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「まるで"文化大革命"の再来だ」自分の思想を教科書に載せはじめた中国・習近平の末路

プレジデントオンライン / 2021年9月13日 10時15分

中国の中央民族工作会議が27日から28日まで北京で開催された。習近平共産党総書記・国家主席・中央軍事委員会主席が会議に出席して重要演説を行った。写真は演説する習近平氏〔新華社=中国通信〕=2021年8月27日 - 写真=中国通信/時事通信フォト

■“習思想”の履修義務化に富裕層への締め付け…

習近平国家主席をトップとする中国共産党政権が、社会と経済への統制を一段と強めている。その顕著な例が、“習近平思想”の履修義務化だ。そのほかにも、芸能人やIT先端企業など民間企業の創業経営者への締め付けは日増しに強まっているとの印象を持つ。いずれも“文化大革命”の時代を思い起こさせるような行動だ。

文化大革命は、共産党指導部中枢における権力闘争だった。具体的には、“大躍進”政策の失敗によって共産党トップの座を追われた毛沢東が、再び権力を取り戻し、強化するために若者を紅衛兵として扇動し、文化大革命を起こした。その結果、中国では1人の強力な指導者の思想が社会全体に根深く浸透し、それ以外の価値観が徹底して排除された。

経済の成長には人々の自由な発想や多様性が不可欠だ。多くの人が希望や夢を実現しようと思いを巡らせ、行動することが付加価値の源泉である。足許の習政権は人々のアニマルスピリットを押さえ込み、社会全体が習氏の考えに従う状況を目指しているように見える。それは中国経済を毀損(きそん)する恐れがある。

■支配を強めるため「厳罰と監視」の歴史を繰り返してきた

中国の歴史を振り返ると、時の支配者の考えが社会の末端まで浸透するために、反発する者に厳罰を科し、監視を強化し、自由な発想や行動という根源的なエネルギーがそぎ落とされる展開が繰り返された。1966年から10年間続いた文化大革命はその顕著な例だ。

1958年から中国では毛沢東の指揮の下で大躍進政策が始まり、農作物や工業製品の生産量を短期間で大幅に引き上げようとした。しかし、専門知識が不足する中で無理やりに農地開墾や製鉄所建設が進められた結果、農地は荒れ果て、多くの資源が浪費された。その一方で、毛沢東は反対派への弾圧を強め、社会は混乱し、経済は停滞した。1959年に毛沢東は大躍進の失敗を理由に国家主席を退いた。

その後、毛沢東は権力の挽回と自らをトップとする支配体制を目指して文化大革命を起こした。毛沢東の考えをまとめた『毛主席語録』を持った紅衛兵が知識人を迫害し、文化財を破壊した。文化大革命は落ち込んでいた農業生産力をさらに減殺した。

■「支配者の考え以外は正しくない」という価値観の浸透

文化大革命の影響の詳細は不明だが、中国の経済と社会には非常に大きな損失が発生した。最大の問題点は、毛沢東一個人の考えが正しい、それ以外は正しくない、という価値観が社会全体に浸透したことだ。別の言い方をすれば、文化大革命は十数億人の中国の国民が根源的に持つ新しい考えや行動様式を目指す意思を徹底してそぎ落とした。

文化大革命後、鄧小平は経済成長を実現しなければ共産党の支配体制を維持できなくなると危機感を強めた。1978年からは“改革開放”が進み、経済特区の設置によって海外企業が誘致され、鉄鋼など重厚長大分野で国有・国営企業への技術移転が進んだ。

中国・北京の風景
写真=iStock.com/Preeti M
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Preeti M

その一方で国有・国営企業の事業範囲外の分野(例えば情報通信産業)では民間企業が誕生した。それが、今日のアリババなどIT先端企業の急速な成長を支えた。過去40年間の中国経済の高成長は改革開放に支えられた。特に、リーマンショック後の中国経済の成長は民間IT先端企業の急成長に負うところが大きい。

■貧富の格差は「社会騒乱が起きる」寸前

中国共産党政権は、社会統制の強化によって共産党による一党独裁体制を守ろうとしてきた。鄧小平は改革開放は進めたが、民主化は一切認めなかった。鄧小平が改革開放によって目指したことは、共産党指導部の指揮によって高い経済成長率が達成され、全国民がそのおこぼれとしての所得増加を実感することだった。その状況が続くことが共産党の求心力を支え、支配体制の維持につながる。鄧小平以降の共産党トップもその考えを踏襲した。

その結果、共産党幹部と民間IT先端企業などの創業経営者という2つの富裕層に富が偏在し、貧富の格差が拡大している。0から1の間で所得の格差を示すジニ係数に関して、0.6を超えていると指摘する中国経済の専門家は少なくない。ジニ係数は0.4を超えると社会騒乱の懸念が高まるといわれている。

共産党政権は貧富の格差の拡大による社会心理の悪化を避けるために、民間企業創業者への締め付けを強めている。その一方で、習氏が権力を維持するために、党の幹部にまで綱紀粛正の手を本格的に広げることはできない。

■文化大革命の再来となるのか

貧富の格差は深刻化し、共産党政権への不満は増えるだろう。特に、今日ではSNSの普及によって社会全体の監視を徹底することは難しい。習政権がIT先端企業への締め付けを強化している理由の一つは、SNS上での共産党批判を取り締まるためだ。9月に入り、習政権が進める“共同富裕(国全体で裕福になる考え)”に懸念を示した北京大学の張維迎教授の論文はネット上から削除され、SNS上でも送信できなくなったと報じられた。

スマートフォンの画面
写真=iStock.com/c8501089
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/c8501089

そのほかにも、“習近平思想”の履修義務化、韓国BTSなど海外のポップスターを応援するファンクラブのSNSアカウントの停止、脱税容疑による有名俳優の摘発など、社会統制の一段の強化を示す例が増えている。その目的は、習氏の考えを社会に浸透させること、同氏以外の人物が人気を得ることの阻止、共産党への恭順の意を示させることだ。習氏が政権維持の方策として社会統制を強化することによって、中国が再び文化大革命のような時代を迎えるとの懸念が増えている。

■“チャイナリスク”が高まるこれだけの理由

今後、“チャイナリスク”は高まるだろう。つまり、習氏が自らの支配基盤を強化して共産党の一党独裁体制を守ろうとする結果、中国経済の成長を支えてきたアリババやテンセントなど民間のアニマルスピリットは減退し、潜在成長率が低下する展開が予想される。

2018年に習氏は憲法を改正し、2期10年までと定められていた国家主席の任期制限を撤廃した。2022年の党大会を経て習政権は3期目に入る可能性が高い。突き詰めていえば、習氏は生涯にわたって中国の最高意思決定権者としての地位を確立し、共産党による支配体制を守ろうと考えているだろう。思想教育に加え、IT先端企業や民間企業の創業経営者、リベラル派、少数民族、共産党政権への批判を行う個人などへの監視や締め付けは強化されるだろう。それは、文化大革命時の毛沢東の行動様式に似ている。

■国民の自由な意思を制限する中国の末路

経済運営面で共産党政権は、党の指揮による資源の再配分を強化しなければならないはずだ。具体的には、米国を上回る競争力を獲得するためにAIや量子コンピューティングなど先端分野への産業補助金や海外企業からの技術移転が一段と強化される。海外需要の取り込みのために、“一帯一路(21世紀のシルクロード経済圏構想)”沿線国へのインフラ投資なども国有・国営企業主導で増えている。

金融面ではデジタル人民元の実用化によって、国内およびクロスボーダーの資金取引がより厳しく監視される。そうした取り組みは、共産党政権が海外への資金流出を食い止めつつ相応の経済成長率を実現し、求心力を維持するために欠かせない。

このように考えると、中国では社会と経済の両面で共産党のテクノクラート(技術官僚)が策定する計画と指揮に基づいた運営体制が引き締められるだろう。国民は習氏の考えに従うよう強要され、自由な意思はより強く制限される。人々の成長や成功を追い求める血気(アニマルスピリット)の減退は、経済のダイナミズムを毀損する。中国が文化大革命の再来を思い起こさせるような状況を迎えている中で、潜在成長率の低下懸念は徐々に増えるだろう。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。

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(法政大学大学院 教授 真壁 昭夫)

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