「むしろ女性のほうが優秀ですごい」と持ち上げてくる男性ほど残念な人はいない
プレジデントオンライン / 2021年11月8日 12時15分
※本稿は、アルテイシア『モヤる言葉、ヤバい人』(大和書房)の一部を再編集したものです。
■「私はアジア人に偏見がない」と言われたら
「私は同性愛に偏見がないから、ゲイの男性と友達になりたい」
数年前、女友達のこの発言を聞いてモヤった。SATCのキャリーとスタンフォードみたいな関係に憧れる女性は多いだろうし、その気持ちはわからなくもない。「これってモヤる言葉?」と首をかしげる人もいるだろう。そこで私がなぜモヤったのかを解説したい。
まず「ゲイの男性と友達になりたい」という言葉を当事者が聞いたら「あなただから」ではなく「ゲイだから」と受け取るだろう。「自分のことを1人の人間として見ず、都合のいい役割&ステレオタイプなイメージを押しつけている」と感じるんじゃないか。
また「私は同性愛に偏見がないから」には、無意識の偏見や差別意識が潜んでいる。
ドイツに住んでいた女友達が話していた。「ドイツでは女性差別を感じることはほぼなくて、そういう意味では住みやすかった。でも、人種差別を感じることはよくあった」と。たとえば「私はアジア人に偏見がないから、あなたと友達になりたいわ」と善良なドイツ人たちから言われたそうだ。
発言した側に悪気はなく、自分は差別なんてしないと思っているのだろう。でも言われた側は「あなたは私とは違う、本来は差別されるマイノリティだけど、受け入れてあげますよ」というマジョリティの上から目線&傲慢さを感じる。「自分は偏見がない」と自称する人の方がむしろ、無意識の偏見や差別意識に鈍感なんじゃないか。
ちなみに「僕は女性差別なんてしません、むしろ女性の方が優秀ですごい、男はかないませんよ!」とやたら持ち上げる男性がいるが、これも目の前の相手を対等な1人の人間として見ていないのだ。
■人は自分が持つ特権に気づきにくい
前出の友人がドイツに住んでいた頃、ドイツ人の夫とレストランに行った時と日本人の友達と行った時では、店員の態度が違ったという。その話を夫にすると「気にしすぎじゃない?」「きみはちょっと敏感すぎるよ」と言われたそうだ。そうやって気にせずにいられること、鈍感でいられることが特権なのだ。そして、人は自分の持つ特権には気づきにくい。
かくいう私もかつては無知で鈍感で、過去を思い出すとグレッチで首をはねたくなる。たとえば、20代の私は職場で後輩女子に「彼氏できた?」「どんな男子が好み?」とか平気で聞いていた。世の中には多様なセクシャリティの人々がいるという認識が足らず、みんなが異性愛者で恋愛を求めているという前提で、性的マイノリティの存在を無視するような発言をしていたのだ。
そんな過去を反省しているが、今だって気づかずに誰かを踏んでいるかもしれない。そうならないために次の文章を胸に刻みたいし、なんなら写経して寺に納めたい。
■アメリカで行われている特権に気づくための授業
太田啓子さん著『これからの男の子たちへ』の対談の中で、小学校教師の星野俊樹さんが次のように話している。
「特権と抑圧を実感できるアクティビティとして、簡単にできておもしろいものを紹介しますね。まず、スクール形式で机が並んでいる教室で、黒板の前に大きな段ボール箱を置きます。生徒に一枚ずつ紙を配って、その紙に名前を書いて丸めたボールを、自分の席から投げて段ボール箱に入れてもらう。そうすると、前の席の生徒は簡単に入れることができますが、後ろの席の生徒は容易に入れられない。そのうち、こんなゲームは無意味だといって投げるのをやめる生徒も出てくる。
最後に、座席から黒板までの距離が何を意味すると思うか、と生徒に投げかけます。
前方に座っている生徒は、シスジェンダーでヘテロセクシャル(異性愛者)の男性や、経済的に恵まれた家庭環境などの特権をもった人で、後ろに行くほどそうではない境遇の人ということになる。そう説明すると、多くの生徒が直感的に理解してくれるそうです。アメリカなどではこういう実践が「社会的公正教育(Socal Justice Education)」として研究され、学校でもおこなわれているんですね」
これを読んで「ワイも段ボール箱を持ち歩こかな」と思った。自分のもつ特権を自覚するために、日本の学校でもぜひ導入してほしい。
■不平等は特権を持つ人が是正すべき
「このゲームのような不公平な構造を変えていくには、特権を持つ側で気づいた人が行動する必要がある。教室の前方に座っている人は、前だけ見ていれば自分が優遇されていることに気づかない。でも、後ろを振り返って、自分が特権的な立場にいることを自覚した人は、もしも行動せずに特権に留まろうとするなら、この構造の再生産に加担したことになる」
この言葉にも全力で膝パーカッションだ。一番前の席で後ろを振り返ったことのない人には、弱い立場の人やマイノリティの存在が見えない。だから「本人の努力が足りない」「自己責任だ」と主張して、社会の構造を変えようとしない。
たとえば、東大生の親の半数以上が年収950万円以上だ。親の経済格差が教育格差につながって、努力したくてもできない環境にいる人、進学という選択肢すらない人もいる。塾や習い事をする余裕などなく、家計を支えるためにバイトする子どもたちもいる。日本は7人に1人の子どもが貧困状態にあり、先進国で最低レベルだ。こうした現実を見ずに自己責任とか言う奴は、グレッチで穴掘って埋めたろかと思う。
■偏見を持たず人を見る訓練が必要
また日本のように同質性の高い社会だと、マジョリティは自分がマジョリティだと思わずに暮らしているため、下駄を履いていることに気づきにくい。
友人の久山葉子さん著『スウェーデンの保育園に待機児童はいない』によると、スウェーデンでは保育園から子どもたちに「性別、民族、宗教、セクシャリティ、障がい等にかかわらず、人間には全員同じ価値がある」と教えるそうだ。スウェーデンは様々なバックグラウンドをもつ人々が暮らす社会なので、幼い頃から人権教育を徹底して、目の前にいる相手を偏見のフィルターをかけずに見つめる訓練をするという。
「(娘の通う保育園では)男性同士のカップルと赤ちゃんの写真を見せて、先生が子どもたちに『これを見てどう思う?』と尋ね、意見を出し合っていた。子どもたちの無邪気な回答に、同性同士のカップルに対する偏見は一切感じられない」
ワイもスウェーデンに生まれたい人生だった。しかし寒がりなので、北欧の冬を乗り越えられるか不安だ。私が白夜に行き倒れていたら、フェルゼンや美童グランマニエみたいな貴公子が助けてくれるだろうか。
■かつて「保毛尾田保毛男」で笑った無知な自分
1976年、温暖な近畿地方に生まれた我は、まともな人権教育やジェンダー教育を受ける機会がなかった。おまけにテレビやメディアから、偏見や差別を刷り込まれて育った。とんねるずの番組で保毛尾田保毛男が流行った時、中学生の私は“おもしろオカマキャラ”のモノマネをして同級生と笑っていたが、それは私が無知な子どもだったからだ。
当時は「この教室の中にもセクシャリティに悩む人がいるかもしれない」と想像できるだけの知識がなかった。それで無意識に差別する側になっていたことを反省している。
人は過去の間違いを反省して、学ぶことができる。「あなたたちの中で罪を犯したことのない者がこの女に石を投げなさい」とイエスに言われたら、私は「すみませんでした‼」と石板の上に土下座する。
世の中に一度も間違ったことがない人なんていないだろう。間違ったことがない人しかジェンダーやフェミニズムを語ってはいけないとなると、誰も語れなくなる。自分の間違いを認めて、反省すること。人の意見に耳を傾け、真摯(しんし)に学ぶ姿勢が大切なのだ。
一方、差別発言が炎上しても「俺は間違ってない!」と開き直り「こんなに叩かれていじめだ!」と被害者ぶる人がいる。なぜ批判の声が上がったのかを考えないから、同じような発言を繰り返すのだ。また「差別する意図はなかった」と言い訳しつつ「誤解を招く発言をフンガフンガ」と謝罪する人もいるが、謝罪よりも勉強してくれと言いたい。差別についてちゃんと学ばないから、同じような(略)。
私もかすみ目の中年だが、こつこつ本を読んだりして勉強している。かすみ目に効く目薬があったら教えてください。
■モヤる発言をした友達と率直に話し合った
「LGBTは生産性がない」「(同性愛が広がれば)足立区が滅びる」みたいなドストレートな差別発言をされたら、こちらも真正面から怒れる。対処のしようがある。
むしろ仲のいい友人に微妙な発言をされる方が、モヤモヤしてしんどい。だけどモヤれるのは、自分がアップデートしている証拠なのだ。差別に敏感でいる方が、無意識に誰かを傷つけずにすむ。
「私はゲイに偏見がないから」と発言した彼女は大切な友人だったので、ちゃんと説明することにした。
「私も保毛尾田保毛男で笑ってたから、人のこと言えないんだけど。でもこの前の発言は気になったんだよね」
「『私はアジア人に偏見がないから友達になりたい』と言われたら、どう思う? もし私が言われたら、無意識の差別意識やマジョリティの傲慢さを感じると思う」といった具合に説明すると、彼女は「たしかに……」と深くうなずいて「私は同性愛の人に会ったことがないから、当事者の気持ちや苦しみがわからないのかも」と続けた。
そこで「実際は会ってるかもしれないよ」と返すと「ああ、そうだね。カミングアウトしてない人も多いもんね。私はそういう想像力もなかったから気をつけるわ、ありがとう」と言ってくれた。
■「何もかもはできないけど、何かはできる」
この場合は彼女に真摯に聞く姿勢があったから、対話が成立したのだ。ろくに聞く耳を持たずクソリプを返すような人間だったら、そもそも友達になっていない。「丁寧に説明して俺を納得させてみろ」と上から言ってくる奴には「興味があるならググれカス」と返そう。
先日「生理の貧困」の記事が話題になった。アンケートによると、経済的な理由で生理用品を買うのに苦労した学生が20%もいて、生理用品を買えなかったことがある学生も6%いたそうだ。
それに対して「ナプキンは買えないのにスマホは買えるのか」とクソリプがわいていたが、そうやって弱いものを叩いて優越感を得ようとする連中は、マイティ・ソーのようにグレッチで雷を落としてやりたい。
一方で、困難な状況にいる人をサポートするため尽力する人々もいる。
「何もかもはできないけど、何かはできる」。これは私の好きな言葉だが、私も自分にできることをしたい。自分のもつ特権を意識して、社会を少しでもマシにしたい。そのために、イマジナリー段ボール箱を持ち歩きたいと思う。
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作家
神戸生まれ。著書に『フェミニズムに出会って長生きしたくなった』『モヤる言葉、ヤバイ人』『離婚しそうな私が結婚を続けている29の理由』『40歳を過ぎたら生きるのがラクになった』『オクテ女子のための恋愛基礎講座』『アルテイシアの夜の女子会』他、多数。
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(作家 アルテイシア)
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