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「中国とロシアの合同艦隊が津軽海峡を通過」独善国家の横暴を見過ごすままでいいのか

プレジデントオンライン / 2021年11月19日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/杨培培

■習近平氏の個人崇拝をさらに高める「歴史決議」

11月11日、中国共産党の第19期中央委員会第6回総会(6中総会)が「歴史決議」を採択して閉幕した。6中総会は中国共産党の重要会議だ。8日から11日まで開催され、歴史決議の全文は16日に公表された。

中国共産党史上3度目、40年ぶりとなる今回の歴史決議は、習近平(シー・チンピン)国家主席を建国の父、毛沢東と肩を並べる指導者に祭り上げた。習近平氏の個人崇拝をさらに高める、実に異様な決議である。

中国国営の新華社通信によると、歴史決議の名称は「中国共産党の100年奮闘の重大な成果と歴史的経験に関する決議」。中国の近代・現代を、①毛沢東の時代、②鄧小平、江沢民、胡錦濤の3トップの時代、③習氏の新時代の3つに分けている。そのうえで2012年の習政権発足後の新時代を3トップの「改革・開放と社会主義現代化建設の新たな時期」と対等に扱った。3トップで一時代なのに習氏と毛沢東は1人で一時代だ。つまり習氏の権威は鄧小平ら3人を越え、毛沢東と並んだことを意味する。

過去に決議を主導したトップは毛沢東と鄧小平しかいない。3度目の歴史決議により、習氏は党内で特別の権威を獲得した。これにより習氏が来年の党大会で、2期10年という定年の不文律を破って3期目の政権を発足させ、トップの地位の続投を確実なものとした。しかも習氏は毛沢東が死ぬまで手放さなかった「党主席」(現在は廃止)の地位を復活させ、自ら就任しようとしている。

■軍事力を背景に、強権的行動と覇権主義を強めている

中国・習近平政権は世界第2位の経済力やアメリカにも劣らないといわれる軍事力をバックに日本や欧米の民主主義に反発し、強権的行動と覇権主義を強めている。国際社会のルールに背く中国の蛮行は絶えない。16日午前(米時間15日夜)、アメリカのバイデン大統領と習近平氏がオンラインで会談したが、中国の覇権主義への歯止めは期待できない。蛮行のすべてが習近平氏の指示によるものだと言っても過言ではない。北京の天安門広場の「毛主席紀念堂」で眠る毛沢東も驚いているに違いない。

習近平氏は7月1日の中国共産党創設100年の祝賀式典の演説で、台湾について「統一を実現することが党の歴史的任務」と軍事的な脅しや圧力を正当化し、香港に関しては「国家安全維持法で民主主義を取り締まり、長期的な繁栄と安定を維持する」と暴力と言論弾圧で民主派を一掃した行動を肯定した。

さらに、南シナ海のサンゴ礁の海を埋め立てては人工の軍事要塞を築き上げ、沖縄県の尖閣諸島を「中国の領土の不可分の一部だ」と主張し、尖閣諸島の周辺海域に中国海警船を出動させ、日本漁船を見つけては追い払う。

■天安門事件についても武力鎮圧を正当化

ジェノサイド(集団殺害)が国際問題になっている新疆(しんきょう)ウイグル自治区には台湾や香港と同じように「絶対に譲ることのできない核心的利益。他国の口出しは内政干渉に当たる」と平気で基本的人権を踏みにじる。

内政的にも中国の繁栄の裏には、大躍進運動、文化大革命、天安門事件と多くの犠牲があった。すべて中国共産党の過ちである。

しかし、今回の歴史決議では、たとえば天安門事件について党として初めて歴史的評価を下し、「重大な政治風波(騒ぎ)であり、党と政府が動乱に旗幟(きし)鮮明に反対した」と武力鎮圧を正当化している。

■中国とロシアの軍艦10隻が津軽海峡と大隅海峡を通過

日本に与える中国の脅威は前述した尖閣諸島だけではない。1カ月前には、中国とロシアの軍艦計10隻が津軽海峡と大隅海峡を通過し、多くの日本国民が驚かされると同時に大きな脅威を感じた。

並んで航行する中国(右側)とロシアの海軍艦艇=2021年10月23日午前、長崎県男女群島の南南東海域
写真提供=防衛省
並んで航行する中国(右側)とロシアの海軍艦艇=2021年10月23日午前、長崎県男女群島の南南東海域 - 写真提供=防衛省

防衛省によれば、10月18日午前8時ごろ、北海道の奥尻島の南西110キロの日本海で、中露の軍艦を海上自衛隊が発見。10隻が午後にかけて津軽海峡を通過して太平洋に抜け、伊豆諸島へと進んだ。中露の軍艦が津軽海峡を同時に通過するのが確認されたのは初めてだった。

中国海軍レンハイ級ミサイル駆逐艦(手前)及びロシア海軍ネデリン級ミサイル観測支援艦(奥)
写真提供=防衛省
中国海軍レンハイ級ミサイル駆逐艦(手前)及びロシア海軍ネデリン級ミサイル観測支援艦(奥) - 写真提供=防衛省
中国海軍ルーヤンⅢ級ミサイル駆逐艦(手前)及びロシア海軍ウダロイⅠ級駆逐艦(奥)
写真提供=防衛省
中国海軍ルーヤンⅢ級ミサイル駆逐艦(手前)及びロシア海軍ウダロイⅠ級駆逐艦(奥) - 写真提供=防衛省

10隻は22日に高知県足摺岬の南180キロの海域を航行し、夜間に大隅半島と種子島の間の大隅海峡を通過した。その後、東シナ海に進み、翌23日朝、長崎県男女群島の南南東130キロの海域で艦載ヘリの発着訓練を実施した。これに対し、自衛隊が戦闘機を緊急発進(スクランブル)させて抗議した。中露軍艦による大隅海峡の通過の確認も初めてだった。

津軽海峡も大隅海峡も国際海峡で、軍艦を含めて外国の船舶の航行が国際的に認められ、領海侵入の問題もなかったという。だが、中国とロシアの軍艦は津軽海峡から入って少なくとも日本列島を半周したことになる。実際の航行によって軍事的に使える情報も多く得ただろう。事前の通知はなく、航行信号も発していなかった。極めて異例の事態だ。

日本やアメリカ、オーストラリアがインド太平洋地域で軍事訓練を実施するなか、中国とロシアがその対抗手段として軍事連携を誇示したとみられている。これは日本に対する挑発行動だろう。日本政府は中国とロシアに航行目的を厳しく問いただすべきだ。そして日本の正当性を、国際的にアピールするべきだ。

■「自分だけの歴史観に閉じこもっている」と朝日社説

11月12日付の朝日社説は「時の指導者の権威を高めるように歴史認識を改め、国民への浸透を進める。こんな内向きな大国では、外の世界との距離を広げるばかりではないか」と書き出す。見出しは「中国6中全会 歴史を語る権力の礼賛」である。参考だが、「第6回総会(6中総会)」を朝日社説は「第6回全体会議(6中全会)」と日本語に訳している。

繰り返すが、歴史認識を改めて習近平国家主席の権威を高める行為は異常であり、異様だ。日本や欧米の民主主義国家では到底、考えられない。中国では一党支配のもとでの独裁者による国家支配が当然なのである。ここにいまの中国の本質がある、と思う。

続けて朝日社説は「言論統制の厳しい中国では、指導部が定める歴史観が教育などを通じて社会全体を覆っていく。歴史認識は本来、多様な見解と史実の検証を経て社会的に醸成されるべきものであり、時の指導部が自らに都合のいいよう自在に書き換える行為は独善というほかない」と断言するが、まさに「独りよがり」そのものである。「独善国家」が経済的にも軍事的にも世界で他国を圧倒し、いくつもの大きな問題を引き起こしている。独裁者の一人である習近平氏は協力や協調をどう考えているのか。

朝日社説は訴える。

「中国が豊かになったのは対外開放を進め、自由主義世界との協力や協調を進めたからだ。それを忘れて自分だけの歴史観に閉じこもり、さらには排他的な対外強硬姿勢を強めるようなことがあってはならない」

■格差の是正は必要だが、統制の強化は問題

11月14日付の毎日新聞の社説は「中国共産党の歴史決議 国際協調乱す独善は困る」との見出しを付け、冒頭部分でこう指摘する。

「米中対立や経済の減速など内憂外患を乗り越えるには、強力なリーダーシップが必要だと、習指導部は権力の集中を正当化する」
「格差解消を意味する『共同富裕』を打ち出し、経済や社会への統制を強め、政治の安定を図ろうとしている」

もちろん、国を治めるにはリーダーシップが欠かせない。その国が大きければ大きいほどより強いリーダーシップが求められる。中国は14億を超える、世界1位の人口を抱える大国である。だからと言って権力を習近平氏を頂点とする支配層に集中させるのは、弊害が大き過ぎる。格差の是正は必要だが、統制の強化は問題である。弊害や問題の影響は中国国内にとどまらず、世界各国に波及する。

■産業界や投資家にも不安が広がっている

毎日社説もこう言及する。

「IT産業や不動産業界への急激な締めつけは外国の市場にも動揺を引き起こした。産業界や投資家には政策の予測がつかないことへの不安が広がる」
「対外政策でも『戦狼(せんろう)外交』と呼ばれる強硬路線で権益の確保を推し進める。東シナ海や南シナ海、台湾海峡などの周辺地域では緊張が高まっている」
「習氏への権限の集中と歩調を合わせるように、国際社会では中国の振る舞いに対する懸念の声が上がる」

世界は中国のためにあるのではない。世界の「不安」「緊張」「懸念」を少しでも和らげる施策が、中国の習近平政権に求められる。

最後に毎日社説は「共産党の統治の下で、中国は驚異的な発展を遂げ、米国と覇権を争うまでになった。国際協調に背を向けては大国の責任は果たせない。習指導部が内向きの論理で独善に陥ることがあっては困る」と主張する。

中国に国際協調の姿勢があれば、かなりの問題が解決に向かうはずだ。真の大国とは何か。習近平政権はそれを考えるべきである。

■「習氏が目指すのは、鄧が封印した個人崇拝の復活」と産経社説

11月13日付の産経新聞の社説(主張)は「『歴史決議』採択 個人崇拝強化への道具か」との見出しを掲げ、「強権的な習体制のさらなる継続に、国際社会は警戒と監視を強化しなければならない」と訴える。

沙鴎一歩も今回の歴史決議は習近平氏個人を讃えるための「道具」に過ぎない、と考える。

産経社説は「共産党100年の歴史の中で歴史決議は過去2回しかない。共産中国建国の父、毛沢東が1945年に、改革開放政策の生みの親である鄧小平が81年に、それぞれ主導してまとめた。今回、毛、鄧に比べて実績の乏しい習氏が歴史決議をまとめたことに違和感を抱く中国国民は少なくない」と解説したうえでさらに次のように説明する。

「特に鄧がまとめた歴史決議は、毛が発動した文化大革命を否定したことで知られる。鄧は、毛の個人独裁を危険視し集団指導体制を確立した」
「だが、今回の歴史決議は党の政策の過ちを正すものではない。単に、習氏の権威をさらに高め、長期政権への異論を封じ込めるためのものだ。習氏による習氏のための歴史決議である。習氏が目指すのは、鄧が封印した個人崇拝の復活にほかならない」

この解説はわかりやすい。特に「習氏は毛、鄧に比べて実績が乏しい」「違和感を抱く中国国民は少なくない」との指摘は重要だ。

産経社説は最後にこう書く。

「林芳正外相は自身が務める日中友好議員連盟の会長職を辞任し、『主張すべきは毅然と主張し責任ある行動を求める』と語った。当然である。第2次岸田文雄政権は、米国と連携して対中包囲網の核とならなければならない」
「中国共産党が4回目の歴史決議を採択し、習時代の誤りを正すのを待ってはいられない」

いまこそ、日本がアメリカと協力して正当な対中包囲網を築き上げるべきである。それは、国際社会での日本の地位を高めることにもつながるだろう。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)

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