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「岸田政権はさっさと潰して構わない」安倍氏と麻生氏の全面対決が招く"次の首相"の名前

プレジデントオンライン / 2021年11月11日 18時15分

記念撮影に臨む岸田文雄首相(右)と林芳正外相=2021年11月10日夜、首相官邸 - 写真=時事通信フォト

岸田文雄首相は長期政権を築くことができるのだろうか。ジャーナリストの鮫島浩さんは「総裁選と衆院選を経て自民党内には麻生氏優位の構図ができあがった。これが安倍氏はおもしろくない。党内状況を打破するため、安倍氏が揺さぶりをかければ、来夏の参院選前に首相交代となる恐れもある」という――。

■唯一の誤算は甘利明幹事長が小選挙区で敗れたこと

自民党は10月31日投開票の衆院選で「自民苦戦、単独過半数を巡る攻防」というマスコミの情勢調査に基づく予測を覆し、過半数(233議席)を大幅に上回る261議席を獲得して圧勝した。

自民党に勢いがあったわけではない。むしろ安倍・菅政権がコロナ対策で失態を重ねたことで自民党を積極的に支持するムードは乏しかった。安倍晋三元首相と麻生太郎副総裁の操り人形と揶揄(やゆ)される岸田文雄首相の存在感は薄く、勝因はひとえに「野党の魅力不足」にあるといっていい。

立憲民主党、共産党、社民党、れいわ新選組の野党共闘は中途半端に終わり、「野党連合政権」の具体像はいっこうに見えず、政権交代の機運はまったく盛り上がらなかった。ふたを開けてみると投票率は戦後3番目に低い55.93%に低迷し、自公与党が組織票を固めて僅差で逃げ切る選挙区が続出。予測を大幅に上回る議席が自民党に転がり込んだのである。

唯一の誤算は、岸田首相が政権の要として起用した甘利明幹事長が神奈川13区で敗れたことだった(比例で復活当選)。甘利氏は都市再生機構(UR)をめぐる口利き疑惑が尾を引く中、安倍氏と麻生氏の双方と親しいという一点で起用されていた。甘利氏こそ、安倍氏と麻生氏というふたりのキングメーカーが牛耳る岸田政権を象徴する存在だったのである。

自民党幹事長が選挙区で敗北するのは初めてだ。甘利氏はさすがに岸田首相に辞意を伝えたが、岸田首相はその場で了承せず、保留した。独断では辞表も受け取れない首相なのだ。

■甘利氏落選の誤算、勝ち過ぎた自民党に生じた「軋み」

甘利氏が失脚すると安倍氏と麻生氏を橋渡しする調整役が不在となり、政権内部のバランスが崩れる恐れがある。安倍氏と麻生氏の双方を満足させる後任幹事長として選ばれたのは、旧竹下派会長代行の茂木敏充氏だった。岸田氏より「ずる賢い」面はあるものの、安倍氏と麻生氏への従順さでは岸田氏に勝るとも劣らぬ政治家だ。

安倍氏と麻生氏は麻生派重鎮の甘利氏から旧竹下派幹部の茂木氏に幹事長職を明け渡すことに若干の抵抗はあっただろうが、双方が納得する人材は他に見当たらなかった。茂木氏の幹事長起用で安倍氏と麻生氏の二大キングメーカーが君臨する政権構造は維持されたといえる。

しかし茂木氏の後任の外相に宏池会(岸田派)ナンバー2の林芳正氏を起用した人事は波紋を呼んでいる。林氏は安倍氏と山口県政界を二分する「政敵」として知られているからだ。岸田氏は林氏の外相起用を安倍氏と麻生氏に事前に伝え、理解を求めた。マスコミ各社の報道によると、安倍・麻生両氏は林氏が親中派であることなどを理由に反発したが、岸田氏が押し切ったという。

私の見解はやや異なる。安倍氏が林氏の外相起用に強く反発したのは事実であろうが、麻生氏まで強く反発したら、はたして岸田氏は押し切れたであろうか。麻生氏は安倍氏の手前、反対するそぶりをみせつつ、実のところは林氏の外相起用を容認あるいは歓迎したのではないかと私はみている。

自由民主党本部
写真=iStock.com/oasis2me
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/oasis2me

岸田政権発足以降、安倍氏と麻生氏の盟友関係はすこしずつ軋み始め、衆院選で自民党が勝ち過ぎて、二階俊博氏や菅義偉氏ら「共通の敵」がますます埋没した結果、安倍氏と麻生氏の間の「軋み」は「亀裂」へ広がりつつある。麻生氏が安倍氏の反発を承知のうえで林氏の外相起用にゴーサインを出したとしたら、ふたりのキングメーカーの盟友関係は大きな曲がり角にさしかかっているといえるだろう。

甘利氏失脚で浮上した茂木氏と林氏が「ポスト岸田」の有力候補に躍り出たことも注目すべき点である。自民党内の権力構造にどんな変化が生じたのか。来年夏の参院選に向けて岸田政権はどうなっていくのか。詳しく解説していこう。

■麻生氏優位の党内構図

2012年末から7年8カ月続いた安倍政権と、それを受け継いだ1年間の菅政権は、安倍氏、麻生氏、菅義偉氏、二階俊博氏の「4長老」がときに内輪もめをしながらも世代交代を阻むという一点で手を握り、あらゆる国家利権を独占する「4長老支配」だった。

菅政権末期に安倍・麻生連合と二階・菅連合の対立がついに抜き差しならなくなり、安倍・麻生連合が「菅おろし」を仕掛けて退陣に追い込んだ。その後の自民党総裁選では安倍氏は高市早苗氏を、麻生氏は岸田氏を、菅氏は河野太郎氏を、二階氏は野田聖子氏を推し、4長老の対応は見事にばらけたのである。

総裁選は岸田氏と河野氏の決選投票にもつれ、さいごは安倍氏と麻生氏が連携して岸田氏を勝利させた。岸田政権は、党役員・閣僚人事で二階氏や菅氏、河野氏に加え、河野氏を支援した石破茂氏や小泉進次郎氏らを徹底的に冷遇した。一連の人事を主導したのは、自民党副総裁に就任した麻生氏である。

岸田政権の布陣をつぶさに分析すると、岸田首相は安倍氏よりも麻生氏の意向を重視していることがみてとれる。たしかに安倍氏と麻生氏の二大キングメーカーが牛耳る政権なのだが、そのなかでも「麻生氏優位」であることは、今後の政局を読み解くにあたり、しっかりと認識しておくことが重要だ。「4長老」のなかで、この秋の総裁選・衆院選の政局を経て独り勝ちしたのは麻生氏だったのである。

■幻となった「麻生―甘利ライン」

安倍氏は党運営の要である幹事長に高市氏、内閣の要である官房長官に安倍最側近の萩生田光一氏の起用を求めていたが、どちらもかなわなかった。安倍氏の意向を跳ね除けることができるのは、いまの自民党には麻生氏しかいない。

当初は麻生派重鎮の甘利氏を幹事長に起用したことが「麻生氏優位」を端的に示している。官房長官に就任した松野博一氏は安倍氏率いる清和会(安倍派)に所属していながら甘利氏の派閥横断的グループ「さいこう日本」のメンバーだ。安倍氏の顔を立てつつ主導権は握らせないという麻生氏の思惑が嗅ぎ取れる。麻生氏の政権運営構想のど真ん中にいたのが、甘利幹事長だった。

ほかにも「さいこう日本」からは党幹部に梶山弘志幹事長代行(無派閥)、田中和徳幹事長代理(麻生派)、高木毅国対委員長(安倍派)、閣僚に金子恭之総務相(岸田派)、金子原二郎農相(岸田派)、山際大志郎経済再生相(麻生派)が起用され、さながら「甘利政権」の様相となった。閣僚20人中13人が初入閣という布陣も、内閣より自民党の力が強い「党高政低」型といえ、麻生副総裁―甘利幹事長ラインですべてを仕切る思惑がにじむ体制であった。「安倍・麻生傀儡政権」ではなく「麻生傀儡政権」と言っても過言ではない滑り出しだった。

自民党が予想を覆して大勝したことと、そのなかで「政権の要」であった甘利氏が選挙区で敗れ失脚したことが岸田政権の「麻生氏優位」にどう影響するかが今後の焦点である。

■安倍氏との軋み

もしマスコミの情勢調査どおりに自民党が単独過半数を割るか、もしくは単独過半数ギリギリという選挙結果だったなら、麻生氏の思いのままの体制を継続することは難しかっただろう。

二階氏や菅氏を冷遇し続ければ、彼らは野党との連携をちらつかせ政権を揺さぶられる恐れがある。岸田首相は過半数を維持するには安倍氏や麻生氏だけでなく、二階氏や菅氏、さらには河野氏や石破氏にも配慮する「挙党体制」を構築する必要に迫られたに違いない。

しかし、自民党だけで過半数を30議席近く上回る大勝に終わった結果、二階氏や菅氏らが野党と連動した政局を仕掛けることは極めて困難になった。二階氏や菅氏が離反したところで、公明党さえつなぎとめれば政権は十分に運営できるからだ。

日本維新の会が躍進し、松井一郎代表(大阪市長)と親密な菅氏が存在感を取り戻すとの見方もあるが、私は否定的だ。

自民党単独で絶対安定多数(261議席)に達した以上、衆参各議院の総議員の3分の2以上の賛成が必要な憲法改正の発議にさえこだわらなければ、自公政権の国会運営は安泰だ。

維新の松井代表が来夏の参院選と同時に改憲案の国民投票を実施することを主張しているのは、「3分の2」の議席確保を政治的焦点とすることで維新の存在感を高める狙いがあるとみられるが、維新の協力を取り付けることは自民党内では菅氏を利するだけで、麻生氏には何の得もない。麻生氏や岸田氏は改憲発議に極めて慎重な姿勢をとるだろう。

国会議事堂とビル群
写真=iStock.com/kokouu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kokouu

■反発を承知で林芳正氏を外相に起用

麻生氏の最優先課題は、二階氏や菅氏を政権中枢から外し、岸田政権の運営を自らが主導することであり、そのために必要な議席は十分に確保できたということだ。

唯一の懸案は、安倍氏との「盟友関係」だ。最大派閥・清和会(安倍派)を率いる安倍氏と第2派閥・志公会(麻生派)を率いる麻生氏が盟友関係を続けてきたのは、二階氏や菅氏ら「共通の敵」に対抗し、河野氏や小泉氏への「世代交代」の流れを食い止めるためだった。

二階氏、菅氏、河野氏、小泉氏らが表舞台から姿を消し、衆院選で自民党が圧勝して「共通の敵」の反撃を気にする必要がなくなった結果、安倍氏との「棲み分け」がやっかいな問題として浮上してきたのである。

安倍氏にすれば、甘利氏が辞任した以上、今度こそ幹事長に高市氏起用を望んだに違いない。安倍氏にも麻生氏にも従順な茂木氏の幹事長起用は落とし所として容認できるとしても、茂木氏の後任の外相に林氏を起用したのは、露骨な「安倍軽視」ではないか——そんな安倍氏の反発を承知の上で、麻生氏が林氏の外相起用に踏み切ったことに注目すべきである。

■大宏池会の野望

林氏は老舗派閥・宏池会の本流である。東京大学法学部卒業、ハーバード大学ケネディ行政大学院修了という華麗な経歴を持ち、宏池会ホープとして若くから岸田氏よりはるかに高い期待を集めてきた。

宏池会第8代会長の古賀誠氏は従順な岸田氏を第9代会長に指名したが、本流の林氏を無視できず、ナンバー2の座長とした。林氏の弱点は参院議員だったことだが、今回の衆院選で衆院への鞍替えに成功し、ただちに外相に就任したことで、名実ともに岸田氏に続く「宏池会の首相候補」の座を確立したのである。

麻生氏はもともと宏池会に所属し、長く冷遇されてきた。1998年に加藤紘一氏が会長に就任したのを機に宏池会を飛び出し、小グループを結成。加藤氏が清和会の森喜朗内閣への不信任案に同調した2000年の「加藤の乱」に敗れ、宏池会が分裂・衰退するのを横目に、麻生氏は自らの派閥を急拡大させ、ついには第2派閥に躍り出た。

麻生氏の野望は尽きない。仕上げは本家本元の宏池会(岸田派)を麻生派に吸収合併して「大宏池会」を結成し、清和会と肩を並べる二大派閥として君臨することである。麻生氏は清和会と大宏池会が交互に首相を輩出する将来像を周辺に打ち明けている。

麻生氏が自民党総裁選で、自派の河野氏ではなく、岸田氏を全力で支援したのも、野望のためだ。もしも河野政権が誕生すれば、世代交代が一気に進んで権力を失う恐れがあった。

■「麻生氏独り勝ち」が岸田政権最大のアキレス腱に

麻生氏は思いのままになる岸田政権のうちに大宏池会を結成しておきたい。そして不人気の岸田首相が退陣する時に備えて「ポスト岸田」候補を手元に置いておきたい。それが林氏なのである。林氏を首相候補として押し上げることと引き換えに、林氏に大宏池会の結成を認めさせ、自らがキングメーカーとして君臨しようというわけだ。

甘利氏が失脚し、林氏の衆院鞍替えが実現した今回、茂木氏を外相から幹事長へ横滑りさせて林氏を外相へ登用し、一挙に「首相候補」へ引き上げる。安倍氏の反発覚悟で押し切った人事に麻生氏の強い覚悟がうかがえる。

安倍氏が麻生氏の野望に気づいていないわけがない。これまでは盟友関係を重視して麻生氏との対立を避けてきたが、二階氏や菅氏という「共通の敵」が消え、安倍氏の求める人事が一向に通らず、「麻生氏独り勝ち」の様相が強まるなか、トドメのように林氏の外相起用が飛び込んできたのである。面白いはずがない。

そのうえで大宏池会が実現し、清和会に肩を並べるか、あるいは清和会を抜いて最大派閥に躍り出れば、安倍氏と麻生氏の関係はさらに緊迫するだろう。

安倍氏と麻生氏の盟友関係の軋みこそ、岸田政権最大のアキレス腱である。岸田首相は麻生氏重視の姿勢を続けるだろう。安倍氏がただちに麻生氏と決別するのは考えにくいが、相当なストレスがたまっていくことが予想される。茂木幹事長が安倍氏と麻生氏の間をどう取り持つのかが注目される。

■支持率が低迷すれば“菅政権”の末路をたどる

岸田政権が続くうちは、安倍氏と麻生氏の関係を茂木氏が取り持ち、誤魔化しながら政権運営を続けることになろう。問題は、岸田政権が瓦解したときだ。

麻生氏の操り人形である岸田政権の支持率が上昇する見込みはない。来夏の参院選前に内閣支持率が低迷し、「岸田首相では参院選が戦えない」という声が浮上する可能性は高いだろう。菅首相(当時)が衆院選前に退陣に追い込まれたのと同様の道をたどる展開は十分にあり得る。

菅氏の後任を選んだ9月の自民党総裁選は党員も参加するフルスペックで実施された。来夏の参院選前に岸田首相が退陣した場合は、国会議員のみによる臨時総裁選となる公算が大きい。その場合は今回の総裁選以上に「派閥の力」がモノを言うことになる。

そのとき首相は誰になるか。安倍氏は引き続き高市氏を推す。麻生氏の本命は林氏だ。どちらも譲らない。落としどころとしてふたりが容認できる茂木氏に落ち着く――。安倍氏と麻生氏の「密室協議」で次の首相が決まるという展開もありえる。安倍派、麻生派、旧竹下派がまとまれば事実上勝負ありだ。

存在感の薄い岸田首相をそっちのけで、清和会を背景とする安倍氏・高市氏、大宏池会を背景とする麻生氏・林氏、旧竹下派を背景とする茂木氏の三極の駆け引きが参院選前の総裁選実施を視野に進むとみられる。自民党は大勝したが、岸田首相の政権基盤は極めて脆い。

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鮫島 浩(さめじま・ひろし)
ジャーナリスト
1994年京都大学法学部を卒業し、朝日新聞に入社。政治記者として菅直人、竹中平蔵、古賀誠、与謝野馨、町村信孝らを担当。政治部デスク、特別報道部デスクを歴任。数多くの調査報道を指揮し、福島原発の「手抜き除染」報道で新聞協会賞受賞。2014年に福島原発事故「吉田調書報道」を担当。テレビ朝日、AbemaTV、ABCラジオなど出演多数。2021年5月31日、49歳で新聞社を退社し、独立。SAMEJIMA TIMES主宰。

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(ジャーナリスト 鮫島 浩)

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