夢の早期退職「日暮れまで缶ビールを空けずにどう過ごすかが悩み」というFIREの末路
プレジデントオンライン / 2021年9月7日 11時15分
※本稿は、山崎俊輔『普通の会社員でもできる 日本版FIRE超入門』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の一部を再編集したものです。
■ビジネスパーソン憧れの悠々自適「早期退職」の意外な落とし穴
「FIRE(ファイア)」という言葉が今流行の兆しをみせています。FIREとは「Financial Independence, Retire Early」の略です。日本語に訳せば、「経済的な独立と早期退職」というところでしょうか。
具体的に言えば「(現役時代に)年収の25年分を資産形成」し「(リタイア後も)年4%の収益を得て取り崩す(4%ルール)」ことにより、資産は減らずに一生涯の経済的安定を確保したリタイア生活が可能になるとされています。日本円で仮に年400万円で暮らすとすれば、1億円を確保すればFIREが達成できる(1億円×4%=400万円)ということになります。
本気で目指す場合、ポイントとなるのは「何歳でリタイアするか」という目標設定です。実現性の高さの順に、年金が支給される65歳より5歳早い60歳でのリタイア(プチFIRE)、50歳代でのリタイア、40歳代でのリタイアがあります。
果たして「年収の25年分を資産形成」ができるか。そこが最大のハードルですが、FIRE実行後の「生きがい」探しもまた悩ましいのです。
■実は難問? FIRE実行後の「生きがい」探し
普通のリタイアでも自由時間は約11万時間。FIRE後は2倍に
現役時代の自由時間と、普通の老後に待っている自由時間はどちらが長いでしょうか。
現役時代、平日3時間、週末に12時間の自由時間があるとします。年金生活に入ってからは毎日が12時間の自由時間です。
22歳から65歳まで働くとして、現役時代の自由時間は概算で8.7万時間です。これに対し、標準的な老後(女性の65歳平均余命25年で計算)は10.9万時間もあります。過ごす時間は現役43年に対し老後は25年とずいぶん短いようですが、自由時間については老後のほうが多いわけです。
年金生活に入った人がよくいう自虐ギャグに「サンデー毎日」という言葉があります。毎日が日曜日になって、あまりにも時間が多くやることがないというニュアンスです。
あなたがFIREに入るということは、この「毎日が日曜日」の生活を何年も早くスタートすることです。
5年のプチFIREをしたら、現役時代7.7万時間、FIRE後13.1万時間となります。50歳でFIREしたら、現役時代5.7万時間、FIRE後17.5万時間となります。
40歳でFIREできたとしたら、なんと現役時代3.7万時間、FIRE後21.8万時間となります。アーリーリタイア後の自由時間は、標準的なリタイアの例と比べて2倍にもなります。
FIREすることは、たくさんの時間をもてあますほどに手にするということです。あなたはこの圧倒的な自由時間をどう過ごすでしょうか。
■生きがいのないFIREはただの仕事からの逃避
一見すると自由時間が無限のようにあるなんて夢がある話のようです。あるいは「何をやるかは、FIREしてから考えればいいよ」と思うかもしれません。
しかし、生きがいを見つけられずFIREに踏み切ることには一抹の危うさがあります。
数日、あるいは数週間程度の「何もしなくていい時間」は快楽です。おそらく昼寝をしては、3時頃から缶ビールを空け、サブスクで映画を見てはその気持ちよさに浸ることでしょう。普通の会社員生活ならGWや夏期休暇がそんな感じです。
それも何日か続けるうちに「この生活をこのまま続けるのだろうか」と恐怖が訪れます。私の父親は67歳まで働いてリタイアしたのですが、最初の1年悩んでいたのは「日暮れまで缶ビールを空けずにどう過ごすか」だったそうです。
では夜になるまで何をして過ごすか。自分なりに毎日どう過ごすかアイデアを出せるでしょうか。缶ビールを前に日暮れを待つのがFIREの末路なら、これは悲しいことです。
■やりたいことを早めに見つけておくほうがいい
FIREにチャレンジしている人はまじめな人が多い印象があります。一直線に目標をかなえようと努力しています。年収600万円を若いうちに上回り稼いでいる人、家計の25%以上を節約して貯蓄する人は、真剣そのものです。趣味に時間を振り向けるヒマなんかない、という感じもあるでしょう。
しかし、FIREの夢をかなえて確実にやってくるのはありあまる自由時間です。FIREを目指すと同時に、「自分がやりたいことは何か」考える時間も少しつくっておきたいところです。
標準的リタイアをする会社員向けに、会社がリタイアメントプランセミナーを開催することがあります。私も講師に呼ばれることがありますが、趣味や生きがい(とお金)の話をすると多くの50歳代の会社員は困った表情を浮かべます。10万時間も夢中になれることがあるか、想像がつかないからです。
趣味はリタイアしてから探してもかまいませんが、早く見つけておくに越したことはありません。スポーツか、歴史などの学術的な趣味か、絵画や陶芸のようなアートか、考えてみましょう。
ちなみに、「終わりがある趣味」は「ロス」を生み出しますので注意しましょう。お遍路さんとか旧東海道を歩いて京都に行くとか、「最終回」があるものは終わればやることがなくなります。ペットロスがつらいことは誰でも知っていることです。
長い時間を通じて、続けられる趣味、少しずつ極めていける趣味があれば理想的です。
■お金がかかる・かからない趣味、イン・アウトドアか、ひとりの趣味か
経営コンサルタントの大前研一氏は、趣味についてインドアの趣味とアウトドアの趣味、ひとりでやる趣味と複数人でやる趣味で「2×2」の表をつくって、それぞれ2つずつ見つけておけば一生困らない、と述べていました。
これは私も似たようなことを講演でネタにしていたのでそのとおりと思います(ただし一般人は8つの趣味を持つのは難しそうですが)。
もうひとつ、FIRE的な視点で追加するなら「お金のかかる趣味」と「お金のかからない趣味」という軸を持っておくといいでしょう。
たとえば読書とか郷土史の研究などはほとんどお金がかかりません。一方で宝塚の観劇にハマったりすると毎月10万円以上注ぎ込む人が現れたりします。ハマり具合にもよるので一概にはいえませんが、FIRE生活は予算が限られていますから、趣味の予算管理も意識しておく必要があるでしょう。
ただし、お金がかかることは悪いことではありません。むしろ賢く上手にお金を使い、趣味を楽しんでいくのがリタイア生活の神髄なのです。
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ファイナンシャルプランナー
フィナンシャル・ウィズダム代表。連載12本を数える人気コラムニスト。『マネーハック大全』など著書多数。
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(ファイナンシャルプランナー 山崎 俊輔)
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