「立川志らくと立川談春」正反対の2人に学ぶ国民総ツッコミ時代のSNS対処法
プレジデントオンライン / 2021年9月17日 17時15分
■世の中を覆う「品行方正」を求める空気
先の長いトンネルのようなイメージでいたコロナ禍ですが、これはどうやらトンネルではなく、地下鉄だったのではと思う今日この頃でございますが皆様方いかがお過ごしでしょうか?
「明かりが見え始めた」と言った菅さんが辞任しましたが、辞任すること自体が「明かり」という自虐ネタだったのかと勘ぐっています。そんな中ゴールデンボンバーの鬼龍院翔さんの妻となる女性以外の方との「二股交際」が報じられました。ネットではその対応をめぐり、歌のタイトルにちなんで「女々しくて」と批判されているようですが、不倫やら女性問題に限らず、昨今、芸能人や芸人、スポーツ選手など著名人に対する「品行方正」を求めすぎる空気が満ち溢れているような気がします。
最近ようやく復活し始めたチュートリアル徳井さん、逆風の中東京オリンピックにも出場した瀬戸選手などの「しくじり」は記憶に新しいところです。ま、「トイレでコトを済ませてしまっていた」ことが暴露された擁護しにくい方を差っ引いても、特に芸人などはもともと「世の中の常識から外れること」からその芸風を確立させてゆくのが仕事なのですから、なんだか処刑しすぎだなあという違和感を覚えるのが正直な気持ちです。ま、あれって、「トイレでのことなのに水に流せないこと」ではありましたが(笑)。
無論、不倫は悪いことです。失うものや傷つく人が発生するはずの行為ですから慎まなければなりません。断罪されてしかるべき行為ですが、それとて、それは「当事者同士の間で処理されるべき案件」ではないでしょうか? 少なくともこと不倫に関しては、鬼龍院さんの奥さんになる人、あるいは瀬戸選手の奥さんが被害者で、そして不倫相手こそが一番の「当事者」なのですから、彼女らの釈然としない気持ちと感情の処理さえ上手に緩和させることができたら、もうOKだよという風になればいいのになあとつくづく感じます。
実際、その後、瀬戸選手の奥さんはその毅然とした対応が好評のようでテレビにも出演しているようですし、「車の中でコトに及んだことがバレた」俳優の原田龍二さんの奥さんも、同じような対応をしたことが視聴者に受け入れられたようで夫婦円満にコマーシャルにも出ています(「車とトイレ」と場所が違うだけでその後の印象が全く異なるのは、やはり「ブレーキ」の有無でしょうか)。
昔の話を蒸し返しようで失礼に当たるかもしれませんが、ダウンタウンの浜田さんの過去の不倫問題も、浜田さんの親しまれるキャラもさることながらやはり奥さんの度量あふれる包括力で結果的に難を逃れました。
長くなりましたが「不倫問題」は、要するに「当事者同士での解決」こそ肝心なのではという私なりの結論です。
■「俺にも責任の一端がある」談志の自戒
さて、ここからは幾分飛躍させますが、著名人のしくじりなども基本このスタンスでいいのではと私は思うのです(無論、刑事罰に当たるような犯罪などとは一線を画します)。
ネット社会が浸透し、われわれは常に誰かを裁く側に立とうとすることになりました。仲良くさせていただいているお笑い芸人で俳優のマキタスポーツさんはこの世を「ツッコミ社会」と定義しました。誰もが正論側に立とうとして、何かをしでかした「ボケ側」の芸人側を「ツッコミ」で断罪しようとするのがネット社会です。
談志は「もともと芸人なんざ、社会不適合者の集まりだった」とはよく言っていました。そんなはぐれ者集団の中にいたはずの談志でしたが、「常識集団」の象徴たる「国会議員」になったことを本人は自戒気味に「国会議員になったことが恥になっているのは俺ぐらいだ」とも後年述懐していたものです。タレント議員が不始末を起こすたびに「こんな風潮を作った俺にも責任の一端はある」とも言っていましたっけ。
ビートたけしさんは『コロナとバカ』という書籍の中で「芸人がコメンテーターなどのまじめな仕事に手を出してしまったから」などとやはり昨今の風潮を自嘲気味に書き記しています。
とまれ「コンプライアンス」という言葉が叫ばれる度に、ますますおっちょこちょいな芸人への反動が強くなってゆくような気がします。もともとアウトローではみ出し者あるはずの芸人に、なぜ、ここまでコンプライアンスが厳しく問われる時代になってしまったのか。
国会議員も歴任し、コメンテーターもやったという意味で、そのきっかけをつくった談志は今年の11月21日で没後10年にもなります。
談志が生きていたら今の世に対してなんと嘆くでしょうか?
■正論ばかり言っていると自分の首がしまる
ただいま没後10年を記念して『超訳立川談志』という本を執筆中ですが、談志はかつて「ろくな政治家がいない」と嘆く風潮に「あんたの周りを見てみなよ。その中から政治家は選ばれるんだよ、たいした奴がいないのがわかるだろ」と言い切っていました。これを「超訳」するなら、「自分のことを棚に上げてモノを言うなよ」ということになるでしょう。
「言葉はブーメラン」です。「天災」という落語の中で紅羅坊奈丸先生は「天に向かって唾を吐くと己の顔にかかるのが関の山じゃ」とも言っています。
本人はネットで著名人に吐いた正論のつもりでも受け手から見れば「暴言」に近い言葉もあります。それらが一周して自分に舞い戻ってくるとしたらとてもつらい気分に陥るはずです。「ツッコミ社会」「正論社会」とは実はそんな社会なのではないでしょうか?
つまり、他人に対して不寛容なコミュニティは、自分に対しても不寛容になってしまうのではと確信します。正論を主張しすぎるがあまりに逆に自縄自縛、自らが住みにくい社会を構成してしまっているとしたら痛烈な皮肉ですよね。
■芸人として炎上も覚悟で突き抜けたい
かつては著名人とコンタクトを取るにはファンレターなどの「手間暇」「手順」をかけて先方に届けたものです。
それを一気に距離を縮めてくれたのがSNSです。便利さと同時に面倒くささも増幅してしまったのであります。いまや雲の上の人などいません。誰もが同じ地平線上にいる世の中でもあるのです。芸人側もライブの予告などを直に発信もできますし、エゴサーチ(自分の名前を検索する)などをして自分の評判もチェックできるのです。発信者と受信者との壁をなくしたという意味では画期的ですが、誹謗中傷や罵詈雑言も直に受け入れざるを得なくなり、結果として女子プロレスラーの木村花さんが自殺してしまうなど、痛ましいことを引き起こす元にすらなっています。
では、芸人はどのような生き方をすればよいのでしょうか?
談春・志らくという尊敬する両兄弟子がいます。共に同世代で、いまや落語界を牽引するお二人でもあります。
この二人が芸風もさることながらSNSに対して、とても対照的であります。志らく兄さんはツイッターを始め積極的にSNSに取り組んで発信しています。そして、その代償ともいうべき面倒くさい相手とも向き合っています。かたや、談春兄さんは一切のSNSでの発信はしていません。
まったくシンメトリーなお二人ですが、共通するものが実はあります。それは「覚悟」です。
両者ともにそれを徹底しているような感じがします。やるならやるで炎上覚悟か、やらないならやらないで全く無視するか。並大抵ではないですし、だからこそ根底にそれがあるから今の地位に到達したのではと推察しています。
「覚悟」。これは芸人のみならず、いや、SNSに限らずすべてにおいて問われることなのかもしれません。
談志由来の「覚悟」を、談志亡き後、このお二人から学び、追いつけ追い越せの日々であります。
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立川流真打・落語家
1965年、長野県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。ワコール勤務を経て、91年立川談志に入門。2000年二つ目昇進。05年真打昇進。著書に『大事なことはすべて立川談志に教わった』など。
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(立川流真打・落語家 立川 談慶)
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