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荻原博子「iDeCoやNISAは買ったら一生バカを見る金融商品である」

プレジデントオンライン / 2021年11月16日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yusuke Ide

「貯蓄から投資へ」と盛んにいわれている。それはすべての人に当てはまることなのだろうか。経済ジャーナリストの荻原博子さんは「国はiDeCoやNISAへの投資を勧めているが、やめたほうがいい人もたくさんいる」という――。

※本稿は、荻原博子『買ったら一生バカを見る金融商品』(宝島社新書)の一部を再編集したものです。

■「iDeCoはやらなきゃ損」は本当なのか

2017年1月、それまで希望する会社だけが導入していた年金制度「401k」が、会社に企業年金のない会社員、自営業、専業主婦など現役世代のほぼすべての人に拡大されました。

自分で出す掛け金を、自分で運用する個人型確定拠出年金で、通称「iDeCo」です。金融庁が「貯蓄から資産形成へ」の旗振り役となり、国民が自ら年金を作るべく、積極的に投資を勧めています。

iDeCoは老後に向けて毎月一定額を、あらかじめ選んだ投資商品で運用していくもので、簡単にいうと投資信託の積み立てです。

iDeCoのメリットは、

①毎月の掛け金は全額所得控除になるので、所得税、住民税が安くなる
②運用中に出た利益には税金がかからない
③年金を受け取るときは、退職所得控除と公的年金等控除になる

普通に株や投資信託で運用すると利益に税金がかかりますが、iDeCoなら税金面でおトクというわけです。

国も無限大に税金を安くするわけにはいかないので、iDeCoには積立額の上限があります。会社員で会社に401kのある人と公務員は年14万4000円まで、自営業は年81万6000円までが所得控除の対象です。

ここまでなら「iDeCoをやらなきゃ損」と思う人も多いと思います。けれども、本当にそうなのでしょうか。

■苦しいときは、老後の年金より現金

iDeCoは節税になる半面、それを上回る大きなデメリットもあります。

それは、積み立てたお金が60歳になるまで引き出せないこと。自分のお金であるにもかかわらず、必要なときに貯金のように下ろすことができません。

そもそも一般的なサラリーマンで、節税が必要なほど税金を払っている人はそう多くはありません。しかも、これからのサラリーマンは転職するかもしれないし、リストラされるかもしれません。今の不安定な状況では、サラリーマンも安泰ではない。会社を辞めた時にお金に困っても、積み立てたiDeCoは、60歳まで引き出せないのです。そのため、借金をするという、本末転倒なことになるかもしれません。

iDeCoは転職しても続けられますが、勤める会社の形態によって積立限度額が違ってきますし、会社にも報告して手続きをするという雑多な業務が発生します。また、今までの積立額を60歳まで維持できるかどうかはわかりません。

自営業者の場合は、仕事をしていく途中で資金繰りに困るリスクは、さらに高い。

コロナ禍で泣いている飲食店や事業者がどれほど多いことか……。そんなとき、「そういえば、iDeCoに500万円ある」と思っても引き出せないので、高い利息を支払って銀行や信金から資金を借りなくてはならない事態が発生するかもしれません。

苦しいときは、老後の年金より、今すぐ欲しい現金のほうが、ずっと役に立ちます。

なお、自営業者には、仕事を辞めたときの退職金代わりとして、まとまったお金を手にするために積み立てる小規模企業共済制度(年84万円まで所得控除)があります。

小規模企業共済は、iDeCoとおなじで節税になるだけでなく、事業が苦しくて資金が必要になったら、預けているお金を担保に低利融資の制度もあります。また、ペナルティはありますが、途中で解約することも可能です。

よほど儲かっている自営業者なら、小規模企業共済とiDeCoの両方に加入して節税するのはよいですが、そうでなければ小規模企業共済を優先したほうが、自営業者には使い勝手がよいでしょう。

■公務員の年金に4階部分ができた

公務員には、iDeCoはとても優遇された金融商品です。

そもそも、会社員に401kが導入された際に公務員に導入されなかったのは、税金から給料をもらっている公務員が、民間人よりも大きい節税メリットを享受するのはおかしいという議論があったからです。

また、公務員にはすでに「年金払い退職給付」という、民間の企業年金にあたる年金があるので、ここにさらに上乗せして、企業年金にあたるものが公務員だけ2つになるというのも不公平だという議論もありました。

公務員の年金は、2015年10月から厚生年金と一元化されています。

この裏事情には年金をもらう公務員の数が急増しており、このままだと現役の公務員だけでは支えきれなくなる可能性が高くなったということがあります。

今のうちに安定している厚生年金と一緒にして、破綻しないようにするということでしょう。

そうであれば、今までの積立金を持参金として厚生年金に差し出して、厚生年金同様に2階建てにするべきですが、そうはならず、積立金の一部で独自の「年金払い退職給付」という新しい年金を作り、公務員の年金だけは全員3階建てになっています。

ここに、新たにiDeCoという4階部分を乗せて節税もできるようになりました。給料の高い公務員は、iDeCoでの節税効果も高いです。民間の平均給与は433万円(令和2年国税庁調べ)ですが、公務員の給料は40代で650万円から800万円といわれていますから、節税効果は民間とは比べ物になりません。

■「iDeCo」には安くない手数料がかかる

またiDeCoには安くない手数料がかかります。

金融機関によって手数料は異なりますが、iDeCo口座を開設する際に3000円程度、口座管理手数料として年2000〜7000円程度の手数料がかかり、口座から自動的に引き落とされます。

iDeCoには、リスクのない預金もありますが、ただ安くない手数料を払わなければいけないので、預金をするのは損ですから、投資商品を選ぶしかありません。

それで年金が確実に増えるのならよいのですが、投資なので儲かるとは限りません。途中で運用商品をチェンジすることはできますが、ただ運用の知識のない人には難しいことでしょう。

安定と書かれた隣のソファに沈む人形
写真=iStock.com/BBuilder
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/BBuilder

60歳までの長期運用をする最中には、リーマン・ショックのような金融危機や東日本大震災のような大規模自然災害と遭遇してピンチになっても、繰り返しになりますが、iDeCoは60歳になるまでは引き出すことができずに、しかも手数料を払い続けるのです。

このコロナ禍にしても誰が予想できたことでしょうか。緊急事態にもかかわらず、自分のお金を解約することができないなんて、欠陥商品もよいところです。

国の口車に乗せられて元本保証のない積み立て投資を、コツコツ手数料を払いながら実行するのは、お金も時間ももったいない話です。

■「NISA」は最長10年まで非課税

「NISA」の正式名称は、少額投資非課税制度といいます。NISAという金融商品があるのかとよく勘違いする人が多いのですが、NISAとは「NISA口座の中の資金でやる投資なら非課税にする」という制度です。

通常は、投資で儲かると利益に約20%の税金がかかりますが、NISAで取引すれば、値上がり益から税金が引かれません。配当金にも税金がかかりません。

NISAでの取引は、毎年120万円以内で買うことができ、5年間で最大600万円の投資額に対して非課税となりますが、5年間の非課税期間が終了したのちは、①運用益非課税で売却する、②課税口座に移す、③翌年の非課税枠に移す(ロールオーバー)、の3つの選択肢から処理をします。

現在の制度では、ロールオーバーすれば最長10年まで非課税になります。

■実質的な利益はゼロなのに、税金だけを引かれることも

NISAは投資ですから、100万円の株が150万円になることもあるでしょう。この場合、通常の証券口座なら値上がり益の50万円に対して約20%の10万円が税金として引かれます。けれど、NISAの口座なら非課税ですから、50万円が丸々手取りになり、税金の10万円ぶんが儲かるということになります。これがNISAのメリットです。

ただ、投資である限りは、投資商品が値下がりするリスクもあります。

たとえば100万円で買った株が50万円に値下がりしてしまったらどうでしょう。

多くの人は値下がりすると損を確定させたくないので、そのまま口座に放っておいて100万円に戻るのを待つ「塩漬け」という状態にしがちです。

そして、通常の証券口座なら、ずっと「塩漬け」にして100万円に戻るまで待って引き出すなら税金はかかりません。

ところがNISAは、5年なり10年なりで、損をしていても必ず引き出して損を確定しなければなりません。

たとえば、100万円の株が50万円になってしまった場合、5年後に50万円だったら、その株は、50万円で買われたと言うことになります。

ですから、そのまま「塩漬け」して、やっと買い値の100万円になったから売ろうとすると、50万円の利益となり、なんと約10万円の税金を支払わなくてはなりません。

NISAの口座に移し替えた場合も、もし5年間、50万円のままだったら、同じように100万円になった時点で約10万円の税金を支払わなくてはならなくなります。

つまり、NISAは買った投資商品が値上がりすれば税金ぶんが儲かるが、値下がりすれば増税になってしまう商品なのだと言うことです。実質的な利益はゼロなのに、税金だけを引かれるという理不尽なこともありうるのです。

株が右肩上がりに上がっていくならNISAは有効かもしれませんが、株価が下がっていけば余計な税金わ払わなくてはならなくなる。

国や金融機関は損をしたときのリスクについてはあまり説明をしてくれませんが、NISAで買ったものが値下がりすると、後々払う必要のない税金を払わせられる可能性があるということは覚えておきましょう。

■教育資金を投資商品で貯めてはいけない

2018年1月から、「つみたてNISA」が始まりました。

通常のNISAは、年間120万円以内ならまとまった投資ができますが、つみたてNISAは、投資商品を毎月コツコツと買っていくというもの。

上限額は年40万円、最長20年間非課税で運用でき、投資対象商品は金融庁が定めた基準を満たす投資信託とETF(上場投資信託)です。

積み立てた資金はいつでも引き出して使えます。また、年間40万円以内ならボーナス月の増額も可能です。

月々少額の投資で、家計の負担にならずに長期間運用でき、さらに、非課税の複利効果でお金が増えやすいというのがウリで、老後はもちろん、子どもの教育費を貯めるのに向いているといいます。

けれども裏を返せば、投資額に上限があり、商品ラインナップが限られており、通常の証券口座との損益通算ができないという、ほとんど自由度がないがんじがらめの制度です。

しかも、投資商品である以上、目減りするリスクも当然あります。しかし、パンフレットにはどこにも目減りするリスクの詳しい説明は書かれていません。

例えば、二人の子どもを大学に入れるため、5年後に教育資金として300万円が必要なので、つみたてNISAで準備するとしましょう。

荻原博子『買ったら一生バカを見る金融商品』(宝島社)
荻原博子『買ったら一生バカを見る金融商品』(宝島社新書)

銀行の積立定期で月5万円ずつコツコツ積み立てしていけば、5年後には確実に300万円を準備できます。けれど、その5万円を投資に回したら、必ず300万円になるという保証はありません。

運用が上手くいけばよいですが、株価が暴落して買っていた投資信託も値下がりしてしまったり、円高で目減りしてしまったら、大学には一人しか行けないということにもなりかねません。

さらにご丁寧なことに「ジュニアNISA」(未成年者少額投資非課税制度)という制度もあります。こちらは年間の非課税枠が80万円、5年で400万円、18歳までは払い出し不可です。

いまの経済の先は、まったくわかりません。

こんな、不確定な不安定な時代に、あえてリスクを抱える必要はありません。

そもそも投資というのは、経済が右肩上がりになってよくなっていく時にするものです。一寸先もわからないのに投資をするということは、ギャンブルに近いのではないでしょうか。

※編集部註:初出時、書籍の内容をそのまま掲載していましたが、出版時より更新した内容を伝えるため、著者の意向により本文の一部を修正しました。(11月17日9時51分追記)

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荻原 博子(おぎわら・ひろこ)
経済ジャーナリスト
大学卒業後、経済事務所勤務を経て独立。家計経済のパイオニアとして、経済の仕組みを生活に根ざして平易に解説して活躍中。著書多数。

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(経済ジャーナリスト 荻原 博子)

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