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「YouTubeとは違う世界をつくりたい」糸井重里さんが"ほぼ日"に作らない"ある機能"

プレジデントオンライン / 2021年9月12日 11時30分

ほぼ日社長の糸井重里さん - 撮影=西田香織

糸井重里さんが社長を務める「ほぼ日」は、今年6月から有料動画サービス「ほぼ日の學校」を始めた。コンテンツはすべてオリジナル。尾畠春夫さん、谷川俊太郎さん、笑福亭鶴瓶さんなど講師陣には多彩な顔ぶれが揃う。なぜ「学校」を始めたのか。糸井重里さんに聞いた――。(後編/全2回)

■なぜ人は「食べる実のなる木」を植えようとするのか

(前編から続く)

——いまYouTubeには「学び」をうたった動画がたくさんあります。「ほぼ日の學校」は、それらと何が違うのでしょうか。

【糸井】小さい庭があったとき、人って食べる実のなる木を植えるのが好きじゃないですか。イチジクを植えたとか、小梅がなったから漬けたんだとか、楽しくて栄養になることは苦じゃないんですよ。学ぶって、そういう果実のような気がします。

一方、「農園の手伝いができますよ」と言われても、あんまりやる気にならないと思います。いまよくある「会員の人はこういうお話が聞けますよ」って、農園の手伝いに見える。それよりは、自分のところで勝手に梅の木を植えたほうが、梅のホントのことがわかるんじゃないかな、と。

■僕らがやりたいのは、もっと普通の人が学ぶこと

あちこちで学校的なライブが展開されるのは、悪いことじゃないと思っています。ただ、人がやっているのを見ていると、何よりも本人が飽きるだろうな、とも感じます。みんなが集まってくれて、「今日もお話を聞いてくれてありがとう」というのは、1年も続けたらくたびれてくるんですよ。大学は違うところに目的があるからそういうことはないけど、「これ、良かったね」と言われることをやっている人たちは、オンリーの動機がなくなっていくんじゃないでしょうか。

僕らは、どこまでも続いていけるようにしたい。だからお客さんがこういう話が聞きたい、こういう人に会いたいというものに応えるものと、「これ、知ってる?」と言って伝えたくなるものとが混ざっていてもいい。「学校」という名前を付けているけど、僕らなりの無手勝流でやっていったほうが、自分たちのやりたいことに近づく気がしています。

——昨今の「学ぶ」は、お金を稼げるとか、出世できるといった方向に偏りがちな印象があります。

【糸井】そうしないとお客がつかないと思うからでしょう。僕らもBtoBで、「こうすれば社員研修になりますよ」という形にすれば、たくさん契約を取れるんじゃないかと捕らぬたぬきの皮算用をしたことはあります。でも、そこに足を取られると、「研修は嫌だけど行くもの」だった時代と同じになってしまう。そうすると、学ぶということが、野心的な能力主義の人に向けたものになってしまいます。僕らがやりたいのは、もっと普通の人が学ぶことですから。

■「ああ、よかった」と思える時間をつくりたい

「ほぼ日の學校」の「學」の字は、本字です。もともと「学芸」の「芸」の本字「藝」がとてもいい意味をもっていたのに、それが「教育」になって鞭打つみたいな意味に変わってしまった。「学」も本字の「學」の方が本来の「まなぶ」の意味に近いので、本字の「學」にしたんです。しかも、ロゴでは、「學」の真ん中の×を1個減らしています。本字(本来の字)なのに間違っているんです。そこに僕らのやりたいことが込められています。

——「お金を稼ぎたい」は行き過ぎかもしれませんが、「いい人生を送りたい」「人として成長したい」と考える人は多いのではないかと思います。

【糸井】そのへんの言い方は難しくて。まずは損得勘定抜きで、「ああ、よかった」と思える時間をつくりたいんです。人の話を聞いて、ドスンと心に来たり、大笑いしたり、すごくいい時間だった、と思えることがありますよね。そういう時間は、僕をちょっと育ててくれたんだと思います。でも、育ちたかったわけではない。目的と結果にとらわれないで、一緒にすてきな時間に飛び込んでいくみたいなことが「まなぶ」の中には入っていると思っています。

すべてのみんなの。
撮影=西田香織

■「魂」という言葉をちょっと信じたくなる人たち

——プロモーション動画で一番上にあった講師は、スーパーボランティアの尾畠春夫さんでした。どういう狙いで講師を選んでいるのですか。

【糸井】尾畠さんは、「ほぼ日の學校」のシンボルだと思ったんです。だって学校に行ってない人ですからね。でも、生きながら自分で考えて学んでこられた。小学校も通えなかった人が学ぶについて教えるんだから、もう最高ですよ。あと尾畠さんと対極に見えるかもしれませんが、(経営学者の)野中郁次郎先生は、会えばすごくいいおじいさんで、あの年齢になってもすごい真剣に何かを語りたいと思っていらっしゃる。尾畠さんや野中先生の話を聞いていると、「魂」という言葉をちょっと信じたくなるんですよね。

——魂があるかどうかは、どうやって見抜くのですか。

【糸井】文章に表れてしまいますよね。たとえば誰かを「ウジ虫野郎」とくさす文章を書く人は、「ウジ虫野郎」という言葉が相手を傷つけることを知っていて、自分が言われたら嫌だと思っているだろうことが想像できる。世の中で論争が起こっているとき、文体の中に選ぶ基準はもう入っている。

■みうらじゅんは、来た日から邪魔で、面白かった

文章ではないところでいうと、誰を好きで、誰に好かれているかというのは、けっこうみんな無意識で見ていると思います。ほぼ日ではおなじみのみうらじゅんは、いろんなことをやっていながらもやっぱり魂があるんですよ。みうらは昔に僕のところでアシスタントをやっていた石井君の友達でね。石井君が「面白いヤツがいる」と言って連れてきたのが、同じアパートにいたみうらでした。「みうらが来たいと言っているんですけど」と言われたから「ああ、いいよ」と答えたら、来た日から邪魔だった(笑)。

でも、邪魔だけど面白いんだよね。何をしたら間違わないかと思って礼儀正しくしてる人より、やりたいことをやっちゃう人のほうが何かを表している。なおかつ、石井君がみうらをかばおうとしているのがわかるから、もうそれでOKでした。だからいい人かどうかは自分で決定しているんじゃなくて、自分と誰かで決めているんじゃないかな。それはみんなやっていることだと思います。

ほぼ日社長の糸井重里さん
撮影=西田香織

——魂というのは、特定の価値観やバイブスがあるということではない?

【糸井】ないですね。自分にないものを持っていて、いい人だったら一番いいですよね。このあいだほぼ日に入ってきたアルバイトの子は、1週間にいっぺん髪を染め直してくるんです。アルバイトだからそういうことしないほうがいいかなとか、考えもしない。それはもうOKでしょう。

■なぜ「ほぼ日」には人気ランキングがないのか

——「ほぼ日の學校」には人気ランキングがありませんよね。ほぼ日のサイトにもありません。これは人気ランキングに頼るのではなく、「ほぼ日」としての価値を見せたいという考え方なのでしょうか。

【糸井】ランキングの順位というのは、僕らが内々でわかっていればいいことだと思っています。「みんなが見ているのはこれですよ」というのはやりたくないんです。人によっておもしろいものは必ず違うずなので。

——すごくストイックですね。

【糸井】自分でもすごいと思います(笑)。「こんなにみんなも見ているし、今まで見ていなかった人も見れば」というのはやっています。適度にね。でもその程度ですね。順位でやるのは違うと思うんです、やっぱり。B面が好きな人みたいな、マニアックなエリート主義にはなりたくないんです。

たとえば「ビートルズの島」というカテゴリを作ろうと思っているんですけど、最初から作るのはやめたんです。マニアの人が集まる場になってしまいそうなので。それよりは、学校だから、昼休みに食堂で演奏会をやりますよというのもありだなと思って、いずれ作りたいと思っています。

■「つまらないかもしれないもの」をやる豊かさ

——利用者からすれば、「人気のものを知りたい」という声は強いと思います。でも、あくまで運営側が良いものをおすすめする形にしたいということですよね。

【糸井】どんな授業があってもいいと思っています。僕らの考える良いものというのにとらわれなくていい。これ、つまんないじゃないというのも混じっていても、それでいいと思っているんですよね。

——「ほぼ日の學校」は動画ですから、お金も人もかかっていますよね。そこで「つまらないかもしれないもの」をやるのは、懐が深いですね。

【糸井】そこは、早くから考えないほうがいいかなと思っています。だれかが「ここが足りない」「これはダメだ」とチェックするより、つまらないものがあったとしても、「あれは良かったね」と言えるものがたくさん出てきたほうが豊かになると思っているんですよね。

ほぼ日社長の糸井重里さん
撮影=西田香織

■ビジネスとして成り立たせないと続けていけない

——「ほぼ日の學校」のビジネスモデルに関心があります。たとえば先生方にはどれぐらいの謝礼が支払われるのでしょうか。

【糸井】今の今は大学で講師を呼んだのと同じぐらいのギャランティーでしょうか。だからそれに期待して来る方がいたとしたら、「えっ、もっと稼げるんじゃないの」ってなるかもしれないですが、今の講師の方々は、そうではない理由で引き受けてくださっています。

「あの人の話を毎週聞きたい」ということもあるかもしれません。でも、うちの授業にするためには、人手まで含めるとそれなりのお金がかかります。でも「週5回やれる」というときが来ると思うんです。そうすればもっと無責任な授業もできるし、「今日は雑談だ」ということもやってもいい。

いずれにしても、これからどう回っていくのかによって変わると思います。ビジネスとして成り立たせないと、大きくすることも続けていくこともできないので。

■伸びるのは「面白い仕事をえり好みして真剣にやる人」

——笑福亭鶴瓶さんの授業「『もっと、おもろなりたい!』と叫んだ男。」を拝見しました。高座のためにタクシーを呼んだら、運転手さんから「お客さん、帽子かぶってマスクしてたら、鶴瓶そっくりや」と言われた。すぐに「いや鶴瓶や」とは言わず、「西宮の芸文まで」と行き先を告げたら、雰囲気が変わった。タクシーが楽屋口に着いたら、「ごめんなさい」と謝られた、と。大笑いしました。テレビでもYouTubeでもない、人の話を聞いているおもしろさがありました。これはギャラの多寡とは関係がありませんよね。

【糸井】たとえば、広告と雑誌ではギャランティーの考え方がぜんぜん違いますよね。僕、両方知っているので、同じ人が100倍違う値段でOKしたり、しなかったりというのも目にしてきましたが、結局やりたくてしょうがないことをやるべきだというのが一番重要なんだと思うんです。

だから、早くからお金のことを身につけた人って、やっぱり悩む時がくるんじゃないでしょうか。結局得するのはそこじゃないんだよねっていうあたりは、この学校の話と同じです。面白い仕事をえり好みして真剣にやる人というのは後で伸びていますよね。

■社員を集めるときに「いい人募集」と呼びかける理由

——ギャランティーの設定は難しいと思います。ビジネスをどう回していくのか、という話と直結しますね。「会社に搾取されたくない」と話す人も増えている印象があります。

【糸井】総利益と人数割りして、「俺はいくらもらえるはずだ」という計算を頭の中でする人がけっこういるみたいですよね。そうなると会社ではなく組合にするしかない。何でしょうかね。運転席にいる人がハンドルを握っていることについて、「頼むわ」という信任がないんでしょうか。僕らが社員を集めるときに「いい人募集」と呼びかけるのですが、そこですよね。チームとして一緒に働きたいか、能力みたいなことで問いかけると、得したいというだけの人が集まってしまうので。

ほぼ日社長の糸井重里さん
撮影=西田香織
ほぼ日社長の糸井重里さん - 撮影=西田香織

——そのユニークさが、ほぼ日の強みだと感じます。

【糸井】何でしょうかね。難しいところですけど。だから一緒にいることの意味みたいのを絶えずリーダーは提案できないと。社長の仕事って従業員を飽きさせないことだけですよ。お客さんが飽きちゃったら困るんですけど、関係者が飽きないでいるかどうかというのさえキープできていれば、動きがあるわけですから。稲の実らない田んぼを耕しているだけでも必ず何かにはなるので。

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糸井 重里(いとい・しげさと)
コピーライター/ほぼ日 社長
株式会社ほぼ日代表取締役社長。1948年、群馬県生まれ。71年にコピーライターとしてデビュー。「不思議、大好き。」「おいしい生活。」などの広告で一躍有名に。また、作詞、文筆、ゲーム制作など幅広い分野で活躍。98年にウェブサイト「ほぼ日刊イトイ新聞」を開設。2016年に糸井重里事務所を「株式会社 ほぼ日」に改称。著書に『かならず先に好きになるどうぶつ。』(ほぼ日)、『インターネット的』(PHP新書)、共著に『いつか来る死』(マガジンハウス)などがある。

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(コピーライター/ほぼ日 社長 糸井 重里 構成=村上 敬)

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