最終赤字となった。今期2021年度も、50億円の最終赤字と2期連続の赤字になる見込みだ。

■昭和の時代は日本一のホテルチェーンだった

しかし、本当にコロナ禍やインバウンドだけのせいなのだろうか。西武HDのこれまでの経営戦略そのものに落ち度はなかったのだろうか。

実は、西武HDのホテルなどの大規模な資産売却は今回が初めてではないのだ。

西武HDの歴史を少し振り返ってみよう。西武鉄道の兄弟会社だったプリンスホテルにより、1960年代以降、ホテル・スキー場・ゴルフ場などが一体となったリゾート開発が全国で積極的に進められ、プリンスホテルは日本一のホテルチェーンとなった。スキー場は、苗場、ニセコ、富良野、万座など1987年には33カ所になるまで拡大した。バブル景気とも重なり、コクドの堤義明会長(当時)は、米国の経済誌『フォーブス』に「世界一の大富豪」として取り上げられ、個人の総資産は3兆円とも報じられた。

しかし、バブル崩壊による不良債権増加に続き、2004年に発覚した西武鉄道を巡る総会屋利益供与事件などで、堤義明会長は失脚。西武鉄道も同年12月に上場廃止処分となり、当時1兆4000億円もの有利子負債を抱えた西武グループは存亡の危機に陥った。このため、同族経営からの脱却とリストラのため、メインバンクであるみずほフィナンシャルグループから後藤高志氏が招かれ、2006年2月、西武HDが設立され、現在に至っている。

■ニセコもかつては西武だった

西武HDは、2006年12月、経営再建の一環として、プリンスホテルが保有する国内のホテルやスキー場など12施設を、米国大手金融機関であるシティグループのグループ会社に譲渡すると発表。売却となったのは、「ニセコ東山プリンスホテル」「ニセコ東山スキー場」「ニセコゴルフコース」「函館七飯スキー場」「湯沢中里スキー場」「表万座スキー場」など全国12カ所だった。売却額は、総額約62億円で、簿価86億円との差額約24億円が損失計上された。今にしてみれば、数十億円ぐらい西武なら何とかならなかったのかとも思うが、当時の日本はデフレ不況下にあり、日経平均は1万7225円(2006年末)足らず、インバウンドという救世主もまだない。どうにもならなかったのだ。

シティグループのもとで、2008年には、旧ニセコ東山プリンスホテル新館が「ヒルトンニセコビレッジ」として再出発。ニセコ初の国際的なブランドホテルが誕生したことは、現在に続くニセコ興隆における重要なターニングポイントとなった。その後、マレーシアの財閥YTLコーポレーションが、2010年3月、ニセコビレッジを総額60億円で買収し、2020年12月には「東山ニセコビレッジ・リッツ・カールトンリザーブ」を開業するなど開発が続いている。皮肉にも、西武から米国・アジアと所有・運営が移ってからニセコでは上手くいっているのだ。

ニセコの羊蹄山と霜で輝く木
写真=iStock.com/kazuto_yossy
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazuto_yossy

■「景気が悪いと資産売却」を繰り返してきた

西武HDは、ニセコのホテルやスキー場を売却し撤退しているが、富良野や苗場などは売却することなく保持してきた。しかしながら、それから15年を経て、再びこれらホテルやスキー場の売却に手をつけることになったのだ。

相場の下落局面や景気が下向くと、リスク回避や損失穴埋めのために、虎の子の保有資産を売却するという短絡的な経営判断を繰り返してきているのだ。一方で、海外の投資家や外資系ファンド、事業会社は株価の向上と収益の確保を目的とし、ビジネスライクにリスクを取りながら最大限のリターン確保を目指し、プロフェショナル経営に徹している。それらの企業にとって、相場の下落局面や不景気は絶好の買い場であり、開発を進めるチャンスなのだ。

プリンスホテルは、「富良野スキー場」のほか、「雫石スキー場」「苗場スキー場」「かぐらスキー場」「六日町 八海山スキー場」「妙高 杉ノ原スキー場」「万座温泉スキー場」「志賀高原 焼額山スキー場」「軽井沢プリンスホテルスキー場」といった国内屈指のブランド力ある9つのスキーリゾートを所有し運営しているものの、相次ぐ緊急事態宣言もあり、これらプリンスホテル&リゾートの多くは休業中又は実質休業状態である。

筆者は、今年4月「『歴史ある不動産が外資に売られて残念』その発想が日本経済を低迷させている」において、「この先、例えば、富良野や苗場など西武グループが保有するスキーリゾートの不動産が、外資系ファンドなどへ売却される可能性があるのではないだろうか」と予想したが、数カ月もしないうちに現実化しそうだ。

■プリンスブランドが乱立している

現在、プリンスホテルは、最高峰「ザ・プリンスギャラリー 東京紀尾井町」を頂点に、「ザ・プリンス」「グランドプリンスホテル」「プリンスホテル」「プリンススマートイン」などのブランドを展開している。

プリンスホテルのフラッグシップである「ザ・プリンス」には、「西武グループ中期経営計画(2021~2023年度)」で売却候補として挙げられている、地上33階、673室の客室と17の宴会場に多彩なレストラン、会員制スパ&フィットネスを設備し、芝公園や東京タワーを望む「ザ・プリンスパークタワー東京」のほか、「ザ・プリンスさくらタワー東京」「ザ・プリンス箱根芦ノ湖」「ザ・プリンス軽井沢、ザ・プリンスヴィラ軽井沢」「ザ・プリンス京都宝ヶ池」の6施設がある。

「グランドプリンスホテル」は、「グランドプリンスホテル高輪」「グランドプリンスホテル新高輪」「グランドプリンスホテル広島」の3施設になる。正直、これら上位3カテゴリーのブランド構成や違いはよく分からない印象だ。

そして、スタンダードな「プリンスホテル」には、2020年9月に運営受託方式(MC)により開業した「東京ベイ潮見プリンスホテル」をはじめ、東京には、「東京プリンスホテル」「品川プリンスホテル」「新宿プリンスホテル」「サンシャインシティプリンスホテル」がある。「軽井沢プリンスホテルイースト」「軽井沢プリンスホテルウエスト」などもこれに含まれ、日本全国に30施設を誇る。

軽井沢駅
写真=iStock.com/winhorse
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/winhorse

■採算性が悪く、ブランド力も定まらない

4カテゴリー合わせて40施設となり、筆者は、このなかから、10施設前後が売却対象になるとみている。プリンスホテルの戦略では、2大主要拠点といえる品川・高輪エリアと軽井沢エリア、中国など海外での投資開発、次世代型宿泊特化型ホテル「プリンススマートイン」の展開などに比べ、その他のエリアの優先順位はそこまで高くはないということだ。

なお、「プリンススマートイン」は、「泊まる」に特化した機能性と利便性を追求したホテルとして、2020年10月に恵比寿に開業。熱海、京都四条大宮にも進出している。

その他のホテル・旅館として、ゴルフコースが名高い「川奈ホテル」、京都に誕生したラグジュアリーホテル「ザ・ホテル青龍 京都清水」など国内8施設がある。また、海外を中心にグループホテルも多数抱えている。

このように、プリンスホテルといってもブランドが多数混在し、統一感なくバラバラの印象だ。最高級ホテルから低価格帯、シティホテルからリゾートホテルまでそろう全方位的なラインナップは、壮観ではあるが、経営資源が分散して、採算性が悪くなるだけでなく、ブランド力も定まらない。

「コロナやインバウンドは言い訳」にすぎず、ブランドが乱立し、顧客離反を招いたプリンスホテルが売却に至ったのは必然だったのかもしれない。

■ブランドの見直し、収益管理の厳格化が必要

西武HDが、今後も、ホテル・レジャー事業を継続し発展させたいのなら、ブランド力を磨き富裕層など上客に支持されることだ。そのためにも、ブランドを整理統合する必要がある。個々のプリンスホテル&リゾートの独立採算制についてもより厳格化すべきであろう。この先も外資系高級ブランドホテルの国内進出が続くことで、プリンスホテルは、更なる苦境に陥る可能性も高いのだ。

西武HDは、ホテル・レジャー事業において、業績不振のときには資産を売って穴埋めするのではなく、プリンスホテルブランドの乱立を見直し、個々の収益管理をより厳格化することが最低限必要となろう。

なお、同じく西武HD傘下の西武鉄道では、特急ラビュー、特急レッドアロー、S-TRAIN、拝島ライナー、快速急行、急行、通勤急行、快速、通勤準急、準急、各駅停車と、その数11種類にも及ぶ電車が日々運行されている。初めての利用者は無論、通勤・通学利用者でも混乱するのではと思うほどの乱立ぶりだ。西武HDが2期連続の赤字から脱却するためにも、ホテル・レジャー事業同様、鉄道業においてもブランド・名称の整理統合は遠回りのようで必要な作業といえよう。

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高橋 克英(たかはし・かつひで)
マリブジャパン代表取締役
三菱銀行、シティグループ証券、シティバンク等にて富裕層向け資産運用アドバイザー等で活躍。世界60カ国以上を訪問。バハマ、モルディブ、パラオ、マリブ、ロスカボス、ドバイ、ハワイ、ニセコ、京都、沖縄など国内外リゾート地にも詳しい。1993年慶應義塾大学経済学部卒。2000年青山学院大学大学院 国際政治経済学研究科経済学修士。日本金融学会員。著書に『銀行ゼロ時代』、『なぜニセコだけが世界リゾートになったのか』など。

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(マリブジャパン代表取締役 高橋 克英)

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