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「宇宙空間は中国だけのものになる」習近平の宇宙進出が大暴走を続けるワケ

プレジデントオンライン / 2021年10月20日 15時15分

2021年10月15日、中国・甘粛省の酒泉衛星発射センターで有人宇宙船「神舟13号(Shenzhou-13)」に搭乗する宇宙飛行士の(左から)葉光富氏、王亜平氏、翟志剛氏がセレモニーに出席 - 写真=CFoto/時事通信フォト

■「宇宙の平和利用にとって先駆的な貢献」と自画自賛

10月16日、中国が有人宇宙船「神舟13号」を打ち上げ、その6時間半後には建設中の宇宙ステーションへのドッキングに成功した。女性1人を含む宇宙飛行士計3人が乗り移った。3人は半年間滞在する。計画では宇宙飛行士の宇宙空間における健康状態や生活への影響について調査するほか、建設にともない数回の船外活動も実施する。

中国は今後も実験棟や物資補給船を打ち上げ、来年12月には宇宙ステーションの建設を終了する予定だ。

宇宙ステーションの建設について中国の習近平(シー・チンピン)国家主席は「われわれ人類の宇宙空間の平和利用にとって先駆的な貢献となるに違いない」と強調している。

だが、その言葉とは裏腹に、宇宙開発でもアメリカに対抗する習近平政権の覇権主義が顕著である。

宇宙ステーションは軍事転用が可能だ。たとえば、特殊なレーザー兵器やミサイルを搭載すれば、他国の人工衛星などを攻撃するキラー衛星にもなる。そうしたSF映画のようなことが現実になりつつある。

中国の宇宙空間の開発は軍部である人民解放軍と深く関係し、今回の宇宙飛行士の3人も空軍出身者だ。何が宇宙の平和利用なのか。どこが貢献なのだろうか。中国の宇宙開発はアメリカに対抗するための軍拡そのものなのである。

■国際宇宙ステーションは3年後には運用期限を迎える

一方、国際宇宙ステーション(ISS)は基本的に日本、アメリカ、カナダ、ロシアのほかに欧州各国の計15カ国が参加協力している。2011年に完成し、複数の飛行士が半年から1年にわたって滞在して宇宙空間での実験を続けてきた。だが、残念ながら国際宇宙ステーションは老朽化が進み、2024年には運用期限となり、高度400キロの地球上空を周回する宇宙基地としての役目を終えるとみられている。

国際宇宙ステーションがなくなると、中国の宇宙ステーションが唯一となる可能性が高い。それだけに覇権主義の習近平政権は「宇宙強国」を目指し、宇宙空間の開発分野で国際的な影響力を強めようとしている。しかも中国は宇宙空間を自分たちのものとしか考えていないところがある。

今年は中国共産党の創建100年の節目の年に当たり、来年には5年に1度の共産党大会が開かれる。中国共産党は中国国家の上に位置する。その中国共産党史上、毛沢東に並ぶ存在を目指す習近平国家主席はこの党大会で「党主席」の地位に就き、おのれの政権の長期化を実現させようと必死だ。宇宙ステーションの建設をはじめとする宇宙空間の開発も、そのための演出のひとつなのである。

■今年5月には中国探査機が火星への着陸に成功

中国の宇宙空間への進出は宇宙ステーションだけではない。今年5月15日には初めて探査機の火星への着陸に成功した。探査機の火星着陸は技術的にかなり難しいといわれる。にもかかわらず、すでに中国は着陸させた探査機に搭載された無人探査車を使って火星の地形などを詳しく調査しているとみられる。

これまでも中国は2019年1月に世界で初めて月の裏側に無人の探査機を着陸させている。昨年6月にはアメリカのGPSに対抗する衛星測位システムも完備した。今後、宇宙飛行士の月面着陸を成功させ、火星への有人飛行の段階に入るだろう。

しかし、中国の宇宙開発は安全性が疑われ、透明性にも欠ける。たとえば、5月9日には打ち上げた大型ロケットの残骸が、モルディブ近くのインド洋に落下した。残骸は全長約30メートルと大きく、当初から大気圏で燃え尽きずに落下する恐れが指摘されていた。

けが人などの被害はなかったが、懸念が現実となった格好だ。人口の多い都市部に落ちていたら大きな被害が出ていた可能性がある。同様のトラブルは昨年5月にもアフリカのコートジボワールで起きている。

日本を含む世界を危険にさらした中国の習近平政権の責任は重い。だが、中国はまったく反省していない。この点については、5月18日付の記事<「ついに火星到着も、ロケット残骸が落下」中国の乱暴すぎる宇宙開発が止まらない>でも触れた。

ISS国際宇宙ステーション
写真=iStock.com/scibak
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/scibak

■国際社会のルールや倫理感に背く行為は許されない

習近平政権の強権的かつ覇権主義的な行動は枚挙にいとまがない。

台湾に対しては、中国軍用機が台湾の防空識別圏(ADIZ)への進入を繰り返すなど軍事的圧力をかけ、「台湾は中国の一部。統一を実現することが中国共産党の歴史的任務だ」と訴える。同じく「核心的利益」と主張する香港では強制力と言論弾圧で民主派を一掃し、「これからも国家安全維持法により民主主義を取り締まり、長期的な繁栄と安定を維持する」と強調する。

大きな軍事力をバックに東シナ海や南シナ海の浅瀬を埋め立てて人工軍事要塞を築き、沖縄県の尖閣諸島を「中国の領土の不可分の一部」とみなして中国海警船を侵入させては日本漁船を追い回している。

ジェノサイド(集団殺害)が国際問題になっている新疆(しんきょう)ウイグル自治区に対しても「譲ることのできない核心的利益」「他国の口出しは内政干渉」との主張を繰り返す。

中国国内では世界第2位の経済大国にのし上がった裏側で、大躍進運動、文化大革命、天安門事件によって余りにも多くの犠牲者を出してきた。

習近平政権の国際社会のルールや倫理感、秩序に背く行為は、決して許されない。

■「中国の宇宙軍拡 日米協力で脅威を抑えよ」と産経社説

7月6日付の産経新聞の社説(主張)はその書き出しで「日本は、中国の宇宙分野の軍拡を警戒し、抑止力を高めるべきだ」と訴え、「宇宙ステーションの関連技術が軍事利用されない保証はない」と指摘する。

さらに後半部分で「日本は、自国や同盟国米国の宇宙を利用した通信・監視システムが攻撃され、機能不全に陥らないよう備える必要がある」と主張する。見出しも「中国の宇宙軍拡 日米協力で脅威を抑えよ」である。

残念ながら現在の中国に、日本だけで対抗するのは難しい。頼りになるのはアメリカの存在だ。その現実を日本はしっかりと認識するとともに防衛力をより高度に高める必要がある。「天は自ら助くる者を助く」の精神を忘れてはならない。

■「成果に伴う責任の自覚を」と毎日社説

5月27日付の毎日新聞の社説は「『宇宙強国』目指す中国 成果に伴う責任の自覚を」との見出しを掲げ、こう書き出す。

「中国が打ち上げた無人探査機が初めて火星への着陸に成功し、地質などの調査を始めた。米国に次ぐ2カ国目であり、宇宙開発においても米中競争の構図が鮮明になった」
「火星の大気は地球の1%と薄い。地球からの通信はすぐ届かず、探査機を自律制御で動かす高度な技術が求められる。中国は最初の挑戦で達成した」

アメリカをしのぐ宇宙開発の技術力のあった旧ソ連でさえ何度も失敗を繰り返した。それだけ、火星探査は難しい。火星探査など宇宙空間の開発技術における中国の実力はあなどれない。

毎日社説は「米国との宇宙協力は断絶状態だが、ロシアや欧州とは連携してきた。発展途上国の衛星打ち上げも支援し、影響力を拡大している」と指摘し、「一方で、急激な台頭は、国際社会の懸念を呼び起こしている」と書く。

連携しやすい先進国から技術を吸い上げ、その技術を後進国に流して支配下に組み入れようとする。これが中国のやり口である。かつて欧米諸国が取った植民地政策と同じだ。ミャンマーやアフリカなど中国の巨大経済圏構想の一帯一路に属する国々の状況を考えると、それがよく分かる。

■落下物対策がなければ、国際社会の対中不信を広げるだけ

さらに毎日社説はこう指摘する。

「各国は国連の常設委員会で(落下物を含む宇宙ごみの安全対策について)議論を重ね、打ち上げ国が実行すべき指針をまとめてきた。中国もその一員だ。こうした努力を自らないがしろにしては、国際社会の対中不信を広げるだけだ」

中国という国は自国に問題が生じるかどうか、自国の利害しか念頭にない。だから国際社会に信用されなくなっているのだ。

毎日社説は書く。

「米中露の宇宙開発は軍事とも密接に関わる。平和利用の原則はただでさえ揺らいでいる。身勝手な行動で他国を刺激すれば、軍事利用に拍車がかかりかねない」

宇宙空間の開発に限らず、中国は身勝手な行動を取り続け、相手国との間に一触即発の危機が迫っている。なかでもアメリカと中国の軍事対立は深刻化している。

毎日社説は主張する。

「宇宙はすべての人類に開かれた公共財であり、力による占有は許されない」

宇宙は中国のものではない。世界各国の公共財産と考えるべきなのである。もちろん力による占有など認められない。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)

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