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市販薬でごまかすと大変なことに…日本人の5人に1人を悩ます「ストレス頭痛」の対処法

プレジデントオンライン / 2021年10月16日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/yamasan

頭痛には、市販の鎮痛薬を飲んでいいものと飲んではいけないものがある。横浜市立大学附属市民医療センターペインクリニック内科の北原雅樹医師は「緊張型頭痛(ストレス頭痛)は日本人に最も多いタイプで、約5人に1人が悩んでいる。しかしこの頭痛には市販薬は効かない」という――。(聞き手・構成=医療・健康コミュニケーター高橋誠)

■緊張型頭痛は「筋肉のコリ」で起きる

前回は薬が劇的に効く片頭痛をご紹介しました。今回は対照的に薬が効きにくい緊張型頭痛です。

日常的な姿勢の悪さや不安・緊張、長時間のデスクワークなどの心身のストレスによって首筋や頭蓋骨を覆っている筋肉のコリが原因で、ストレス頭痛といってもいいでしょう。私は「頭コリ、肩コリ、腰コリ、膝コリ、下肢コリ」という五大コリの1つと呼んでいます。

疫学調査では、緊張型頭痛の過去1年有病率は15歳以上の人口の22.3%(男性18.1%、女性26.4%)に上り、片頭痛の8.4%を大きく上回りました。日本人に最も多い頭痛で、約5人に1人はこの頭痛に悩まされていることになります(日本頭痛学会)。

また様々な集団調査では、生涯有病率が30~78%の範囲で示されており、多くの人が人生で一度はかかるきわめて一般的な頭痛と言えるでしょう(『国際頭痛分類第3版』)。

前回もご紹介した図表1の通り、筋肉のコリばかりではなく、血管性の要素、心理社会的要素もある程度あるため、一部の症状は片頭痛の症状と似ているところがありますが、ADL(日常生活の活動度)への影響がほとんどありません。ここが運動を控えたほうがいい片頭痛とは大きく異なります。

一次性頭痛の関係図
提供=北原雅樹医師

緊張型頭痛には「コリをほぐす」のが一番有効です。少し我慢すれば生活していけるからといって、我慢したまま生活習慣を改めず、もしくは誤った治療を受けて続けると、QOL(生活の質)とADLを下げ、寝たきりのリスクを高め、健康寿命を損ねます。

寝たきりのリスクについては、私と筆者の鼎談が収録された『道路を渡れない老人たち リハビリ難民200万人を見捨てる日本。「寝たきり老人」はこうしてつくられる』(アスコム)をご参照ください。

■頭全体が締め付けられる……緊張型頭痛の症状

緊張というと、プレッシャーのような心理社会的緊張をまず考えてしまいますが、身体的=筋肉への過剰な負担も含んでいます。筋肉を使いすぎたり、十分な休養を取らなかったりした結果、筋肉の過剰な緊張が起こります。

緊張型頭痛には以下の症状があります。

【北原式 緊張型頭痛5つのチェック】
1.片側よりもむしろ両側が痛む(両側の後頭部など)
2.頭の周りにバンドや帯がまかれているように頭全体が締め付けられている
3.頭頚部の筋肉のコリを伴う
4.吐き気、光過敏、音過敏などを伴うこともある
5.片頭痛よりも痛みが弱い

腰痛や肩こりは臓器の「がん」や脊椎の感染症などから来る「危険な痛み」がありますが、緊張型頭痛で「危険な頭痛」というものはめったにありません。危険な「急性の頭痛」の場合は、危険な状態があっという間に高まり、慌てて救急に駆け込むからです。

だから「危険な頭痛を見逃す」こともほとんどありません。私自身、外来で「危険な頭痛」を見たことは1回しかありません。しかし肩こりの患者さんを診た時に、がんが転移して肩甲骨の1/3が溶けてしまっている患者さんがおられました。

問題は危険な頭痛ではないと安易に考え、自己流で市販薬を飲んだり、お酒を飲んで紛らしてしまったりすることがあることです。さらに問題は、日本には頭痛患者さんが多い割には頭痛専門外来が少ないことです。

理由は、臨床的には頭痛の治療が医者にとって面白みが少ないことです。また、頭痛の原因には多かれ少なかれ心理社会的要因が入っています。だから面倒なことになりがちで敬遠されるのです。

こうして「頭痛になったらどの診療科にいくの?」と頭痛難民になる患者さんもいるだけに、自分自身で緊張型頭痛を起こすトリガーを見つけるなどセルフマネジメントがますます大切になってきます。

■緊張型頭痛を引き起こす根本原因

対処法は、やはり治療と予防の両面からのアプローチが必要ですが、ほとんどの場合、緊張型頭痛が起こった時の治療だけに集中しているため、良くなることが少ないのです。

大切なことは、「起こさないようにする」こと、起こすきっかけ(トリガー)を見つけて対処することです。これは前回説明した「片頭痛」と一緒です。診断名にかかわらず、原因、治療法、予防法は基本的には同じですので、慢性の頭痛の診断名にあまり意味はないと申し上げたワケはここにもあります。

緊張型頭痛を起こすトリガーは以下の通りです。

・睡眠関係:不足、過眠、不規則
・身体的ストレス:脱水、低血糖、過労、眼精疲労、不自然な体勢
・心理的社会的ストレス:家族関係、仕事関係など様々
・化学物質:アルコール、カフェイン

片頭痛と違い、赤ワインや発酵性チーズなどの飲食によって劇的なトリガーになることはあまりありませんが、グルテンが緊張型頭痛に影響することもあり、グルテンフリーを心掛けている患者さんも多くおられます。グルテンフリーにすると、トリガーポイント療法「IMS」の鍼を刺しても、痛みが軽減されることも報告されています。

くず餅は小麦を発酵させているのでグルテンがほとんど含まれていないので大丈夫ですが、食パンなど練りこんだものは緊張型頭痛を誘引することがあるので注意しましょう。洋食は日本人に合わないこともありそうです。

■「薬が効かない」といって服用過多は厳禁

緊張型頭痛の治療では、一般的な鎮痛薬(アセトアミノフェン、NSAIDs)が、NNT(一人の患者がよくなる=痛みが半分以下になるのに何人にその薬を投与する必要があるか)≒10~20人(すなわち痛みが半分以下になる人が5~10%)しかいないことから明らかなように、薬が効かないことが特徴です。

錠剤
写真=iStock.com/Nikola Nastasic
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Nikola Nastasic

片頭痛に劇的に効くトリプタンも効きませんし、筋弛緩薬もほぼ無効です。効かないから、もっと大量に服用するという使い過ぎは、薬物乱用頭痛のリスクとなるので気をつけましょう。

緊張型頭痛への正しい対処法は、各種トリガーポイント療法、神経ブロック、運動療法、鍼灸、ヨガなど、あくまでも運動療法や心理療法がメインで、薬は補助的です。痛みがひどい場合、ストレッチやマッサージ、程度な運動をして、お風呂で体を温めると楽になることがあります。過労やストレスによる筋肉のコリなので、その原因を取り除くことも必要です。

脊柱管狭窄症や線維筋痛症などの慢性痛で悩む人は結構あたふたします。しかし緊張型頭痛で悩む人は不思議とあたふたしません。我慢すれば耐えられ、動けるからです。メタボでは死なないし運動しなくても大丈夫なのと一緒です。

若いうちは緊張型頭痛をないがしろにして少々無茶をしても致命的にはなりません。しかし、悪性ではないから、軽症だからといって市販薬でなんとかできるという発想は誤りです。10年、20年、30年続くと取り返しのつかないことになりかねません。

■予防は「心身のストレスマネジメント」と「運動療法」で

緊張型頭痛の予防薬として数少ない有効なEBM(Evidence-Based-Medicine=研究によって効果があると言われているもの)があるのは、抗うつ剤アミトリプチンです。非常に強い眠気を催す薬なので、10mg/日から始め、30~70mg/日、就寝1~2時間前かつ起床8~9時間前に服用を済ませるようにします。ただし、副作用は便秘、口渇などいろいろとあり抗うつ剤としてもあまり使われていませんのでご注意ください。

薬以外の予防法は、治療法と一緒で、各種トリガーポイント療法、鍼灸、バイオフィードバック、リラクゼーション、認知行動療法、マインドフルネスなど、いわゆるストレスマネジメントと、運動療法(理学療法)が2本柱です。

■健康長寿には“頭痛フリー”が大切だ

日常生活におけるさまざまな活動がどの程度、慢性の痛みによって障害されているかを評価する「疼痛生活障害評価尺度ピーダス(Pain Disability Assessment Scale:PDAS)」という指標があります。

この指標で、ほとんどの場合頭痛は60点満点で10点未満と低い点数、すなわち生活の障害があまりないという評価になります。しかし、実はじわじわとQOLとADL、健康寿命をむしばんでいるのです。

私自身、アメリカ留学中にこのことに気が付き、何がトリガーかを見つけ、生活習慣を改め、緊張型頭痛を克服しました。運動と生活習慣の改善で減量すると、「なんて健全な生活になったのだろう、昔はなんて不健全であったのだろう」と実感できます。「頭痛フリー」になった時の快調さ、快適さ、爽快さは素晴らしいものがあります。

すべての慢性の頭痛に悩む患者さんにも、このさわやかな実感を味わっていただかないともったいないと思います。今では年1回ほど、シャツのボタンを1番上まで止めて、ネクタイで首をシャキッと締め、スーツ姿で緊張して講演をした後に、一時的に緊張型頭痛が出るくらいです。

■慢性痛による経済損出は7兆円

私は慢性の頭痛の患者さんの6、7割くらいが生活習慣を見直さず、100%フルの状態が発揮できてなくても、痛みに耐えながら日々だましだまし仕事や家事、生活を続けていると感じています。これは実は大きな社会的問題でもあります。

休暇を取っているわけではなく、出勤しているのに業務効率が悪くなることによる経済損失を「プレゼンティズム」と呼びます。ある試算では、慢性の痛み全体のプレゼンティズムによる経済損失額は7兆円にも上ります。なかでも慢性の頭痛はもっともプレゼンティズムが高い病気と言われており、知らぬ間に莫大な経済損失を招いているのです。

後から振り返って失った時間、莫大な労働生産性は取り返しがつきません。そもそも緊張型頭痛には薬は効きませんので、頭痛に対する戦略を根底から覆さないとならないでしょう。その意味では、自己判断はせずに、まずはかかりつけの主治医を見つけ、定期的に受診することをお勧めします。市販薬ですませ、医者を受診しない、すなわち頭痛を甘く見ることは第一選択肢ではありません。

(詳しく知りたい方はこちら)
◎慢性痛に関するYouTubeチャンネル「慢性の痛み講座 北原先生の痛み塾」
第53回:頭痛総論
第55回:緊張性頭痛
◎慢性痛についての総合的情報サイト「&慢性痛 知っておきたい慢性痛のホント」

(注1)本稿での解説は、世界最高峰の痛みの研究組織、米国ワシントン州立ワシントン大学集学的痛み治療センターでの5年間の留学時代に習得し、日本帰国後に臨床に応用し多くの症例を積み重ねたうえで多少改変した、痛みの専門医として有効性が高いと感じる個人的見解、私論であります。意見には個人差がありますので、あくまでも主治医の先生と相談のうえ、どの治療を選択するかは自己責任としてくださいますよう、お願い申し上げます。

(注2)私の在籍する横浜市立大学附属市民総合医療センター ペインクリニック内科では、現在、神奈川県内の患者さんのみ受け付けています。全国各地からのお問い合わせは「慢性の痛み政策ホームページ」の全国の集学的痛みセンターの一覧をご参照ください。

(注3)厚生労働省「からだの痛み相談支援事業」の無料電話相談窓口はこちらです。

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北原 雅樹(きたはら・まさき)
横浜市立大学附属市民総合医療センターペインクリニック内科診療教授
1987年東京大学医学部卒業。1991〜1996年、米国ワシントン州立ワシントン大学ペインセンターに臨床留学。帝京大学溝口病院麻酔科講師、東京慈恵会医科大学ペインクリニック診療部長、麻酔科准教授を経て、2017年4月から横浜市立大学附属市民総合医療センター。2018年4月から現職。専門は難治性慢性疼痛の治療。複雑な要因が重なる痛みの「真犯人捜しの名探偵」。西洋のリハビリと東洋の鍼を融合したトリガーポイント療法「IMS」を日本に導入した。日本麻酔科学会指導医、日本ペインクリニック学会専門医、日本疼痛学会、日本運動器疼痛学会所属。公認心理師の資格を持つ。著書に『肩・腰・ひざ…どうやっても治らなかった痛みが消える! 原因解明から最新トリガーポイント治療法のIMSまで』(河出書房新社)、『慢性痛は治ります! 頭痛・肩こり・腰痛・ひざ痛が消える』(さくら舎)、『最強の医師団が教える長生きできる方法』(アスコム、共著)などがある。

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(横浜市立大学附属市民総合医療センターペインクリニック内科診療教授 北原 雅樹 聞き手・構成=医療・健康コミュニケーター高橋誠)

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