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「ドライバーの異変を察知し停車」"先進安全技術搭載"のトラックができるこれだけのこと

プレジデントオンライン / 2021年10月18日 10時15分

さまざまな先進安全技術を装備する三菱ふそう「スーパーグレート」 - 画像=筆者撮影

宅配便取扱個数の増加、ドライバー不足、長時間労働と、物流業界が抱える課題は多い。それらを背景に、トラックへの先進安全技術搭載が進んでいる。どんな技術があるのか。交通コメンテーターの西村直人さんが解説する――。

■宅配便取扱個数は前年比「148%」

小型から大型まで、たくさんのトラックが顧客の荷物を運ぶ。そうした実体経済を下支えする物流業界では、昼夜を問わない過酷な労働環境が突き付けられている。その要因のひとつが、取扱個数の急増だ。

国土交通省「物流政策課」の最新調査によると、2019年と2020年の同時期における宅配便取扱個数は最大で148.0%と大幅な伸びを示した。

これはコロナ禍によるリモートワークなどから在宅率が高まり、インターネット経由によるショッピングである「eコマース」の利用率が一気に上昇したことが主な理由だ。さらに、コロナ禍以前から国を挙げて取り組んできた、生活のIoT化や企業のDX促進によるところも大きい。

一方で、企業間における運送収入は前年同月比において、軒並み10~30%程度落ち込んでいる。こちらは、人の移動が大幅に減ったことで各種工場の稼働停止や生産調整による資材の運搬が低迷したことが要因だ。

いずれにしろ、人の行動に伴う物やお金の流れが多様化したことで、社会全体の仕組みが大きく変わり始めている。

■ドライバー不足に長時間労働…課題は多い

さらに物流業界では、トラックを運転するプロフェッショナルドライバー不足への対策も不可欠だ。2019年10~12月期では運送業を営む企業の64%が「不足」、もしくは「やや不足」と訴えた。

ドライバー不足は2020年1~3月期に限定すると47%と一時的な改善がみられた。だが、コロナ禍の影響を本格的に受け始めた4月以降は前述したeコマースの増大をきっかけに、再びドライバー不足に転じている。加えて、高齢化対策も重要な課題だ。

長時間労働への対策も急務。トラックドライバーの平均的な業務時間は13時間27分(1時間23分の休憩や、荷物の積み降ろしなどの荷役と待ち時間を含む)と長時間にわたる。

このように、小口物流の増加対策や深刻化するドライバー不足への対応、さらには高齢化対策や長時間労働の解消に加えて、運送業務中に発生する交通事故の削減も物流業界には求められる。

現在、トラックの安全な運行は先進安全技術の活用でサポートされている。その代表的な機能が「衝突被害軽減ブレーキ」だ。衝突被害軽減ブレーキは次の2つの段階から構成される。

まず、第一段階の「システムからドライバーへの報知」として、自車の衝突危険性が高まった場合に、警報ブザーやディスプレイ表示などでドライバーによる危険回避動作をシステムが求める。

次に第二段階の「システムによるブレーキ制御」として、システムからの呼びかけにドライバーが応答できない場合に、自動的なブレーキ制御が介入し、自車速度や交通環境によっては衝突せずに完全停止、または軽微な衝突で被害を最小限に留めようとする。

■「衝突軽減ブレーキの義務化」が段階的に進む

トラックにおける衝突被害軽減ブレーキの義務化は、今から約7年前の2014年11月からGVWごと段階的に施行されている。車両総重量であるGVWとは、車両重量+積載する積荷+乗員の重さを足した値でt(トン)で示される。

日本では、このGVWが大きい(=重い)大型トラックから順次義務化が施行され、2019年11月からは小型トラック(GVW3.5t~8t以下)にまで法律が適応された。よって現在、日本で販売されているトラック(GVW3.5t~22t超)の新型車すべてには、衝突被害軽減ブレーキが標準で装備されている。なお、法律が施行された時点ですでに販売されている継続生産車には、装着義務に対する2年間の猶予が設けられた。

乗用車における衝突被害軽減ブレーキも普及が進む。2020年に国内で販売された新車(乗用車)のうち、なんらかの衝突被害軽減ブレーキを装着した車両は90%を超えることが明確になった。

普及率の増加は事故の被害を軽減する有用性が認められたからで、たとえばスバルの衝突被害軽減ブレーキを含む先進安全技術「アイサイト」装着車では、追突事故発生率が84%減少、歩行者事故発生率は49%減少している。これらを裏付けにした社会的損失度の低下から、2020年/2021年と2年連続して自賠責保険料が引き下げられた。

そして2021年11月以降に販売される新型の乗用車に、衝突被害軽減ブレーキの義務化が施行され、トラックと同じく継続生産車には2025年12月(11月末日)までの猶予が設けられている。

乗用車の衝突被害軽減ブレーキもトラックと同じく前述した2つの段階から構成されるが、乗用車の世界では、第二段階の「システムによるブレーキ制御」のイメージがCMなどの影響を受け先行したことから、「自動ブレーキ」などといった過大評価がなされ、いつでもどこでも完全停止するといった誤解も生まれた。

■大型トラックによる死亡事故の25%は「左折時の巻き込み事故」

ところで、乗用車の世界で実用化された先進安全技術のうち、たとえば高速道路などで前走車を追従する「アダプティブクルーズコントロール/ACC」機能や、車線の中央を維持する「レーンキープ/LK」機能は、すでに多くの大型トラックに実装済みである。

しかしながらGVWのかさむ大型トラックが加害車両となる交通事故では、運動エネルギーの大きさから被害が大きくなる傾向があり、そこをいかに先進安全技術で抑えるか、これが昨今の課題といわれる。

また、長時間労働となる物流業はドライバーの身体的負担も大きいため、先の先進安全技術によってその負担を減らし危険な状態に近づかない運転環境の構築が求められている。

そうしたなか今回は、三菱ふそうの大型トラックのステアリングを握り、機能強化された2つの新技術を体感した。

新技術の一つ目「アクティブ・サイド・ガードアシスト1.0」は、自車トラックの左側を歩く人や、車道を走る自転車にもかかわらず、①左ウインカーを出して左にステアリングを操舵した際、②警報ブザーと警報ランプで巻き込み事故の危険性を報知し、③それでもドライバーが反応しない場合には自動的にブレーキ制御を行う機能だ。

上記のうち①と②はすでにスーパーグレートに実装済みであったが、今回③の自動的なブレーキ制御が機能強化として加わった。三菱ふそうの技術者によると、「大型トラックが加害車両となる死亡事故のうち25%が左折時の巻き込み事故であることから、今回の機能強化に至った」という。

■最終的な回避操作は、ドライバーに委ねられる

試乗したテストコースでは自転車に見立てたダミーを自車トラックの左側で走らせ、交差点を左折するシーンを再現した。

自転車に見立てたダミー
画像=筆者撮影
自転車に見立てたダミーが、トラックの左側を走る - 画像=筆者撮影

左側にダミー自転車を発見するとすぐさま左Aピラー(車内左前の助手席側にある柱)部分のLEDランプが点灯、そこから自転車との距離が狭まると警報ブザーで報知、そのままウインカーを操作して左にステアリングを操舵するとブレーキ制御が介入し、接触事故を抑制する。このとき車両はブレーキを弱めず停止を保持し二次事故を防ぐ。

ブレーキ制御が介入するとはいえ、プロフェッショナルドライバーが運転する大型トラックであることから最終的な回避操作はドライバーに委ねられシステムは急ブレーキを行わない。

「急ブレーキは積荷にも負担がかかり荷崩れの原因にもなることから、衝突を回避するために最低限のブレーキ制御に留めた」と前出の技術者は言う。

メーター
画像=筆者撮影
ブレーキ制御が介入するとメーター内に表示される - 画像=筆者撮影

新技術の二つ目「アクティブ・ドライブ・アシスト2」は、これまでの「アクティブ・ドライブ・アシスト」に「車線内停止型のドライバー異常時対応システム」を追加したもの。

固有名詞ばかりなので、まずはアクティブ・ドライブ・アシストの説明から。この機能は、前出のACC機能とLK機能を組み合わせた先進安全技術だ。アクセル&ブレーキ操作とステアリング操作にアシストが入ることから自動化レベル2の段階で、2019年からスーパーグレートには実装済み。

■ドライバー異常時には、車線を維持して停止

EDSS(Emergency Driving Stop System)とも呼ばれる「ドライバー異常時対応システム」は、国土交通省が2016年3月に世界で初めて示したガイドラインで、2018年には第一世代である「単純停止方式」を日野自動車/いすゞ自動車の大型観光バス「セレガ/ガーラ」が商用車として世界で初めて実装した。

今回スーパーグレートが実装した「車線内停止型」は第二世代にあたる。ドライバーが運転継続できない状態での「緊急停止機能」に、直線やカーブを問わず車線を維持しながら停止する「車線維持機能」を追加したドライバーサポート技術だ。

現在、EDSSはさらに発展。車線を維持しながら周囲の交通状況に応じて路肩へ自動車線変更し停止する「路肩停止方式」へと昇華された。第三世代のEDSSはホンダの上級セダン「レジェンド Honda SENSING Elite」、トヨタの燃料電池車「MIRAI Advanced Drive」に実装されている。

■ドライバーの体調異変による事故は、年間300件近く起きている

今回はテストコースで危険な状態を安全に再現できる環境であったことから、車線内停止型EDSSをスーパーグレートで体験した。

ACCとLK両機能を働かせた状態で60km/hで走行中、急な体調不良を模してステアリングから手を放して運転操作を放棄する。すると、15秒後にディスプレイ表示(黄色)の警告、続いて30~50秒後にディスプレイ表示(赤色)と共に5秒ごとの警告ブザーが鳴り、55~59秒後には警告ブザーが1秒後ごとに早期化され、同時にハザードランプが点滅。

そして60秒が経過するとEDSSの制御が始まる。車内では警報ブザーが大音量になり、同時にブレーキ制御が介入。制動開始から約10秒後には完全停止を行う。制動中はストップランプや、走行用ヘッドライト(いわゆるハイビーム)が点灯し、さらにホーンも鳴らしながら、自車トラックに異常があったことを周囲の車両に知らせる。

今回、筆者が体験したケース(60km/hで走行時にドライバーに異常発生)で検証すると、スーパーグレートの車線内停止型EDSSは、減速度1.68(▲0.168G)を保ちながら、制動開始から約82.6m走行した時点で停止する。その間は、自動化レベル2の運転支援技術によって車線維持(車線をはみ出さないようにする自動ステアリング制御)が行われ、他車との接触を可能な限り抑制する。

アクティブ・サイド・ガードアシスト1.0と車線内停止型EDSSの新技術は、いずれも機能としては不完全かもしれないが、ドライバーとして体感してみるとじつに効果的であることがわかった。

なかでも、年間300件近くドライバーの体調急変に起因する事故が発生していることから、車線内停止型のEDSSがもたらす被害軽減機能は社会的損失度の低減という側面からも重要だと実感することができた。

車体左側方上下2段組のミリ波レーダー
画像=筆者撮影
車体左側方には上下2段組のミリ波レーダー。前後に角度をつけ検出エリアを拡大 - 画像=筆者撮影

■技術との「協調運転」が求められるようになる

このほか、いすゞ自動車の大型トラック「ギガ」も先進安全技術をふんだんに実装する。

ギガでは、車体の4隅に電波を発するミリ波レーダーを備え、車体の左右前方と左右後方の歩行者、自転車、二輪/四輪車を検知してドライバーにその存在を知らせ注意喚起を行う。

また、右Aピラー(車内右前の運転席側にある柱)に光学式カメラである「ドライバーモニターカメラ」を埋め込み、ドライバーの顔向きや運転姿勢をモニタリングし運転注意度が下がったとシステムが判断した場合には警告ブザー報知する。

この先は、乗用車や商用車の分け隔てなく、快適な移動を実現する自動化技術と、こうした先進安全技術が融合する度合いがますます高まる。従ってドライバーとしては、技術の特性を理解して過信せず、それらとの協調運転を行うことが重要になっていく。

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西村 直人(にしむら・なおと)
交通コメンテーター
1972年1月東京生まれ。専門分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつために「WRカー」や「F1」、二輪界のF1と言われる「MotoGPマシン」でのサーキット走行をこなしつつ、四&二輪の草レースにも精力的に参戦中。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も積極的に行い、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。著書には『2020年、人工知能は車を運転するのか』(インプレス刊)などがある。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)理事、2020-2021日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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(交通コメンテーター 西村 直人)

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