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「年下上司・年上部下はジワジワと組織を蝕む」人事コンサルがそんな懸念を抱くワケ

プレジデントオンライン / 2021年9月14日 9時15分

※写真はイメージです - (写真=iStock.com/metamorworks)

「成果主義」を謳いながらも、運用面では「年功序列」を維持している企業は少なくない。なぜ成果主義に移行できないのか。人事コンサルタントの相原孝夫さんは「年功序列の崩壊は、働く人たちの感情にネガティブな影響を与える要因になり得る。そこに生じる妬みややっかみというネガティブな感情はとても強く、職場の人間関係を悪化の方向へと強力に導いてしまう」という――。

※本稿は、相原孝夫『職場の「感情」論』(日本経済新聞出版)の一部を再編集したものです。

■昇進した年下への嫉妬でこじれる職場環境

2000年前後に多くの日本企業で実施された人事制度改革において、「成果主義」型の人事制度への移行が行われました。しかし、実態は必ずしもそうはなっていないようです。

「成果主義」と謳ってはいても、中身は成果ではなく能力であったり、成果を評価する仕組みとはなっていても、運用面で年功序列となっていたりといったケースが大半です。

ではなぜ、日本企業においては、本来の「成果主義」型の人事制度への移行が難しいのでしょうか。これにはいくつかの理由があります。評価者である管理職のスキルが十分ではなく、成果を適正に評価できないというのも一因です。また、「がんばった」などのプロセスを重視しがちな価値観も根強く残っています。効率的に仕事をして早く帰る部下よりも、非効率ではあっても遅くまで残っている部下を上司が可愛がるような価値観です。

仮に、「成果主義」に則った運用をしていたとしても、それはそれで問題は残ります。成果主義の場合、若くても実力があり高い成果をあげれば給料が上がり、立場も上がります。それにより、年功序列は崩壊することになります。年功序列の崩壊は、そこで働く人たちの感情にネガティブな影響を与える要因になり得ます。そこに生じる妬みややっかみというネガティブな感情はとても強く、職場の人間関係を悪化の方向へと強力に導くのです。

分かりやすい例としては、最近多く見られるようになった、「年下上司・年上部下」という状況があります。

年功ではなく成果で昇進昇格などの処遇が決まるようになると、こうした年功上の逆転現象が起こるようになります。しかし、長いこと慣れ親しんできた、上司は年長者という状態が崩れ、感情が大きく揺さぶられる状況になります。役職というのは目に見えやすいがゆえに、ことさら問題を大きくしがちです。こうしたことをきっかけとして、職場は容易にネガティブな感情が支配するようになります。いったんネガティブに振れた職場を健全な状態に戻すことは容易なことではありません。

■「返信が遅い」小さな積み重ねが致命傷

私は仕事柄、職場状況の改善の支援を長年行ってきた中で、この面の難しさは、状況を左右するのが小さな事柄の積み重ねであるという点にあると確信を持って言うことができます。

何か制度を策定したり、ルールを制定したりすれば変わるというものではなく、もちろん、何か大きなイベント事をやって急に変わるというものでもありません。

実際に、職場の上司・部下や同僚どうしの関係性は「マイクロムーブ」に左右されるということがわかっています。「マイクロムーブ」(※)とは、メールの返信が遅れたとか、ランチに誘わなかったとかといった、その瞬間には取るに足りないように思えますが、互いの関係に影響を及ぼす、些細な行動や態度のことです。それらがポジティブに働き、関係を近づけることもあれば、ネガティブに働き、関係を引き離すこともあります。

外で弁当を食べる若いサラリーマン
写真=iStock.com/TommasoT
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/TommasoT

■ネガティブな出来事の方が影響は大きい

もう一つ、職場の問題においてやっかいなのは、ネガティブな影響の方が、ポジティブな影響よりもはるかに大きいという点です。

「ネガティブ・バイアス」と言われる現象です。ネガティブな出来事はたった一つで大きな影響を及ぼし、いとも簡単に職場に悪循環をもたらします。一方、好循環を起こすには、多くの継続的なポジティブな働きかけが必要となるのです。年功序列の崩壊といった状況も、一瞬でネガティブな影響を職場全体に及ぼしかねません。

また、「成果主義」制度の中での評価に納得がいかないなどの状況も多く起こっています。成果が目に見える形で測定できる仕事はそれほど多くないからです。期待された成果があがったかどうかについて、自己評価と上司評価との間に大きなギャップが生じることは普通にあるわけです。それが不満や不公平感となり、職場の同僚間の関係を悪化させることにもつながります。こんなことならば、評価するまでもなく明らかな年齢や勤続年数といった年功で処遇が決まった方がむしろ公平であり、納得しやすいという声も若手社員から聞かれることすらあります。

同僚間の関係に影響を与えるマイクロムーブにしても、ネガティブに影響するマイクロムーブの方が、ポジティブに影響するマイクロムーブよりも、発生しやすく、かつ一層パワフルなのです。関係を害したおそれのあるマイクロムーブに思い当たる節があれば、それを埋め合わせるために、その何倍ものポジティブなマイクロムーブを起こすよう努力しなければなりません。「年下上司・年上部下」という状況においては、職場の皆が相当気を付けて、ポジティブな方向へ向かわせるような些細な行動を継続的に起こす必要があるのです。

※The Little Things That Affect Our Work Relationships, May 29, 2019.

■一見うまくいっているように思えても…

「年下上司・年上部下」という状況も近年では、かなり一般化してきました。

そのような関係においては、やはり何かしらの不具合を抱えていることが多いものです。当人たちに聞くと、「比較的良好な関係で、うまくやっている」というようなケースでも、他のメンバーたちに聞くと必ずしもそうではないことがわかります。

たとえば、普段は表面的に良好な関係を保っているように思えても、何かのきっかけで途端に険悪になるということがあったりするのです。それくらい、年齢と立場の逆転現象というのは厄介な問題なのです。

状況の詳細を聞いてみると、双方の意地の張り合いのような状況が多く起こっており、業務に支障が出ている、あるいは出かねないというものでした。しかも、きっかけはほんの些細なこと、まさしく「マイクロムーブ」が多いようでした。

■年上部下の感情に配慮せよ

たとえば、重要な決定をするにあたって、年上部下に事前に説明がなかったというだけで、当の年上部下はへそを曲げてしまい、それ以来、非協力的な態度をとり続けているとか、年下上司のことを“くん”付けで呼ぶというようなことです。

通常の関係、つまり上司が年上である場合にも、些細なネガティブな出来事が積み重なって、良好な関係が崩れるということはありますが、年下上司・年上部下の場合、どうもこの導火線が短いようなのです。互いにネガティブな感情を抱く行為が一つでもあった場合、それだけで急速に関係が悪化するということが多くあります。もともと双方とも火種を抱えている状態とも言えるのです。

仲たがい
写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

結局、このようなケースというのは、年齢ということに端を発した、ネガティブな感情が災いして起こっていることです。年齢に関わらず、ネガティブな感情が生まれるきっかけというのは、残念ながら職場の中には多様に存在しています。誰しも、100%自分の裁量で仕事をしているわけではなく、さまざまな制約の中で仕事をしているため、自分の意に沿わないことはいくらでもあるからです。

そのようなことが積み重なり、職場の人間関係に支障を来すのです。そうした場合に、第三者的な視点をもって、相手の感情に配慮した行動をとることができれば、関係悪化へ突き進むのを押しとどめることができます。

■本当の「おとな」がいればうまくいく

また、いったん悪化した関係も修復へと向かわせることも可能となります。

相原孝夫『職場の「感情」論』(日本経済新聞出版)
相原孝夫『職場の「感情」論』(日本経済新聞出版)

しかし、ネガティブ・バイアスの影響もあり、いったんネガティブに振れた職場の感情を押しとどめるのは容易なことではありません。それゆえ、ネガティブな循環が発生しないよう、日頃からポジティブなマイクロムーブを意識的に、頻繁に起こしていくことが重要なのです。

「年下上司・年上部下」という状況にあっても、比較的良好な関係を維持しており、職場にもポジティブな感情があふれているケースももちろんあります。

そうした職場を見てみると、年下上司も年上部下も、互いに自律的であり、相手の感情に配慮していることがわかります。

特に、年上部下が“おとな”であり、その立場をきちんと受け入れ、自らの役割を正しく認識し、年下上司がやりやすいように振る舞うことができています。たとえば、会議の場での座る位置や発言する順番、発言量など、細かな点にも気を配り、ネガティブな影響を及ぼすことのないよう配慮しているのです。

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相原 孝夫(あいはら・たかお)
人事・組織コンサルタント
株式会社HRアドバンテージ代表取締役社長。早稲田大学大学院社会科学研究科博士前期課程修了。マーサージャパン株式会社代表取締役副社長を経て現職。人材の評価・選抜・育成および組織開発に関わる企業支援を専門とする。主な著書に『職場の「感情」論』『バブル入社組の憂鬱』『ハイパフォーマー 彼らの法則』(以上、日本経済新聞出版)、『仕事ができる人はなぜモチベーションにこだわらないのか』(幻冬舎)などがある。

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(人事・組織コンサルタント 相原 孝夫)

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