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「100人支援しても受給は1人だけ」生活保護を受けずに売春を繰り返す女性たちの本音

プレジデントオンライン / 2021年10月15日 10時15分

「歌舞伎町一番街」のアーケード前に立つNPO法人「レスキュー・ハブ」代表の坂本新さん - 筆者撮影

2020年11月、都内小学校に勤める20代の女性教師が、売春防止法の「客待ち・誘引」容疑で逮捕された。彼女は歌舞伎町の路上で客を取り、売春行為を繰り返していたという。歌舞伎町でいま何が起きているのか。ジャーナリストの富岡悠希さんがリポートする――。

■歌舞伎町・大久保公園に佇む女性たち

緊急事態宣言が明けて最初の日曜日となった10月3日。NPO法人「レスキュー・ハブ」代表の坂本新さん(50)は、午後9時過ぎに歌舞伎町交番に立ち寄った。

同公園周辺に立つ女性たちに声をかける「夜回り」に向かう前の挨拶だ。定期的に来ていることから顔見知りの警察官もいる。「ご苦労さまです」との声を受けながら、150メートルほど離れた大久保公園に向かった。

反時計周りに夜回りを始めると、すぐに顔見知りの女性が立っていた。茶髪でノーマスク姿。20代後半のように見える。言葉を交わしながら、何か困りごとがないか聞く。この日は特段、打ち明けられたことはなかった。

彼女から離れると、坂本さんは「最近、ここに来るようになった女性です」と教えてくれた。

再び歩いていくと、今度は後ろから歩いてきた女性に「やあ」と声を掛けられた。長い髪を揺らし、ピンク色のマスクをつけていた。彼女も同じく20代後半のようだ。

ここに立っている女性たちが客引き中か、単なる暇つぶしや待ち合わせでいるのかの判別は、ぱっと見ではしにくい。繁華街を歩いているほかの女性たちと同じような服装だからだ。決して、露出が多いなどの特徴はない。

ここにいたという女性教師も含め、彼女たちはどんなことをしているのだろうか。

■「外見はごくごく普通で大人しい印象」

——昨年11月に売春防止法で逮捕され、懲戒免職処分を受けた女性教師は、ここ大久保公園で売春をしていたと報じられています。

【坂本さん】ニュースに接した時、この場所で声をかけて支援活動をした、20代後半の女性を思い出しました。

売春行為をする女性が集まる大久保公園。特にこの道路と反対側に立つ女性が多い
筆者撮影
売春行為をする女性が集まる大久保公園。特にこの道路と反対側に立つ女性が多い - 筆者撮影

その彼女も昨年11月に売春防止法の疑いで逮捕されています。教職とまでは明かしてくれませんでしたが、比較的堅めの昼職についているとは聞いていました。また、お金のかかる趣味があり、ここにいるんだとも。

外見は派手でなく、ごくごく普通。自分からガンガン話すというより、やや大人しい女性との印象です。

LINEでやりとりをしていたのですが、処分報道のあとは連絡が取れていません。ニュースは匿名なので、必ずしも彼女とは言い切れませんが。

——女性教師かどうかは別として、その方へはどんな支援活動をしたのでしょうか。

私たちの団体は、警察や役所、弁護士につなげることを目指しています。そのタイミングは、彼女たちがここから足を洗いたいと考えた時です。

ここで客を取った女性たちは、近くのホテルで売春行為をします。男性が払うお金は交渉で変わりますが、平均では1回で1万5000円から2万円ほどです。全員が稼げるわけではありません。

■逮捕前には2万~3万円を渡していた

相談してもらうには、信頼関係を築く必要があります。夜回りで声をかけたり、マスクや消毒液などのちょっとしたアイテムを渡したりします。「売春は犯罪だからやめなさい」と言うと女性が離れるだけなので、そうした説教はしません。

女性教師と見られる方とは、話を聞くために、歌舞伎町で2、3回、一緒に食事をしています。また、昨年11月の逮捕前には、2万~3万円を渡しました。

彼女から「性感染症にかかったけど、お金がないから貸してほしい」と言われたからです。

——その女性に限らず、今まで何人ぐらいの女性を支援してきたのでしょうか?

私が歌舞伎町での夜回りを定期的にするようになったのは、2018年秋からです。週1回程度から始めました。

新型コロナウイルスの感染が拡大していった、2020年3月ごろから、このエリアに注目し始めました。コロナの影響で、女性が増えると予想されたからです。実際にその通りになりました。

大久保公園の近くにはホストクラブが多く、派手な看板を掲げている
筆者撮影
大久保公園の近くにはホストクラブが多く、派手な看板を掲げている - 筆者撮影

■緊急事態宣言下で目にした「異様な光景」

緊急事態宣言が出ると、キャバクラ、ガールズバー、デリバリーヘルスやソープランドなどが休業に追い込まれました。こうした夜職の女性たちが、街娼として流れてきました。

次第にコロナでダメージを受けた昼職の女性も加わりました。ホテルで働いていた、コールセンター業務についていたという女性たちと、話したこともあります。

昨夏はここの公園だけで、女性が軽く20人を超えていた夜もありました。立ちきれず、別の場所にも移動していたぐらいです。そこに声をかける男性やひやかしの男性がいる。異様な光景でした。

売春行為をする女性が集まる大久保公園に立つ街頭
筆者撮影
売春行為をする女性が集まる大久保公園に立つ街灯 - 筆者撮影

声かけして団体の資料を渡したのは、100人以上になります。そのうち、何らかの支援活動をしたのが三十数人になっています。

——支援した女性たちは、昼職がある人が多いのでしょうか? それとも街娼だけで食べているのですか。

街娼以外に定期的に稼いでいる昼職がある女性は、少数派です。「別に稼ぎがあるなら、体を売るなんてやめればいいのに」と思われるかもしれません。ただし、彼女たちには彼女たちの事情があるのです。

■家賃が払えず家を追い出され、食べ物もない

多くの場合、お金が出ていく先がある。具体的にいうとホストや地下アイドルで、貢ぐことが生きがい、生活のすべてになっています。昼職で稼ぐ以上のお金が必要です。

多数派の女性は風俗と掛け持ちするか、街娼のみかです。なかでも街娼のみの女性は、切実な問題を抱えているケースがあります。

一つは、家賃が払えずに部屋を追い出されている場合です。友達の家やネットカフェに泊まれれば、まし。お客さんにホテル代を朝まで払ってもらい、そこで過ごすこともある。お客さんへの依存度が高くなると、避妊をしてもらえないなどのリスクが生まれます。

もっと深刻になるのは、街娼としてお客が取れなくなった時です。食うに困ることになります。「朝から何も食べてないから、お金を貸してほしい」「お腹空いてしんどいから、ご飯おごって」。こんなLINEをもらっています。

こういうケースは、身体を売って解決できる状態を超えています。

■彼女たちが生活保護を受けない理由

——そこまで追い込まれている彼女たちは生活保護を受けることは考えないのでしょうか?

非常に残念なことですが、皆さん「生活保護受給は恥だ」と考えています。その考えを改め、まっとうな権利だと伝えることから始めています。

また、親族への扶養照会(※)を嫌がります。身体を売る選択をした彼女たちは、さまざまな事情を抱え、1人で生きることを決断しています。それなのに「仕送りできませんか?」「援助できませんか?」と家族や親戚に聞かれるのは、耐えられないのです。

生活保護につなげられた女性は、1人にとどまります。苦境ぶりからすると、さらに数人はいてもいいはず。生活保護受給へのハードルは高いと言えます。

※生活保護を申請するに当たり、自治体が申請者の3親等以内の親族に金銭的援助ができないかを問い合わせること。

歌舞伎町に足を運ぶ人々
筆者撮影
歌舞伎町に足を運ぶ人々 - 筆者撮影

——ここの女性たちが必要としているものは何なのでしょうか?

私も手探りで活動しています。ともかく話を聞ける関係性を作らなければいけません。私のような、いかついおじさんが、年下の女性と信頼関係を作るには3、4回は会わないといけない。

信頼関係を築き、支援につなげれば終わりではありません。

不安定な仕事についている方や離職して住居をなくした方をサポートする、東京都の制度があります。この前、ある女性がこの制度を利用しました。就労支援を受けるまでには至ったのですが、数カ月すると、ここに戻ってきてしまった。

継続的なフォローが必要だと感じました。NPOの体制充実や歌舞伎町での拠点作りなどに励みたいです。

■検挙されても戻ってくるケースも多い

坂本さんは夜回りの途中、女性にワッフルを差し入れるため、コンビニに立ち寄った。開始から1時間が経過した午後10時になると、客引きをする女性が増えてきた。一仕事終えてホテルから戻ってきたり、新たに来たりしているのだろう。筆者が話しかけた街娼の1人は、「終電までいる」と明かした。

坂本さんによると、警察は制服、私服警察官による検挙を定期的に実施している。その直後は女性の数は多少減るが、しばらくするとまた増えているという。いたちごっこが続いている状態だ。ニュースになった女性教師のように、検挙されても戻ってくるケースも多いという。

坂本新さんは大久保公園周辺での夜回りを続けている
筆者撮影
坂本新さんは大久保公園周辺での夜回りを続けている - 筆者撮影

これから寒い冬風が吹くようになっても、女性たちが路上からいなくなることはなさそうだ。

そんな彼女たちがいる大久保公園から東京都庁までの距離は、わずか2キロにも満たない。

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富岡 悠希(とみおか・ゆうき)
ジャーナリスト・ライター
オールドメディアからネット世界に執筆活動の場を変更中。低い目線で世の中を見ることを心がけている。繁華街の路上から見える若者の生態、格差社会のほか、学校の問題、ネットの闇、夫婦の溝などに関心を寄せている。

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(ジャーナリスト・ライター 富岡 悠希)

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