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「小6女子いじめ自殺」事件に向き合わなかった名物校長は、教育長に栄転した

プレジデントオンライン / 2021年9月16日 13時15分

2020年11月30日、小学6年生で自ら命を絶った山根詩織さん(仮名) - 筆者撮影

昨年11月、東京都町田市の小学校で、小6の女の子がいじめを苦に自殺した。この学校はICT推進校で、全国に先駆けて「一人一台端末」を配り、校長はその旗振り役として有名だった。しかし、いじめの背景に端末の存在があったことから、校長は「いじめは解決していた」と事実を否認。保護者たちはその態度に憤るようになる。告発スクープ第4弾――。

■死から2カ月半後に重大事態の発生を報告

1月19日、山根達彦さん(仮名)、山根弘美さん(仮名)夫妻は代表委員会に出席して、娘の詩織さん(仮名)がいじめを苦に自殺をしたことを学校関係者に伝えた。

参加者は、PTA役員とクラス委員を務める保護者たち。これまでさまざまな臆測が飛び交っていたが、初めて、亡くなった本当の理由を伝えることができた。それを聞いた保護者たちは学校の対応への不満を口にした。

「詩織さんはいじめられていたことを9月の心のアンケートに書いていたのに、それがいかされなかったことは残念でなりません。いまのままでは学校に不信感が募るばかりで、このまま学校に通わせていいのか大丈夫なのか、不安です」


「正直、学校側の対応には落胆しました。今回の山根さんのことは、絶対闇に葬られてはいけません。学校側はこのまま終わらせていこうとする姿勢としか思えません。山根さん親子の声、この出来事を、子どもたちを含め全世帯で共有してこそ、私たちも次に進める第一歩になるのではなかと思います」


「先日の代表委員会の場で、校長先生があの場を去ったことにとても違和感を覚えました。緊急事態宣言のなか、学校へ向かう意味がある、話し合いの場だと思い、足を運びました。これは一人のお子さまが亡くなっている、命の話なのに、一方的に漠然としたお話をされ、この話を代表委員の保護者にしか説明しない……というのは、どういうお考えのもとなのでしょうか。昨今は、先生方がとても忙しいように見て、ICTも大事だと思うのですが、もう少し本質的な学校の在り方を見直してほしいと思います。ぜひ、学校には形だけでなく、心の通った対応をお願いしたいです」

PTA会長はこうした声を「意見書」にまとめて、1月22日にA校長に提出した。1月27日という約束の期限から遅れて2月1日に返ってきたA校長の回答には、「遺族の意向に沿ってやってきた」という嘘が書かれていた。

山根夫妻は12月25日に「いじめの調査の第三者委員会を立ち上げてほしい」という要望を伝えている。しかし、A校長が「重大事態」が起きたことを町田市教育委員会に報告したのは、2月15日のこと。11月30日の詩織さんの死から2カ月半もの月日が経過していた。

2013年に制定された「いじめ防止対策推進法」では、第28条第1項に「いじめにより当該学校に在籍する児童等の生命、心身又は財産に重大な被害が生じた疑いがあると認める」事態(自殺等重大事態と呼ばれる)を「重大事態」と定義。重大事態が起こった際には速やかに教育委員会などに報告し、第三者委員会を立ち上げて調査することを求めている。A校長の対応は、法律の趣旨を無視するものだ。

■「いじめで自殺は間違った噂」と保護者に説明

2月20日には全校の保護者を対象にした臨時保護者会が開かれた。ここでも詩織さんが亡くなった理由は説明されなかった。むしろA校長は、「いじめで亡くなったという“間違った噂”が流れている」と話した。

「A校長は冒頭で、『いじめで亡くなったという間違った噂が流れているので臨時保護者会を開いた』と説明されました。そして、『遺書を見て、9月にはいじめがあったことを認識していたが、10月、11月の心のアンケートには何も書いていないので、解決した。いじめと自殺は関係ない』と話されました」(PTA会長)

そして、「タブレット端末の使い方とネットトラブルの防止について」というプリントが配られた。そこには「町田市の方針で2020年11月にチャットは使用不可設定になり、本校でも使えなくなったこと」「児童のIDパスワードは家庭と学校で管理すること」などが書かれていた。

学校では昨年12月中旬、唐突に子供たちの端末のアカウントを作り直させている。

そこでは従来の方針と変わって、個別にパスワードを設定させているが、なぜ、そのように変更したのか、理由の説明は一切ない。従来のやり方に問題があったから、アカウントを作り直したのではないのか。

A校長は、メディアでの取材でICTについて「あえてルールを設けず、子供の自主性に任せて、失敗のなかで学ばせる」という方針を語っている。だが、いじめについても、端末利用のトラブルについても、どこに問題があり、どんな解決策を採ったのかを説明していない。それは「失敗のなかで学ばせる」という言葉に反しているのではないだろうか。

■死から3カ月後に、初めて弔問に訪れる

2月24日。山根夫妻は、突然、A校長が副校長と6年生の担任3人を引き連れて自宅へ弔問に訪れたので、心底驚いた。これまで自宅には一切来ようとしなかったからだ。

父親の達彦さん(仮名)は、思わず「一体、どういう風の吹きまわしだい?」と聞いてしまった。詩織さんの遺影の前に無言で座るA校長らに対し、母親の弘美さん(仮名)は、「3カ月もたったのに、これまでどうしてきてくださらなかったのですか? どうして、死んでまで何もしてくれなかったのですか? 卒業まで子供たちに何をしてあげるのですか?」と泣きながら、問いかけた。

父の達彦さん(仮名)と詩織さん(仮名)。父の日の思い出のスナップ
父の達彦さん(仮名)と詩織さん(仮名)。父の日の思い出のスナップ(写真=母親提供)

A校長は「私たちが本当に至らなくて、申し訳ありません。失礼な対応がいろいろあったので、謝りにきました」と説明した。「失礼な対応」とは、詩織さんの机と椅子が片付けられてしまった件を指す。詩織さんが亡くなった後、詩織さんの席に勝手に座ってしまう子供がいたため、担任のB先生が机と椅子を片付けてしまったのだ。弘美さんは「卒業まで詩織をクラスの一員でいさせてほしかった」と泣いた。

この日は加害者のC子・D子とその親も弔問に来ていた。立て続けの訪問に「今日は何かあったのかな?」と山根夫婦は顔を見合わせた。

その日に何があったかは、あとで知ることになった。この日の午前中、A校長が東京都の自治体の教育長に任命されたのだ。山根夫妻は「正式に任命されて安堵したから、弔問に来られるようになったのではないか」と受け止めた。

■子供たちの心に傷を残したまま卒業

3月11日の定例の6年生保護者会では、学校側が初めて「自殺の原因の一つに、いじめがあったこと」を認め、対応を謝罪した。

事件後、詩織さんの担任のB先生は精神的に追い詰められて、学校にいけない時期もあった。謝罪した際に、副校長や6年生の担任の先生たちは目に涙を浮かべながら、深々と頭を下げていたが、「A校長だけはうんざりした様子で、下を向いてうなだれるだけで、頭を下げることはなかった」と保護者は口をそろえる。

そしてA校長は3月末に定年退職し、この4月より教育長を務めている。

詩織さんと幼なじみだった娘を持つ保護者は言う。

「詩織ちゃんが亡くなったと知ったあと、娘は一人で夜寝ることができなくなりました。夜に何度も起きて、学校であったことを思い返し、メモを取っています。熟睡できなくなってしまったんです」(加藤和江さん/仮名)

詩織さんと同じクラブ活動をしていた同級生の女の子は、卒業式が終わってすぐに全身にじんましんが出た。医師は「精神的ストレスだろう」と診断したという。学校が怖くなってしまった子供や、部屋に引きこもるようになってしまった子供もいた。

「2月下旬に『命の授業』が開かれましたが、娘のクラスでは子供たちが『こんな授業をしたって意味がないじゃないか』『いじめだって、否定したくせに』と泣き怒りして大変だったと聞きました。結局、子供たちの心に向き合わず、深い傷を残したまま、卒業となってしまいました」(加藤さん)

詩織さんの母、弘美さんは訴える。

「私たちはかけがえのない娘を失って、何があったのか、本当のことを知りたかった。学校でいじめが起きてしまうこと、それ自体は、先生たちの責任ではないと思っています。ただ、解決に向けて子どもに寄り添ったり、原因究明に真摯に向き合ってくださらなかったことに絶望しています。学校ではいじめ自殺が起きたときに、いじめの事実を隠蔽するケースがあとを絶ちません。なぜなのでしょうか? A校長が教育長に栄転したように、学校はいじめを隠蔽した人が評価される組織なのでしょうか? ことなかれ主義を変えない限り、これからもたくさんの犠牲者が出てしまうのではないかと危惧しています」

料理をつくるのが好きだった詩織さん(仮名)
写真=母親提供
料理をつくるのが好きだった詩織さん(仮名) - 写真=母親提供

(プレジデントオンライン編集部 森下 和海)

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