「時計もカレンダーも読めない」プロ家庭教師が嘆く学力低下の衝撃
プレジデントオンライン / 2021年9月14日 15時15分
■「LINEを始めたら、成績が下がった」
近年、中高生の多くがスマホを持ち、友達とのやりとりやSNSの発信、YouTube鑑賞などを楽しんでいる。今はまだ少ないけれど、今後は小学生の多くがスマホを持つようになるかもしれない。スマホを持つと、一日の多くの時間をスマホに奪われ、学力低下につながると言われている。
よく聞くのが、中学生がLINEを始めると成績が下がるというもの。グループLINEの内容が気になって、勉強に手がつけられなくなったり、夢中になっているうちに夜更かしをしてしまい、翌日の学校の授業に支障が出てしまったりするからだ。大人でも常にスマホを触っていないと落ち着かないという人がいるくらいなのだから、自制心がまだ効かない中学生に自己管理させるのは難しいだろう。
スマホによる弊害は、時間を奪われることだけではない。むしろ、私が懸念しているのは、学習の基礎力が身に付かなくなってしまうことだ。特に小学生がスマホを持つと、弊害が大きいと感じている。
■「キャッシュレス社会」で失った、数の感覚を学ぶ機会
近ごろ、四捨五入の計算が苦手な子供が増えている。数の感覚がつかめないのだ。その理由の一つとして、小銭を持たなくなっているからではないかと推測する。今の子供たちは塾や習い事に忙しく、家のお手伝いをする機会がほとんどない。ひと昔前なら、「おしょうゆが切れちゃったから買ってきて。余ったお金でお菓子を買っていいわよ」と親から小銭を渡されて、しょうゆとお菓子の値段を見比べながら、いかに自分が得するか考えたものだ。そうやって、小銭の感覚、すなわち数の感覚を身に付けていったといえる。
ところが今は、親自身も現金で買い物をしなくなっている。スーパーの買い物もスマホ決済などキャッシュレスが主流になっている。また、子供にお金を渡すときも、鉄道会社のICカードなどにチャージするケースが増えている。昔と比べて、現金を使う機会が極端に減ってしまっているのだ。しかし、小学生のうちからキャッシュレスに慣れてしまうと、数の感覚が身に付かなくなってしまう。近年、算数の基礎中の基礎である10進数の感覚が理解できない子供が増えているのだ。
■「スマホの読み方」と「国語の読み方」は違う
また、スマホは文章の読み方も変えてしまう。スマホやPCの文章は、スクロールして読み進めていく。こうした読み方は、素早く読むときにはいいが、文章を味わうには向いていない。速読と同じように、目に付いた大切そうな言葉だけを追う読み方になってしまう。こうした読み方をしていると、入試で問題文を読み飛ばしたり、大事な条件を見過ごしてしまったりとミスが出やすくなる。
特に国語ではしっかり読むことが重要だ。速読のような読み方では、細部の重要な言葉や表現を見落としてしまう。スマホの読み方と入試問題の読み方は違うということを認識しておく必要がある。
■カレンダーや時計は「アナログ」を与えてほしい
スマホには時計やカレンダーなど便利な機能が付いている。しかし、小学生のうちからこうした機能に慣れてしまうのは、よくないと感じている。近年、子供たちの指導をしていると、「えっ⁉︎ これが分からないの?」と驚くことが増えている。例えば、暦が分からない。1年は365日で、何月が何日で、祝日がいつかという日本人であれば当たり前に持っている感覚が鈍っているように感じる。受験算数に「日暦算」というものがあるが、暦の成り立ちを知っていれば簡単に解ける問題が解けない子が多い。
同じように時計の動きが分からない子供も増えている。秒針と分針の動きが理解できていないと、「時計算」を解くことができない。こうした背景にあるのが、スマホの存在だ。スマホには時計、カレンダー、スケジュール帳、辞書、計算機などさまざまな機能がある。こうした機能はとても便利ではあるが、時間の感覚や曜日の感覚がまだ身に付いていない小学生には使わせない方がいいと感じる。時計はデジタルではなくアナログのものを使い、秒針や分針の動きの感覚をまずは身に付けさせることが賢明だ。また、カレンダーも大きな紙のものを部屋の壁に貼り、1週間の感覚を身に付けさせてほしい。
大人ならすでにそういう感覚が身に付いているので、便利な機能がついているスマホを活用してもいい。でも、まだその感覚が身に付いていない子供には、針のある時計や紙のカレンダーなど、アナログの道具を使って、生活の基礎を教えてあげてほしい。
■検索機能は「分かった気」になりやすい
スマホを使うメリットの一つに検索機能がある。分からないことは、すぐに調べられ、答えを知ることができるため、学習にも使うことが多い。しかし、検索機能で出てくる答えは、すべてが正しいわけではなく、その判断が難しい。また、なんとなく分かった気になっているけれど、厳密には理解できていないことも多い。
検索機能は、すぐに答えが見つかるが、そのことしか出てこない。辞書を引けば、その前後の説明があったり、補足があったりして、全体を理解することができる。言葉の意味や表現を多く知るためにも、やはり小学生には辞書を使うことをすすめる。
一方、スマホで調べるメリットもある。例えば植物を調べるときなどに、画像や動画でビジュアルがすぐに確認できることだ。ただし、パパッと検索して見つけたものは、忘れるのも早い。図鑑などで苦労して探す方が記憶には残りやすい。やっと見つけた! という感動とともに、身体感覚として残るからだ。小学生の子供は身体感覚で学習する。自分の手で触ったり、実際に見たり、手を動かしたりすることで、自分の記憶として残り、知識を吸収していく。
■不便だからこそ、頭が鍛えられる
スマホは大変便利なツールだ。だが、小学生の子供にはできるだけアナログなものを使わせてほしい。不便だからこそ工夫をし、苦労するからこそ記憶に残るからだ。冒頭でキャッシュレスについての危惧を伝えたが、小学生に現金を使う機会が必要なのは、10進法の感覚を身に付けるためだ。小学生が学習する算数は、数や単位の感覚だったり、図形の性質の理解や解き方だったりといった基本である。私はそれを道具と言っているが、算数は道具が少ない。その少ない道具を使って工夫しながら考えることによって、頭が鍛えられる。
一方、数学は方程式など便利な道具を使って解くものだ。それを使えるのは、小学生で基礎を学んでいるから。基本的な道具が使えるようになってこそ、便利な道具を活かすことができる。これは、アナログ時計や紙のカレンダー、辞書などを使って基礎を身に付けることと同じ考えだ。
小学生の子供にはできるだけアナログのものを使わせ、不便な経験をさせよう。不便は工夫を生み出す。自分なりに工夫する経験を積んでから、スマホを持たせるとその便利さに気づくだろう。スマホを持たせるのは今じゃない。
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プロ家庭教師集団「名門指導会」代表/中学受験情報局 主任相談員
日本初の「塾ソムリエ」として、活躍中。40年以上中学・高校受験指導一筋に行う。コーチングの手法を取り入れ、親を巻き込んで子供が心底やる気になる付加価値の高い指導に定評がある。
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(プロ家庭教師集団「名門指導会」代表/中学受験情報局 主任相談員 西村 則康 構成=石渡真由美)
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