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「ワクチン接種を拒む人は罪人で社会の迷惑もの」そう訴える人の言い分

プレジデントオンライン / 2021年9月14日 12時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Inside Creative House

副反応がこわい、などの理由で新型コロナのワクチン接種を避ける人は少なくない。それは他国でも同じ。接種開始が早かった米国の接種率は伸び悩み、9月上旬で53%。ジャーナリストで僧侶の鵜飼秀徳氏は「背景にあるのは、キリスト教福音派の一部の強硬に接種を反対する人の存在。逆に、接種率27%のロシアではロシア正教会が接種しない人は罪人であり、社会の迷惑ものだと訴えている」という――。

■宗教団体がワクチン接種を打て・打つなというそれぞれの言い分

新型コロナウイルスのワクチン接種をするかしないか。

それは最終的には個人の判断にゆだねられるべきことだが、今、海外で宗教団体や宗教者の発言が、ワクチン接種に影響力を持ち始めている。米国では、ワクチン接種比率が伸び悩んでいるが、その背景のひとつにキリスト教福音派の中に反ワクチンを唱える牧師や信者がいるからと言われている。

一方、ロシアではロシア正教会が「ワクチンを拒否する者は、生涯かけて償わなければならない罪人になる」と市民に呼びかけ、物議を醸している。では、日本の仏教はワクチン接種をどう考えているのか。宗教とワクチンの悩ましい関係について触れてみる。

■米国のワクチン接種事情のウラにキリスト教福音派

米国はファイザーやモデルナのお膝元で、世界に冠たるワクチン先進国だ。だが、ワクチン接種が国民の半数に及んだ今年春以降、接種率は鈍化し始めた。現在、米国のワクチン接種終了率は53%(9月8日現在)。バイデン大統領は70%の接種率を目指しているが、実現できるかどうか不透明な情勢だ。

実は自国で承認されたワクチンを持たず、「ワクチン不足」と騒がれた日本の接種終了率は50%(同)で、近く米国を抜かすことは間違いなさそうだ。

米国のワクチン接種が行き詰まっている理由のひとつに、キリスト教福音派の一部に強硬に接種を反対する人々がいるからだといわれている。

福音派はプロテスタントの非主流派で、全米の人口の4分の1を占めている。宗教と国民生活の関係を調べている公共宗教研究所(PRRI)と非営利団体インターフェイス・ユース・コアが今夏に行った調査によれば、白人福音派の中でのワクチン拒否率は24%であったという。

福音派は大統領選挙にも大きな影響を与え、トランプ前大統領の支持基盤としても知られている。聖書の教えに忠実で、人口妊娠中絶や同性婚など世俗化の流れには抵抗の姿勢を示す保守派である。

福音派の一部には進化論を信じず、「血を汚すから」という宗教上の理由でワクチン接種拒否を貫き、科学的なエビデンスに耳を傾けない人も少なくない。もちろん宗教上の理由だけではない。福音派のうち75%がバイデン大統領(カトリック信者)を「支持しない」としており、政治的な理由でワクチン接種を拒否する者も多い。

福音派の一部の牧師がワクチン接種拒否を呼びかけるなどしており、バイデン政権の頭痛の種となっている。

■ロシアのワクチン接種事情のウラにロシア正教会

一方、米国と並ぶワクチン大国でありながら、同様に接種率が伸び悩んでいる国がある。ロシアである。そのロシアで最大の宗教はキリスト教の一派ロシア正教会であるが、米国の福音派のワクチン接種拒否の姿勢とは真逆の対応をみせている。

大統領府のあるクレムリンと、ロシア正教会の聖ワシリー大聖堂。両者の距離は縮まりつつある
撮影=鵜飼秀徳
大統領府のあるクレムリンと、ロシア正教会の聖ワシリー大聖堂。両者の距離は縮まりつつある - 撮影=鵜飼秀徳

ロシア正教会を信仰する割合はロシア国民1億4500万人のうちのおよそ4割。さほどは多くはないように思えるが、国内最大の宗教なのだ。ロシアでは特定の宗教に属さない無宗教者が多いといわれ、また、イスラム教や仏教、カトリック、プロテスタントなど幅広く信仰されている。

先日、ロシアの大手通信社から私のもとに一通のメールが寄せられた。「新型コロナのワクチン接種を拒否する人は、仏教の観点からは罪になりますか」

最初、私は質問の意図を理解できなかったが、どうやらこういうことらしい。ロシアではコロナ感染症が再拡大しつつある。ロシアでは目下、第3波の渦中にある。トータルの感染者数は700万人を超え、死者も20万人に迫る勢いだ。

一方でロシアは独自のコロナワクチンを2020年8月に世界に先駆けて開発、承認し、早々に接種を始めた。現在、人工衛星の名前にちなんだ「スプートニクV」というワクチンのほか複数のワクチンの接種が実施されている。

英国医学誌ランセットによれば、スプートニクVの感染予防率は91.6%と米国ファイザー製(95%)、あるいはモデルナ製(94.1%)とも引けを取らない。当初は疑われた安全性だが、ワクチン接種開始から1年が経過して、大きな問題が生じているとの声は上がってきていないようである。

■ロシアで拡散「ワクチンの中にチップが埋め込まれ人を管理」

それなのに、ロシアのワクチン接種は伸び悩んでいるのはなぜか。オックスフォード大学のOur World in Dataによると完全にワクチン接種を終えた割合はおよそ27%(9月8日時点)だ。

その背景には、政治不信とネット社会がある。ロシアでは、「ワクチンの中にチップが埋め込まれていて人々を管理しようとしている」などの陰謀論がネット上で拡散され、多くの国民がそれを信じてしまっているのだ。その陰謀論を払拭できるのは政治への信頼性だが、それもロシアでは薄い。

そこで、舞台に登場してきたのがロシア正教会だ。ロシア正教会の最高位聖職者である総主教は先日、テレビ番組に出演し、「ワクチン拒否は他の人々の死をもたらす。ワクチン接種を拒否すれば生涯償う必要のある罪人になる」として、接種を強く呼びかけた。

また、ロシア正教会の広報担当も「これまで教会に多くの信者が訪れ、懺悔した。我々は、彼らが自分や大切な人へのワクチン接種を拒み、意に反して他人を死に追いやってしまったと後悔する現場を毎日のように見ている。罪とは他人よりも自分の都合を優先させることだ」と強気の発言をしている。

ロシア正教会は「ワクチン拒否は誤った認識」であることを人々に理解させようと試みたが、脅しめいた発言にはネット上で賛否が渦巻いた。

ロシア正教会が政治におもねる態度は、かねてから指摘されてはいた。ロシアでは基本的には政教分離政策をとっている。ロシア正教会側が政治に忖度したのか、政府からワクチン接種を呼びかけるよう圧力がかかったのかは不明である。

■「日本で新型コロナのワクチン接種を拒否する人は罪になりますか?」

では、仏教者である私は(答えに窮する質問ではあったが)、先述のロシアの通信社の取材にたいしてどのように回答したか。

結論として「仏教ではワクチン接種を拒否することを、罪とはみなさない」と伝えた。確かに、ワクチン拒否は、場合によっては仏教の戒めのひとつ「不殺生(むやみに殺さない)」や「不邪見(誤った見解をしない)」にひっかかるとの見方ができるかもしれない。

だが、接種拒否が他者に死をもたらすというのは飛躍が過ぎる話だ。このような三段論法が通るのであれば、人身事故を起こす可能性のある車の運転も、将来、他人を傷つける可能性のある子供を産むことなども、許されないことになってしまう。

そもそも、ワクチン拒否派をひとくくりにして「悪」ととらえるのは、あまりにも救いがなさすぎる。

コロナウイルスのワクチンの注射を拒否する男性
写真=iStock.com/Abdullah Kilinc
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Abdullah Kilinc

副反応を恐れて、ワクチン接種をストレスに感じ、どうしても接種したくないという人は、わが国にも少なからずいる。そうした人を排除するのは、仏教の説く「寛容」「慈悲」「平等」の精神からも大きく逸脱する。世の中には、いろんな事情を抱えた方、いろんな価値観の人がいるのだ。

ワクチン接種は政治的戦略の側面もある。そこに宗教が関与していくことは、日本における政教分離の観点からも違和感があるというものだろう。

もちろん、日本の仏教界は感染症対策には極めて敏感になっており、ワクチン接種を推奨していることは申し添えておく。浄土宗大本山の増上寺ではワクチンの集団接種会場になっているし、私自身、先日、2回目の接種を終えたばかりである。

福音派やロシア正教会のワクチン問題は、いずれも極端な例だろう。翻れば、良くも悪くも日本の仏教が寛容なのかもしれない。コロナ禍において不寛容は、分断や差別、迫害を生む元凶にもなる。そう思えば、日本仏教がもつ寛容性は、世界にもっとアピールしてもよいのかもしれない。

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鵜飼 秀徳(うかい・ひでのり)
浄土宗僧侶/ジャーナリスト
1974年生まれ。成城大学卒業。新聞記者、経済誌記者などを経て独立。「現代社会と宗教」をテーマに取材、発信を続ける。著書に『寺院消滅』(日経BP)、『仏教抹殺』(文春新書)など多数。近著に『仏具とノーベル賞 京都・島津製作所創業伝』(朝日新聞出版)。浄土宗正覚寺住職、佛教大学・東京農業大学非常勤講師、(一社)良いお寺研究会代表理事、(公財)全日本仏教会広報委員など。

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(浄土宗僧侶/ジャーナリスト 鵜飼 秀徳)

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