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「すべての新入社員は約3年で店長に」無印良品が若手を厳しい環境に放り込むワケ

プレジデントオンライン / 2021年11月11日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Robert Way

若手社員を育てるにはどうすればいいのか。良品計画前会長の松井忠三さんは「無印良品のすべての新入社員は、入社から約3年で店長になる。早くに責任を負う立場となることで大きく成長できる」という――。

※本稿は、松井忠三『無印良品の教え』(角川新書)の一部を再編集したものです。

■若者が早期離職をする理由

入社して3年以内で会社を辞めてしまう若者が社会問題としてとりあげられてから、若者を定着させるための取り組みをしている企業が増えてきました。

企業はコストと手間をかけて、新入社員を育てます。入社3年といえば、ようやく独り立ちできるぐらいになった段階です。これで責任のある仕事をどんどん任せられると思っていた社員が出て行ってしまうわけですから、入社3年以内の早期離職は企業にとっては大きな損失です。

私たちはこの問題に、どう対応していけばいいのでしょうか。

それにはまず、「なぜ若者は早期離職をしてしまうのか」という理由を明らかにしていかなければなりません。

理由はさまざまあると思いますが、第一に考えられるのは、理想と現実の違いを知る、いわゆる「リアリティ・ショック」です。

新社会人は、希望や理想をもって会社に入ってきます。しかし、現実の会社というのは、一見すると矛盾だらけの中で動いているものです。また、やりたい仕事があっても、そう簡単にやらせてもらえるほど会社は甘くはありません。厳しい現実を突きつけられて、「自分が想像していた世界と違う」「自分にはもっと向いている仕事があるのではないか」と考えてしまうのです。

■「現実」と「理想」のギャップを体で理解してもらう

こういうケースには、「現実を前もって知ってもらう」方法が一番いいと私は思います。

無印良品では、新卒採用の内定者には、店舗でアルバイトをしてもらいます。もちろん、仕事ですので時給は払います。

アルバイトをひと月ふた月やっていると、だいたい仕事の内容がわかってきます。

昔から無印良品のファンで店に通っていたとしても、実際に自分が店に立つと、抱いていたイメージと現実はまったく違います。立ち仕事はそれだけでつらいですし、届いた商品を倉庫に運んだり、倉庫から店頭に運んだりの力仕事もそれなりにあります。商品数が多い店では、商品をすべて覚えるのは大変でしょう。もしかしたらお客様から理不尽に感じるようなクレームを言われることもあるかもしれません。

そういった体験を通して、現実がじわじわと身に染みていきます。

レジに立つ店員
写真=iStock.com/DragonImages
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/DragonImages

さらに、店舗に配属されている社員から話も聞けるので、社内の様子が段々わかっていきます。そうやって事前に現場を体験してもらい、会社というものの現実を知ってもらったほうが、学生も覚悟を固めることができます。なかには、この段階で辞退する学生もいますが、入社前に自分の理想と合わないとわかるほうが本人にとっても幸せでしょう。

■小さな仕事こそ目的を教えるべき

晴れて新入社員になってからは組織の一員として、会社の持っている哲学や、コンセプト、価値観といったものをしっかり理解してもらわないといけません。無印良品では、そのためにMUJIGRAM(各店舗用のマニュアル)や業務基準書(本部の業務用マニュアル)といったマニュアルがあります。

たとえば、会社に入ったばかりのころに、掃除やお茶の用意、コピー用紙のチェックなどの仕事を任された人もいるでしょう。業務とは直接関係ない雑務ですから、「面倒だな」と思ったかもしれません。

新入社員には、「なぜその作業が必要なのか」「どこにどう役立っているのか」という目的や理由を考えさせ、教えてあげなければなりません。それをしないと、「これは仕事ではない」と雑務を疎(おろそ)かにしてしまいます。教える側は面倒であっても、小さな仕事こそ、目的を教えるべきです。目的を教えられないのなら、教える側が今まで何も考えずにやっていたということになります。

また、新人だけに原因を求めるのは正しくありません。

たとえば入社前の研修で、身だしなみについて教えたとします。

しかし上司たちの身だしなみが整っていなければ、新入社員は「やらなくてもいいんだ」と解釈します。若い社員が仕事をサボるのは、たいてい上の人がサボっているからです。

新入社員は、上司や先輩の行動をしっかりチェックしています。新人に教える方は、まず自分が模範となることができているのか、再確認してみるべきだと思います。

■「出世したくない」という姿勢はリスクと隣り合わせ

ここからは、主に無印良品での「新入社員の育て方」を紹介しながら、若い社員を強く育てるために必要なことを考えてみます。

入社後3年間で、「無印生まれ・無印育ち」の社員を育てられるかどうかが決まります。

鉄は熱いうちに打て。そこでうまく打てなかったら、人は育つどころかしぼんでいきます。新入社員が成長するかどうかは、教える側にかかっているのです。

若い世代のビジネスマンは、出世を希望しない人が増えているとよく聞きます。

管理職に昇進したところで、給料はあまり増えないのに責任は重くなる。これ以上仕事に追われるのは嫌だ。部下の面倒を見るのは大変そう――そんな思いがあるのかもしれません。しかし、「現状維持」は実は一番危険な選択です。

現在、グローバル化があらゆる分野で加速し、多くの企業が海外進出に軸足を移しています。海外の投資にお金をかけたい企業としては、人件費はなるべく抑えたいのが本音でしょう。早期退職を募り、管理職ではないベテランには早々に出て行ってもらい、安い給料で雇える新人で補いたいと考える企業は年々増えています。

つまり、出世せずに今と同じように仕事をしていくことは、真っ先に切り捨てられるリスクと隣り合わせなのです。

■なぜ入社約3年で「店長」を任せるのか

無印良品でのキャリアは、全国にある店舗の店長からスタートします。すべての新入社員は、入社後数年で店長になると決まっています。

新入社員は「商品の開発をしたい」「海外に行ってみたい」「広報の仕事をしてみたい」といろいろな理由で入ってきますが、まずはお店のスタッフとして店舗に配属されます。そして、約3年で店長を目指してもらうのが既定路線なのです。

無印良品以外にも、飲食店や小売業では、新入社員をまず店舗に配属して、店長を経験させている企業があります。こういった業種では店舗がビジネスの最前線なので、現場を肌で感じてもらおうというのが企業側の狙いでしょう。

無印良品でも、「現場の大変さやお客様の声を知らずに本社に入っても、なにもできない」という考え方があります。しかし、それだけではありません。店長を務めさせることで、リーダーとしての視点を養ってもらおうと考えています。

店長は店のトップとして、すべての責任を負う立場です。商品を仕入れて店に並べて売る、それは仕事のほんの一部に過ぎません。スタッフを育てるのも、売り上げ目標を立てて販売計画を練るのも、トラブルが起きた時に対処するのもすべて店長の役割です。つまり、若くして一国一城の主(あるじ)になるということです。

■「失敗しないような環境」で新入社員は育たない

社会人としての経験は少なくても、責任を負って人の上に立たなくてはなりません。それは相当プレッシャーがかかることですし、新入社員にとっての修羅場体験にもなるでしょう。その試練を乗り越えられたら、社会人として一回りも二回りも大きく成長できます。

企業という単位に限らず、少人数のチームでも、誰もがリーダーの視点を持って仕事に取り組むほうが仕事はスムーズに回ります。そのためにも、早い段階でキャリアアップさせるのは有効な手段です。

安定した店の運営を考えるのであれば、入社10目ぐらいの中堅社員に店長を任せたほうが安全かもしれません。最初から大きなトラブルもなく、スムーズに運営できるスキルは備わっているでしょう。新入社員は本部に配属して先輩社員のサポート的な仕事から始めてもらったほうが、本部としても目を配れます。

しかし、それでは新入社員の育成にはつながりません。

私は、仕事は失敗しながら学んでいくものだと考えています。失敗をしないような環境を企業やチームが整えてしまっては、いつまでたっても新入社員は育ちません。

失敗をしたときに、誰に相談すればいいのかを考えるだけでも、社会人として大切な訓練になります。そうやって「何とかする力」は養われていくものです。

■若者が育つかどうかは周りの環境次第

新入社員は、最初は仕事ができなくても、わからなくても当たり前。新入社員を教える側がそれを受け止めて許容できないと、人を育てることなどできません。育てる側が、未来を見る視点を持つことが大切なのです。

確かに、新入社員をいきなり厳しい環境に放り出すのは酷でしょう。

松井忠三『無印良品の教え』(角川新書)
松井忠三『無印良品の教え』(角川新書)

無印良品でも、最初は新人スタッフの一人というポジションから始めて徐々に環境に慣れてもらい、それから店長へとキャリアを歩んでもらう道筋を整えています。修羅場体験をさせるにしても、それなりの土台をつくってからでないとつぶれてしまいます。

また、新入社員を受け入れる側の店長には「受け入れ研修」を実施します。「新入社員が入ってきたら、この期間内に、ここまでを教えてあげてください」といったことを、具体的に説明するのです。「受け入れる側の態勢」もきちんと整えることで、新入社員の「土台」をつくっていきます。

そうした環境で、周りの上司や先輩が生き生きと働いていたら、新入社員も出世を嫌がるようになることはありません。結局のところ、若者が現状維持より向上を望むのは、周りの環境次第なのではないかと思います。

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松井 忠三(まつい・ただみつ)
良品計画 前会長
松井オフィス社長。1949年、静岡県生まれ。73年、東京教育大学(現・筑波大学)体育学部卒業後、西友ストアー(現・西友)入社。92年良品計画へ。総務人事部長、無印良品事業部長を経て、初の減益となった2001年に社長に就任。08年に会長に就任。10年にT&T(現・松井オフィス)を設立したのち、15年に会長を退任。著書に『無印良品は、仕組みが9割』(KADOKAWA)など。18年2月には日本経済新聞に「私の履歴書」を掲載。

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(良品計画 前会長 松井 忠三)

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