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「飲めば飲むほど症状がひどくなる」ドラッグストアで気軽に買ってはいけない"あるクスリ"

プレジデントオンライン / 2021年10月17日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/fizkes

ある種類の頭痛は、薬を飲むほど症状が悪くなる恐れがある。横浜市立大学附属市民医療センターペインクリニック内科の北原雅樹医師は「鎮痛薬をひと月に15回以上摂取している人は薬物乱用頭痛の疑いがある。頭痛薬を飲むほど悪化するので、薬に頼ることをやめて、すぐに医師の診断を受けてほしい」――。(聞き手・構成=医療・健康コミュニケーター高橋誠)

■鎮痛剤の飲み過ぎが頭痛を引き起こす

これまで紹介してきた片頭痛や緊張性頭痛は一般にも比較的知られています。しかし、3番目に多い薬物乱用頭痛を知っている人は多くはいません。

私のもとには、頭痛に悩む多くの患者さんがやってきます。痛みがひどく、市販の鎮痛薬を摂取して何とか抑えている人もいます。精密検査を受けても異常は見当たらず、原因が分からずにやってくる人もいます。

話をうかがうと、なかには市販薬の服用が習慣化している人もいます。朝晩、毎日使用しているというケースもありましたが、自分の判断でどんどん薬を飲んでしまうと危険です。薬が効かなくなるばかりか、逆に頭痛がひどくなるからです。仕事や日常生活にも影響を及ぼします。そのような患者さんは薬物乱用頭痛が原因である恐れがあります。

本稿では片頭痛、緊張性頭痛に続く“第3の頭痛”である「薬物乱用頭痛」を取り上げます。これは痛みの専門家でなければ医師でも見逃してしまうこともある、薬の服用過多によって生じる頭痛です。

薬物乱用頭痛は、特に片頭痛の患者さんが、月15回以上も薬を飲みすぎてしまうことで生じる頭痛です。頭痛が起こる前触れを察知して、あらかじめ痛みを避けようとしてしまうのです。

しかし、それこそが頭痛をこじらせ、長引かせている要因です。このタイプの頭痛を治すには、「鎮痛薬を予防薬として使うという習慣」を止めるしかありません。

【北原式 薬物乱用頭痛4つのチェック】
1.数年前とは頭痛の性質が違う
2.前ほど薬が効かなくなってきた
3.すっきりと痛みが消える時があまりない
4.頭痛薬が手放せない

このような症状が出てきたときは、薬物乱用頭痛が疑われます。この頭痛は、片頭痛や緊張型頭痛と異なり、治療法・予防法が確立されておりません。詳しい原因も分かっていません。

慢性頭痛の診療ガイドライン作成員会編、日本神経学会・日本頭痛学会監修の『慢性頭痛の診療ガイドライン2013』(医学書院)によると、日本国内では、薬物乱用頭痛の1年間有病率を調べたデータはありません。しかし、諸外国では人口の1~2%がこの頭痛に悩み、女性が全体の約70%占めています。

もう一度、前回、前々回でご紹介した図表1を見てみましょう。

一次性頭痛の関係図
提供=北原雅樹医師

有病率を日本の人口に当てはめると、患者さんは120~240万人と推計され、決して見逃すわけにはいきません。図の右側に薬物乱用頭痛を壁のように縦に示した理由は、患者さんの薬物乱用を何とかやめさせたい、薬物乱用頭痛という壁を乗り越えたいという目標、願いを込めたためです。

■“薬漬け”から抜け出すしかない

薬物乱用頭痛(Medication Overuse Headache=MOH)の概念についてはおおむね一致しており、細かいところ、例えば、どれくらいの頻度や分量で薬を飲みすぎたら薬物乱用頭痛といえる症状に変わるのか、あるいは薬の服用をやめたらこの症状は治まるのか、などでは意見が分かれています。

明らかに薬が原因だから二次性頭痛であるという人もいますが、ここでは一次性頭痛のカテゴリーに分類しました。なぜならば臨床の現場では、医師も患者も片頭痛、緊張型頭痛のレベルでとらえている人が大変多いためです。

予防薬ではなく、治療薬(痛みの発作の時に使用する薬)を月10~15回以上使用した患者さんに薬物乱用頭痛を起こりやすいという傾向があります。まさしく乱用といえる頻度なのですが、起こさない人もおられ、原因は不明です。

薬物乱用頭痛から抜け出すには、治療薬を4~8週間はやめる必要がありますが、やめるのは大変ですし、やめてもよくならない人がいるので一筋縄ではいきません。さらには再発の危険性もあります。対処法をまとめますと、以下の通りです。

1.薬物乱用頭痛について十分に知る(医療者も患者も一般の方も)
2.乱用している薬剤をやめる(減薬ではなく完全にやめるほうが良い、できれば8週間)
3.必要に応じて片頭痛予防薬や非薬物療法(運動療法や心理社会的療法)を用いながらやめる(なかなか完全にピタッとやめることができないから)
4.再発を防ぐ

■頭痛は簡単には治らない

予防法は、理学療法、鍼灸、バイオフィードバック、各種トリガーポイント療法、リラクゼーション、認知行動療法、マインドフルネスなどがメインになります。薬物乱用頭痛の予防薬は、片頭痛と同じで以下の通りです。

・抗けいれん薬系:バルブロ酸系、トピラマート(日本では保険適応外)
・ベータ拮抗薬系
・カルシウム拮抗薬系
・抗うつ薬系
・抗CGRP抗体(新しく出た薬)

先述の『慢性頭痛の診療ガイドライン2013』によると、薬物乱用頭痛の再発率は約30%とされています。片頭痛治療薬トリプタンを再び多用してしまう方が多いという事実を受け止め、予防薬を採り入れ、運動療法、リラクゼーション、呼吸法などにも目を向けることがもっと大切です。

それでも一筋縄ではいかないこともあり、外来ベースで手に余る場合は、入院治療で医療者の監視のもと、規則正しい生活を行うことをお勧めします。

薬物乱用頭痛のように紆余曲折が強いられ、長期戦になるやっかいな慢性の頭痛では、医者との二人三脚が欠かせません。健康で長生きするためには、これまでの連載記事でご紹介した通りの多様な頭痛の症状に寄り添いウォッチしてくれる「かかりつけ医」が心強い味方になります。まずは信頼できるかかりつけ医を見つけましょう。

成熟した患者の肩に触れる思いやりのある医師
写真=iStock.com/fizkes
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/fizkes

■痛みに寄り添える「いい医者」と「ダメな医者」

良い医者は紹介状を出すことをためらいません。きちんとした治療をしている自信があるからです。自分の専門性の中で精いっぱい治療してきた結果が紹介状に現れるからです。また難しい症状であれば、頭痛を理解している医師のセカンドオピニオンを求め、石橋をたたきたいと思うのは良い医者の本能でもあります。

残念ながら、すべての医者がしっかり標準治療を順守しているとは言えません。長引く頭痛にもかかわらず、頭部MRI検査を1度も行わないとすると、正しい診断はできません。このような医者は、自信がないために紹介状をためらうタイプです。2割くらいいるでしょう。変な治療をして、症状を悪化させてしまう医者もいます。

「ご近所さんだから」「先生には意見を言いにくい」とは言わずに、医者から黙って立ち去る勇気も必要です。自分の頭痛を一番よく分かっているのは自分自身です。じっくり自分の頭痛の状態を自己観察する。医者に状態を伝え、コーチングを受けながら生活習慣を改める。医者任にせずに自分が主体となることが、頭痛における医者との向き合い方のポイントとなります。

それがかかりつけ医の質を高めることにもなります。大学病院とかかりつけ医のよりよい医療連携のためにも、かかりつけ医の質の向上は必須です。このような患者―かかりつけ医―大学病院の医療連携サイクルを回すことが大切です。

■「いい医者」は少しずつ増えてきた

私は横浜市立大学附属市民総合医療センターペインクリニック内科に着任して4年経ちますが、かかりつけ医からの紹介状の質が上がってきたことを感じます。着任当初はごく簡単な通り一遍の単純で義務的な紹介状ばかりでした。

しかし最近は、「片頭痛が疑われますが、薬が効きません。画像診断でも異常所見なしです。心理社会的要因を私なりに調べてみましたが特に見当たりませんでした。貴院での集学的な精査と治療をお願いいたします」などとこれまでの治療歴と現在の問題がわかるようなレベルの紹介状が多くなってきました。

自分の仕事に自信のあるゴルゴ13のようなプロフェッショナルな臨床医を目指し、医療連携への地道な啓発を重ねた結果、連携先の医師たちの向学心の向上に寄与でき、まさに「石の上に3年」を実感でき、うれしく思います。

■“健康長寿”には慢性痛を克服したほうがいい

多くの人は年齢を重ねるごとに体のどこかが痛みます。近年はIT化が加速し社会構造が転換し、ましてやこの2年はコロナ禍で行動の変化が強いられています。ご高齢の人が若いころに正しかったやり方や成功体験が、これら変化の大激流のなかで通用するとは限りません。

仕事のやり方や生活習慣を見直して、今の時代にふさわしいやり方や新たな習慣、社会環境に辛抱強く適応することによって、慢性痛を克服してほしいと思います。慢性痛のない人のほうが、慢性痛のある人よりも健康寿命も平均寿命も長い、しかも認知症にもなりにくいというデータがあるからです。

年をとっても体がそれほど悪くならないようにする。長引く頭痛もまずはそこからです。いつまでもゴルフや釣り、山登り、旅行を続けたいなど、人生の夢や目標を持つことは痛みに打ち勝つ最大の武器になります。痛みがあっても前向きに幸せに生きることこそ大事なのだと思います。

西洋科学は何に対しても1に分析、2に分析で限りなく細分化されました。そのお陰で医学は進化し、日本人の寿命も延びました。しかし人間の体は一か所治せばよいと言うものでなく全体のバランスの中でどうあるべきか、しかもそれを患者さんの立場で治療を選択すべきなのです。

■いい医者と二人三脚で頭痛に向き合う

頭痛を専門に診る医者は多くありません。患者から見ると医者にかかっても頭痛の症状がなかなか改善せず、そのままずるずると医者漬け、薬漬けになる傾向があります。せっかく平均寿命が延びても、このままでは健康寿命が短くなっていくように思います。

超高齢少子多死社会は、現在の社会保障制度を崩壊させつつあります。国民が健康のありがたみ、国民皆保険制度の恩恵を享受している今のうちに、痛みの治療も集学的なアプローチ(様々な医療者が連携しあって患者を診ること)を確立することが課題です。さもなければ、健康寿命と平均寿命は離れて行くでしょう。

皆さまの頭痛を一生ものにしないために、われわれ医療者も研鑽を積んでいます。皆さまも頭痛を甘く見ずに、良い医者と二人三脚で頭痛に向き合い、健康寿命を延ばしてゆきましょう。

(詳しく知りたい方はこちら)
◎慢性痛に関するYouTubeチャンネル「慢性の痛み講座 北原先生の痛み塾」
第53回:頭痛総論
第56回:薬剤乱用性頭痛
◎慢性痛についての総合的情報サイト「&慢性痛 知っておきたい慢性痛のホント」

(注1)本稿での解説は、世界最高峰の痛みの研究組織、米国ワシントン州立ワシントン大学集学的痛み治療センターでの5年間の留学時代に習得し、日本帰国後に臨床に応用し多くの症例を積み重ねたうえで多少改変した、痛みの専門医として有効性が高いと感じる個人的見解、私論であります。意見には個人差がありますので、あくまでも主治医の先生と相談のうえ、どの治療を選択するかは自己責任としてくださいますよう、お願い申し上げます。

(注2)私の在籍する横浜市立大学附属市民総合医療センター ペインクリニック内科では、現在、神奈川県内の患者さんのみ受け付けています。全国各地からのお問い合わせは「慢性の痛み政策ホームページ」の全国の集学的痛みセンターの一覧をご参照ください。

(注3)厚生労働省「からだの痛み相談支援事業」の電話相談窓口はこちらです。

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北原 雅樹(きたはら・まさき)
横浜市立大学附属市民総合医療センターペインクリニック内科診療教授
1987年東京大学医学部卒業。1991〜1996年、米国ワシントン州立ワシントン大学ペインセンターに臨床留学。帝京大学溝口病院麻酔科講師、東京慈恵会医科大学ペインクリニック診療部長、麻酔科准教授を経て、2017年4月から横浜市立大学附属市民総合医療センター。2018年4月から現職。専門は難治性慢性疼痛の治療。複雑な要因が重なる痛みの「真犯人捜しの名探偵」。西洋のリハビリと東洋の鍼を融合したトリガーポイント療法「IMS」を日本に導入した。日本麻酔科学会指導医、日本ペインクリニック学会専門医、日本疼痛学会、日本運動器疼痛学会所属。公認心理師の資格を持つ。著書に『肩・腰・ひざ…どうやっても治らなかった痛みが消える! 原因解明から最新トリガーポイント治療法のIMSまで』(河出書房新社)、『慢性痛は治ります! 頭痛・肩こり・腰痛・ひざ痛が消える』(さくら舎)、『最強の医師団が教える長生きできる方法』(アスコム、共著)などがある。

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(横浜市立大学附属市民総合医療センターペインクリニック内科診療教授 北原 雅樹 聞き手・構成=医療・健康コミュニケーター高橋誠)

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