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「予報精度は気象庁より上」わざわざ有料の天気予報アプリを使う人が増えているワケ

プレジデントオンライン / 2021年9月1日 10時15分

写真=ウェザーニューズ提供

天気予報の「有料アプリ」を使う人がじわじわと増えている。ウェザーニューズの有料アプリの会員数はこの3年で約3倍、同社の個人向け事業はこの3年で売上高が1.5倍になっている。背景にはなにがあるのか。ITライターの酒井麻里子さんが取材した――。

■「タダで当たり前」のはずの天気予報アプリに有料課金する人が急増

有料会員数がこの3年で約3倍に急増した天気予報アプリがある。株式会社ウェザーニューズが提供する「ウェザーニュース」だ。アプリの累計ダウンロード数は2600万回超。同社は具体的な有料会員数を公表していないが、アプリを含む個人向け事業の売上高はこの3年で42億円から61億円と1.5倍に成長している。

天気予報アプリは競争の激しいジャンルだ。ライバルは日本気象協会の「tenki.jp」や、ヤフーの「Yahoo!天気」で、いずれも地域・時間別の天気や雨雲レーダー、熱中症の危険度や災害情報など情報は豊富だ。「ウェザーニュース」も多くの機能を無料で使うことができる。

テレビやネットを開けばタダでいくらでも手に入る「天気予報」にわざわざお金を払う人が増えているのはなぜなのか。

■ダウンロード数1位も月額330円は強気の価格設定

App Storeの「天気」カテゴリランキング(2021年8月17日時点、無料アプリ)では、1位がウェザーニュース、2位が「Yahoo!天気」、3位が「Yahoo!防災速報」、4位が「tenki.jp」となっている。また、Google Playではウェザーニュースが1位、Yahoo!天気が2位だ。

ちなみに、Yahoo!天気はすべての機能が無料。tenki.jpは月額110円を払うと「プレミアム会員」として気象衛星の画像や1時間ごとのピンポイント天気などが見られる。ウェザーニュースの月額330円(プラットフォームにより若干異なる)は、天気アプリとしては強気の価格設定といえる。

■かつてはテレビ局などへの気象情報販売が主な事業

ウェザーニューズは、2009年に現在のスマホアプリの前身となる「ウェザーニュースタッチ」を配信し、2011年には有料制度(当時はiOS向けが350円、Androidは315円)を導入した。アプリとウェブを集計した月間利用者数(MAU)は、2019年5月の2600万に対して2021年5月は3800万と2年間で約1.5倍に増加している。

かつてはテレビ局等に天気予報の原稿を販売したり、鉄道や航空などの交通会社向けに気象情報を提供したりするのが主な事業だった。だが、直近ではアプリもその売り上げを急速に伸ばしている。広告なども含めた個人向けの「モバイル・インターネット気象事業」の売上高は、2019年には42億円だったのに対し、2021年には61億円までに成長。これは会社全体の売上高の3割にあたる。

■有料会員には複数の台風進路予測などを提供

アプリでは現在地や登録した地点の天気や気温などの基本情報のほか、降水確率は「5分ごと」「1時間ごと」「今日明日」「週間天気」から切り替えて見ることができる。他社が1時間ごとであるのに対し、5分ごとの天気を提供しているのは業界唯一となる。

また、地図上に雨雲の状況を表示する雨雲レーダーや、台風の進路予測、各地のライブカメラ映像などに加え、季節にあわせた情報も豊富に提供。熱中症警戒度や花粉の飛散状況のほか、各地の紅葉や桜の開花時期なども毎年公開している。

これらのうち、5分ごとの天気を含む時系列の天気や1時間後までの雨雲レーダー、基本的な台風情報や季節の情報はアプリをダウンロードするだけで無料で閲覧できる。有料会員向けには、ウェザーニューズ、気象庁、JTWC(米国海・空軍合同台風警戒センター)の3団体の台風の進路予測を比較できる「3本予測」や、台風の公共交通機関への影響予測、現在地の降水量を予測する「大雨ピンポイント情報」、任意の地点の気象情報をプッシュ通知で受け取れる機能など、より詳細な気象情報を提供している。

■雨雲レーダーの精度がウェザーニュースのウリ

他社との違いについて、ウェザーニューズ取締役でモバイル・インターネット気象事業主責任者の石橋知博氏は「雨雲レーダーの精度向上には特に注力しており、当社のアプリ内で最も人気が高いコンテンツとなっています」と胸を張った。

アプリについて解説する石橋氏
撮影=プレジデントオンライン編集部
アプリについて解説する石橋氏 - 撮影=プレジデントオンライン編集部

雨雲レーダーとは、その時間ごとの断片的な天気予報とは違い、雨を降らせる雨雲の動きを視覚的に追うことのできるコンテンツだ。ウェザーニュースの場合、雨雲の動きが250m四方・10分間隔で表示され、1時間先までは無料、有料会員になると27時間先まで閲覧可能になる。

ライバルのtenki.jpは「15時間先まで無料」のため、ウェザーニュースのほうが強気の価格設定にはなるが、石橋氏は「精度の高さで差別化を図っている」と自信を見せる。

ウェザーニュースの雨雲レーダーは1時間後以降も画質が粗くならない(「ウェザーニュース」より)
ウェザーニュースの雨雲レーダーは1時間後以降も画質が粗くならない(「ウェザーニュース」より)

「他社アプリの雨雲レーダーの映像は1時間後以降の解像度が低く、荒くぼやけた映像になっています。私たちは、過去の雨雲レーダーをAIで解析し、独自の気象モデルとマッチングさせることで、高解像度の映像を実現しています」

アプリ内に表示される情報の基となる“生データ”はいずれも気象庁のレーダーによる情報だが、そのデータをAIなどを駆使して独自に処理することで最終的な見え方は大きく変わるという。実際にいくつかのアプリの雨雲レーダーを比較してみたが、1時間後の地点を過ぎてからの画質にかなりの違いが生じていた。

画像が粗いと、自分の現在地で雨が降るのか、それともギリギリのところで回避できるのかを判別できない。自転車やバイクでの移動では、雨が降るかどうかで服装が大きく変わる。この精度の違いを高く評価するユーザーは多いのだろう。

雨雲レーダーの追跡時間を従来の15時間から業界初の27時間に延長したのは今年7月。「翌日の雨雲の動きを詳しく知りたい」というユーザーからの要望に応えて対応した。台風やゲリラ豪雨など、突発的・局地的な大雨への備えを行いやすくなり、防災・減災にも役立っているとして、ユーザーからは好評だという。

■予報精度は気象庁を大きく上回る94%

予報精度の高さも抜きんでている。2020年の雨の予報精度は94%と、同じ評価軸での気象庁の予報精度は81%で、気象庁よりも高い。なぜ同じ生データを使いながらここまで予報精度に差が出るのか。

そこには、同社のスタッフの約7割をも占めるエンジニアの差が大きいという。石橋氏が続ける。

「テレビなどの天気予報は人が解説しているので、人間が予想しているようなイメージを抱いている方もいらっしゃるかもしれませんが、最終的に天気を予測するのは計算やモデルによる解析です」

いかに膨大なデータがあったとしても、それをうまく解析できなければ予報を的中させることはできず、宝の持ち腐れというわけだ。

先述の雨雲レーダーでいえば、高速かつ高度な情報処理が可能なHPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)を使った独自の気象予測モデルと、雨雲レーダーのために開発されたAI技術によって実現している。高精度な予報には、データサイエンティストやエンジニアの力が欠かせないのだ。

オフィスにはSNSに投稿された天気に関するキーワードなどがリアルタイムで表示されている
撮影=プレジデントオンライン編集部
オフィスにはSNSに投稿された天気に関するキーワードなどがリアルタイムで表示されている - 撮影=プレジデントオンライン編集部

■天気を一番よく知る現地のユーザーを巻き込む

そしてもうひとつ、予報精度向上を支えるユニークな取り組みが、ユーザーによる天気の報告制度だ。同社では、「現地の本当の天気を知っているのはその場にいるユーザー」というスタンスの下、ユーザーが「リポーター」となって現在地の空の写真を投稿したり、気温や雨の降り方を報告したりするコミュニティ「ウェザーリポート」を構築している。空の写真は1日2万通、天気の報告は1日18万通が寄せられている。

集まった報告は、短期の予報などを中心に実際のアプリの情報に生かされている。とくにゲリラ豪雨などの報告は、リアルタムで反映が行われているという。

実際にウェザーリポートの画面を開いてみると、市町村までの投稿場所や日時とともに、各地の空の写真や動画が集まっている。例えば、ある日の投稿では、関東地方のユーザーが「霧雨が降っています」「今朝は曇りです」と投稿しているのに対して、愛知からは「かなりの雨足です」、山梨からは「やばいほど降ってきました」といった投稿がみられ、各地の状況の違いがわかる。動画や写真には、「いいね」やコメントを付けたり、気になるユーザーをフォローしたりすることもでき、そこで交流が生まれている。

写真や動画と一緒に天気や体感の暑さといった情報を投稿できるのが特徴(「ウェザーニュース」より)
写真や動画と一緒に天気や体感の暑さといった情報を投稿できるのが特徴(「ウェザーニュース」より)

また、通常のSNSと異なるのが、「影はっきり」「ポツポツ」といった天気の状況や、「ジリジリ暑い」「ちょうどいい」といった体感温度、今後の天気が回復しそうかどうかの予想など、ユーザーが五感で感じた気象状況も投稿できる点だ。さらに、気温や湿度、気圧、風速といった情報を付加できる項目も用意されており、写真や投稿文だけではわからないリアルで細かい状況まで伝わってくる。

ユーザーコミュニティの強みは、何といっても情報の早さだろう。ゲリラ豪雨や台風のときなどは多くのユーザーが現在地の写真を投稿するので、居住地の近い投稿者をフォローしておけば、自身が出かけていたとしても天気予報を待たずにリアルタイムで状況を把握できる。

リポーターは投稿するごとにポイントを獲得でき、多数のポイントを集めた投稿者には、気温や湿度、気圧などを計測できる独自の小型観測機「WxBeacon2」がウェザーニューズから提供される。観測機で得られたデータはリポーターのスマホに転送され、リポーターは写真投稿の際の付加情報として利用できる。ポイント付与のシステムが、単なる投稿のモチベーション維持にとどまらず、熱心な投稿者により多くの情報を提供してもらえるしくみとなっている点もユニークだ。

■コンテンツの便利さよりも天気の投稿がやりがいに

では、実際のユーザーは、どのような点にメリットを感じて課金しているのだろうか。アプリ内のコミュニティでリポーターとして活動し、有料会員としてもアプリを使う3名に話を聞いた。

50代の男性ユーザーは、仕事で移動の機会が多いことからアプリを活用。よく使う機能は雨雲レーダーで、「会員のリポート内容が反映され、情報がリアルタイムに更新されていくので精度が高い」点をメリットに挙げる。また、任意の地点にゲリラ豪雨のプッシュ通知を設定できる有料限定機能も重宝しているという。

ウェザーリポートには、各地の空の様子が投稿される(「ウェザーニュース」より)
ウェザーリポートには、各地の空の様子が投稿される(「ウェザーニュース」より)

有料会員向けの機能が豊富で、新機能の追加も多い点に魅力を感じているとしながらも、同アプリを使う一番の理由は「自分も予報精度の向上に貢献しているという実感が得られること」だと話す。リポーターとしては10年以上にわたって活動。「天気に関心の高い人だけが集まっていることが、他のSNSにはない魅力」だという。

また、60代の女性ユーザーは、おもに日常生活の中での雨対策に活用。買い物に出かける前にアプリを開き、雨雲レーダーの動きによっては自宅を出る時間を遅らせたり、逆に降り始めまでに少し時間がある場合はすぐ出かけて早めに帰宅したりと調整している。台風のピンポイント予測や台風による交通への影響予測といった有料機能も役立っているという。リポーターとしては空の写真のほか、旬の食べ物など季節の話題についても投稿し、他のユーザーとの交流を楽しんでいる。

在宅勤務がきっかけでウェザーニュースの存在を知ったと話すのは、40代の会社員男性。YouTubeで配信されているウェザーニュースの番組からアプリの存在も番組を通して知ったという。それ以前は、天気の確認はスマホにプリインストールされているウィジェットで簡単に済ませていたそうだが、現在は雨雲レーダーをはじめアプリ内のさまざまなコンテンツを活用する。リポーターとしても1日5〜6件投稿するなど熱心に活動しており、「自分の投稿が単なる情報発信で終わるのではなく、実際に予報精度の向上に役立っている点にやりがいを感じる」と話す。

オフィス内にはスタジオもあり、YouTubeなどで全国の天気情報を発信している
撮影=プレジデントオンライン編集部
オフィス内にはスタジオもあり、YouTubeなどで全国の天気情報を発信している - 撮影=プレジデントオンライン編集部

■機能面よりも「好きだから使う」が人気の秘訣

3人のユーザーの話から感じたのは、「ウェザーニュースが好き」という思いだ。筆者は取材前は、「この機能が絶対に外せないから有料で使っている」「他社と機能を比較して、ここが優れているから気に入っている」といった話を聞けるものと予測していた。天気アプリという実用ツールである以上、機能面で選ぶのが当然だと考えていたためだ。

ところが、実際にユーザーから挙がってきたのは、コミュニティに参加する楽しさややりがい、そして、そのような場を提供してくれるウェザーニュースに愛着を持っていることが伝わってくる話だった。もちろん、機能面での長所についても聞くことはできたが、「機能が便利だから課金する」ではなく、「お気に入りのアプリだから課金する→有料機能も便利に使っている」という流れのように感じた。

これは、リポーターという形でユーザーコミュニティを築く同社独自のスタイルがあるからこそだろう。つまり、ウェザーニュースは天気の情報を提供する一面に加え、ツイッターやインスタグラムのように、天気特化型のSNSとしての一面を併せ持っている。一方的に提供された情報を受け取るのではなく、ユーザー自身が天気の投稿を通して精度向上に貢献できる、自分が参加できるワクワク感が得られることで、「便利だから使う」から「好きだから使う」になり、単なる「ユーザー」から「ファン」変わっていくのではないだろうか。

もちろん、同アプリは雨雲レーダーの性能や予報精度といった機能面の高さもしっかり備えているが、性能だけを訴求した場合、どうしても競合サービスとのシビアな機能比較・機能競争になってしまう。それとは別の軸での「ユーザーをファンにするしくみ」を持っていることが、有料会員増加の好調ぶりにもつながっているのではないかと感じた。

■「無料で使ってもらえるだけでも違いがわかる」

現在は順調に有料会員を伸ばしているものの、サービス開始当初はかなり苦戦したという。同社は1999年2月にiモードサービスの開始と同時に携帯電話向けコンテンツをスタート。当時はまだ珍しかった「ピンポイント天気」などを月額100円で提供していた。

しかし、「天気予報に課金するなんて」というユーザーの意識は強く、初月の有料会員はわずか4人。手数料などが差し引かれた後の、ドコモからの売上入金額は67円だったそうだ。

以来、“技術の進化とともにコンテンツを進化させていく姿勢”を重視し、新しい技術を使った機能を随時追加して現在に至っている。

同時に、それまで有料で提供していた機能を状況に応じて無料化する施策も行ってきた。2020年には、ユーザーからの人気が高い「5分ごとの天気」を無料開放。人気機能の無料化で無料ユーザーが増え、それが有料会員となりうる潜在顧客の増加につながっているという。

人気機能であれば、そのまま有料を維持して会員の獲得や囲い込みに利用する方向となってもおかしくない。それをあえて無料にする「ウェルカム」の姿勢も、同アプリが親しまれる要因となっているのかもしれない。

アプリを実際に操作する石橋氏
撮影=プレジデントオンライン編集部
アプリを実際に操作する石橋氏 - 撮影=プレジデントオンライン編集部

石橋氏はこう締めくくった。

「おそらく多くの方が、“天気アプリはどれも大して変わらない”という認識だと思います。でも、使ってみると精度の高さなど違いを実感してもらえるはずです。まずは多くの方に試していただきたいですね」

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酒井 麻里子(さかい・まりこ)
ITライター
企業PR誌の制作などを経て、フリーランスのライターとして独立。IT分野を中心に企業やプロダクトの取材、技術解説記事、デジタル製品レビューなどを手がける。著書に『今すぐ使えるかんたん FC2ブログ超入門』(技術評論社)、『今からササッとはじめるLINE/Twitter/Instagram/Facebook』(秀和システム)など。2019年に株式会社ウレルブン設立。

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(ITライター 酒井 麻里子)

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