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「夏の甲子園」朝日新聞の1億円支援のお願いが"ガン無視"されている納得の理由

プレジデントオンライン / 2021年8月27日 17時15分

第103回全国高校野球選手権大会の開会式前、外野に整列した各校の選手たち=2021年8月10日、甲子園[代表撮影] - 写真=時事通信フォト

ベスト4が出そろった「夏の甲子園」。一昨年の大会は計6億円超の入場料収入があったが、今大会は無観客開催のため、懐事情がさびしいらしい。スポーツライターの酒井政人さんは「主催する朝日新聞が運営するクラウドファンディングが1億円を目標に支援を呼びかけているが、わずかしか集まっていません」。ファンにそっぽを向かれる理由とは――。

■「夏の甲子園」朝日新聞の1億円支援のお願いが“無視”されている

残すところ準決勝・決勝戦だけになった「夏の甲子園」(第103回全国高校野球選手権大会)。2年ぶりに開催された同大会だが、実は“窮地”に立たされているのをご存じだろうか。

コロナ禍前の一昨年に開催された第101回大会はチケット販売などで約6億5900万円の収入があった。しかし、今回は「無観客開催」となり、その大半が見込めない。そこで同大会を日本高等学校野球連盟とともに主催する朝日新聞社が運営するクラウドファンディングサイト「A-port」で1億円の支援を募っているが、まさかの大苦戦。この原稿執筆時(8月27日13時時点)で達成率12%(1252万5884円、支援者1501人)しか集まっていないのだ。

今回のプロジェクトについては以下のように説明文が掲載されている。

「スタンドの入場者は代表校の学校関係者に限り、一般のお客様向けのチケット販売は行いません。高校野球は入場料収入を財源にしています。その収入が大きく減る一方で、PCR検査やベンチの消毒など感染防止対策にかかる費用は膨らんでおり、運営は極めて厳しい状況に陥っております。どうか皆様のお力をお貸しください」

一般的にクラウドファンディングのリターンは、金銭的見返りのない「寄付型」、金銭的見返りが伴う「投資型」、権利や物品を購入することで支援を行う「購入型」の3つに大きく分類される。

■ショボすぎる「返礼品」で達成率はわずか12%

今回は、礼状の送付やサイト上に名前を掲載するなどのリターンはあるが、返礼品はない。要は“寄付”という意味合いが強い。目標達成率12%という結果を見れば、このやり方では資金を集めるのは難しかったということになる。スポーツ関連のクラウドファンディングは「購入型」がメインになっており、関心が高まらなかったのだろう。また、以前の億単位の入場料収入はどこへ消えたのか、という見方もあるかもしれない。

逆風も吹いている。今夏の甲子園はさまざまなトラブルに見舞われた。天候不良によるスケジュール順延、コロナ感染での出場辞退(2校)。それから無観客開催と言いながら学校関係者を1校あたり2000人入れて、ブラスバンド(50人まで)の演奏も許可したことに批判が起きた(※8月22日の試合以降は野球部員、部員と指導者の家族、教職員に限定された)。

東京五輪や高校総体(インターハイ)は無観客で開催されて、選手の家族も会場に入ることは許されなかった。世間との乖離(かいり)は大きく、「高校野球だけ特別なのか⁉」という声は根強いものがある。そして、一方では一般客は一切入場できないため、これまで高校野球を支えてきた熱狂的なファンはないがしろにされていると感じたかもしれない。それが、クラウドファンディングの苦境につながった部分があるだろう。

■Jリーグ、陸上…クラファンの成功事例を学べ

近年はスポーツ界でもクラウドファンディングによる資金集めがスタンダードになっている。2020年正月、筑波大が26年ぶりに箱根駅伝に出場したときには、目標金額(200万円)を大きく上回る1531万円もの寄付総額が集まった。

Jリーグは多くのチームがクラウドファンディングに参加している。昨夏は鹿島アントラーズや浦和レッズが目標金額1億円を上回る資金を調達した。現在進行形のプロジェクトでは、「磐田市×ジュビロ磐田プロジェクト〜心ひとつにジュビロと共に〜」に6575万1000円(8月26日時点)が集まっている。リターンは選手直筆サイン入りユニフォーム、チームのエンブレム・ロゴ入りの個人名刺など(金額によって異なる)。

また「ジェフユナイテッド市原・千葉 30周年記念誌制作プロジェクト」は目標金額(500万円)の2倍となる1000万円以上が集まっている。リターンは30周年記念誌+ポストカード、選手からのお祝いメッセージ動画、クラブの歴代ピンバッジセット、レプリカユニフォームなどだ(同上)。

野球関連でいうと、ある少年野球チームが目標金額(150万円)を超える支援総額を集めたという事例もある。それと比較して国内屈指のスポーツイベントである「夏の甲子園」が約1200万円しか集まっていないのは、やはりクラウドファンディングとしての“魅力”が乏しいからと見ざるをえない。

朝日新聞社のクラウドファンディングサイト「A-port」の「2021年夏の甲子園 全国高校野球選手権大会にご支援を!」プロジェクトページ
朝日新聞社のクラウドファンディングサイト「A-port」の「2021年夏の甲子園 全国高校野球選手権大会にご支援を!」プロジェクトページ

■なぜ、福井の陸上大会に目標額以上の支援が集まったのか

陸上界でいうと「Athlete Night Games in FUKUI」の“成功例”が大きい。一昨年に第1回大会を行ったが、どうしたら世間が注目する大会になるのか。主催する福井陸上競技協会は知恵を絞った。

最初に「音楽を流して、フェス感覚のような大会をやりたい」という選手の声を採用した。通常は企業に協賛してもらうことで大会を運営するが、それでは長続きしないと判断。「ファンの皆様と一緒に大会を作っていこう」と考え、当時・国内の陸上大会ではほとんど例のなかったクラウドファンディングで資金を募ることにした。

第1回大会はクラウドファンディングで第1目標の150万円を悠々とクリア。最終的には第3目標の600万円を超える785万円が集まった。その資金は選手のために最大限つぎ込んだ。招待選手の旅費交通費を負担して、一部のプロ選手には出場料も支払った。さらに招待レースには、1位30万円、2位20万円、3位10万円の活動支援金を設定。日本記録には200万円を用意した。

特筆すべきは、その大会が大いに盛り上がり“福井の伝説”になったことだ。なんと一夜にして日本新が3つも誕生した。

まず、男子走り幅跳びで橋岡優輝が1回目に8m32を跳び、日本記録を27年ぶりに更新。その約30分後、城山正太郎が自己ベストを一気に39cmも塗り替える8m40の大ジャンプを披露した。ふたりのバトルを速報で報じたスポーツ紙の記事はヤフーニュースのトップを飾った。さらに男子110mハードルでも高山峻野が13秒25の日本記録を樹立した。

開催場所の福井県営陸上競技(愛称「夏夜の9.98スタジアム」)はホームストレートに絶好の追い風が吹く瞬間が多い。その特性を生かせる種目に絞り、クラウドファンディング支援者には特別に、日本の競技会ではタブーとされているフィールド内にも観戦エリアを設けた。陸上界の“砂かぶり席”の誕生だった。

通常の大会はトラックとフィールドが同時進行されるが、1種目ずつ行うことで、会場は一体感に包まれた。好記録連発は偶然ではなく、その空気感をつくった結果と言えるだろう。大会終了後は選手とファンが記念撮影など交流して、約5000人の観客が陸上競技の新たな大会を楽しんだ。

第2回大会となった昨年はコロナ禍のため客席数を減らしたが、約640万円が集まった。今年(8月28日開催)もクラウドファンディングで500万円以上を集めている。福井は地方都市でもやり方次第では全国から注目を浴びるような大会が開催できることを証明した。

■スポットライトを浴びる「夏の甲子園」が果たすべき取り組み

一方、夏の甲子園はどうだろうか。日本学生野球憲章では「学生野球が商業的に利用されてはならない」と定められており、実費以外の金品の提供を受けることができない。

そのため、朝日新聞も「金儲け」ととらわれる行為には慎重になっている。確かに、高校野球は教育的意義を重んじており、プロを含む他の競技が導入しているクラウドファンディング事例をそのまま採用というわけにはいかないだろう。

しかし、時代は変わった。主催者などが集めたお金で私腹を肥やすなら大問題だが、甲子園というビッグイベントで収益力を高め、コロナ対策の費用に充てるとともに、一般ファンにもなんらかの形で還元できる仕組みを作ってもいいのではないか。

コロナ禍でも、筆者は可能な限り「有観客」でのスポーツイベントを推している。ただ現状を考えると、全国から観客が集まるのは好ましくない。

阪神甲子園球場の収容人員は4万7508人(内野2万8465人、外野1万9043人)。緊急事態宣言下のイベントは人数上限が5000人だ。密にならないように使用できる客席を決めたうえで、5000席をクラウドファンディングで“発売”することは可能だ。仮に通常価格の数倍に設定したとしてもライブ観戦したいという熱心なファンが購入してくれるだろう。

2019年8月22日の甲子園球場
写真=iStock.com/bee32
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/bee32

席が離れていれば、誰かと会話をする機会はほとんどない。静かに野球を観戦できる。そもそも「お金儲け=悪」ではない。大切なのは使い方だ。大会で得た収益金は、主役となる球児たちにわかりやすいかたちで還元する。そして、もっと儲かり、他の高校スポーツにも資金を分配することができるのであれば、高校野球は本当の意味で“特別”なものになっていくはずだ。

ひときわスポットライトを浴びる華やかな甲子園が、高校スポーツ界のためになることをスポーツライターとして期待せずにはいられない。

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酒井 政人(さかい・まさと)
スポーツライター
1977年、愛知県生まれ。箱根駅伝に出場した経験を生かして、陸上競技・ランニングを中心に取材。現在は、『月刊陸上競技』をはじめ様々なメディアに執筆中。著書に『新・箱根駅伝 5区短縮で変わる勢力図』『東京五輪マラソンで日本がメダルを取るために必要なこと』など。最新刊に『箱根駅伝ノート』(ベストセラーズ)

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(スポーツライター 酒井 政人)

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