「日本のシングルマザーの2割が登録中」バツイチ率7割の婚活アプリが爆誕するまで
プレジデントオンライン / 2021年10月8日 11時15分
■マッチングアプリ業界は超レッドオーシャン
マッチングアプリ市場が急速に拡大している。リクルートブライダル総研によると、2020年に成婚したカップルは27.2%が婚活サービスを活用している。その大半はマッチングアプリだ。マッチングアプリは、日本の非婚化・少子化を食い止める新たな要となりつつある。
そして、需要あるところには供給が集まる。現在、主なマッチングアプリだけでも30個以上ある。私のところにも「マッチングアプリ事業を立ち上げたい」という相談をいただくこともあるが、よほど差別化できるポイントがなければ創業は勧めていない。現在のマッチングアプリ業界は、超レッドオーシャンなのだ。
そんな業界で、ひときわ目立つアプリがある。2016年にサービスを開始した「マリッシュ」だ。その特徴はシングルマザーの登録が多いこと。日本にいる123万人のシングルマザー(母子世帯)(*1)の2割にあたる約25万人の登録がある。アプリ全体の登録者は150万人で、男女比はほぼ同じ。出会いを探す人にとって、十分な規模がある。
どうやって、多くのユーザーを集めたのだろうか。シングルマザーは全国に散らばっているうえ、属性に共通点があるとは言いがたい。広告を出す際に「シングルマザーを狙ってください」と言われたら、ターゲット選定に少し悩んでしまうだろう。そのような、簡単には狙いづらい層に届くサービスを提供している……。もしかして、そこには破天荒な戦略があるのではないか?
そんな思いを胸に、マリッシュの代表である飯田一寿さんと創業に参画した坂田健一さんにお話を伺った。
(*1)厚生労働省の資料による。「母子世帯」には母子以外の同居者がいる世帯を含む。
■外見にとらわれない出会いを「設計」する
——マリッシュはユーザーの約7割に離婚歴があり、シングルペアレントも多いということですが、そうした層を最初から狙っていたのでしょうか。
【坂田健一】サービスを立ち上げた当初は、いわゆる「シンママ」や「シンパパ」だけを主なユーザーとして考えて作ったわけではありませんでした。私たちは、30~50代の方にご利用いただけるアプリを目指しています。そして、そういった方々にはバツあり、子育て層が多いのです。
現実に、離婚のご経験は恋愛で足かせになることもあります。多くのマッチングアプリでは、検索で「初婚か、離婚歴があるか」を選ぶ項目があり、ユーザーさんがそこで「初婚」を選ぶと、バツありの人がはじかれてしまいます。そうすると、とてもすてきな方でも、離婚歴があるだけでなかなかマッチできないという課題が生じます。
「マリッシュ」はそこでバツありの人が切り捨てられないよう、丁寧に設計しました。
——たとえば、どういった面でしょうか。
【坂田】特徴的なのは、UI(ユーザーインターフェース)設計です。マリッシュでは、外見に惑わされず、性格で判断していただけるようなサービスにしたいと思っています。そこで、プロフィール文が検索画面でもしっかり読めるよう設計されています。
——多くのマッチングアプリは、一般的に顔写真が大きく表示されて、プロフィール文はほとんど読めない設定になっていますよね。
【坂田】そうです。多くのマッチングアプリでお相手の候補一覧を見ていただくと、プロフィールが1行だけ表示されることが多いのです。ですが、マリッシュはプロフィールを3行まで見られる工夫をしています。
——確かに、これならお相手の人柄を見ながらマッチングできそうです。
【坂田】30代以上になると、「見た目に騙されず、内面重視で結婚相手を探したい」という方がたくさんいらっしゃいます。「この人は自分の子供を一緒に育てられそう」「この人なら、家事をバランスよく分担できそう」といった、人となりを見ていらっしゃるんですね。
顔では結婚後の相性はわかりませんが、テキストなら個性が出て、判断しやすくなります。そうやって、出会いの機会損失をつくらないデザインを心がけています。
■ITに不慣れな人でも触りやすいように
——ほかにも、30代以上が使いやすい工夫はありますか。
【坂田】たとえば、最初の登録時点で、職業や年齢を入れずに開始できるよう工夫しています。顔写真とプロフィールだけでスタートできます。多くのマッチングアプリでは、年齢、年収、身長など事細かなデータ入力が求められますが、そういった項目を思い切って排除しました。
そうすることで、普段からアプリを使わない、スマートフォンを使う習慣が少ない人でも、登録しやすいように作っています。
——確かに、マリッシュへ登録してみると、通知はメールで受信できますし、登録もスムーズでした。
■シングルマザーの心をつかむマーケティング
——SNSや検索を少し使うだけでマッチングアプリの広告を大量に目にするのですがマリッシュの露出はそこまで多くない印象です。どのようにしてシングルマザーを中心とする、30~50代のユーザーを獲得してきたのでしょうか?
【坂田】広告を大量に出してどうこう……というのは考えていません。それよりも、掲載していただいた媒体さんでの表記に気をつけています。たとえば、「再婚活」について書いていただいたり、“恋活”アプリよりも“婚活”アプリと書いていただけるようお願いしたり。50代の登録者さんや、シングルペアレントの方がこぼれ落ちないように書いていただいています。
また、最近では第一生命とのコラボキャンペーンを行っています。このキャンペーンでは、働くシングルマザーを応援するため、毎月先着940名へ所得補償保険のお申し込み権(3カ月間分の保険料をマリッシュが負担)をプレゼントするものです。お金や物を直接渡すキャンペーンもありますが、シングルマザーが本当に必要とされているものはなんだろうと考えに考え抜きました。
そこで、物質的なものではなく、“安心”を提供したいと考えて「保険」という結論にたどり着きました。
■創業の背景にある「バツあり」差別
——そもそも、なぜ「シンママ」や「シンパパ」が多い年齢層をターゲットにしたのでしょうか?
【飯田一寿】以前、別事業を展開していたんです。そのサービスではユーザーの99%が女性でした。さまざまなお悩みを伺っていくなかで、バツあり女性の相談も多くいただきました。
「私なんかが初婚の相手へいってもだめなんじゃないか」と、悩まれる女性が多かったのです。そこで、何とかこういった人をサポートできないか、という思いをもとにマッチングアプリ事業を立ち上げることを決めました。
——飯田さんは、マッチングアプリ業界をもともとご存じでしたか?
【飯田】マッチングアプリはゼロから勉強してスタートしました。弊社は後発サービスですから、同じ形でやっても不利になることは明らかでした。1日8時間はスマホを触って、他社さんや、他カテゴリのサービスを調べていましたね。
マリッシュをプロジェクトとして立ち上げ、リリースするまで1年半かかりました。最初は男女ともに無料でスタートしたこともあって、順調に会員数を獲得できました。
——まさに順調な滑り出しですね。現在はどんなモチベーションで続けていらっしゃいますか。
【飯田】ユーザーさんから成婚された話が届くので、目に見えたモチベーションになっていますね。今年の11月で、マリッシュはリリースして5年になります。
この5年で「アクティブに動けるシングルマザー」はほとんどマリッシュに来ていただいた。今後はマリッシュを使うチャンスがなかった、昼も夜も働いている方も支援できればと思っています。
——なぜ、そこまで飯田さんは頑張りたいと思うのですか?
【飯田】会社を成功させるためには常に厳しい道をいかなくては、と思っているからですね。止められても止まらない。やるといったらやるので。日本は高齢化、少子化社会ですよね。マリッシュは、微力ながら少子高齢化対策にむけて、サポートしていければと思います。
——ありがとうございました。
■小さい市場で勝つマーケティング
最後に、マーケティングでのヒントをお伝えしたい。マーケティングではまず、市場で「誰に買ってもらうか」を考える。そのとき、どうしても人口が多い市場にアプローチしたくなるのがわれわれの常だ。
とはいえ、人口が多いといっても「今すぐそのサービスを使う必要がない」「ぼんやりとしか、サービスの必要性を感じていない」層へ売り込むなら、何度もサービスの必要性を説得しなくてはならない。そのため、広告費は莫大になる。
そうした手法よりも、いますぐそのサービスを使いたいと思っている少数派へアプローチしたほうが、市場は限られても勝者となりやすい。マリッシュはまさにこの戦略を取ったといえる。「婚活・再婚活」という新たなキーワードで、シンママやバツありの男女も獲得したのだ。
また、マリッシュはシンママやバツあり男女を獲得した結果、20代から30代をターゲットとしているほかのアプリよりも年齢層が高い。特に男性ユーザーは40代以上が8割を占める(*2)。その結果、高所得者の割合が高く、年収600万円以上の男性ユーザーは4割にも上る(*2)。
任意ではあるが収入証明を提出できるため、実際に収入が高いユーザーと、“盛っている”可能性があるユーザーを見分けることもできる。再婚を願う女性ユーザーにとって、高収入の男性ユーザーの多いサービスが魅力的に映ることは間違いないだろう。
少数派へ向けたサービスの開発は、勇気がいるものだ。しかし、もしそこで「強烈にそのサービスがほしい」と思っている層がいるなら……。マリッシュの成功例は、ぜひ学習したい事例と言えそうだ。
(*2)2021年8月時点
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ライター
1987年生まれ。慶應義塾大学法学部卒。P&Gジャパン、LVMHグループで合わせて約4年間マーケティングを担当。その後は独立し、主にキャリアや恋愛に関するライターや、マーケターとして活動。著書に『就職活動が面白いほどうまくいく 確実内定』や『モテたいわけではないのだが ガツガツしない男子のための恋愛入門』などがある。
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(ライター トイアンナ)
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