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コロナ第6波だけではない…衆院選に臨む岸田政権に襲いかかる「電力不足」という大問題

プレジデントオンライン / 2021年10月15日 11時15分

臨時閣議に臨む岸田文雄首相(中央)=2021年10月14日、首相官邸 - 写真=時事通信フォト

■石炭、LNGをめぐって「争奪戦」が起きている

「一難去ってまた一難だ」。自民党総裁選で「原発ゼロ」を信条とする河野太郎氏が、国民の支持を得ながらも岸田文雄氏に敗れ、国内電力業界からは安堵の声が漏れる。

河野氏は自民党の原発推進派に配慮して総裁選ではその持論を封印したが、10月に改定される「エネルギー基本計画」に関して太陽光などの再生エネルギーの比率を原案より引き上げるように経済産業省・資源エネルギー庁の幹部に「恫喝」したやり取りが週刊文春に報じられたように、自らの主張を曲げない意固地なところがある。電力業界では「実際に総理総裁になれば、どうなるかわからない」と警戒していた。

大手電力業界の「天敵」とも言える河野総裁誕生の悪夢はひとまず消え去ったが、足元では、もう一つの問題が現実味を増して経営にのしかかってきている。この冬の電力不足の問題だ。

新型コロナウイルス感染拡大の収束で、経済活動が回復するにつれて、中国を筆頭に電力の需要が増加。発電燃料である液化天然ガス(LNG)に加え、最近では石炭も争奪戦の様相になっている。

「近々、オーストラリアと中国の経済対立が解けるかもしれない」。こんな情報が商社など石炭やLNGをエネルギー物資を扱う国内企業に広まっている。中国の一部の港から豪州産の石炭が荷揚げされたという情報が飛び交っているからだ。

■中国全土で相次いで停電が発生する事態に

豪中関係は昨年4月、モリソン政権が新型コロナウイルスの発生源の独立調査を求めたことで、悪化した。中国は大麦や食肉など豪産品の輸入を制限する経済報復に踏み切った。

さらに、軍事面でも米国と英国の三カ国で新たに「AUKUS(オーカス)」と名付けた安全保障の枠組みを締結。豪州は米英から原子力潜水艦の技術供与を受けることになり、関係修復は困難な状況に陥った。

しかし、中国全土で相次いで停電が発生する事態になるにつれて、「カーボンニュートラル」を掲げ、北京五輪を青空の下で開催したいとする中国政府も背に腹は代えられなくなってきている。

まずは、国内石炭の増産に乗り出し始めた。習近平指導部は温暖化対策として発電用石炭の生産を制限してきたが、主産地の内モンゴル自治区政府は炭鉱会社に1億トン近くの増産を指示。10月末までに72カ所の炭鉱の生産制限を解いて能力を十分に発揮するよう命令を下した。

中国政府が気にかけるのが同国内に拠点を構える海外企業の「中国離れ」だ。

■アップルやテスラの生産にも深刻な影響が

約20の地域で電力不足が相次ぎ、東北部の遼寧省などでは停電が起きた。米アップルなどに部品を供給する江蘇省の工場が操業を停止した。その影響は米テスラなどにも及び、日本企業でも代替の生産地を探す動きが出始めた。

電力不足や電気料金の高騰で海外企業が中国から離散すれば「世界の工場」という立場が揺らぐ。その結果として生じる雇用の減少や経済の低迷は習指導部が掲げる「共同富裕」政策にも影響を与えかねない。

政府の指導を受け、石炭の主産地である内モンゴル自治区、山西省、陝西省の3地域は江蘇省や浙江省、広東省など工場が集積して電力不足が深刻な沿海部に安定供給する契約を結ぶなど、躍起だ。

■日本での主な電力の電源燃料はLNGだが…

電力不足はインドにも波及し始めた。135ある石炭火力発電所のうち、10月1日時点の石炭在庫は平均で4日分しかなく、半数以上では在庫が3日未満にまで落ち込んだ。政府が推奨する最低2週間分の確保を下回り、8月初めの同13日分から減少したと、電力当局の話として報じられている。

日没時の石炭火力発電所
写真=iStock.com/kamilpetran
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kamilpetran

需給逼迫の背景にあるのが、世界的な石炭価格の上昇だ。インドは中国に次ぐ世界2位の石炭輸入国で、主にインドネシアやオーストラリアなどから石炭を輸入する。

アジアの発電用石炭の指標であるオーストラリア産のスポット(随時契約)価格は10月上旬時点で1トン200ドル(約2万2000円)を突破。08年7月に付けた過去最高値(約185ドル)を更新した。新型コロナ禍からの経済正常化でアジアでの消費が増えたほか、同じ発電燃料である天然ガスの高騰を受けて欧米で代替的な需要も増えている。

同じアジアに位置する日本も無縁ではない。

大半の原発が止まっている日本での主な電力の電源燃料はLNGだ。そのLNGを巡り争奪戦が起きている。

■米国、オーストラリア、カタールも「増産余地は乏しい」

世界からLNGをかき集めているのが中国だ。調査会社のケプラーなどによると、2021年の中国の輸入量は世界全体の約20%を占めると見込んでいる。8%だった15年に比べ12ポイント上昇する見通しだ。二酸化炭素(CO2)の排出量が少ないエネルギー源として調達を増やしており、8月までの輸入量は5180万トンと、世界最大の輸入国だった日本(5137万トン)を初めて上回った。この増勢は続きそうで、世界的な電力不足の震源となりそうだ。

欧州では天然ガスの卸売価格が年初から3倍強も上昇した。英オックスフォード・エネルギー研究所の推計では、欧州における21年の天然ガスの供給不足は年間ガス需要の1割弱に及ぶ。その不足分を補おうと電力会社がLNG確保に向かっている。

液化天然ガス貯蔵タンク
写真=iStock.com/Eric Middelkoop
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Eric Middelkoop

8月は449万トンと前年同月に比べ6%増えた。天候不順で風力発電が振るわなかったのに加え、ロシアが政治的対立を理由に、ウクライナに設置されたパイプライン経由での供給を絞っているためだ。

中国や欧州がLNG調達にしのぎを削る一方で、供給は頭打ちだ。世界最大の天然ガス生産国である米国は1~7月に過去最高の輸出量を記録したが、「液化設備は可能な限り稼働している」(商社幹部)という。オーストラリアやカタールなど他の主要生産国も増産余地は乏しいとされる。

■エネ庁「今年の冬は電力不足に陥る可能性が高い」

日本では昨冬、寒波などでLNGが不足して卸電力価格が急騰、電力小売事業者の一部が破綻した。電力各社はこうした経緯を踏まえてLNG在庫を増やしている。資源エネルギー庁によると、日本の電力大手が保有するLNG在庫は8月末時点で約240万トンと1年前より5割多い。

だが、足元ではじわじわと、その影響が身近な生活にも及び始めている。電気料金は6月から一部の電力会社で値上げされ、ついに9月分からは大手電力・ガス会社全社が値上げに踏み切った。11月分も全社が値上げする。

この冬、政府は電力不足を起こさないために休止している石炭・石油火力発電所の再開なども認める方針だ。エネ庁も「今年の冬は電力不足に陥る可能性が高い」と警告、無駄な消費を避けるよう予防線を張っている。電力大手各社も「節電要請」発令の一歩前まで追い込まれた昨年冬の教訓を生かし、LNGを安定的に調達できる「臨戦態勢」をしいている。

しかし、寒波の襲来で在庫が底をつき、スポット(随時)契約に手を出すような事態になれば一気に「停電」の不安は高まる。需給逼迫でLNGは高騰。国際指標であるアジアのスポット(随時契約)価格は10月上旬時点で、1カ月前より9割近く上昇、今年1月に付けた過去最高値を更新した。自由化で体力の弱った日本の電力大手がLNGを「買い負ける」懸念もある。

■岸田新政権を襲うエネルギーとコロナという2大課題

今月末には衆院選挙が行われる。コロナの「第6波」の襲来と電力不足や電気料金の高騰が重なれば、岸田新政権には大きなダメージとなる。

英国ではイーグル・エナジーなど中小のエネルギー会社がコスト上昇分を小売価格に反映できず、9月だけでも9社が経営破綻した。破綻した計9社の顧客は約170万世帯に拡大、影響は食品流通などにも波及している。

英国は電気・ガス料金に上限がしかれており、LNG価格の上昇がストレートに電気料金に反映することはないが、それでも9月から電気・ガスの基本料金の上限は12%増加し、低所得者層を中心に家計への影響が出始めている。

衆院選を終えたこの冬、岸田政権はエネルギーとコロナという国民生活に直結した課題に取り組むことになる。

(プレジデントオンライン編集部)

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