「大統領の仕事がこんなにキツイと知っていたら…」ケネディがライバル議員に"そっと述べた言葉"
プレジデントオンライン / 2021年11月10日 9時15分
※本稿は、福田智弘『人間愚痴大全』(小学館集英社プロダクション)の一部を再編集したものです。
■「大統領の仕事がこんなにキツイと知っていたら……」
大統領なんかならなきゃよかった
ケネディ(政治家)
史上最年少となる43歳でアメリカ大統領に当選したのが、ケネディである。(ちなみに、史上最年少の大統領はケネディではない。42歳と322日で大統領となったセオドア・ルーズベルトである。ただし、彼は大統領の暗殺に伴い、副大統領職から繰り上がりで大統領になったのであり、選挙で当選したわけではない。)
前任のアイゼンハウアー大統領の下で副大統領を務めてきたニクソンという強敵を破り、若さと人気を武器にアメリカを率いることになったケネディ。しかし、その彼が、かつて大統領候補者選びのための選挙(民主党予備選)で争ってきたライバル議員に向かって
「大統領の仕事がこんなにキツイと知っていたら……。あなたに勝つんじゃなかった」
と述べたことがあったという。
つまり、「大統領になんかなるんじゃなかった」という愚痴である。いったい何があったのだろうか。
■精神的に追い詰められながらも、アメリカと世界を救った
この当時、アメリカは「キューバ危機」に揺れていた。この頃、世界はアメリカを中心とする西側諸国とソ連を中心とする東側諸国がさまざまな面で対立を繰り広げた「冷戦」の真っ只中にあった。その時、アメリカの目と鼻の先にあるキューバに、ソ連がミサイル基地を建設しているという情報が入った。キューバには、カストロらの手によって社会主義国家が樹立されていたのだ。
国土のすぐそばにミサイル基地が建設されたら、わき腹にピストルを突きつけられて生活するようなもの。基地建設の情報を得たケネディは、海上を封鎖しミサイルの搬入を阻止した。しかし、ソ連はそれを「主権の侵害だ」と激しく抗議。米ソの緊張は最大限に高まり、核戦争まで「あと一歩」とささやかれた。
矢面に立ったケネディは、臨戦態勢を整えながら、議会にも協力を求めた。この頃の彼は、いつもの自信満々の笑顔ではなく、少しやつれたように見えていたという。そして、この時、大統領選挙も終わり今や同じ党の仲間に戻った元ライバルに対し、そっと述べたのが右の言葉だったのである。
とはいえ、仲間内では弱音を吐きつつも、外交上の脅威に対しては一歩も引かなかったケネディは、ソ連に対して強い態度を示しながら、密かに外交交渉も進めていた。そしてついにソ連は「アメリカがキューバへ侵攻しないこと」を条件にミサイルの撤去に同意。間一髪、キューバ危機は回避されたのである。
かつてのライバルに愚痴を漏らすほど精神的に追い詰められながら、無事にアメリカと世界を救ったケネディ。その後の活躍が大いに期待されたのだが、それからわずか1年後に凶弾に倒れてしまった。まだ46歳の若さである。
■キューバ危機より先に問題となった「ベルリンの壁」
なんで俺が行かなきゃならないんだ!
ジョンソン(政治家)
ケネディが史上最年少で大統領となった時の副大統領がジョンソンだ。ケネディよりも9つ年上で、副大統領に就任した時は53歳だった。
当時は、東西冷戦の真っ只中。キューバ危機よりも先に問題となったのが、ドイツ、とりわけ首都の「ベルリンの壁」問題だ。
第二次世界大戦後、ドイツは東西2つに分けられた。同時に首都ベルリンも東西に分けられたのだが、ベルリンのまわりはすべて東ドイツの領域だ。つまり西ベルリンは東側陣営に囲まれた西側陣営の飛び地のような形になっていた。
ドイツが東西ドイツに分かれて独立すると、西側は徐々に発展を遂げたが、東側は政権が国民を抑圧し生活水準も上がらずにいた。やがて東ドイツから西ドイツへと逃亡する国民が続出。ベルリンでも東ベルリンから西ベルリンへと脱出を試みる国民が増えていった。
そこで東ドイツは、ベルリンの東西を分ける交通路に鉄条網を張り巡らした。それは装甲車や銃を使った力ずくの封鎖だった。1961年8月。ケネディが大統領になって7カ月ほど経った時のことである。当時、周囲を封鎖された西ベルリンの人々は、積極的な対応をとらないアメリカに不満を募らせていた。
■安全にたどり着けるかもわからない「飛び地」
そこで、ケネディは、西ベルリンにジョンソンを派遣することにした。孤立を募らせる西ベルリンに大量の軍隊を派遣し、西側諸国の結束を見せつけることにしたのだ。
しかし、ベルリンは、東ドイツの只中にある飛び地だ。軍隊が安全にそこまでたどり着けるのかもわからない。東ドイツ側も武器を用意し、一触即発の状態になっている。
「(そんな危険なところに)なんで俺が行かなくちゃならないんだ!」
ジョンソンは愚痴をこぼしたという。
しかも、命令しているのは、自分より9つも年下の男なのだ。
とはいえ、命令は断れないし、政治的な使命を自覚してもいただろう。結果、ジョンソンは無事務めを果たし、西ベルリンに部隊を派遣することに成功した。
その翌年はキューバ危機があり、明けて1963年6月、ケネディは西ベルリンを訪問。
「私はベルリンの一市民である」
という演説を行い、当地の市民たちの厚い信頼を獲得した。ひょっとすると、ジョンソンにしてみれば、「一番危険な時に現地で活躍したのは自分なのに……。おいしいところを持っていかれた」という気分だったかもしれない。
その演説からわずかに5カ月後。ケネディは凶弾に倒れ、ジョンソンが大統領に昇格した。東西の冷戦は、それから四半世紀以上も続くことになる。
■45歳、エルバ島行きを目前に毒薬を口にした
死ぬのも楽じゃない
ナポレオン(皇帝)
英雄の代名詞ともされるナポレオン。彼の人生は栄光と挫折の繰り返しだった。
コルシカ島の小貴族の家に生まれた彼は、フランス革命が起きた段階では、まだ一介の兵士にすぎなかったが、やがてイタリア遠征などで頭角を現し、最終的には皇帝の座に上り詰める。
数々の戦勝によってヨーロッパの多くを手中に収めたナポレオンだったが、ロシア遠征に失敗すると、徐々に状況は悪くなる。やがて諸国民戦争に敗れた彼は皇帝の座から降ろされ、エルバ島へと流されることとなった。その時、ナポレオンはまだ45歳。政治家として軍人として、まだまだ働き盛りの年齢だった。
権力も財産も、すべてを奪われた彼の胸元には、小さな絹の袋が下がっていた。毒薬である。
配流地エルバ島行きを目前に控えたある夜、ナポレオンは、ついにその毒薬を口にした。
激しい痛みが彼を襲う。愛する妻への手紙を側近に手渡すと、痛みは一層強くなった。その時、彼の口から出たのが
「死ぬのも楽じゃない」
の言葉だったという。
■「もう一度、ひと花咲かせよう」
かつてのナポレオンは、軍事の天才としての名声をほしいままにしていた。少々大げさに表現すれば、多くの戦いは英雄にとって「楽勝」ものだった。しかし、ロシア遠征に失敗してからは、立て続けに敗戦を経験。戦争に従事することは「楽なこと」ではなくなっていた。
政治家としてもナポレオンはいくつかの功績を残した。法律を整備し、「ナポレオン法典」の名が刻まれた。もはや政治は彼の意のままだった。しかし、戦争に敗れた後は、すべての政治的権力を奪われた。政治家の地位に安住することはできなくなってしまった。
そんな彼が、唯一手にすることのできた自由。それが自分の意志で死を選ぶことだった。
しかし、死に至る道は楽ではなかった。激しい腹痛、嘔吐に長い時間悩まされた。ナポレオンの愚痴をもう一度読み返してみよう。
「死ぬのは楽じゃない」ではない。
「死ぬのも楽じゃない」だ。敗戦と失脚を経験した彼にとって生きることは辛いことの連続だった。しかし、死に至ることは、それに匹敵するくらいの苦であることを彼はこの時知ったのだ。その後、結局蘇生し、服毒自殺は失敗に終わる。
やがて、エルバ島に流された彼が選んだのは、「死」ではなく、「生」だった。エルバ島を脱出し、再び、権力の座に就こうとしたのだ。結果は「百日天下」に終わるのだが、死出の旅に失敗し愚痴をこぼした45歳のナポレオンは、この時、
「もう一度、ひと花咲かせよう」
と心に決めたのである。
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歴史・文学研究家 作家
1965年埼玉県生まれ。東京都立大学卒。歴史、文学関連を中心に執筆活動を行っている。おもな著書に『ビジネスに使える「文学の言葉」』(ダイヤモンド社)、『世界が驚いたニッポンの芸術 浮世絵の謎』(実業之日本社)、『よくわかる! 江戸時代の暮らし』(辰巳出版)などがある。
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(歴史・文学研究家 作家 福田 智弘)
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