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「ノルマは2日間でコメント200件」世界中で急拡大するニセ情報ビジネスの恐ろしい実態

プレジデントオンライン / 2021年11月11日 15時15分

Twitter画面のキャプチャ

「Dappi」というツイッターアカウントが特定の政党のために組織的な情報工作をしていたのではないかと話題になっている。桜美林大学の平和博教授は「Dappiの背後関係は不明だが、『ビジネス化』するソーシャルメディア上の情報工作を放置するべきではない」という――。

■多くの国で広がりつつある「情報工作のビジネス化」

「Dappi」というツイッターアカウントを巡り、名誉棄損があったとして立憲民主党の議員らが起こした訴訟の行方が注目を集めている。

アカウントには、民間企業が関係していると見られており、組織的な運営が行われていた可能性も指摘されている。

現時点で「Dappi」の背後関係は不明だ。ただ、ソーシャルメディアを使ったフェイクニュースや誹謗(ひぼう)中傷などの拡散は、「ビジネス」として世界的な広がりを見せ、大きな社会問題となっている。英オックスフォード大学の調査では、情報工作の「ビジネス化」は世界48カ国で確認されており、前年比倍増の勢いだ。今や社会インフラとして普及するソーシャルメディアは、「情報工作ビジネス」の主戦場にもなりつつある。

■「Dappi」は何を呟いていたのか

「【お知らせ】/TwitterアカウントDappi(@dappi2019)の名誉毀損のツイートについて、東京地方裁判所の発信者情報開示を認める判決を受けて、プロバイダから発信者情報(法人名、所在地 等)が開示されました。/本日、発信者に対し、損害賠償等を求める訴訟を東京地方裁判所に提起いたしました」

立憲民主党参院議員の小西洋之氏は10月6日夕、ツイッターにそう投稿している。「Dappi」のアカウントは昨年10月25日、新聞コラムの要約のような体裁で、財務省の公文書改ざん問題に絡む近畿財務局職員の自死に、小西氏と同党参院議員の杉尾秀哉氏が関与していたかのような内容を書き込んでいたが、そのような事実はなかったという。

「Dappi」というアカウントは、プロフィール欄によれば、2019年に開設。今年10月1日を最後に、投稿が停止している。民間の信用調査機関の情報として、取引先に「自由民主党」の記載がある、と報じられている。

「Dappi」のプロフィール欄にはブログと、ツイッターのまとめサイト「トゥギャッター」へのリンクもある。ただ、ブログは2020年9月、「トゥギャッター」も2019年7月を最後に投稿が止まっている。

「Dappi」はこれまで、どんな内容をツイートしてきたのか。「Vicinitas」というソーシャルメディアの分析サービスを使い、「Dappi」のアカウントが投稿した2020年2月19日以降、今年10月1日までのツイート3162件をダウンロードした(ツイッターの仕様でダウンロードに3200件という上限がある)。リツイートを除いた投稿数は2653件だった。

■166件にわたり安倍晋三氏の発言に言及

「Dappi」の投稿の特徴は、政治家やジャーナリストらの名前を挙げて、その発言を引用するような体裁を取り、その発言に対するコメントを加える、というスタイルだ。投稿にはしばしば発言者とされる政治家らの動画などもつけられている。

この中で、リツイート、「いいね」ともに最も多かったのは、2020年3月5日午前10時24分に参院予算委員会での自民党、小野田紀美氏の発言の要旨を、動画とともに紹介したものだ。小野田氏が、新型コロナの感染状況についてマスコミが「事実と違う報道」で国民の不安を煽っている、と指摘したとし、「よく言った!」とコメントしている。リツイートは3万4794件、「いいね」は8万2868件だった(※2021年11月10日現在、以下同)

これに次いでリツイート、「いいね」が多かった(2万6377件と7万1734件)のは、2020年4月29日午後3時過ぎの立憲民主党参院議員、蓮舫氏に関する投稿だ。この日の参院予算委員会で蓮舫氏が「学校を辞めたら高卒になる」などと発言したことを取り上げたもので、「Dappi」は「しれっと高卒を馬鹿にする蓮舫」とコメントしていた。

「Dappi」が最も多く取り上げていたのは安倍晋三氏の発言で、「安倍総理」「安倍前総理」「安倍前総裁」を合わせて166件に上った。

■頻出する単語は「日本」「中国」「#kokkai」

さらに、立命館大学教授、樋口耕一氏が開発したテキスト分析ツール「KH Coder」を使って、「Dappi」のツイートの特徴を探ってみた。まずは、投稿のテキストから頻出単語を抜き出した。引用の体裁が多くを占めるため、それらを含んだ結果となる(※「言う」「思う」などの一般的な動詞、政治家以外の人名などは除外している)

ツイートの中で最も出現頻度の高い単語は「日本」(1292回)、次いで「中国」(977回)、そして国会審議を投稿するときに使うハッシュタグの「#kokkai」(678回)。これに続くのが「立憲」「立憲民主党」(計637回)、さらに「国民」(493回)、「野党」(464回)、「安倍総理」「安倍前総理」「安倍」「安倍首相」(計364回)だ。

それらがどんな文脈で語られているのか。共通して出現する単語の関係をグラフ化する「共起ネットワーク」を「KH Coder」で調べた(図表1)。

「Dappi」による2653件のツイート(リツイートを除く)の共起ネットワーク。バブルの大きさは単語がツイートに出現する回数で、線の太さは結びつきの強さを示す
図表=「KH Coder」を使い筆者作成
「Dappi」による2653件のツイート(リツイートを除く)の共起ネットワーク。バブルの大きさは単語がツイートに出現する回数で、線の太さは結びつきの強さを示す - 図表=「KH Coder」を使い筆者作成

最も強く結びついていたのは「日本」と「中国」で、そのいずれともつながっているのが「尖閣」「守る」。ハッシュタグの「#kokkai」と結びつきが強いのは「立憲民主党」「立憲」そして「野党」と「国民」。やや結びつきは弱くなるが、「#kokkai」とは「安倍総理」「コロナ」もつながっている。これとは別に「朝日」「朝日新聞」も計359回と出現頻度は比較的高く、強く結びついていたのは「慰安婦」だった。

■業務としてツイートしていた可能性も

「日本が大好きです。/偏向報道をするマスコミは嫌いです。/国会中継を見てます。」。「Dappi」のプロフィール欄には、そんな自己紹介がある。その紹介通りの投稿内容といえる。

すでにバズフィード・ニュースの籏智広太氏や東京大学教授の鳥海不二夫氏が検証しているが、ツイートの投稿時間は、平日の日中が顕著に多い。改めて筆者も確認してみたが、ダウンロードしたツイート全体の82%に当たる2593件が、月曜日から金曜日の午前9時台から午後7時台の間に投稿されており、中でも週末金曜日の午後4時台が70件と最も頻繁に投稿されていた(図表2)。

「Dappi」による2020年2月19日~2021年10月1日のツイート計3162件が 投稿された曜日と時間帯
筆者作成
「Dappi」による2020年2月19日~2021年10月1日のツイート計3162件が 投稿された曜日と時間帯 - 筆者作成

「Dappi」がソーシャルメディアを使った情報工作だったかどうかは不明だが、ツイートを業務として行っていた可能性はありそうだ。

■80カ国以上がSNSをプロパガンダに使用

「ビジネス」として、ソーシャルメディアなどを使ったフェイクニュースや誹謗中傷などの工作を請け負う――そのような動きが国際的に広がっている。

「拡大傾向にある潮流の一つが、コンピューターを使ったプロパガンダ工作に携わる、民間企業の数の増加だ。(中略)48カ国において、コンピューター・プロパガンダ工作をサービスとして提供する民間企業や戦略コミュニケーション企業と、政府機関が提携している証拠を得ることができた。このような提携は、非常に大きな利益につながる。2009年以来、このような民間企業との契約で6000万ドル(約68億円)が支払われたことがわかっている」

プロパガンダ工作としてのフェイクニュースの研究を続ける英オックスフォード大学インターネット研究所教授、フィリップ・ハワード氏らのチームは、今年1月に発表した報告書で、このような動向を「虚偽情報の産業化」と呼んでいる。

ノートパソコンでフェイクニュースを読んでいる人
写真=iStock.com/asiandelight
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/asiandelight

報告書によると、ソーシャルメディアを政治的なプロバガンダの手段として、選挙や民主主義、人権などの侵害のために使用している国は、2020年には81カ国に拡大。前年の70カ国から10カ国以上増加している。主な国としてはロシア、イラン、中国などが挙げられている。

このうち、プロパガンダ工作にフェイクニュースを使っていた国は76カ国。さらに、政府機関が対抗勢力やアクティビスト、ジャーナリストへの嫌がらせや誹謗中傷を支援していた国は59カ国に上る。そして、政府機関からの民間企業への「情報工作の外注」は、前年の25カ国から48カ国へと、ほぼ倍増している。この報告書の中には、日本は含まれていない。

■民間企業を「隠れみの」にし工作をする政府機関

このような傾向は、フェイスブック(現メタ)が5月にまとめた「影響工作(Influence Operations:IO)」に関する報告書でも指摘されている。同社では世論への介入工作「影響工作」の中でも、特にフェイスブックを舞台に、フェイクアカウント、フェイスブックページ、フェイスブックグループなどを連携させた組織的な工作を「組織的不正行為(Coordinated Inauthentic Behavior:CIB)」と位置付けている。

報告書によると、同社は2017年から2020年にかけて、50カ国以上で150件を超す「組織的不正行為」のネットワークを削除したという。

この中で、指摘しているのが「影響工作請負(IO-for-hire)」と呼ぶ民間企業の台頭だ。報告書は、こう述べる。

「当社は過去4年間で、メディア、マーケディング会社、PR会社といったビジネス分野のプレーヤーによる影響工作を調査し、削除してきた。ミャンマー、米国、フィリピン、ウクライナ、アラブ首長国連邦、エジプトなどの国がこれに含まれる。(中略)これらビジネスとしての“影響工作請負”の企業は、工作キャンペーンを行う巧妙なプレーヤーが隠れみのとして使っており、その特定をより困難なものにしている」

なぜ情報工作を民間企業に外注するのか。「隠れみのになるからだ」と同社は指摘している。

■フェイクニュースの予算とノルマ

フェイクニュースが注目を浴びたのは、ロシア政府による介入が指摘された2016年の米大統領選だ。この時にフェイクニュース拡散を担ったと言われるのが「インターネット・リサーチ・エージェンシー」というロシア・サンクトペテルブルクの企業だ。メディアでは「トロール(荒らし)工場」などと呼ばれる。

同社の実態について、ニューヨーク・タイムズ・マガジンが2015年6月、ライターのエイドリアン・チェン氏によるルポで報じている。それによると、同社の従業員は約400人、月間予算は2000万ルーブル(約3200万円)。午前9時から午後9時までの12時間勤務が2日、休みが2日というシフトだという。

投稿先のプラットフォームは、ロシアのソーシャルメディア「フコンタクテ」、フェイスブック、ツイッター、インスタグラム、ブログサービスの「ライブジャーナル」、そしてロシアのニュースサイトのコメント欄。

iPhone上に表示された各種SNSアイコン
写真=iStock.com/DKart
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/DKart

従業員1人あたりの2日間の勤務におけるノルマは、政治関連の投稿が5本、それ以外が10本、同僚の投稿へのコメント書き込みが150~200件とされていた。ロシア語に加えて、英語のチームもあり、CNNやFOXニュースなどの米国メディアがフェイスブックに投稿した記事に、米国人ユーザーを装って、バラク・オバマ米大統領(当時)への批判コメントを書き込んだりしていたという。

同社の実質的なオーナーは、ロシアの実業家、エフゲニー・プリゴジン氏とされる。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領との関係の近さで知られ、「プーチンの料理人」の異名を持つ。同社の幹部とプリゴジン氏は、ロシアによる米大統領選介入疑惑の捜査に当たった米特別検察官、ロバート・マラー氏によって米国で起訴されている。

プロパガンダなどの情報工作の「ビジネス化」拡大の動きは、米大統領選へのロシアによる介入のスタイルが、世界的な広がりを見せているともいえる。

■1日で数十万円の収入を手にしたケースも

一方で、2016年の米大統領選を巡るフェイクニュースの氾濫では、東欧・マケドニアの若者たちが、広告収入目当てに100を超すフェイクニュースサイトを次々と立ち上げ、米国のユーザー向けに配信していたことが、米バズフィード・ニュースなどの報道で明らかになっている。この中には、1日で数千ドル(数十万円)の収入を手にしたケースもあったようだ。フェイクニュースサイトの大半が、当時の共和党候補、ドナルド・トランプ氏を支持する内容だったという。

また、セキュリティー会社「トレンドマイクロ」は2017年6月の報告書「フェイクニュースマシン」の中で、ネット上で提供されている情報工作の工程ごとのサービス提供価格をまとめている。その中で、選挙や住民投票といった意思決定を歪めるための1年間の情報工作キャンペーンの費用を試算。フェイクニュースサイトの開設からコンテンツ調達と配信、ソーシャルメディアへの拡散にいたるまでで、予算額は合わせて40万ドル(約4500万円)程度になるとしている。

ソーシャルメディアを使った情報工作は、政治的な狙いとビジネス的な狙いが、車の両輪として駆動してきたことがわかる。

■フェイスブックは2年で1万件以上の工作アカウントを削除

このような組織的な情報工作への対処を担っているのは、前述のメタやツイッターなどのプラットフォームだ。オックスフォード大のハワード氏のチームの調査のベースとなっているのも、これらの企業が公開しているアカウントなどの削除情報だ。

ハワード氏らのまとめでは、2019年1月から2020年11月までの期間で削除されたのは、フェイスブックのアカウントが1万893件、フェイスブックページが1万2588件、フェイスブックグループが603件、インスタグラムが1556件、そしてツイッターアカウントが29万4096件だ。

メタは「組織的不正行為」、ツイッターでは「情報工作(Information Operations)」として、それぞれアカウント削除などの措置を定期的に公開している。メタが2021年11月1日に発表した最新の「組織的不正行為」リポートによれば、10月には、ニカラグア政府とサンディニスタ民族解放戦線(FSLN)党に関連して、896件のフェイスブックアカウント、132件のフェイスブックページ、24件のフェイスブックグループ、362件のインスタグラムアカウントを削除している。

またツイッターが2月に公表した「情報工作」の透明性リポートでは、イランで238件、アルメニアで35件、ロシアで計100件のアカウントを削除した、としている。

■Dappiは情報工作だったのか実態解明を

「ビジネス化」するソーシャルメディア上の情報工作に対して、できることは何か。まずはソーシャルメディアが情報工作の検知精度を高め、信頼度の低い情報の拡散を抑えるよう、コンテンツ管理をさらに強化していくことだ。そして情報工作の実態を、よりきめ細かくユーザーに共有し、社会と連携していくことも求められる。

メディアによる、情報工作の実態解明も重要だ。「Dappi」は情報工作だったのか、そうではなかったのか。社会のインフラとなったソーシャルメディアの裏側で何が行われているのか。多くの人たちが、知りたがっているのではないか。

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平 和博(たいら・かずひろ)
桜美林大学リベラルアーツ学群 教授、ジャーナリスト
早稲田大学卒業後、1986年、朝日新聞社入社。社会部、シリコンバレー(サンノゼ)駐在、科学グループデスク、編集委員、IT専門記者(デジタルウオッチャー)などを担当。2019年4月から桜美林大学リベラルアーツ学群 教授(メディア・ジャーナリズム)。主な著書に『悪のAI論 あなたはここまで支配されている』『信じてはいけない 民主主義を壊すフェイクニュースの正体』(いずれも朝日新書)などがある。

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(桜美林大学リベラルアーツ学群 教授、ジャーナリスト 平 和博)

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