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「入党までは1年待ち」中国のエリートがこぞって共産党に入りたがる日本では考えられない理由

プレジデントオンライン / 2021年10月1日 10時15分

中国共産党創立100周年祝賀文芸公演「偉大な征途」が6月28日夜、北京国家体育場(鳥の巣)で盛大に行われた。写真はフィナーレの会場一斉合唱の様子。 - 写真=中国通信/時事通信フォト

■「共産党党員」とはいったいどんな人?

今年、創設100周年を迎えた中国共産党は党員数が9514万人に達した。特に習近平氏が政権を握った2012年以降は党員の増加が著しく、若者の入党が目立つ。中国社会において「共産党党員」とは一体どんな存在なのか。習近平思想が必修科目になったことで、中国の若者はどのような影響を受けるのだろうか。

中国共産党の機関紙「人民日報」は、「今年6月5日の時点で、中国共産党党員は9514万人に達した」と報じた。1949年に中華人民共和国が建国された当時は449万人だった共産党党員が、約21倍の規模に膨らんだ形だ。中国共産党の統計(共産党党内統計公報)によれば、新中国建国から改革開放路線が定まる1978年までの29年間で1456万人が、また1978年から2012年の中国共産党第十八次全国代表大会(以下、第十八回党大会)までの34年間で累計6094万人が党員になったという。

しかし、「党員」と言っても私たち日本人にはピンとこない。党のバッジを身に着けているわけでもないので、見た目では「この人が党員なのかどうか」の判断もつかない。どのような“思想信条”を持っているのかについても伝わってこない。実態がつかみにくいのは、この手の政治的な話題は中国人の間でも「敏感すぎる」と避けられているからだ。

■出世するための条件の一つにすぎなかったが…

上海出身で東京に在住する郭さん(仮名・50代)は、「父親が党員でした。昔は国営企業の課長以上ともなれば、自動的に党員になったものでした」と振り返る。

山崎豊子の小説『大地の子』(文藝春秋)では、主人公・陸一心が勤務先の重工業部の上司から「党員にならないか」と誘いを受けるシーンがある。時代は改革開放路線が始まったばかりの70年代末~80年代。残留邦人でもある陸一心は逡巡するが、最終的に党員になる道を選ぶ。上司の顔を立てないわけにはいかないという理由もあるのだろう。今でも「誘われたら10人に7人が受け入れるのではないか」と郭さんは話す。

陸一心の場合は、内輪で簡単な宣誓式とパーティーが行われたようだ。現代中国の研究者である愛知大学の加々美光行名誉教授は、「入党儀式は簡単で、マルクスの『共産党宣言』の中国訳本に志願者が手を置いて忠誠を誓えば、それで入党することができました」と語る。現代でも入党は形式的であり、「中身を熟読する必要もなく、マルクス主義、社会主義について深く理解していなくてもいい」(同)と言う。

1978年以降の改革開放路線をひた走る中国では、多くの人が「赤い中国」から「桃色に近い中国」に変貌する中国社会を実感していた。政治色の薄い上海社会ではなおさら、「党員」の存在感はさほど大きくはなく、公務員や国営企業の職員が単に高い職位に就くための条件の1つにすぎなかった。翻(ひるがえ)せば、それほどまでにマルクス主義、社会主義は影響力を失っていたといえる。

■習政権になってから年200万人ペースで増えている

だが、2012年に行われた第十八回党大会以降、風向きが変わる。同年に習近平氏が最高指導者の座に就くと、これまで「過去の遺物」とされていた毛沢東思想を復活させ、党のネットワークを張り巡らすべく、2010年代中頃から政府機関や民営企業、大学や弁護士事務所などで党の組織を立ち上げた。ちなみに毛沢東は、中国共産党革命の要諦として「党結成」の重要性を掲げている。

天安門広場
写真=iStock.com/SCM Jeans
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SCM Jeans

当時、中国沿海部の大都市に拠点を持つ某法律事務所に勤務していた弁護士の李さん(仮名・40代)は、「事務所には共産党の支部が置かれるようになり、気が付けば私の周りには若い党員がたくさんいました」と語る。

前出の共産党の統計に基づくと、新中国建国の1949年から1978年までは年間で約50万人ずつ、その後の2012年までは年間で約180万人ずつ増えた計算だが、習近平政権になってからはその伸びが著しい。2012年から2021年6月までの足掛け9年で1952万人が入党、平均すると年間で216万人ずつが党員となったことになる。また、2021年6月5日の時点で、30歳以下の党員は1255万人となった。2693万人を占める61歳以上の党員に続いて多く、党が若返りを意図していることが伺える。

■推薦書、思想報告書などの書類に審査は1年以上…

しかも近年は質の底上げを狙っているのか、手続きも煩雑になっているようだ。ウィキペディアに相当する中国の「百度(バイドゥ)百科」によると、動機をまとめた手書きの入党申請書はもちろんのこと、推薦書、思想報告書、経歴書、入党志願書など、ありとあらゆる書類を準備しなければならないという。しかも、入党対象者の候補に選出されてから実際に入党が許可されるまでは、最短でも1年はかかるともいわれている。一定期間の思想教育と審査を経て、条件に合う者だけが党員になれるというしくみだ。

例えば、陝西省延安市の「延安大学」は、中国共産党によって設立された最初の総合大学だが、ここでは9割の学生が入党を申請すると言われている。しかし条件は厳しく「4年間で党員になることができるのは、クラスで5人の学生だけだ」と、中国共産党系メディア「求事網」(2019年7月10日)は伝えている。

■党員になったのは「就職に有利だから」

一方、弁護士の李さんによれば、「部下の党員たちからは、党への強い憧れはそんなに感じられない」という。

「党員になれば得をするから、というレベルですね。『君はなぜ党員になったの?』と聞くと、たいてい『履歴書に党員と書くと就職に有利だから』と答えます。『党員は勧善懲悪・品行方正』というイメージが強いので、採用する側も欲しがるし、誰もがなれるというわけではないから箔(はく)づけになるのでしょう。中国では、仕事と政治が密接に関わっているので、一般企業にとっても党員の存在は都合がいい。言ってみれば、誰もがみな“自分の利益”のために党を利用しているんですよ」

李さんは部下の党員に「中国共産党の思想信条を説明してみてよ」「毛沢東思想、鄧小平理論、マルクス主義について君はどう思う?」などと、わざと質問したことがあったが、案の定、彼らはみな回答に詰まってしまった。「かろうじて答えられた党員もいたものの、子どもの頃に誰もが暗唱させられたような内容でした」と李さんは明かす。

■コロナを戦った党員を英雄に重ねる若者たち

習近平政権が推進する“政治思想工作”に強烈な追い風が吹いた。それが、2020年1月からの新型コロナウイルスの感染拡大だった。1月23日に湖北省武漢市を封鎖するや矢継ぎ早に対策を打ち、76日間でほぼ感染拡大を封じ込めたことは周知のとおりだ。

崩壊した武漢市の医療施設には、医療チームが中国各地から送り込まれた。すると院内はたちまち秩序を回復させ、非常時における衛生管理体制が確立された。病床の不足には、野戦病院をモデルにして10日間で病院を建設するという荒業もやってのけた。住民の出入りの管理は、もともとあった居民委員会が徹底して外出を抑え込んだ。民主主義国家からすれば「考えられないロックダウン」だったが、国民の多くがこのやり方を支持した。

瀋陽市出身の張さん(仮名・20代)は「コロナ禍で見せた団結力に国民が感動したのは事実です。人民の団結は中国共産党のスローガンであり、党が命を救ったと思う人もいました」と語る。奇しくも今年は中国共産党創立100周年だが、このコロナ禍の闘いが生んだ“感動物語”が、習近平政権に“いっそうの輝き”を与える結果となった。

コロナ禍を経て、入党を志願する90后(1990年代生まれ、22歳~31歳)や00后(2000年代生まれ、12歳~21歳)という若い世代が増えているといわれているのは、こうした“感動物語”と無関係ではないだろう。入党資格は18歳以上だが、中国共産党新聞は「危険を顧みず最前線で力を尽くす党員たちを見て、20代の教職員、看護師、派出所の警察官などが、入党を志願している」と伝えている。

■地方出身者と高学歴の志望者が目立つ

習近平政権になってから党員が増えたことは前述したとおりだ。しかも35歳以下の党員は2367万人と全体の約4分の1を占める。職業的には、工場労働者(648万人)や第一次産業の従事者(2581万人)が全体の約33%を占める。冒頭に登場した郭さんは「入党に目を輝かせるのは沿海部ではなく地方の出身者が多い」と語る。毛沢東の革命が農村で起こったことと無関係ではないようだ。

また、近年は高学歴化もひとつの特徴となっており、専門学校・大学卒以上の学歴を持つ党員は4951万人と52%を占めている(数字は共産党党内統計公報)。

勉強する中学生
写真=iStock.com/taka4332
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/taka4332

2010年代も半ばを過ぎると、大学内部にも党の支部が配置され、学部ごと、また学年ごと、あるいは学生寮や社区(住宅棟を管理する地域コミュニティー)などにも、党の組織がつくられるようになった。“政治思想工作”に携わる専門人材までも配置し、「その数は教師と学生の数の1%以上としなければならない」などとする規定もできた。隅々にまで中国共産党の血流を行き渡らせ、末端の基盤を確固たるものにしたいと願う中国共産党の眼は、若者とその教育に向けられている。

■「マルクス主義」の授業から“習近平思想”へ

今年7月21日、国家教材委員会は「習近平新時代の中国の特色ある社会主義思想の教材指南」(以下、教材指南)を発表し、学校の教科書でも“習近平思想”を教える方針を示した。その後、9月1日から全国の小学校~大学において、「思想教育」が教育課程として導入された。

既報の通り、習近平国家主席の思想である「愛国心」や「強国の志」などを学ぶ授業であり、教材指南には「習近平の新時代の中国の特色ある社会主義思想とは、中国のマルクス主義・21世紀のマルクス主義であり、それが中華民族復興を実現する」と書かれている。

もっとも大学教育を中心に、中国では以前から「マルクス主義」の授業があった。だが、四川省出身で上海の大学院を卒業した朱さん(仮名・30代)は「授業そのものに熱を入れる学生などほとんどいなかった」と10年前を振り返る。

「いまさらマルクス主義を学んで何になる、という空気が強く、学生たちのほとんどが授業時間を他の先生や教授から出された宿題をこなす時間に充てていました」(同)

改革開放路線の発展とともに、中国社会では「社会主義教育」「マルクス主義教育」は形骸化した。かつては入党も簡単だったように、中国共産党の上層部から末端の党員まで「共産党の信念」を持った人物などはほんの一握りだった。

■出世に影響するとなれば勉強するしかない

だがここに来て、習近平氏は本気でこの教育を浸透させようとしている。社会主義教育は小学校の授業にも根を下ろそうとしており、前述の教材指南はその意義を「党、国家、社会主義を愛する種を若い心に植えること」だと示している。

背景にあるのは、来年開かれる第20回中国共産党全国大会だ。加々美名誉教授は「3期目の続投が確実と見られる習近平氏が長期政権を安定させるために、毛沢東死後の最高指導者だった華国鋒元首相(在任1976~80年)以降、指導者たちの誰もがやらなかった『社会主義教育』を、習近平氏が40数年ぶりに持ち出してきた」と語っている。

長年の「不人気科目」が、一転して「重要科目」になろうとしているのは、中国の大きな転換点を示すひとつの現象だが、少なくともこれからの中国の若者に与える影響は小さくないものと思われる。

「社会主義教育は進学や就職に影響しないこともあり、学生たちはせせら笑っていられましたが、習近平氏はこの『社会主義教育』を教育の中核に持ってこようとしています。今後は出世に影響し、また社会的地位を高める上で極めて重要な意味を与えるともなれば、誰もが必死になってこれを勉強するでしょう」(加々美氏)

■習氏の野望は「自分の思想を世界に輸出する」

過去の歴史を振り返れば、「毛沢東思想」が指導理念として党規約に加えられたのが1945年の第7回党大会でのことだった。それにさかのぼる1941年、毛沢東は「われわれの学習を改造する」などの報告を行い、反対派を粛清するための「整風運動」を起こした。まさに1940年代は毛沢東がその絶対性を確立させた重要な時期だと言える。

習近平氏もこの70年数前の“いつか来た道”をたどる。同氏が現政権の座に就いてからわずか1年で“毛的色彩”が強まり、「党員たちは『習近平思想』について、毎日のようにアプリで勉強するようになった」(浙江省出身の鄭さん)。学習強化の目的が、国内における習氏自身の絶対化と揺るぎない地位の構築にあることは明白だ。

中国の歴史学者である程映虹氏は、論文で「毛沢東の目的の1つは毛沢東思想を世界に輸出し、世界革命を起こして帝国主義を打ち負かすことにあった」と述べているが、この血脈と執念は習近平氏にも受け継がれている。

これほどに習近平氏が思想やイデオロギーにこだわるのはなぜか。国内的には、経済成長の鈍化を背景に、党の正当性を強調し求心力にしたいようだが、一方で対外的な意図も見え隠れする。

そこには、「自由」や「民主」という価値観を世界に広めようとした西側諸国に対抗すべく、「習近平思想を世界に輸出する」という目論見があるのではないか。3年も待たずして1億人を超えるであろう中国共産党党員こそが、そのための手足になることは間違いない。

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姫田 小夏(ひめだ・こなつ)
フリージャーナリスト
東京都出身。フリージャーナリスト。アジア・ビズ・フォーラム主宰。上海財経大学公共経済管理学院・公共経営修士(MPA)。1990年代初頭から中国との往来を開始。上海と北京で日本人向けビジネス情報誌を創刊し、10年にわたり初代編集長を務める。約15年を上海で過ごしたのち帰国、現在は日中のビジネス環境の変化や中国とアジア周辺国の関わりを独自の視点で取材、著書に『インバウンドの罠』(時事出版)『バングラデシュ成長企業』(共著、カナリアコミュニケーションズ)など、近著に『ポストコロナと中国の世界観』(集広舎)がある。

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(フリージャーナリスト 姫田 小夏)

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