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「糖尿病は血糖値を下げればOK」と勘違いする人を待ち受ける恐ろしい結末

プレジデントオンライン / 2021年9月6日 12時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/champlifezy@gmail.com

コロナ自粛の中、糖尿病が境界型に突入、あるいは発症にまで至る人が急増している。新著『医者が教える最強の解毒術』が話題の糖尿病専門医・牧田善二医師は「『糖尿病は血糖値だけ下げればOK』と勘違いしている人が多いのですが、一番の課題は血糖ではなく、合併症対策、とりわけ糖尿病腎症予防が重要です」と警鐘を鳴らす──。

■糖尿病で「知るべきポイント」5つ

コロナ禍(か)のリモートワーク、巣ごもりといった「自粛生活」で、運動不足や偏った食事の問題から高血糖になる人が増えています。中には糖尿病を発症する人も……。

糖尿病の患者さんは、新型コロナウイルスに感染した際の重症化リスクが3.4倍になるというデータもありますから(JMDC、2021年)、糖尿病の患者さんや、発症リスクが高い、いわゆる「境界型」の人の多くが不安を抱えていると思われます。

私は医師になって40年以上にわたり、糖尿病合併症と闘ってきた糖尿病専門医です。現場の専門医の立場から、糖尿病に関して「押さえておくべき5つのポイント」について、お話ししたいと思います。なお、とくに断りなく「糖尿病」と記述しているものは、2型糖尿病のことを指しています。

■①糖質制限に過剰に期待しない

「糖尿病には糖質制限こそ一番いい方法なのだ」という誤解がいまだにあります。

糖質制限がブームになる前から、いち早く、糖質制限が血糖値のコントロールに有効だということや、人間を太らせるのはカロリーではなく糖質、つまり、ごはんやパン、麺類などの炭水化物だということを広く世に伝えてきた立場で断言しますが、近年、糖尿病治療は革命的ともいえる進化を遂げました。もはや厳しい糖質制限などせずともよい時代になっています。

そして、糖尿病患者、あるいは糖尿病が心配な人は、年代別に上手に糖質制限と付き合うことをおすすめします。

■44歳以下

まだまだ人生の先が長いこの年代は、太りすぎないように、BMIを標準レベルにまでもっていったほうがいいでしょう。男女共BMI25未満を目標にしましょう。というのも、この年代から肥満していると、糖尿病をはじめとする病気にかかりやすくなり、健康で長生きすることが難しくなる可能性があるからです。

牧田善二『医者が教える最強の解毒術』(プレジデント社)
牧田善二『医者が教える最強の解毒術』(プレジデント社)

食べすぎ、炭水化物の摂りすぎ、体重増加傾向にあるこの年代の人は、糖質制限を取り入れることは意味があるといえます。一番効果があるのは、夕食に糖質制限を取り入れることです。またランチも、丼物やチャーハン、ラーメンなどをなるべく避け、定食のおかずを多く食べるようにしましょう。

そして運動は、減量目的というより、仕事のストレス解消に好きなことをやったらいいと思います。

お菓子を食事の代用とする女性が多いのもこの年代。まだ若いために、めちゃくちゃな食生活でもなんとかなってしまいます。

しかし、体の中では高血糖の問題が起きている可能性が高いといえます。そして、それが数十年後の大きなわざわいとなって現れますから、注意が必要です。とくにコロナ禍の自粛生活において、若い世代ほど気をつけていただきたい点です。

■45~64歳

45歳を過ぎたあたりから、これまで健康自慢だった人もだんだんと検査の結果に異常が出始めるはずです。糖尿病や高血圧といった生活習慣病はもちろんのこと、がんにかかる人も増えてきます。働き盛りで、家のローンや子どもの教育費などお金もかかることから、「いま倒れるわけにはいかない」と、体が心配になる年代です。

この年代は、男女共にBMI30未満を目標にしましょう。ここまでゆるやかな基準にするなら、厳しい糖質制限は必要ありません。この基準を超えるときだけ、糖質制限を行って体重を調整すれば十分です。

運動は、まだ筋肉減少の心配はありませんから、血管系を強くする有酸素運動をしっかりやることをおすすめします。

新型コロナ感染対策による健康二次被害を避けるという観点から、スポーツ庁がガイドラインを示しています。糖尿病に限らず、健康を維持するために意識的に運動・スポーツに取り組んでいくことが大切です。

■65歳以上

いよいよ仕事をやめて年金生活に入るという人が増えるこの年代は、生活スタイルが激変するタイミングです。

まず、現役時代より運動量が減る。加えて、基礎代謝が大幅に低下します。以前と同じように食べていると体重が増えていき、その一方で、やせにくくもなります。かつては一日一食だけ炭水化物を抜く「プチ糖質制限」でも体重は落ちたのに、そうはいかなくなります。

■70歳を超えたら糖質制限は不要…

それでも、とりわけ70歳を超えたら、BMIにかかわらず糖質制限は不要だと私は考えています。自分の経験からしても、もはや色気より食い気。おいしいものを食べることがいちばんの喜びになってきます。それを我慢して、なんの人生かと思います。

後述するがんや心臓病、脳卒中などの検査をしっかり受けて、あとは好きなものを好きに食べていいのではないでしょうか。

ただ、いわゆるロコモティブ症候群に陥(おちい)りやすくなりますので、運動は必須。それゆえ、65歳をすぎたら、糖質制限より運動を重視したい。具体的には、有酸素運動、筋力トレーニング、ストレッチをバランスよく行うことをおすすめします。

糖質制限の効果は、あくまで「やせること」と「血糖値をコントロールできること」の2点のみです。それ以上に健康効果が得られると期待するのは誤りです。「糖質制限さえしていれば糖尿病は大丈夫」という間違った思い込みに陥らないように、この点は十分に注意してください。

■②血糖値を下げることは糖尿病治療ほんの一部にすぎない

「糖質制限さえしていれば大丈夫」という残念な「糖質制限信者」が生まれてしまった背景にあったのが「糖尿病治療=血糖値を下げること」という勘違いです。現実には、いまも患者さんも医師も、血糖値を下げることがすべてと信じ、躍起(やっき)になっている傾向は否めません。

しかし、その考え方や治療法は、もうすでに古く、間違っています。

糖尿病で怖いのは合併症です。この病気は、血糖値が高いことではなく、そのことによって起きる合併症が問題なのです。だから、多くの病気のように糖尿病そのものを治すことができないとしても、合併症を治すことができれば、この病気は解決したといえます。

かつて糖尿病治療薬といえば、血糖値を下げる薬をイメージしましたが、近年、最も重要な合併症を治す治療薬の開発が進んでいます。糖尿病治療の現場は、かつてとは一変したと言ってもいいくらいなのです。

チームワーク・ミーティングのコンセプト
写真=iStock.com/ALotOfPeople
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ALotOfPeople

■合併症の真犯人はAGE

そして、合併症を引き起こす真犯人はAGE(終末糖化産物)という物質です。たんぱく質に糖がくっつき劣化する「糖化」反応でできるもので、体中で炎症を起こし、いわゆる「老化」を促進する原因物質とされています。

実は、世界ではじめて血中AGEの測定に成功したのは、私です。糖尿病専門医としてのキャリアを通してAGE、そして腎症(腎臓)の研究に没頭してきました。

AGEは一度できると体内に長く留まります。そのため、「忘れたころ」に合併症が出てくるというたちの悪い物質なのです。

たとえば、糖尿病患者で、いま血糖値の状態がいい人でも、20年後には半分以上に腎症が出てきます。それが糖尿病という病気であり、侮(あなど)ることができません。そして、糖尿病性腎症になるとAGEが加速度的に増えてしまうのです。

ところが、糖尿病が専門でない医師の中には、「血糖値コントロールこそ、患者に施すべき治療だ」といまだに思い込んでいる人がいます。糖尿病専門医からすれば、血糖値コントロールなど、治療の1割くらいにすぎません。

「この患者さんの場合、どういう薬を組み合わせれば合併症が防げるか」
「もし合併症が出たら、今後どういう治療をしていこうか」
「血圧はどのくらいに抑えてもらわなければならないか」
「眼科との連携をどう取っていこうか」

患者さん一人ひとりに合わせて、糖尿病専門医は、絶えずこんなことを考えています。血糖値以外にも気を配るべきものがたくさんあり、「糖尿病の治療は、合併症とほかの病気へのフォローが9割」と言っていいのです。

■③血糖値が上がることを気に病む必要はない

糖尿病患者はこれまで、高血糖が続くことを極度に恐れてきました。主治医から「血糖値が高いままだと、いずれ合併症でたいへんなことになりますよ」と、さんざん脅(おど)かされてきたのですから、それも当然です。

しかし、いまでは医学の進歩によって糖尿病合併症は薬で治せるようになりました。そのため、以前ほど血糖値を気にする必要はなくなりました。血糖値が200mg/dL以上になっても心配はいりません。ただし、「きちんとした治療ができる糖尿病専門医」にかかることが大前提であることは言うまでもありません。

私の患者さんでは、40年以上にわたってインスリンの注射を打っていて、毎日計っている血糖値は200mg/dLどころか400、500ということが月に何度もある、1型糖尿病の90代の男性患者さんがいました。HbA1cは9%前後です。

ところが、どこにも合併症が出ていません。血糖値が200mg/dLを超えるような状態が40年以上続いても、正しい治療を行えば合併症と無縁でいられることをこの患者さんが証明しています。

ただし、「命にかかわる血糖値のボーダーライン」はあります。HbA1cは7.9%以下に抑えましょう。これを超えると、免疫力が低下して感染が起きやすく、縫合不全の可能性もあるため手術ができなくなるリスクが高まります。だからHbA1cが8.0%を超えないように血糖値をコントロールすることは必要です。しかし、それができていれば、血糖値に一喜一憂する必要はありません。

■④きちんとした治療を受ければ、人工透析と無縁でいられる

実は、糖尿病そのもので死ぬことはありません。糖尿病が恐ろしいのは、さまざまな合併症を引き起こすからです。合併症には腎症網膜症神経障害の3つがありますが、その中でももっともやっかいなのは腎症です。

網膜症で失明することは避けたい。しかし、失明で命を落とすことはありません。神経障害も不便ですが、血糖値コントロールをすれば改善できます。

一方、腎臓はあらゆる老廃物を濾過(ろか)する重要臓器であり、腎臓が動かなくなれば体内に毒素が溜まって死に至ります。そのため腎症が進行すると、人工透析が必要になります。腎臓に代わって機械に老廃物を濾過してもらうのです。

機械で濾過できる老廃物は正常な腎臓の1~2割にすぎず、人工透析を行っている患者さんは疲れやすく、顔色も悪くなります。また、人工透析は1回の治療に4時間程度かかり、週に複数回、それが一生続きます。

しかし、糖尿病専門医にかかり「きちんとした治療」、すなわち、血糖値を下げることではなく、腎臓の合併症を治す治療を受ければ、生涯人工透析と無縁でいられます

とくに強調したいのが、「尿アルブミン検査」の重要性です。似た名称の検査に血液中の血清アルブミンの検査がありますが、まったく別物です。私の患者さんが地方に転勤した先でかかった病院で、勘違いした医師がいて驚いたことがありますが、「尿検査でアルブミン値を調べること」、これが最重要です(単位はmg/g creatinine)。

私は15年前から、この検査がいかに大切かを本に書いて啓蒙(けいもう)してきました。しかし、残念ながらいまだ普及が見られていません。しかし、読者のあなたはいま知りました。これをチャンスと思って、ぜひ試してみてください。

尿アルブミン検査こそ、糖尿病の患者さんが真っ先に受けなければならない検査です。これを定期的に(3カ月に1回くらい)受けていれば、人工透析をまぬがれることができます。

糖尿病の人はもちろん、そうでない人も、尿アルブミンが300mg/g creatinineを超えたら、腎症がかなり進行して透析の危険が迫っています(糖尿病腎症のステージでは第3期。第5期になると透析です)。この検査を定期的に実施し、腎症を治すことができる信頼できる専門医にかかりましょう。

尿検査キット
写真=iStock.com/maroke
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/maroke

「専門医にかかりましょう」としつこく書いているのには理由があります。かつて、私も面識のある作家が、糖質制限を過信し、「医者いらずで糖尿病を克服した」と周囲に吹聴したものの、命を落とす結果になった悲しい出来事があったからです。糖尿病は完治することはなく、上手に共存していくべき病気であり、合併症治療には専門医の知識と経験が必須です。ここはしっかりご理解いただきたい点です。

■⑤糖尿病の最大の敵は「がん」「心筋梗塞」「脳卒中」

糖尿病になって、命に直結する最大の問題は何かといえば、血糖値でも合併症でもなく、命を奪うがん、心筋梗塞(しんきんこうそく)、脳卒中です。糖尿病患者さんは、そうでない人に比べて平均寿命が10年短いというデータがありますが、糖尿病になることで、こうした命にかかわる病気になるリスクが急上昇するからなのです。

ですから、糖尿病の患者さんは、これらの病気にかかる頻度が高いことを自覚して、確実な検査をすることがどうしても必要になってきます。

たとえば、たった20秒で済んでしまうCTスキャンによる検査を毎年受けていれば、肺がんなどで死ぬことはありません。ですが、実際には、実践している人はほとんどいないと思います。

その観点から、糖尿病患者さんが受けるべきは、①胸部と腹部のCT、②胃腸のカメラ、③脳のMRIの3つです。

胸部と腹部のCTで首からお腹の下まで輪切りにして見ることで、肺、膵臓(すいぞう)、胆嚢(たんのう)、肝臓、腎臓、卵巣など、とくに予後が悪いといわれるがんをはじめ、ほぼ全身のがんを完治可能な早期段階で発見することが可能になります。

また、心臓の血管に異常があれば胸部CTに映りますから、改めて冠動脈CTで詳しく調べることで、心筋梗塞などを防ぐことができます。

これでカバーできないのが消化器のがんで、胃カメラと大腸カメラ(内視鏡検査)で直接粘膜を見る必要があります。胃、大腸、食道、十二指腸の異変をすべて早期にチェックでき、また、小さな病変であればその場で切除ができますから、非常に優れた検査といえます。

これに脳のMRIを加えればほぼ完璧です。脳のMRI検査で破裂しそうな動脈瘤(りゅう)や小さな梗塞を見つけることができますし、この段階で予防的な処置ができれば、命を落としたり後遺症が残ったりするような大発作も回避できます。また、脳腫瘍も早期に見つけることが可能です。

とくに、くも膜下出血は働き盛り世代に多発するので注意が必要です。罹患(りかん)しやすい体質が遺伝するといわれていますから、親類縁者にくも膜下出血の患者さんがいれば調べておくことをおすすめします。

■「血糖値を下げる」から「糖尿病と生きる」へ

見てきたように、糖尿病患者さんが血糖値に翻弄(ほんろう)される時代はすでに終わりを告げました。糖尿病のみならず、合併症や命にかかわる病気への対処と治療を、「人生100年」を見据(みす)えていかに継続していくかを考える時代になっています。

とりわけ、患者さんのQOL(生活の質)の維持の観点からは、「腎症とどう付き合うか」、これが最大の課題となっていると言っていいと思います。

本稿の冒頭で、糖尿病になると新型コロナの重症化リスクが上がるという話をしましたが、実は、HbA1cが8.1%と血糖コントロール不良の人は新型コロナウイルス感染による死亡率が一般の人よりなんと10倍に上がるという報告もあります。

すなわち、糖尿病の治療は、新型コロナの重症化リスク低減にも寄与する、糖尿病患者にとってとても大事なポイントになっているのです。

糖尿病や糖尿病性腎症についてさらに詳しく知りたい方は、拙著『医者が教える最強の解毒術』『日本人の9割が誤解している糖質制限』『糖尿病で死ぬ人、生きる人』などにもあたっていただき、健康長寿の実現に向けた生活の改善を今日からスタートしていただきたいと願っています。

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牧田 善二(まきた・ぜんじ)
AGE牧田クリニック院長
1979年、北海道大学医学部卒業。地域医療に従事した後、ニューヨークのロックフェラー大学医生化学講座などで、糖尿病合併症の原因として注目されているAGEの研究を約5年間行う。この間、血中AGEの測定法を世界で初めて開発し、「The New England Journal of Medicine」「Science」「THE LANCET」等のトップジャーナルにAGEに関する論文を筆頭著者として発表。1996年より北海道大学医学部講師、2000年より久留米大学医学部教授を歴任。 2003年より、糖尿病をはじめとする生活習慣病、肥満治療のための「AGE牧田クリニック」を東京・銀座で開業。世界アンチエイジング学会に所属し、エイジングケアやダイエットの分野でも活躍、これまでに延べ20万人以上の患者を診ている。 著書に『医者が教える食事術 最強の教科書』(ダイヤモンド社)、『糖質オフのやせる作おき』(新星出版社)、『糖尿病専門医にまかせなさい』(文春文庫)、『日本人の9割が誤解している糖質制限』(ベスト新書)、『人間ドックの9割は間違い』(幻冬舎新書)他、多数。 雑誌、テレビにも出演多数。

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(AGE牧田クリニック院長 牧田 善二)

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