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「第4のメガバンクを作りたい」新生銀行の買収を目指すSBIを待ち受けるリスク

プレジデントオンライン / 2021年9月21日 11時15分

新生銀行本店ビルエントランス(写真=Wikipedia)

■“第4のメガバンク”を目指しTOBへ

9月9日、北尾吉孝氏が率いるSBIホールディングス株式会社(SBI)と、その完全子会社であるSBI地銀ホールディングス株式会社は、新生銀行に株式の公開買い付け(TOB)を開始すると発表した。今回のTOBによって、“第4のメガバンク”を目指し地銀に出資してきたSBIは新生銀行を傘下におさめたいと目論(もくろ)んでいる。

それに対して、新生銀行は独自路線を歩みたいと考えているようだ。新生銀行は17日に取締役会を開き、買収防衛策として"ポイズンピル"の導入を決議した。また、SBIのTOBから助けてくれる“ホワイトナイト”を模索している模様だ。今後の展開次第では、SBIは新生銀行に対して敵対的TOBを仕掛ける可能性もありそうだ。

企業統合などで重要なポイントは、TOBが事業運営の効率性を高め当該企業の企業価値を高めることになるか否かだ。新生銀行の業績等を見ると、現時点でそれは予想が難しい。ただ、SBIが新生銀行株に約4割のプレミアム(上乗せ価格)をつけたことは、新生銀行の既存株主には魅力に映るはずだ。今後の主要株主の判断やホワイトナイトの出現など、紆余曲折(うよきょくせつ)、これからも色々なことが起こりそうだ。その動向から目が離せない。

■SBIはなぜ新生銀を狙ったのか?

新生銀行の事業運営は、経営陣が思い描いたようには進んでいない。最大のポイントは、同行の収益力が持続的に高まっていないことだ。SBIの発表資料を見ると、過去7期の多くの年度で新生銀行の純利益は減少し、実績が計画を下回る年も多い。純利益が減少傾向にあるということは、株主の価値が増えていないことを意味する。

SBIの2021年4~6月期の決算説明資料には、同社が保有する新生銀行の株価下落によって、142億円の評価損の計上が記載された。収益力の強化が難しい状況下、新生銀行は前身である旧日本長期信用銀行に注入された公的資金の返済もおぼつかない。これまで、新生銀行は収益力を強化するため、SBIやマネックス証券などと提携してきたものの、今のところ、目立った効果は実現できていないのが実情だ。

■マネックスとの提携で両者の関係に変化が

それに対して、2019年4月からSBIは新生銀行の株式を取得し始めた。同年の9月上旬、SBIは新生銀行に提携を求めた。また、同じ月にSBIは地銀との資本業務提携を始めた。SBIは、第4のメガバンクを目指して地銀との合従連衡を進めるために、新生銀行との関係強化を重視していた。システムの共通化や提供する金融サービスの拡充など、SBIは銀行ビジネスの強化と効率性の向上につなげたいと考えていたのだろう。

しかし、新生銀行がSBIのやり方に追随するにはかなりの抵抗感があった。2021年1月に新生銀行は独自性を守るために、マネックスとアライアンスを組んだ。マネックスはネット証券分野でSBIのライバルだ。それをきっかけに、SBIと新生銀行の関係が不安定化した。2021年6月の新生銀行の株主総会では、SBIが取締役選任議案に反対票を投じた。その上で、今回、SBIは約4割のプレミアムを付けて新生銀行へのTOBを発表した。

■新生銀が検討する“ポイズンピル”とは?

新生銀行はSBIのTOBに対抗する方針であり、あくまでも独自性を維持して収益力を強化し、公的資金を返済したいとの意思表示だろう。新生銀行はTOBに対抗するためにアドバイザーを起用しさまざまな対応を検討している。

コイン スタックとチェス盤のグラフ
※写真はイメージです。(写真=iStock.com/MicroStockHub)

新生銀行が今回導入を決めたポイズンピルとは“毒薬条項”と訳される。新生銀行は、SBIを除く既存の株主に事前に新たな株の予約権を無償で配る。そうすることによって、買収を目指す者の持ち株比率を下げ、買収を困難にするのがポイズンピルの目的だ。買収防衛策に関しては、11月の株主総会において株主に発動の是非(ぜひ)を問うことが目指されているようだ。

■セブン&アイ、ソニーグループの名が挙がるが…

また、友好的に支援の手を差し伸べる“白馬の騎士=ホワイトナイト”探しの選択肢もある。新聞などでは、セブン&アイ・ホールディングスやソニーグループなどの可能性が報道されている。新生銀行が持つ消費者金融ビジネスは、事業会社が金融ビジネスを強化するために重要だ。フィンテック(最先端のデジタル技術を活用した金融ビジネス)の強化のためにも、新生銀行に関心を持つ企業や金融機関が登場する可能性がある。

投資ファンドが新生銀行に救いの手を差し伸べるのではないかとの見方もある。今後の展開によっては、SBIによるTOBが敵対的TOBに発展する可能性もある。

今回のTOBに対して政府(金融庁)の本音としては、SBIによる買収はそれなりに好ましい選択肢だろう。SBIが新生銀行に資金を投じ、リストラや事業改革を実行して事業運営の効率性が高まれば、公的資金回収の可能性は増す。それはわが国の金融システムの健全性向上に重要だ。ただ、政府としては公平な立場で買収の展開を見守らなければならない。

■無理やりに買収することの経営リスク

過去3年程度の間、新生銀行の株価は1500円を挟んでもみ合った。新生銀行の株主にとってSBIが4割のプレミアムを付けることは魅力的に映るはずだ。それに加えて、SBIは証券口座と銀行口座の連携によって顧客の利便性を向上させることなど、具体的な成長戦略を明記した。SBIはネット証券分野でシェアを獲得し、さらには銀行ビジネスを強化することによって成長を実現してきた。TOBが新生銀行の改革を加速させ、資本の効率性が高まると期待する株主は増える可能性もある。

ただ、当事者である新生銀行がSBIによる買収に反発していることは軽視できない。被買収企業が反発するTOBは、後々の組織運営に禍根を残す恐れがある。例えば、TOBが成立した場合に当該企業の内部の士気が低下したり、今後の雇用を含め組織運営への不安心理が高まり、人材が流出する展開は否定できない。それは買収を目指した企業の成長戦略の実施にマイナスだ。

現時点で、TOBが価値を生み出すか否かは予想が難しい。新生銀行は買収防衛策を導入する予定で、今後ホワイトナイトを獲得するなど独自路線を維持する可能性もある。SBIによる新生銀行へのTOBは紆余曲折の展開が想定される。

■新生銀には事業運営の高い効率性が求められる

重要なことは、事業会社、金融機関に関係なく、すべての企業は、社会の公器として事業運営の持続性と効率性を高めなければならない。そのために経営者は多様な利害を調整して成長戦略を立案、実行して付加価値を生み出さなければならない。特に、世界経済のデジタル化が加速する環境下、企業が成長期待の高い先端分野に経営資源を再配分する重要性は増している。

SBIが新生銀行に仕掛けたTOBがどのような展開になるかは予想が難しい。その状況下で新生銀行に求められることは、より強い決意をもって事業運営の効率性を高めることだ。同じことはわが国の多くの企業にも当てはまる。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。

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(法政大学大学院 教授 真壁 昭夫)

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