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「名刺なんてくだらない」と思っている人が根本的に勘違いしていること

プレジデントオンライン / 2021年9月10日 10時15分

※写真はイメージです。(写真=iStock.com/kazuma seki)

社外での活動を記した「2枚目の名刺」を作っている人がいる。バラエティプロデューサーの角田陽一郎さんは「『名刺とかくだらない』という人もいるが、それこそレベルが低い。自分を売り込みたいなら、絶対に作ったほうがいい」という。角田さんと作家の加藤昌治さんの対談を収録したた『仕事人生あんちょこ辞典』(KKベストセラーズ)より一部をお届けする――。

■名刺は情報ではなく態度を見せるもの

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朝活に参加したら、みんな会社じゃない名刺を持っていて、焦りました。SNSもそれなりにやってるし、やっぱり自分名刺って作るべきですか?

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【角田】「名刺なんていらない」みたいな話があるじゃん。僕は反対で、名刺くれない人を基本信用しない。なおかつ、いちばん信用しないのは「名刺切らしてまして」っていう奴。

無常観の話でいうと「おめーと会うのはこれで最後かもしれねーのに、なに名刺切らして俺の前に現れてんだコラ」みたいな。それで「後でメールしますから」って言ってメールもしないやつとかいるじゃん。三カ月後くらいに要件があって来ても、僕はシカトするね。そういう気持ちを見るのに大事なものが名刺だと思ってるから。

「効用」で名刺をいるいらないみたいな、「名刺とかくだらない」と言ってるのを見て、レベル低いなって思う。その人の「態度」を見せるものなんだよ、名刺って。

【加藤】情報じゃなくて。

【角田】そうそう。情報はFacebookで友達になればいいし、ネットで検索すればいいんだ。「私はあなたと会うことをこれだけ大事にしてます」ってことを提示するのが名刺。一方で、タレントさんは名刺持ってない。だからタレントさんに名刺渡す人は、「この人はタレントさんと仕事したことがないんだな」ってことがバレるわけ。

■名刺を持っていない人にむかつく原動

タレントさんは名刺持ってないっていうのは、タレントさんは「タレント」だから、名刺を持たなくていいんですよ。逆にいえば、今の「名刺の文化」みたいな話をした上で、「さあ、名刺がなくてもいい」って人は、つまりタレントなんですよ。「タレントでもねえのに名刺持ってねえのかコラ」っていうのが、名刺を持ってない人への僕のむかつきの一番の原動。「おまえタレントかぶれか。タレントでもねえのに『名刺ない』とか言ってんじゃねえよ」って、本気でそう思う。

――売り出し中のまだ知名度ないタレントさんも持ってないんですか。

【角田】持ってないよ。基本的にはマネージャーさんが配るものなの。そういう暗黙のルールってのがあってさ。

アーティストがCDを出すと、本人から相手に渡さないといけないんだよ。例えばサカナクションがニューアルバム出して、そのニューアルバムをボーカルの山口一郎さんが配る時とかは、マネージャーさんが自分のカバンから出して本人が持って、本人が渡すんだよね。「さんまさんこれ」って。で、これをマネージャーさんが渡すのが時々いるんですよ。「ああもう、分かってないんだなこの事務所は」って僕はもう分かる。

つまり、タレントって多分人間じゃないんだろうね。人間界同士は名刺の交換をしないとダメなんだけど、タレントってのは神様なのかな。もっと下に言えば商品。商品自体が名刺を渡しちゃダメなんだよ。ということをなんとなく感じてる。

■情報量の多い名刺は「やりすぎ」なのか

【角田】ほらみて、僕の名刺って裏側に死ぬほど書いてあるじゃん。あれは「僕っていうのを全部知った上で、僕とどう付き合うかを判断してよ」っていうメッセージなんだ。パラレルな情報を提示するよりもさ。

僕はそっちで考えちゃう人間なのかもしれない。「名刺は人格だ」って言ってることと一緒だから。自分の分人がいろいろいるというのも含めて、「これです」って出したほうが話が早いのよ。「私のこの部分は知ってるけど、この部分は知らないんですよね」みたいな人とのやり取り、面倒くさいんだよ。「ああ、この部分って説明してませんでしたっけ」みたいな。

【加藤】蛇腹みたいになってて本当にいっぱい情報が入ってる名刺もあるじゃない。そういうのどう思う? 「やりすぎだ」とか「そんないらねえんじゃねえか」とか、「いや、すごいいいんじゃない」とか。

【角田】それねえ、僕は、本とかCDとかもそうなんだけど、定型を崩されるのが異様にむかつくんだよね。CDとかでも時々、大きかったりしてCDラックに入んなかったりするじゃん。「順番通りに並べたいのに」とか思うんだよね。

ユーミンとかは昔からよく分かってて、一枚目からデザインも一緒でさ。そういうふうにやってくれる人のほうが僕ははるかに好きだから、「名刺入れに入らない名刺とか、本当にやめてよ」とか。正方形とかで作ってるとか、もう面倒くさい。だってなくなっちゃうもん。

■「メタ情報としてどう相手に伝わるか」のほうが意外に大事

【加藤】形は別にしても、情報の量はどう?

【角田】情報の量は、「人格をどこまで説明したいか」が分かるから。

ちょっとだけ話は変わるんけど、ジブリの鈴木敏夫さんが「感想文よりもあらすじを書かせたほうが、その人がどこに着目したか分かる」って言ってた話をしたじゃんか。名刺もね、そのような意味だと思うの。「どこまで書いてあるか」ということよりも、「この人は『どこまで書いた』ことを選ぶのか」ということで、その人の着眼点が分かる。あらゆることについて、僕はそういうことを思っててさ。

鈴木敏夫さんが言うのも、あらすじがどうかを知りたいんじゃなくて、「この人にとって、こういうふうにあらすじを説明するんだ」ってことでしょう。その人の説明の上手さも分かるし、着眼点や視点の違いも分かるから。

二枚めしか出さないで一枚めを出さない人、つまり一枚めの情報を出さないで二枚めの情報だけで名刺を渡す人がいるんだったら、「あ、この人はだから、元々の本業については隠したいんだな」とか「コンプレックスを持ってるんだな」っていうのが僕にとっては一番大事な情報。メタ情報、タグ付けが大事ってことか。その名刺自体に何を書くかは本当にあなたの自由でよくて、それがどういうふうにメタ情報として相手に伝わるかのほうが、意外に大事ですよ、みたいな。

だから僕の名刺の裏とかに死ぬほど書いてあるっていうのは、「死ぬほど書いてある」っていうネタがバラエティっぽいからっていうこと。なおかつ、死ぬほど書いてあるんだから、名刺の裏側を読んだ人は、初対面の人でも打ち合わせしてたら、少なくとも「こういうことやってる人なんだよね」って分かった上での話になるから、そのあとの打ち合わせが楽なわけですよ。「じつは本書いてまして」みたいな紹介は要らない。「書いてるんです」って分かった上での話のほうが早いから。

■名刺は誰のためのものなのか

【加藤】それって「名刺が誰のためのものなのか」の話にもなるよね。自分のことを調べる手間を省くってことでもあるじゃない。いっぱい情報載せるって。

【角田】僕はフリーで特にそれを意識してるから、そういう名刺になってる。「TBS」って肩書きがついてればやってなかった。TBS制作局制作二部ってのがあればいいじゃん。プロデューサーまで付ける人がいたんだけど、 TBSの名刺でいえば僕は「制作局制作二部 角田陽一郎」までしか書かなかった。その頃は、「肩書きなんてものはその人にそんな教えなくてもいいかな」「TBSの人間なんだって分からせればいいじゃん」って思ってた。

TBSの人間でいえば、名刺に「プロデューサー」って書いてる人のほうがプロデューサー能力は低かったよ。つまり、「自分はプロデューサー能力低いんだな」ってちょっと自分でも気づいてるから、「プロデューサー」って入れたくなる。僕はメタ情報的にはそう思ってたかもしんない。

【加藤】肩書きって「職能」を示すケースと「偉さ」を示すケースがあるからね。そういえば、会社の名刺、ディレクターになった後でも、プラナーと書いてあるのを使ってたんだよね。「自分の仕事はディレクションすることじゃなくてプラニングすることだから」って。もう時効になってる話と思いますが。

■人間性まで分かるのが名刺

【角田】本当に字面の意味で使ってたのね。

【加藤】若気の至りで。じゃあ、社外の名刺を作ったほうがいいのかどうかでいうと……。

【角田】僕は作ったほうがいいと思う。

【加藤】話が早い。

【角田】それに、僕的な「バラエティ的な言い方」だと、今の加藤くんのプラナーの話って一つのネタになるじゃん。「ネタがある」ってことはその人にとってはもうおいしいことだって思うから。「肩書き的にはプラナーって低いんだけど、僕はずっとディレクターじゃなくてプラナー、「プランを立てる人」だからプラナーって名乗ってたんだよね」って、加藤くんが最初に、話のとっかかりとして話すだけでさ、その人の面白さと面倒くささが分かるじゃん。

「その人の人間性まで分かるのが名刺」だとすると、これからはその人間性が分かったほうがいい。特に「二枚めの名刺」なんてのは絶対に人間性が分かんないと意味がない。そこまで考えた上でどこまで情報を載っけてどう作るか。なんならサードネームにしちゃってもいいし。

若い男性が空白の名刺をポケットから出す
※写真はイメージです。(写真=iStock.com/Pinkypills)

【加藤】名刺が何かを表すのは確かだな。もの書き名刺をお渡しすると、「なんで、ひらがなのほうがでっかいんですか」って七割聞かれるもんね。

【角田】なんて答えるの?

【加藤】「好きだから」、以上。

■名刺は格好良ければいいのか

【加藤】えーと、自分自身で名刺を作る時にさ、情報や、最終的には図形を含めたデザインってどう考える? 載っける情報については、「自分がどう思われたいか」とか「相手をどんだけ楽にするのか」っていう視点で選べばいいですよねと。これはいいと。じゃあそのデザイン……「名刺ってのは格好良ければいい」な人がけっこういると思うのよ。

「どういう情報を載っけるか」ではなくて「本当に見た目が大事」って。それはどうなんだろうね。

【角田】それは僕、インターネットのホームページでもよく言っててさ。「かっこいいけど、どこに何書いてあるか分からないホームページ」問題ってあるじゃない。僕の中ではそういうホームページを作ってるだけで「あ、少なくともネットリテラシーが低い会社なんだな」と思う。

■見た目のデザインまでも含めて情報

だから今の名刺の話でいうと、「情報をどうデザインに載っけるか」までも情報なんだってことを理解してる人なのか、理解してない人なのかが分かる。「自分はこんだけ活躍してるんですよ」とか言っときながら、素人がデザインしたような名刺を配ったりする人いるじゃんか。あれって、だからその人の言ってる情報はブラフっていうか、つまり本質じゃないんだなって、「この人の言ってる肩書きってのは本質じゃないんだな」ってちょっと思っちゃう。

【加藤】それは見た目のデザインの話?

【角田】うん、見た目のデザインまでも含めて情報だから。

【加藤】順番としては先に原稿で、その次が見た目のデザインっていう。

【角田】色とか、文字の大きさとか、そういうレイアウトとかも含めて情報じゃない。

それって、僕が番組作ってて、「テロップをどこに入れるか」とか「スタジオのセットがこの色だから」とかって、けっこう綿密にやってるわけだよ。その綿密にやってるのを気付かせないのが一番カッコイイじゃんか。それができてない名刺を見ると、「少なくともこの人にはこの感覚がないんだ」ってのは分かって。

■名刺は自分を売る企画書

この感覚がないのは、逆にいうといいことでもあるんだ。その感覚のない実直な人なら、「その感覚をコンサルすればコンサル料もらえるんだな」と思うわけ。つまり、それがちゃんとできてる人って「僕が介入する余地ないじゃん」とも、ちょっと思うわけよ。僕なんかよりはるかにデザインに詳しい人がブレーンにいる、そういう構成要素みたいなのを把握できるからさ。その人本人なのか、その人の部下にいるのか。つまり周りに、仲間にそういう人がいることが名刺で分かる。

表紙
角田 陽一郎、加藤 昌治『仕事人生あんちょこ辞典』(ベストセラーズ)

だから一番アレなのは、そういうことができてないのにグラフィックデザインとかをやってる、つまりデザイン力がないのに、ないってことがバレてるホームページを作ってるデザイン事務所ってダメじゃん。

【加藤】企画書に近いな。

【角田】そう。名刺は自分を売る企画書ってことじゃん。

【加藤】よく、「企画書とは読み物であり見物である」って云ってるんですよ。正確には、企画書を含めたビジネス文書はすべからく読み物であり見物であるって。先に「読み物」、やっぱり原稿が大事で、原稿ができた上でそれをどう見せるかが「見物」。そこまで気が配れたら最高。自分のことは棚の最上段に上げて云いますが。

■名刺は「読み物」であり「見せ物」

【角田】「読み物と見物」ってあらゆることがそうで、マンガなんかも本当はそうじゃん。「話はいいんだけど絵がな」みたいなのもあるし、「絵はすげえんだけど、やっぱり読み物として弱いよな」みたいなのあるもん。やっぱり両輪だと思うけど、ただ映画とかもほら、「俳優が大事なのか監督が大事なのか」とか言うけど、やっぱり「脚本が一番大事なんじゃないか」って言うよね。それがあった上での、演出をどうやるかとかになる。

名刺だってそうなんじゃない。まず「読み物として何が必要か」で、それをどう最適化して「見物・見せ物」にするか?

【加藤】名刺はうまくいかなかったら作り直したっていいんだもんね。

【角田】そうそう。三〇〇〇円くらいで作れちゃうじゃん。それでも「それがなくてもいい」ってのは、企画書がなくてもあなたの企画が通る人は、名刺なくてもいいよ。自分がスタスタスタって出てって、その名前だけで仕事が来ますって言う人だったら、名刺いらないんじゃない? それがつまりタレントなんじゃないかと。

タレントじゃないのに「名刺ない」って言ってる人は、つまり企画書がないわけじゃん。じゃああなたの企画は一生通らないよ。そういうことじゃないですかね。なんかまとまった気がします。

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角田 陽一郎(かくた・よういちろう)
バラエティプロデューサー
1970年、千葉県生まれ。東京大学文学部西洋史学科卒業。1994年、TBSテレビ入社。『さんまのスーパーからくりTV』『中居正広の金曜日のスマたちへ』『オトナの!』などの番組を担当。2016年にTBSテレビを退社し、独立。著書に『13の未来地図 フレームなき時代の羅針盤』(ぴあ)、『「好きなことだけやって生きていく」という提案』(アスコム)などがある。

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加藤 昌治(かとう・まさはる)
作家
広告会社勤務。大阪府出身。千葉県立千葉高等学校卒。1994年大手広告会社入社。情報環境の改善を通じてクライアントのブランド価値を高めることをミッションとし、マーケティングとマネジメントの両面から課題解決を実現する情報戦略・企画の立案、実施を担当。著書に『考具』(CCCメディアハウス、2003年)、『発想法の使い方』(日経文庫、2015年)、『チームで考える「アイデア会議」考具応用編』(CCCメディアハウス、2017年)、『アイデアはどこからやってくるのか 考具基礎編』(CCCメディアハウス、2017年)、ナビゲーターを務めた『アイデア・バイブル』(ダイヤモンド社、2012年)がある。

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(バラエティプロデューサー 角田 陽一郎、作家 加藤 昌治)

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