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「若手ほど次々に辞めていく」憧れの職場だった鉄道会社が、斜陽産業の筆頭になりつつあるワケ

プレジデントオンライン / 2021年10月1日 9時15分

「経営改善委員会」後、記者会見したJR北海道の島田修社長(右)と委員長を務めるANAホールディングスの片野坂真哉社長=2020年11月19日、札幌市のJR北海道本社(写真=時事通信フォト)

■7期連続で「全区間の赤字」のJR北海道

「官房長官、総理として国難ともいえるコロナ対策に全力で取り組まれるなか、当社の経営再建問題についても常に気にかけ強力なご支援を頂いたことに深く感謝申し上げます」。菅義偉首相が自民党総裁選に出馬しない方針を表明したことを受けて、JR北海道の島田修社長はこうコメントを出し、謝意を示した。

後手後手のコロナ対策で批判を受け、「退陣」を突き付けられた菅内閣だが、訪日客の増加につなげたインバウンド関連の取り組みや「Go toトラベル」をはじめとする観光施策は低迷する北海道経済の活性化に大きく貢献したのは事実だ。

特にコロナによる旅客数の激減で崖っぷちに立っていたJR北海道にとって、年末に決まった国からの財政支援は大きかった。

JR北海道の2021年3月期の区間別収支は、全23区間で営業赤字だった。赤字幅は841億円と過去最大で、全区間の赤字は、区間別収支の公表を始めてから7期連続だ。

最後にすがるのは国しかなかった。政府は2020年度で切れるJR北海道とJR四国に対する支援を継続するための改正法を今年1月末に閣議決定した。このなかでJR北海道は2021年度以降3年間に総額1302億円の支援を受けることになった。過去2年の3倍を超える額だ。21年度からの新たな支援策では鉄道建設・運輸施設整備支援機構からの借入金を株式に振り替えるデット・エクイティ・スワップ(DES)や追加出資による増資も盛り込むなど「大盤振る舞い」だ。国交省の幹部は「東北出身で地方の窮状を知る菅首相が政権トップだったからできたこと」と打ち明ける。

■自己都合退職者の7割が40歳未満の若手社員

JR北海道の島田社長は「経営自立に向けた経営改善が継続可能になるという意味で大変ありがたい」とした上で「徹底した経営改善に今後、背水の陣で臨む所存だ」と話すが、依然として再建の道筋は見えない。

なかでも深刻なのが、若手社員の大量流出だ。20年度のJR北海道の自己都合退職者は過去最高の183人に及んだ。しかも、その約7割が40歳未満の若手社員だ。同社は22年春入社の採用を21年春並みの270人としているが、このままのペースで退職者が増えると「列車運行に直接支障が出てくるところまで来ている」(島田社長)という状況まで追い詰められている。

実際、函館線(長万部~小樽間)では倶知安保線管理室に勤務する社員2人が新型コロナウイルスに感染し、運転士を含む社員約50人が一斉にPCR検査を受けたため、2月28日から3月1日にかけて一部運休する事態に陥った。運転士不足による運休は異例で、2月28日は運転士不足により5本が運休し、3月1日も31本の運休を決めるなど、人手不足が日常の列車運行に影響しはじめている。

■「経営安定化基金」での穴埋めは実質破綻状態

民営化以降、鉄道事業の営業黒字を達成したことは一度もないJR四国も同様だ。21年度から5年間で1000億円の国の追加支援を受けることが決まったが、それまでの国の「経営安定化基金」の運用益で赤字を穴埋めしてきたやり方は実質破綻している。

過去には最大7%を超える高金利が国から約束され、年150億円の営業外収益があったが、17年度からはJR四国による完全自主運用に切り替わった。資金が底をつくたびに国に資金支援の追加や延長を求めてきたが、限界にきている。

JR北海道やJR四国は巨額の資金支援を受ける代わりに、国から厳しい経営チェックを受けることになる。特にJR北海道は人手不足で冬の大雪などでの保線業務に支障が出れば通常運行に影響が出る以外に、大きな事故にもつながりかねない。「輸血だけではもたない。経営の枠組みを抜本的に変えないといけない」と国交省も焦りの色を浮かべる。

■活路はJRと私鉄との提携を進める「上下分離」方式

打開策の一つとして考えられるのが、「上下分離」方式だ。鉄路など運行インフラは国や沿線自治体が管理保有し、鉄道会社がそのインフラを借り受ける仕組みだ。国や自治体がインフラ関係費用を負担するため、鉄道事業者の費用負担が軽減される。欧州諸国の鉄道の大部分は上下分離方式で運営されている。

日本でも2007年に制定された地域公共交通活性化再生法により、上下分離の実施が制度上可能となったが、自治体などの反発から、その動きは鈍かった。しかし、地方の過疎化の進行や相次ぐ災害で地方路線の存続に向け採用に動くケースがようやく出てきた。

E5 系新幹線
※写真はイメージです。(写真=iStock.com/MasaoTaira)

11年7月の新潟・福島豪雨で被災したJR只見線は22年度から、また経営難に直面する近江鉄道は24年度から、それぞれ上下分離での運行開始を決めた。

JR九州は8月、22年秋の西九州新幹線(武雄温泉―長崎間)開業時に、並行する長崎線の肥前山口―諫早間を上下分離方式で運行するための申請を、国土交通相に提出した。

JR北海道はJR東日本が間に入る形で私鉄大手の東急電鉄と観光列車の分野で共同運営を昨年から展開している。「上下分離」方式が浸透すれば、JRと私鉄との提携の呼び水になる可能性は高い。国交省幹部は「コロナ感染が収束すれば、リベンジ消費に加え、インバウンドも戻る。コロナを奇貨として抜本的な改革に踏み込む必要がある」と漏らす。

■業界の垣根を越えた「MaaS」での連携

さらに一歩踏み込んで、業態を超えた新たなサービスの展開も苦境打開の有効策となる。海外で進む次世代移行サービス「MaaS」の普及・強化だ。

国交省は航空機の出発から到着までの運航データを民間事業者に公開する方針だ。これはすでに欧米では実施されている。その狙いは、鉄道やバスの乗り継ぎなどを含めた移動サービスの向上や新たな事業開発だ。

国内勢が参考にしているのはドイツだ。独ルフトハンザは航空と鉄道、さらには路線バスやレンタカー会社と連携して、目的地までの最適な経路の一括検索や予約ができるサービスを展開している。独SAPグループや米コンカーも出張者や旅行者向けの旅程管理アプリを提供。利用者は航空機やホテルの予約メールをアプリで転送するだけで、現地の交通手段や飲食店などの情報を得られる。2007年から始めたこのサービスの世界の利用者数は1700万人に上る。

フランクフルト空港に駐機中のルフトハンザ航空機
※写真はイメージです。(写真=iStock.com/Nate Hovee)

こうした動きに触発される形で全日本空輸(ANA)も22年度にも航空機と鉄道など地上交通を組み合わせた経路を検索し、一括で予約できるシステムを導入する。日本航空(JAL)もJR北海道やJTBと連携して北海道観光の商品企画や運航サービスを手掛ける取り組みを10月から始めるなど、業界の垣根を越えた連携策が出てきた。

■「水と油」を言われた阪神と阪急も統合できた

JRや私鉄各社は傘下に百貨店やスーパーなどの小売りやホテルなどを抱える。東武鉄道なら銀座を拠点とする松屋グループや東京スカイツリー、京成電鉄は東京ディズニーランド・ディズニーシーなどのテーマパークをもつ。西武ホールディングスは全国各地に持つプリンスホテルの売却を含めた再建策を検討、今後はホテルの運営に特化する方向だが、航空会社や旅行各社との運航データや顧客情報の共有を通じて、新たなサービスの発掘による旅客・観光需要の掘り起こしは可能だ。

かつて日本旅行と近畿日本ツーリスト(現・KNT-CTホールディングス)が親会社のJR西日本や近畿日本鉄道が主導する形で統合する計画があったが、両旅行会社の反発を受け、頓挫した。私鉄はオーナーやそれに連なる人脈が経営トップにいるため、再編が進みづらい。しかし、東急は創業家である五島家が、西武では堤家が、バブル時代の不良債権の処理や不祥事で経営からそれぞれ身を引いた。

阪急百貨店やパレスホテル、さらには東宝や宝塚歌劇団を持つ阪急も、「水と油」を言われた阪神と、投資家や市場からの圧力に屈する形で経営統合した。

■「通勤客はコロナ前に戻ることはない」

多くの鉄道会社幹部は「コロナが収束しても、通勤客はコロナ前に戻ることはない」と口をそろえる。鉄道は固定費が高く、旅客数の減少が簡単に利益減少に直結する。

リモートワークの進展やMaaSをはじめとしたネットサービスの進歩で従来のビジネスモデルは変えざるをえない。資産の切り売りで食いつなぐのは限界に近づいている。かつて鉄道や航空各社は旅客需要を自ら創出するために、ホテルや不動産、娯楽施設、旅行会社をそれぞれ傘下に持った。

しかし、それぞれの領域で市場規模が大きくなるにつれて機能分化し、分社化していった。コロナがもたらした環境変化に、今後は分散したグループ会社を再統合して、移動や観光、宿泊、不動産事業など一貫したサービスで顧客を囲い込めるサービスが求められている。

ネット系を中心とした新興勢が台頭する中、鉄道各社は重い腰をあげなければ、生き残りの道はない。

(プレジデントオンライン編集部)

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