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コロナ禍で急増「ペットと一緒の墓に入りたい人」が行くあの世は人間界か畜生界か

プレジデントオンライン / 2021年8月30日 12時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/chendongshan

「愛犬や愛猫と一緒に墓に入りたい」。コロナ禍でペットを飼う家庭が増えるとともに、こうしたニーズが高まっている。ジャーナリストで僧侶の鵜飼秀徳さんは「多くの寺院では、人間とペットの遺骨を一緒に埋葬することを認めていない。ペットとの“死後の同居“を禁止する明確な法律はないが、障壁となっているのは死後世界における人間と動物の“すみ分け”の問題だ」という――。

■ペットと一緒に極楽にいきたい人たちが増えている

コロナ禍の影響でペットの飼育熱が高まってきているが、同時にペットの死後をめぐって悩ましい問題が生じている。「ペットは飼い主と一緒に極楽にいけない」という仏教上の問題と、「人間と一緒に埋葬できない」という慣習の問題が生じ、飼い主が苦しむケースがでているのだ。

米国では、人間とペットとの合葬は法律で禁止されてきたが、飼い主の悲痛な声を受けて近年、ニューヨーク州などで合葬を解禁するなど、規制緩和の動きが出てきている。

コロナ禍でペット(犬または猫)を新規で飼育する人が増えている。一般社団法人ペットフード協会によれば、2019年と2020年を比較して新規飼育者の割合と飼育頭数は増加。増加率も例年と比べて大きいという。犬の場合は58万頭増(前年比114%)、猫の場合は67万頭増(同116%)となっている。

背景には在宅ワークの増加があると考えられる。在宅ワークで犬猫を世話する時間が確保できたことや、ペットショップに足を運ぶ機会が増えているという。また、社会不安の中で、ペットに対して癒やしを求めていることも増加の要因としてありそうだ。

一方で飼育を始めたはよいが、わずかの期間のみ飼育して放棄してしまうひどい事例も増えている。コロナ禍で経済的に飼育が厳しくなって手放してしまったり、近隣から苦情が出てしまったりするケースだという。

ペットはいつの時代も、世相を反映する。この20年ほどの人間社会の変化が、ペットとの関係性を大きく変えてきた。「少子高齢化」や「核家族」そして「コロナ禍」である。また、住環境の変化もペット飼育に大きな影響を与えている。

核家族化や住環境の変化との関係で言えば、犬、猫の飼育場所の多くが室内になってきている。都心ではマンションへの住み替えが進み、ペットは室内飼育がおおかただ。

全国犬猫飼育実態調査では犬の場合、室内飼育が2004(平成16)年では60.1%(2人以上世帯)だったのが、2020年調査では85%(室内屋外半々の割合を入れると91%)にまで増加している。

猫では、2004年の室内飼育の割合が72%、2020年では90%(室内屋外半々の割合を入れると98.5%)。現在、飼い犬や飼い猫の多くが、人間と同居しているのだ。

ちなみに私も1980年代に犬を屋外で飼育していた。恐らくその頃は、大多数が室外飼育であったと思われる。

■なぜ、人間とペットの遺骨を一緒に埋葬することを認めていないのか

室内飼育が増えるに伴って、犬や猫の地位は人間と同等、あるいは、それ以上になっていると考えるのは自然である。つまり、ペットは「人間のよき仲間」からステージを上げ、「ファミリー」になっているのだ。

その結果、「ペットの死後」に変化が起きている。人間並に業者を呼んで葬式や火葬を執り行い、ペット専用の墓を設けるのが一般的になっているのだ。ペット専用霊園はここ数年でずいぶん増えてきた。

京都府のペット霊園
撮影=鵜飼秀徳
京都府のペット霊園 - 撮影=鵜飼秀徳

だが、問題が起きている。仏教寺院での供養の場合だ。

「愛犬や愛猫と一緒に墓に入りたい」

という飼い主のニーズは、最近、どこの寺でも増えてきている。

しかし、多くの寺院では、人間とペットの遺骨を一緒に埋葬することを認めていないのが実情なのだ。

法律論でいえば、ペットとの“死後の同居“を禁止する明確な法律はない。しかし、「墓地、埋葬等に関する法律」の第1条が、人骨と合葬する際の障壁となっている。

「墓地、納骨堂又は火葬場の管理及び埋葬等が、国民の宗教的感情に適合し、且つ公衆衛生その他公共の福祉の見地から、支障なく行われることを目的とする」(第1条)

つまり、ペットと一緒に入ることが「国民の宗教感情に適合」しているかが問題なのだ。宗教感情とは何か、といえば死後世界における人間と動物の「すみ分け」のことである。

宗派にもよるが、日本における仏教の死生観の中には「六道輪廻」というものがある。生前の行いによって、死後世界が決まるという考え方だ。一番上のランクからいえば、神々が住む「天界」「人間界」怒りに満ちた「修羅界」、その下に動物の「畜生界」がある。畜生界の下には飢えの世界「餓鬼界」、そして最悪なのは「地獄界」である。

われわれ人間は信心をもって仏道に帰依することで、死後、六道輪廻から脱し(解脱し)、極楽に往く道がひらけている。

だが、動物は生前に仏道に帰依することは難しい。犬や猫は、「南無阿弥陀仏」の念仏や「南無妙法蓮華経」の題目を唱えられない。よって、ペットはその死後、いったん人間世界に生まれ変わり、仏道に帰依した上で解脱するという「二段階」を経る必要がある、と説く僧侶は少なくない(ペットが人間と同じように死後、すぐに六道輪廻から脱せられるという学説もあり、議論が分かれている)。

しかし、教理上の理屈を僧侶がこねたところで、飼い主にとっては癒やしになるどころか反発しか生まない。ペットが「ファミリー」になったことで、現場の寺院の考え方と飼い主の心情との間に齟齬(そご)が生じているのだ。

数多の宗教は基本的には「死からの救済」を目的としている。その「死」とは、あくまでも「人間の死」のことである。当たり前のことではあるが、人類の長い歴史の中で「ペットのための宗教」は存在してこなかったのだ。

■アメリカの一部の州で人間とペットとの合葬を認める法律が施行

最近では、一族の墓にペットも一緒に納骨できる寺院も現れてきてはいるが、まだ少数派である。

では海外ではどうか。意外に思うかもしれないが米国では、日本以上にペットと人間とを一緒に埋葬することが難しいのだ。

米国では日本以上にペット飼育が普及している。67%の世帯が犬もしくは猫を飼っている(日本は22%)とのデータがある。

米国ではペットが死んだ場合、自宅の庭先に埋めるのが主流である。

ペット専用の霊園に埋葬する、という選択肢もあるにはある。だが、コストがかかり、庶民にはあまり普及していない。米国には、1896年につくられた世界最古のペット専用霊園ハーツデール・ペット墓地(ニューヨーク州)があり、現在でも運用されているが、あくまでもペット墓の利用は富裕層が中心であった。

では、人間の墓にペットを埋葬してもよいかといえば、宗教上および法律上の問題があり、多くの州では禁止されている。

宗教上の理由というのはキリスト教の聖書で、ペットは人間のように霊性がなく、天国に行けることを約束していないからだといわれる。キリスト教では、人間世界と動物世界とを明確に分けているのだ。

この宗教上の理由によって、多くの州法では人間とペットとを一緒に埋葬するのを禁止している。

ところが近年、一部の州で人間とペットとの合葬を認める法律が施行され始めた。

人間とペットとの関係性が深まり、一緒にお墓に入りたいという声が高まってきたからだ。世論に動かされる形で2014年、ニューヨーク州ではペット墓地に人間の遺骨を一緒の区画に埋葬できる法律が整備された。同様にニュージャージー州、バージニア州、ペンシルベニア州でもペットと人間との合葬が合法になっている。宗教が社会にすり寄り始めたのだ。

母親と赤ちゃんと子犬が一緒にお昼寝
写真=iStock.com/DaniloAndjus
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/DaniloAndjus

米国ではペットの死後、エンバーミング(遺体の防腐処理)を施して遺体を保存し、自分が死んだ時に一緒に火葬、もしくは埋葬するサービスも出現しているという。

仏教はこれまで時代に合わせて、柔軟に変化してきた。日本でもペットが人間の墓に一緒に入れる日は、そう遠くはないと私はみている。

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鵜飼 秀徳(うかい・ひでのり)
浄土宗僧侶/ジャーナリスト
1974年生まれ。成城大学卒業。新聞記者、経済誌記者などを経て独立。「現代社会と宗教」をテーマに取材、発信を続ける。著書に『寺院消滅』(日経BP)、『仏教抹殺』(文春新書)など多数。近著に『仏具とノーベル賞 京都・島津製作所創業伝』(朝日新聞出版)。浄土宗正覚寺住職、佛教大学・東京農業大学非常勤講師、(一社)良いお寺研究会代表理事、(公財)全日本仏教会広報委員など。

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(浄土宗僧侶/ジャーナリスト 鵜飼 秀徳)

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