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「たっぷり食べるなら夕食より朝食のほうがいい」便秘を改善する"ある食材"

プレジデントオンライン / 2021年9月10日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Tharakorn

食事で便秘を改善するにはどうすればいいのか。早稲田大学先進理工学研究科の柴田重信教授は「水溶性食物繊維を摂るといい。食べる時間帯によって効果は変わる。夕食より朝食に摂ったほうがいい」という――。

※本稿は、柴田重信『食べる時間でこんなに変わる 時間栄養学入門 体内時計が左右する肥満、老化、生活習慣病』(ブルーバックス)の一部を再編集したものです。

■腸内細菌は1日のなかで大きく変動する

体内時計は、腸内細菌叢の構成成分などに影響するということが、わかってきています。マウスの実験で、時計遺伝子が働かないマウスや、シフトワークのモデルとなるようにしたマウスについて調べた結果、腸内細菌叢の構成成分の多様性が低下することがわかりました。シフトワークモデルのマウスには肥満の状態も見られました。

興味深いことに、シフトワークモデルのマウスの糞便を、正常な状態で飼育しているマウスに移植すると、移植されたマウスはシフトワークモデルのマウスのように肥満になってしまうのです。このことから、肥満の原因の一部には腸内細菌叢の不健全化があることが考えられます。

また、マウスの朝、昼、夕、夜の糞便を解剖により採取し、腸内細菌叢を調べてみました。その結果、朝と夕とでは違いが見られました。すなわち、腸内細菌叢は1日のなかで一定ではなく、ダイナミックに変化していることが判明しました。そのことは、活動期(ヒトの昼間に相当)に多くのものを摂取したり、運動したりすることによるものではないかと想像しやすいのではないでしょうか。

また、ヒトの腸内細菌叢は非常に個人差があります。食生活が個人個人で大きく異なるので、当然といえば当然といえます。

■難消化性デキストリンは腸内細菌叢を変化させる

腸内細菌に影響を及ぼす食材は多く知られています。その一つである水溶性食物繊維はプレバイオティクスとして知られ、機能性表示食品にも数多く使われています。プレバイオティクスとは、①消化管上部で分解・吸収されない、②大腸に共生する有益な細菌の選択的な栄養源となり、それらの増殖を促進する、③腸内細菌叢の構成を健康的なバランスに改善し維持する、④ヒトの健康の増進維持に役立つ、という4つの条件を満たす食品成分のことです。

ブドウ糖由来の難消化性デキストリンや、果糖をベースにしたフルクタンやイヌリンなどがよく知られています。

難消化性デキストリンは糖や脂肪の吸収を抑える働きがあることから、メタボリックシンドローム改善に良いことが知られていますが、その抗肥満効果は、難消化性デキストリンが腸内細菌叢を変化させることも大きな要因と考えられます。

■朝方にイヌリンを摂取すると「腸内細菌叢が良くない状態」が改善される

また、イヌリンは菊芋やゴボウなどに豊富に含まれているので、食材から摂ることも可能ですが、イヌリン自体は工業的に作ることもできます。一方、非常に多くの機能性表示食品に、成分として記載されている難消化性デキストリンは、食品や植物にわずかしか含まれていません。

ヒトの研究の前に行ったマウスの「1日2食実験」について紹介します。食生活が良くないモデルマウス(朝夕高脂肪食を与えたマウス)がイヌリンを摂取することによって改善効果がもたらされることを期待する実験として、与える高脂肪食にイヌリンを1〜5%含むようにした餌を、朝もしくは夕に与えるという形で行ったものです。

実験開始後約2週間の腸の内容物を取り、食物繊維の代謝産物である短鎖脂肪酸量などを測定しました。その結果、朝にイヌリンを摂食したマウスは、夕方にイヌリンを摂食したマウスと比較して、短鎖脂肪酸が多く産生されました。これらは酸であるので水素イオン濃度(pH:酸とアルカリの指標)を測定すると酸性側に傾いており、悪玉菌の繁殖を阻害するなど、腸の健康に寄与します。また腸内細菌種の多様性や、構成の違いなども、朝方にイヌリンを摂取したマウスはより良い方向に変化しました。高脂肪食などで腸内細菌叢が良くない状態を、ディスバイオシスと呼んでいますが、朝方にイヌリンを摂取するとディスバイオシスが改善されるというわけです。

■サプリメントより食品が良いことも

ところで、菊芋にはイヌリン以外にも難消化性食物繊維やポリフェノールなどが含まれています。そこで、今度は菊芋を、菊芋からの水溶性成分の抽出物、有機溶媒の抽出物、水にも有機溶媒にも溶解しない成分の3成分に分けて、それぞれ単独で、あるいは組み合わせての実験を行いました。

その結果、水溶性成分単独より、この3成分を組み合わせた方が、腸内細菌に対する効果が強力であり、特に有機溶媒成分との組み合わせが効果的で、重要であることがわかりました。すなわち、イヌリンをサプリメントとして飲むより、菊芋として摂取する方が腸内細菌には良いことがわかったのです。

さらに、このような現象を粉末ゴボウでも同様に確かめました。マウスの餌で、イヌリンが1〜5%含まれるものと、粉末ゴボウが1〜5%含まれるものとを比較しました。仮説としては、イヌリンの方がゴボウより効果的であると予想されました。なぜなら、粉末ゴボウに含まれるイヌリンの割合は50%程度しかないからです。全体に対するイヌリンの割合が大きい方が効果が当然大きいと考えたのです。

ところが、先の菊芋の実験と同様に、粉末ゴボウ含有の方がイヌリン単独成分含有のものより効果が勝っていました。図表1には、善玉菌であるビフィズス菌の割合が、イヌリンより粉末ゴボウの方が大きく増大していることを示しています。粉末ゴボウは、水溶性食物繊維と難消化性食物繊維が良い割合で含まれ、かつ他の成分も含まれています。おそらく難消化性食物繊維が腸の蠕動運動をさかんにし、そこに腸内細菌のとなるイヌリンなどが与えられることによって腸内細菌は増殖するということでしょう。

【図表1】イヌリン(サプリメント)摂取とゴボウ摂取によるビフィズス菌の割合
出所=『食べる時間でこんなに変わる 時間栄養学入門 体内時計が左右する肥満、老化、生活習慣病』

■十分に絶食時間が取れるとイヌリンは効果をより発揮する

先ほど朝食の方が夕食より腸の健康には効果的という実験結果を紹介しましたが、その理由の一つに、夕食前より朝食前の方が長時間、絶食状態だったという要因があげられます。絶食状態が長かった朝ほど、腸の蠕動運動がさかんである可能性が考えられるからです。

次に、イヌリンを含む食事を1日1食与え、朝の時間帯に食べるマウスと夜の時間帯に食べるマウスとを用意しました。すなわち、どちらの群も約20時間の絶食後4時間程度食べることになります。その結果、pH、短鎖脂肪酸量、腸内細菌叢の多様性において、朝食群と夕食群の差はなくなりました。以上のことから、十分に絶食時間が取れた後の食事が意味を持つことがわかり、ヒトでは一般的に朝食がそれにあたるので、朝食が腸内細菌の健康的な維持に重要な役割を果たしているものと考えます。

■菊芋は朝に摂取する方が効果的

イヌリンや、菊芋、ゴボウなど水溶性食物繊維が豊富な食材は、腸内細菌に良い効果をもたらすことがわかったので、これを一般化できるか調べるために大豆由来の難消化性タンパク質を使った実験をマウスで行いました。タンパク質のうち30%程度が難消化性タンパク質である大豆タンパクを、マウスに朝もしくは夕に与えるという実験です。

この実験では、食事の摂取前から一定時間ごとに糞便を採取し、1日を通して見たときの短鎖脂肪酸量や腸内細菌叢の変化を調べました。この難消化性タンパク質の実験結果もイヌリンでの実験結果と類似していて、短鎖脂肪酸の量が増加し、pHの低下を引き起こし、腸内細菌叢の多様性が高まりました。この作用はそれぞれの食事の摂取4時間後の変化のみならず、1日を通して朝食摂取の方が夕食摂取よりも効果的でした。

そこでヒトについても、腸内細菌に対して、菊芋を朝食時に摂取した場合と夕食時に摂取した場合のいずれが効果的であるかを調べてみました。約30名の高齢者の被験者を2群に分け、7日間にわたり、朝食時もしくは夕食時に菊芋パウダー5gを水に溶かして飲んでもらいました。そしてこの実験を始める前と、7日間菊芋パウダーを摂取した後に、糞便を採取して、そのpH、短鎖脂肪酸量、腸内細菌叢の変化を見ました。

また、便秘尺度という指標を使って、菊芋摂取が便通にどのように作用したかについても調べました。菊芋摂取前と比較して、朝摂取群の人に便通が良くなった人が多いという結果になりました(図表2)。

【図表2】菊芋の朝摂取と夕摂取による便秘スコアの比較
出所=『食べる時間でこんなに変わる 時間栄養学入門 体内時計が左右する肥満、老化、生活習慣病』

ちなみに、被験者は全員、朝に大便を催す人たちであったので、最初に立てた仮説は「夕方に食物繊維を摂ると、そのことが翌朝の便通に良い効果を及ぼすのではないか」というものでした。市販の便秘治療薬は、夕方に摂取すると翌朝快便となるタイプが多いので、そう考えたのです。

ところが菊芋は朝摂取する方が効果的だったわけですが、その理由についてはわかっていません。考えられる可能性としては以下のようになります。

■食べてからの経過時間ではなく、時刻情報の伝達が大きな意味を持つ

人間の体のすべての細胞には時計機構が備わっていますので、当然小腸・大腸にも時計機構が備わっています。一方で、腸内細菌は時計遺伝子を持っておらず、したがって宿主の我々人間の時計機構で、腸に棲んでいる細菌に時刻情報を伝えているものと思われます。

夕方から夜にかけては、腸もお休みモードになります。フラスコの中で細菌を培養する状態を考えてみましょう。フラスコを腸と考えると、腸の動きが静かになり、かつ体温も低下するので、細菌の培養条件としては悪くなり、腸内細菌も活動性を低下させていると考えられます。このようなときに腸内細菌の餌になる菊芋をもらったとしても腸内細菌は困ってしまうのです。

一方、朝は「今から腸が活発に動き始め、体温も上がり始めるぞ」という状態を、シェーカー上に載ったフラスコが揺れている状態と考え、その動きが活発になっていくときに餌が来ることになり、腸内細菌にはありがたい状態になるのではないでしょうか。

おなかの調子がいい人のイメージ
写真=iStock.com/Panya_sealim
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Panya_sealim

すなわち、朝食時に菊芋を食べてから約24時間後であるにもかかわらず、快便に効果的だということは、菊芋を食べてからの経過時間ではなく、体内時計支配による時刻情報の伝達が大きな意味を持つと考えられるわけです。朝食時の菊芋は消化管を通過し4〜5時間後の昼頃には腸内細菌の餌になり、腸内環境の改善が起こり、それが持続して次の日の朝の便通で、効果として表れるということです。

この実験では、便秘尺度では変化が見られましたが、菊芋を投与した効果として、pH、短鎖脂肪酸、腸内細菌の構成要素については、そのいずれを指標にしても、変化は確認できませんでした。個人間の差が大きく、菊芋の朝摂取群と夕摂取群との比較がまったくできなかったのです。

■菊芋と糖尿病リスクの関連性

次に菊芋の朝摂取群と夕摂取群のそれぞれを、実験の前後で比較しました。その結果、有意な差にはなりませんでした。

そこで今度は、腸内細菌のそれぞれの種ごとの変化を調べてみました。ルミノコッカスという細菌が、朝食時に菊芋を摂取することにより、有意に低下したのですが、夕食時に摂取したときには変化がありませんでした。ルミノコッカスは空腹時血糖値や、健康診断で必ず測定するHbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー)と呼ばれる糖尿病指標と正の相関があることから、朝食時の菊芋摂取によりこの指標が低下するなら、糖尿病のリスクが下がる可能性があります。

■イヌリンは朝に摂ると便秘改善の効果あり

次にバクテロイデスとファーミキュティスという細菌の存在比(%)を調べました。一般的にバクテロイデスが多い方が肥満になりにくく、一方ファーミキュティスが多いと肥満になりやすいといわれています。実験では、菊芋を摂取すると、バクテロイデスが増加し、ファーミキュティスが減少する傾向にありました。ただ、菊芋を朝摂取しても夕方に摂取しても、この効果は認められたものの、ここでも個人差が大きい結果となりました。

柴田重信『食べる時間でこんなに変わる 時間栄養学入門 体内時計が左右する肥満、老化、生活習慣病』(ブルーバックス)
柴田重信『食べる時間でこんなに変わる 時間栄養学入門 体内時計が左右する肥満、老化、生活習慣病』(ブルーバックス)

また、別の調査で、高齢者を対象に菊芋の主成分であるイヌリン5gを10週間摂取してもらいました。食べ方は自由で、摂取時刻と排便状況を記載するようにお願いしました。その結果、10週間にわたって継続して摂取した人は全体の70%で、非常に継続率が高くなりました。朝10時までに摂取した人の継続率が高く、一方で摂取を中断した人の半数以上は午後4時以降に摂取した人でした。継続した人はその理由について、便秘の解消や排便状況および胃腸症状の改善が見られたことをあげています。

このことから、イヌリンは便秘の改善につながり、夕方より朝に摂る方が、その効果を感じられ、そのことが摂取の継続につながるという可能性が考えられます。

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柴田 重信(しばた・しげのぶ)
早稲田大学先進理工学研究科教授
1953年生まれ。1976年九州大学薬学部薬学科卒業。1981年同大大学院薬学研究科博士課程修了。薬学博士。早稲田大学人間科学部教授などを経て、2003年より現職。日本時間栄養学会会長などを務める。監修書『食べる時間を変えれば健康になる』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、共著書『Q&Aですらすらわかる体内時計健康法 時間栄養学・時間運動学・時間睡眠学から解く健康』(杏林書院)など多数。

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(早稲田大学先進理工学研究科教授 柴田 重信)

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