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「太っているのが嫌で仕方ない」摂食障害だった女性が大きいサイズのモデルになるまで

プレジデントオンライン / 2021年10月5日 15時15分

プラスサイズモデルとして活躍する吉野なおさん - 提供=吉野なお

新型コロナウイルス禍のストレスで食べられない、あるいは食べても吐いてしまうといった摂食障害になる子供が増えている。10~20代にかけて約10年間、摂食障害に苦しんだモデルの吉野なおさんは「当事者は『○○であるべき』と思い詰め、自分を否定してしまっていることが多い。親や周囲の人が、そんなに完璧じゃなくてもいいんだよと教えてあげるのが大切だ」という――。

■食べることを極端に嫌がる子供の心理とは

コロナ禍の休校中に過剰なダイエットを始めたり、食べることを拒否してしまったりする小中学生が増えているというニュースを目にしました。日本摂食障害協会の報告によると、2020年に摂食障害を発症した小中学生は例年と比べて約2倍に増えたそうです。

「子供がダイエットする必要なんてないよ」「しっかりご飯を食べよう」と、大人が伝えることで解決できればいいのですが、なぜそのような状況に陥ってしまうのでしょうか。

私は、プラスサイズモデルという大きいサイズのファッションモデルをしています。

でも実は子供の頃から太っていた自分のことが大嫌いでした。小学生の頃にはすでに「痩せたい」という気持ちが芽生え始め、高校生の頃に始めた極端なダイエットをきっかけに摂食障害を経験しました。体重変化の振り幅は30kgもあります。

身も心も疲れ果て、20代半ばに回復するまで何年もずっと「普通に食べること」に嫌悪や難しさを感じて生きていたのです。死んでしまいたいと思うほどつらかった時もあります。

そんな経験を経たからこそ、コロナ禍でもある今、子供たちが過剰なダイエットや摂食障害に陥っていく理由も、なんとなく理解できます。

私にとって摂食障害は「生きづらさをどうにかしようとした表れ」だったからです。

今は、人と一緒に楽しく食事を楽しめることが幸せなことだと思います。

食べることに問題を抱える子供たちについて、経験者である私なりの視点でお話していきます。

■他人に気を使い、自分に厳しい人がなりやすい

摂食障害の症状を大きく2つにわけると、極端に食べなくなる症状(拒食症)と、逆に食べすぎてしまう症状(過食症)があり、症状が現れるきっかけは、人それぞれ異なります。

ダイエットがきっかけで始まることも多いですが、マラソンやバレエなどのスポーツで減量を促された経験や、受験勉強に夢中で食べることがおろそかになり、たまたま体重が減っていたことに喜びを見いだし、拒食症になっていくケースもよくあるようです。

いずれにしても、食べることや体重・ボディイメージの捉え方に偏った認知のゆがみができています。

一般的に、痩せている=きれい・かわいい・憧れ・健康など、ポジティブな意味を持たされる社会影響も大きいと感じます。

一概には言えませんが、今まで私が出会ってきた摂食障害の方たちは、優しくて良い人、自己犠牲もいとわず頑張るタイプ、他人に対してはとても気を使うのに自分に対しては厳しい、困った時は誰かを頼りにするより1人で抱え込んでしまう……という印象です。そして、本当はものすごいポテンシャルを持っているのに、本人がそれに気付いていないということもよくあります。

■「正論」では当事者の心に届かない

私の場合は、子供の頃から繊細で、ストレスをためやすい性格でした。感情を素直に表に出せず、嫌なことを言われても我慢してしまうようなタイプです。

私にとって摂食障害は、自分の心を支えるためにやっていた依存行為でした。アルコール依存や自傷行為などと同じように、はたから見ると理解しがたいものですが、本人は一瞬でも救われるような気持ちがあるから、どんなにつらくてもやめられないのです。

例えば、ダイエットのつもりで厳しい食事制限をしていた時は、空腹感や減っていく体重、痩せていく体を通して自分をコントロールできているような高揚感があり、逆に過食症に転じた時は、日常生活のイライラやむなしさを紛らわせることができました。

このため、周りがいくら「体に良くないよ」など、正論を言って説得しようとしても、本人は受け入れられないことがほとんどです。

頭で理解して手放そうとしても、心が手放せないからです。

■「痩せた幸せな人生」の願望に苦しめられる

私が高校生の時に過剰なダイエットを始めたのは、つらい状況の時でした。子供の頃から体型についてやゆされたり、悔しい思いをしたりすることが多く、何事にも自信が持てませんでした。

かわいくて性格の良い友達と比べて劣等感を抱き続け、何度恋愛をしようとしてもうまくいかない、家に居てもストレスを感じやすく、学校にも家にも、心が落ち着く居場所がありませんでした。

そんな時に出会った男性に「好きだけど、痩せてほしい」と言われた私は、徹底的に自分を変えようと思ったのです。痩せて、彼に愛されて、幸せな人生を手に入れたい……そう思っていたはずなのに、結局は摂食障害になって何年も苦しむことになりました。

以前の吉野さん
提供=吉野なお
過剰なダイエットで30kg痩せていた時の吉野なおさん - 提供=吉野なお

このように、もし子供たちが食べることを拒否したり、摂食障害かもしれないと感じた時は、本人の中に生きづらさを感じる事情や現状を打破したい苦しみがあるかもしれないということを、念頭に置いておくことが大事だと思います。

コロナ禍の今はまさに、外出自粛や感染予防対策で生活スタイルも変わり、大人も子供も息苦しさやストレス、不安を感じている時。特に思春期の子供たちは、「自分が何者であるか」ということを周りや社会を見て探っている時期なので、緊張せず自分の気持ちを自由に表現できたり、心が落ち着くコミュニティや趣味などがより必要になるのではないでしょうか。

■摂食障害を克服できた人たちの唯一の共通点

「摂食障害は、どうすれば治りますか?」という質問もよくいただきます。

私は回復した方のお話を聞くこともよくあるのですが、きっかけは人それぞれ異なるものでした。誰かがうまくいった方法でも、他の誰かには合わないこともあり、人生の数だけ回復方法が異なる、と言っても過言ではないと思います。

でも、唯一共通していることは、「○○であるべき」から距離を置き、ご自身が自分なりの人生を選択していったことかもしれません。

私に転機が訪れたのは、とある会社で働いていた時のことでした。当時の私は、過食症に悩んでいた時期で、なるべく人との関わりを避け、うつ状態のように喜怒哀楽の感情がなくなり、何をしても心から楽しめなくなっていました。

取り組んでいた仕事は、黙々とプロフィールデータを処理する仕事でした。たくさんの人の顔写真と全身写真・スリーサイズなどを規定のデータにまとめていくのですが、それを毎日眺めるうちに、人々の顔や体が一人ひとり異なり、同じ人は1人もいないということを、改めて感じたのです。

そしてプロフィール写真なので、基本的に誰もが明るいイメージで写っていて、ぽっちゃりしている女性も笑顔の写真でした。「あれ?」と思いました。「こうして笑顔で、幸せな人生を送っている人もいるのかもしれない」ということに気付いた時、心がグラッと動きました。

たくさんの人のポートレート
写真=iStock.com/martin-dm
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/martin-dm

■「太っていてはだめ」と自分で自分を否定していた

それまでずっと私の中で、ぽっちゃりしている女性=幸せになれないというネガティブなイメージがあったのです。ダイエット広告のビフォーのネガティブな写真や、バラエティ番組でいじられたりするイメージです。

そして、「そういうマスメディアや人々が作るネガティブなイメージを、私はずっと内面化して生きてきたのかも」「このまま毎日、自分の体型を気にして苦しむ日々を、おばあちゃんになるまで一生続けていくの?」「それってすごく人生を無駄にしてるかもしれない」と自問自答していったのです。

確かに、太っていることで嫌なこともありました。でも、「太っているから人生がうまくいかない」「痩せないと人生は良くならない」と言い聞かせて諦めてきたのは、ほかならぬ自分自身だということに気づいたのです。振り返ってみると、自己否定してきて何も良いことがありませんでした。

私にとっては、心に稲妻が落ちたような、大きな気付きでした。

■自分の本心を大事に行動してみて分かったこと

その気付きがあってから、少しずつ自分の本当の気持ちを受け入れてみる練習をし始めました。

食べ物を食べるときは、カロリーや太りやすさなど「こうでなければいけない」という情報を気にするのではなく、自分が今何を求めているのか、何が必要ないのか、本心に従って食べるようにしました。

服についても、痩せた時に着ていたものを全て処分しました。見る度に「これを着るためにまた痩せなくちゃ」と落ち込む気持ちになっていたからです。少しもったいない気もしましたが、服のトレンドは変わりますし、もしいつかサイズダウンしたら、その時にお気に入りの服を買えばいいと思ったのです。

そして、ダイエット情報を追うことをやめ、ダイエット商品などを極力視界に入れないようにしました。それらの情報も、落ち込みやすいトリガー(引き金)になっていることに気付いたからです。

そんなふうに、とにかく自分を不快にさせるものから距離を置いて、「今の自分」が自由に生きやすくなることを大事にしました。

■「太っている自分」を受け入れて仕事にした

数カ月後、気付くと普通に食事が食べられるようになっていました。強い痩せ願望も過食症状もなくなり、体重も落ち着き、心の中に喜怒哀楽の感情も戻ってきました。

何年も悩んでいた苦しみからやっと抜け出したのです。まさか過食症が改善すると思っていなかったので、自分でも驚きました。

ずっと自分の本心を後回しにしてねじ伏せてきたから、過食症という形で苦しみが出てきていたように感じました。「私なんてどうせ……」という自己卑下や自暴自棄な考え方をやめ、だんだんと自分の視点で物事を捉えられるようになりました。

でも、今度は対人関係でトラブルがあった時に、抑えきれないほどの怒りが湧いてきてしまったのです。それまでの私なら、過食をすることでネガティブな感情を抑え込んでいましたが、どうすればいいかわからなくなってしまいました。

そこで、心療内科のクリニックでカウンセリングを受けてみました。

カウンセリングを重ねるうちに、私は子供の頃からずっと「自分がどうにかしなきゃ」と背負い込み、自己犠牲をしなければ愛されないと思って行動してきたことに気付きました。そして、無理に頑張らなくても、実はすでに自分を受け入れてくれている人は周りにいたことにも気が付きました。

摂食障害を克服した吉野さん
提供=吉野なお
摂食障害を克服した吉野なおさん - 提供=吉野なお

そうして前向きに生き始めたとき、偶然プラスサイズモデルの仕事をすることになったのです。昔は「太っている自分が嫌い」と思っていた私が、今ではこの体型ならではの仕事をしているなんて、思いもよらない人生になりました。

■周囲の人は否定せず、安心感を与えてほしい

「周囲はどのように接したらいいか?」という質問もよく頂きます。

あくまで私なりの回答になりますが、「何があっても、あなたはここにいて大丈夫だよ」と心の居場所をつくること、安心感を与えることかもしれません。

具体的には、もし本人が痩せることに価値を見いだしている場合は、「そんなことする必要ないよ」と、頭ごなしに否定したり説得したりするよりも、どうして痩せたい気持ちになっているのか、痩せることで最終的にどんな気持ちを手に入れたいのかを注意深く観察し、不安を抱いている気持ちに寄り添うことです。根性論で引っ張ったり後押ししたりするのではなく、横にいるようなイメージです。

また、拒食症だからと無理やり食べさせたり、過食症だからと勝手に食べ物を隠したりする行為は、家族としての信頼関係の溝を深めてしまうと思います。

食べ方をどうにかしようとか、急いでどうにか治そうとするよりも、一緒にどこかへ行ったり同じ物事に取り組む姿勢で居てくれる方が、心のつながりを感じて安心できるのではないでしょうか。

「完璧じゃなくても大丈夫」と本人が考えられるようにさえなれば、肩の力が抜け、「○○でなければ」という思考から、少しずつ解放されていく気がします。

■ほかの人の体験から「ひとりじゃない」と知る

摂食障害や、偏ったボディイメージにとらわれた経験を描いたコミックエッセイなど、10代の子供たちにも読みやすいイラスト入りの書籍が発売されています。

きっと渦中にいる子供たちも、「この気持ちは、自分ひとりじゃないんだ」と共感すると思いますし、当事者ではない方にも、どんな心理状況なのかがわかると思うので、おすすめの3冊をご紹介します。

おちゃずけ『10代のための もしかして摂食障害? と思った時に読む本』(合同出版)
hara『自分サイズでいこう 私なりのボディポジティブ』(KADOKAWA)
竹井夢子『ぜんぶ体型のせいにするのをやめてみた。』(大和書房)

また、コミックではありませんが、「痩せたい気持ち」や「愛されたい気持ち」がどこから来るのかを人類学者がたどった書籍、磯野真穂『ダイエット幻想』(ちくまプリマー新書)もおすすめです。

吉野さんが摂食障害に悩む人にお勧めする書籍
提供=吉野なお
吉野さんが摂食障害に悩む人にお勧めする書籍 - 提供=吉野なお

私にとって摂食障害は、行ったり来たり試行錯誤を繰り返しながら「この世界で生きていていいんだ」「大丈夫なんだ」と少しずつ感じていくことで回復に向かう印象がありました。

渦中で悩んでいる当事者の方も、周囲で支援する方も、つらい時はどうか1人で背負いこまず、カウンセリングや自助会、サポート団体などを活用して、人とのつながりを持つことを忘れないでいただきたいと思います。

また、今回ご紹介した内容は、あくまで経験者としての私の意見になりますので、必ずしもこのやり方が正解と言うわけではありません。

1番大事なことは、食べることに問題を抱えたご本人が無理せず生きやすくなることなのだと思います。

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吉野 なお(よしの・なお)
モデル、エッセイスト
1986年生まれ。日本初プラスサイズ女性向けファッション誌『ラファーファ』専属モデルとして活躍中。摂食障害の経験についてメディア取材に応えるほか、コラム執筆・イベント・学校などで講演やワークショップなども行う。自身の経験を基に、生き方の多様性を訴えることや、体に対する心のあり方、私たちをとりまく社会の価値観について考え、自己否定に悩む女性のための啓発活動をライフワークとしている。

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(モデル、エッセイスト 吉野 なお)

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