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「ミサイルをちらつかせれば交渉は有利になる」北朝鮮の横暴をこのまま許していいのか

プレジデントオンライン / 2021年9月18日 11時15分

北朝鮮の「鉄道機動ミサイル連隊」によるミサイル発射訓練=2021年9月15日、朝鮮中央通信提供 - 写真=AFP/時事通信フォト

■事実とすれば日本のほぼ全土が射程圏に入ることに

9月13日に北朝鮮の国営メディアが「11日と12日に新型の長距離巡航ミサイルの発射実験を実施し、成功した」と報じたのに続いて、15日には北朝鮮が短距離弾道ミサイルを日本海に向けて発射した。

制裁を続ける日米韓を中心とする国際社会に対する挑戦状だ。ミサイルの性能をアピールすることで、今後の交渉での制裁解除の「カード」にするつもりなのだろう。

確かに北朝鮮のミサイル発射の技術は向上している。ミサイルは、放物線を描いて飛ぶ「弾道ミサイル」と、飛行機のように水平に飛ぶ「巡航ミサイル」の2つに分けられる。11日と12日に発射された新型の長距離巡航ミサイルは、低い高度で飛ぶため、レーダーで捉えるのが難しい。北朝鮮は「1500キロ先の目標に命中した」と発表したが、これが事実とすれば日本のほぼ全土が射程圏に入ることになる。

一方。15日の短距離弾道ミサイルは、落下時に空気抵抗を利用して変則的な軌道を描くため、落下予測が難しい。日本のミサイル防衛はイージス艦とPAC3の二段構えだが、高度が低いためイージス艦では迎撃できず、PAC3で対応する必要がある。

地対空誘導弾ペトリオット(PAC-3)
写真=航空自衛隊
地対空誘導弾ペトリオット(PAC-3) - 写真=航空自衛隊

北朝鮮のミサイルにどう備えるのか。自民党の総裁選挙(9月17日告示、29日投開票)では、安全保障政策も議題にするべきだろう。

■敵基地攻撃能力の保有か、それとも抑止力の向上か

総裁選への出馬を正式に表明した各候補は、北朝鮮のミサイル発射に対してどんな意見を述べているのか。

前政調会長の岸田文雄氏は、敵基地攻撃能力の保有も含め、防衛能力の向上を検討する考えを示している。敵基地攻撃能力とはミサイル発射などを阻止するために敵の基地を直接破壊できる能力を指す。念頭にあるのは北朝鮮によるミサイル攻撃だ。敵の攻撃を察知してすぐにたたくわけだが、事前に察知するためには高度な軍事技術が必要になる。攻撃を受けたときに初めて防衛力を行使できるという、日本の専守防衛の議論にも触れるだけに慎重な意見も出ている。

前総務相の高市早苗氏も敵基地攻撃能力の保有に肯定的で、「精密誘導ミサイルを保有したい」と話し、「敵基地を無力化するためのサイバー攻撃も可能にすべきで、そのための法整備を検討したい」と述べた。

岸田氏や高市氏に対し、防衛相を経験している行政・規制改革相の河野太郎氏は敵基地攻撃能力の導入について、「敵基地攻撃能力は昭和の概念。抑止力は日米同盟で高めていく。短絡的な議論は避けるべきだ」と主張している。

■「巡航ミサイル」の発射は禁止されていない

朝鮮中央通信によると、新型長距離巡航ミサイルの開発は北朝鮮国防科学院によって2年前から進められてきた。北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記も今年1月、「中長距離の巡航ミサイルを開発した」と語っていた。ナンバー2の実力者と言われる実妹の金与正(キム・ヨジョン)・朝鮮労働党中央委員会副部長は8月の米韓合同軍事演習に対し、「信頼回復を望む北と南の首脳の意思を損ない、行く末を曇らせる。必ずや、代価を払うことになる」と強く抗議していた。

金与正氏の指摘した「代価」が、新型巡航ミサイル発射実験なのだろうか。たしかにそのタイミングは、日米韓3カ国の東京協議(9月14日)の直前となっている。

北朝鮮はトランプ政権下で行ったようにアメリカと対等に交渉し、何とか制裁の解除に漕ぎつけようと必死なのである。そのためにまず新型長距離巡航ミサイルの開発を明かし、次に8月の米韓合同軍事演習に反発し、そして今回のミサイル発射実験の公表へと動いた。

巡航ミサイルは核弾頭を小型化することができれば、核の搭載も可能となり、大きな脅威となる。国連安全保障理事会の北朝鮮制裁決議では巡航ミサイルの発射は禁止されていない。北朝鮮はそこに目を付けたのだろう。北朝鮮は思惑に沿って計画通りに行動している。その姿勢には北朝鮮特有の狡猾さが滲み出ている。

■アメリカは「発射成功」とは断定していない

「事実であれば」と書いたように、いまのところ北朝鮮が新型ミサイルの開発に成功したとは断定できない。

アメリカは監視衛星と独自の情報網によって常に北朝鮮の動きを捉えている。それにもかかわらず、アメリカは「発射成功」とは断定していない。北朝鮮国内を飛行させたといっても、約2時間の飛行を追跡できないはずがない。隣国の韓国も確かな情報を把握できていない。日本の加藤勝信官房長官も記者会見で「事実とすれば」と繰り返していた。新型長距離巡航ミサイルの発射実験の「成功」は怪しい。

北朝鮮もこれでは揺さぶりや脅しにならないと判断し、15日になって、今度は短距離弾道ミサイルを日本海に撃ち込んだのだろう。しかもその弾道ミサイルは変則軌道を持つ、迎撃の難しいミサイルだった。

15日の防衛省の発表によれば、15日午後0時32分ごろと37分ごろに北朝鮮は内陸部から日本海に向けて少なくとも2発の弾道ミサイルを発射した。飛行距離は750キロ、最高高度は50キロだった。日本が主権的権利を持つ排他的経済水域(EEZ)内に落下した。このミサイルはロシア製のイスカンデル型の改良版とみられている。

■瀬戸際戦術は、北朝鮮の常套手段

北朝鮮の弾道ミサイル発射について9月16日付の産経新聞の社説(主張)は「挑発阻止へ圧力の強化を」との見出しを掲げ、こう訴える。

「国連安保理は速やかに会合を開いて、さらなる制裁措置を講ずるべきだ。その際、北朝鮮が13日に発射実験を発表した新型長距離巡航ミサイルへの対応も、議論の俎上に載せてもらいたい」

沙鴎一歩は、国連安全保障理事会による「さらなる制裁措置」には賛成だ。これまでの制裁が効いているから、北朝鮮は反発してミサイルを打ち上げるのである。

産経社説は「軍事挑発をてこに、米国や日本などから制裁緩和を引き出そうとする瀬戸際戦術は、北朝鮮の常套手段だ」と指摘し、「挑発を重ねて日米など国際社会の反応をうかがっているが、決して許してはならない」とも主張するが、その通りである。

■産経社説は「敵基地攻撃能力の保有も決断すべきだ」と主張

さらに産経社説は指摘する。

「北朝鮮の脅威は、日本列島を越える弾道ミサイルを相次いで発射し、露骨な軍事的恫喝をかけてきた頃よりも増している」
「北朝鮮に核・ミサイル戦力を放棄させるため、日本政府は国際社会を主導すべきだ。安保理へ制裁強化を働きかけるとともに、バイデン米政権と協議して、経済、軍事両面で圧力をかけていく路線に復帰しなくてはならない」

確かに北朝鮮の脅威は増大している。ミサイルの射程下にある日本が国際社会をリードしたいものである。

最後に産経社説は「日本自身の防衛力強化は急務だ。弾道ミサイルに加え、巡航ミサイルを撃ち落とす態勢を整えるのは当然だが、敵基地攻撃能力の保有も決断すべきだ。それが抑止力を格段に高める道である」とも主張する。

敵基地攻撃能力の保有は、単なる抑止にとどまらずに北朝鮮を大きく刺激することにもなる。慎重な議論が求められるだろう。

■産経社説は「脅威は北朝鮮にとどまらない」

産経社説は9月14日付でも北朝鮮のミサイル問題を取り上げ、「加藤勝信官房長官が会見で『事実とすれば、日本を取り巻く地域の平和と安全を脅かすものだ』と述べたのはもっともだ」と書いた後、こう指摘する。

「北朝鮮による核実験や弾道ミサイルの発射は国連安全保障理事会の決議に違反する。巡航ミサイルはこれまで決議の対象になっていないが、脅威であることに変わりはない。日本は、迎撃や抑止の手立てを新たに講じていくとともに、北朝鮮には長距離巡航ミサイル発射も認めないよう外交努力をはらうべきである」

産経社説が指摘するように、安保理決議の対象外であっても脅威であることは間違いない。長距離巡航ミサイル発射の開発を認めないよう国際社会に訴えていくべきである。

さらに産経社説は「脅威は北朝鮮にとどまらない」と書いて次のように指摘する。

「鹿児島県・奄美大島の東側の日本の接続水域で10日、潜水艦が潜ったまま航行した。防衛省は中国海軍の潜水艦とみている。国際法上、違法とまでは言えないが、領海外側の接続水域を潜航するのは挑発的行動である」
「北海道知床沖では12日、ロシア機が2度にわたって日本の領空を侵犯した。航空自衛隊機が緊急発進(スクランブル)して退去するよう警告した」

中国やロシアも日本を挑発する。問題はそれに日本がどう対応していくかである。

■敵基地攻撃能力の導入は、隣国を挑発することになる

産経社説は主張する。

「自民党総裁選が近く告示される政権過渡期を狙ったかのような近隣諸国による軍事的な問題行動である。政府や自衛隊は警戒を強めるときだ。総裁選立候補者は、安全保障環境をどのようにとらえているか、敵基地攻撃能力導入を含め核・ミサイルの脅威から国民をどのように守るつもりか、具体的見解を示さなければならない」

総裁選の立候補者が日本の安全保障をしっかり考え、的確な方策を講じられるよう努力するのは当然である。ただし、繰り返すが、敵基地攻撃能力の導入を声高に叫んで北朝鮮や中国、ロシアを挑発するのはいかがなものか。ここはこれまでのように同盟国のアメリカの国際政治力や軍事力をうまく利用しながら対応していくべきではないか。

■北朝鮮は「挑発の不毛さ」を認識すべき

9月14日付の朝日新聞の社説は冒頭部分から「北朝鮮は、際限のない軍備強化と挑発の不毛さを認識すべきだ。自らの経済苦境を脱するためにも、米国のバイデン政権との対話に応じるべきである」と主張する。見出しも「北朝鮮の挑発 対米対話しか道はない」である。

挑発行為は不毛だ。アメリカも9.11テロの報復としてアフガニスタンやイラクに出兵し、20年戦い抜いたが、撤退に追い込まれた。その結果、多くの兵士が犠牲になった。戦争ほど不毛なものはない。

朝日社説は「だが(日米韓に反発する)一方で、最近の北朝鮮からは、米国との関係悪化は望まず、条件次第では対話を始めたいとの発信も垣間見える」と書いたうえで、こう指摘する。

「米朝対話は、トランプ前大統領によるハノイでの首脳会談以来、2年間滞っている」
「バイデン政権は、問題の一括合意を求めた前政権と異なり、北朝鮮の段階的な非核化をめざす『現実的なアプローチ』を掲げる。その上で対話の再開を求めているが、回答はない」

■コロナ感染の恐怖もあるのではないか

好んで露骨なディール(取引)もするトランプ前大統領とは違い、バイデン大統領には石橋をたたいて渡る慎重さがある。北朝鮮の金正恩氏はそんなバイデン氏がどう出てくるか、探っているのだ。

朝日社説は主張する。

「北朝鮮の外交が止まって見える背景には、米国への警戒感のほか、コロナ感染の恐怖もあるのでは、といった見方がある。理由が何であれ、北朝鮮を対話の舞台に誘い出す努力を周辺国は惜しむべきではない」

その通りである。北朝鮮を対話の舞台に誘い出すことこそが、朝鮮半島の非核化に結び付く。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)

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