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「ネタ探しで会う大半の男に口説かれる」華やかなスクープの裏にある女性記者たちの苦悩

プレジデントオンライン / 2021年9月11日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/3dts

■読売新聞記者が競合他社に取材情報を漏洩したワケ

読売新聞男性記者(32)による情報漏洩問題が、8月27日付の読売新聞朝刊紙面で明らかになった。東京本社社会部の男性記者が司法記者クラブに所属していた昨年、読売新聞が得ていた検事総長秘書官セクハラ疑惑などの取材情報を、週刊誌女性記者やテレビ局女性記者などにメールや電話で漏洩していたのだ。

関係者などによると、男性記者は東京地検特捜部などを担当していたA氏。A氏は妻帯者で、妻は地方局アナウンサーだ。雑誌『ZAITEN』が読売新聞にこの問題について取材をかけたことで、慌てた読売新聞が社内不祥事として公表した形になったという。

この件は春先から記者間では話題になっていた。A氏から取材情報をまとめた記者メモがわたった週刊誌記者Bさんの雑誌に、検事総長秘書官の不祥事の記事が掲載された。しかし、この読売の記者メモには事実誤認があり、それと同じ内容がそのまま週刊誌記事になっていたため、「読売メモから流出していた」との疑惑が持ち上がったのだ。

読売記事は情報漏洩について、「『報道目的で得た情報は、読売新聞の報道およびそれに付随した活動以外に使ってはならない』と定めた読売新聞記者行動規範に違反している」と指摘している。

A氏とBさんは昨年7月に取材先で知り合い、その後に複数回飲食する関係になっていた。A氏は飲食の際に不適切な関係を迫っていたとされ、漏洩理由について「女性記者によく思われたかった」と話しているという。

■週刊誌の女性記者が直面する「セクハラ」と「性差別」

問題を掘り下げて行く前に、まず週刊誌の取材手法について解説したい。週刊誌は新聞やテレビと違い記者クラブに属しておらず番記者制度もない。記者クラブであれば会見やブリーフィングといった機会に情報を得ることができ、番記者であれば政治家や官僚と親密になり情報を得ることができる。

だが週刊誌は黙っているだけでは情報が入ってこないので、知り合いに声をかけては会合や会食を通じて情報交換する、という形でネタ探しをする。筆者も週刊誌記者時代そうだったが、情報を持っていそうな人を探してはとりあえずお茶か会食に誘うことを日課としていた。

Bさんはまだ入社数年の若手記者だった。ZAITENによると情報交換の場だったはずの席で、A氏はBさんに対してさまざまなセクハラをしていた。記者メモはその口止め料的に提供されたものだったようだ。

週刊誌の女性記者にとっては「セクハラ」と「性差別」は切っても切れない関係にある。

筆者がそれを強く認識するようになったのは、ある取材でXさんという元週刊誌記者(現・ライター)にインタビューしてからだ。インタビューのテーマは「記者の仕事術」だったのだが、話を聞いていくと、敏腕記者として知られたXさんが「週刊誌記者をスタートした時からセクハラと性差別に悩んでいた」という苦悩を告白しはじめた。

■「仕事相手の男性7~8割に口説かれる」

週刊誌記者は個人主義の人間が多い。このため取材手法などを共有する機会は少ない。筆者が男性記者ということもあってか、これまで女性記者の隠れた苦悩を聞くという機会がまったくなく、だからこそXさんの告白はより衝撃的なものに感じた。

週刊誌の世界には「ネタを取ってきた人間がいちばん偉い」という文化がある。このため序列を決めるのは、経験年数ではなく、どれだけ情報を取っているかだ。例え若い記者であっても、ネタ次第ではトップ記事を張れる。年功序列に囚われない競争社会であることがスクープを生む原動力になっている。

一方で競争社会の弊害もあるのだ。Xさんはこう語る。

「1年目のときは自信もない、人脈もない、何もないわけです。周りを見ると海千山千の凄い記者ばかり。ネタを取るためにはどうすればいいんだと、悩む。それであらゆる会合に顔を出す、ということをやるようになる訳です。女性記者の場合、男性記者や取材相手から口説かれるというのは日常茶飯事です。ある女性記者は『7~8割の男性は口説いてくるか、セクハラをしてくる』といっていました。でも仕事だから我慢をしなければいけない、と新人時代は考えてしまうのです」

■成果をあげた女性記者にのしかかる重荷

ネタが欲しいという意識が強いと、それとなく上下関係ができてしまうものである。メディアの中には週刊誌を下に見てくる人間、若い女性を下に見る人間もいる。そうした幾重もの差別構造のなかからセクハラは生まれるのである。

結果を出しても女性記者には偏見に遭いやすい。ある敏腕女性記者は「複数の政治部記者と関係を持ってネタを取っている」という風説を流されていた。これはまったくのウソだった。その女性記者は複数の政治家にがっちりと食い込んでおり、さまざまな情報筋から直接情報を得ていた。

当人に聞くと「どうせ記者仲間の僻みだと思うけど、せめて裏を取ってから噂は流して欲しいね。ハハ」と笑い飛ばしていたが、仕事で結果を出す女性記者は、こうした妬みの対象にもなりやすい。

■上司からも「女子力でネタ取って来てくれよ」

先のXさんも「身内であるはずのデスクからも『女子力でネタ取って来てくれよ』と言われたこともあるし、一方でちょっと頑張っただけで、『オンナを使って仕事をしている』、『寝て取った』と周囲には言われてしまう。昔は本当に気に病みました」と語り、こう続ける。

オフィスのズボンと靴を履いた2人のビジネスマン
写真=iStock.com/MangoStar_Studio
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/MangoStar_Studio

「男性と会うときはマニッシュな恰好を心がけるようになりました。スカートではなくパンツスーツを選び、首の詰まった服を着るようにしています。女性らしい恰好をしているだけで、『オンナを使っている』と言われてしまう。そういう偏見は依然としてあると感じます」

■男性中心の世界では悩みは解決されない

今回の読売問題でも、Bさんがセクハラを受けていたのはA氏だけではなかった。別の出版社の男性からも数々のセクハラを受けていたようだ。

「酒席にBさんを呼び出しては『ホテルに行こう』などのセクハラを行っていた。誘いを断られると態度が急変して『お前はだから記者として駄目なんだ』といったパワハラを繰り返していた。Bさんはネタや勉強の為にとさまざまな会合に精力的に顔を出していたようですが、一定の割合でこうしたセクハラ被害に遭っていたようです」(Bさんの友人)

問題は根深いのである。こうしたことが起こり得るのは記者の世界が今でも変わらず男性社会であることも影響しているだろう。週刊誌の記者の男女比率は8:2ほどであり、いまも変わらず男性中心の世界なのである。女性記者特有の悩みは、男性視点で笑い飛ばされたり、マイノリティの悩みとして見過ごされてしまいがちだ。

ジェンダー差別
ジェンダー差別
※写真はイメージです - ジェンダー差別

■記者個人の問題で終わらせず、他山の石に

こうした問題に対応するにはどうすればいいのか。Xさんは「上司が真摯に女性記者の相談に乗るとか、セクハラ被害があれば相手メディアにクレームを入れるなど、組織としての丁寧な対応が必要だ」と語る。

ある現役の週刊誌女性記者は「またか、という思いで、ニュースを冷ややかに見ていた」という。

「今回のような騒動が起きたとき必ず一度は『オンナも悪い』という意見が流れるんですよね。なかには『セクハラされても、ネタ取れて記事になったからいいじゃん』などと語る人も珍しくない。この業界の常識はおかしい、と感じます」

この数年、週刊誌のスクープはネットにも展開され、これまで以上に大きな注目を集めるようになった。しかし、その取材現場は“男尊女卑”という歪んだ構造を抱え続けている。今回の問題は、決して読売記者個人だけの問題ではない。メディアで働くすべての人間が「他山の石」としなければならない問題なのである。

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赤石 晋一郎(あかいし・しんいちろう)
ジャーナリスト
1970年生まれ。南アフリカ・ヨハネスブルグで育つ。「FRIDAY」や「週刊文春」の記者を経て、2019年にジャーナリストとして独立。日韓関係、人物ルポ、政治・事件、スポーツなど幅広い分野で記事執筆を行う。著書に『韓国人、韓国を叱る 日韓歴史問題の新証言者たち』(小学館新書)、『完落ち 警視庁捜査一課「取調室」秘録』(文藝春秋)など。

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(ジャーナリスト 赤石 晋一郎)

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