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不登校を助長し、危機感を奪った…子供を救済するはずだった「コロナ特例」の大誤算

プレジデントオンライン / 2021年11月24日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

新型コロナウイルスの感染拡大は子供たちにどのような影響を与えたのか。不登校や引きこもりの支援を36年以上続けている杉浦孝宣さんは「コロナを理由に休めば欠席扱いにならないという特例が『学校に行かなくてもいい』という気持ちを助長するだけでなく、不登校から立ち直る機会を奪っている」という――。

※本稿は、杉浦孝宣×NPO法人高卒支援会『不登校・ひきこもり急増 コロナショックの支援の現場から』(光文社新書)の一部を再編集したものです。

■不登校や保健室登校が例年より増えた理由

コロナは不登校やひきこもりを助長しました。例年では夏休みの後、ゴールデンウイークの後など、長期休み明けが一番不登校になりやすいタイミングです。それが、3カ月という例年にない長期間の休校になり、家にいるのが当たり前になってしまった。再開してもオンライン授業だったり、分散登校で行ったり行かなかったりして、家に長時間いる生活が許されてしまう環境になってしまったのです。

こうした環境により、不登校や保健室登校が例年より増えたのです。日本教職員組合の調査では、学校再開後や夏休み明けに不登校や保健室登校が増えたと答えた学校は2割を占めたと報道されています(教育新聞2020年10月12日)。

これに追い打ちをかけたのが、文部科学省の方針です。2020年4月10日、萩生田光一文部科学大臣(当時)は記者会見で、感染拡大の可能性が高いと保護者が判断して学校を休む子どもについて、校長が合理的な理由だと認めれば、欠席として扱わないという見解を出しました。

その後に通知した「新型コロナウイルス感染症に対応した持続的な学校運営のためのガイドライン」では、「臨時休業等に伴い、やむを得ず学校に登校できない状況にある児童生徒等については、各学年の課程の修了又は卒業の認定に当たっては、弾力的に対処し、その進級、進学等に不利益が生じないよう配慮する」と明記されました。

■学校に行かない・行けない児童生徒は21万人

これにより、各学校でさまざまな判断がされましたが、休んだ生徒を欠席扱いしない学校がほとんどだったと思います。欠席にならないのであれば、もともと不登校気味の生徒が休んでしまうのは当然でしょう。これにより、不登校が助長され、さらにその状況が見えにくい状態になってしまったのです。

これまで文部科学省では、不登校を「年度間に連続又は断続して30日以上欠席した児童生徒」のうち、「何らかの心理的、情緒的、身体的、あるいは社会的要因・背景により、児童生徒が登校しないあるいはしたくともできない状況にある者(ただし、「病気」や「経済的理由」による者を除く)」と定義してきました(令和元年度「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」より)。

しかし、コロナを理由に休んで欠席にならないのでは、本来不登校として数えられるべき生徒が、不登校にならなくなってしまいます。

つまり、令和2年度の不登校が19万人とされていますが、実際にはコロナ感染回避のための欠席者2万人も不登校と考えられますので、合計すると21万人もの不登校児童生徒がいるのです。

■休校で友達と遊べない、同級生の素顔を知らない

実際のコロナで不登校になった相談例です。

【ショウスケくん】(コロナ休校後、小学6年生の秋から休み始め、不登校に。NPO法人高卒支援会の訪問支援で立ち直り、現在は中学に登校できている)

ショウスケくんはもともと大人しいタイプで、友達作りが苦手なほうでした。小学5年生までは、なんとか友達ができて仲良くやっていましたが、コロナで5年生の3月から突然休校になってしまいました。そのまま6年生になりましたが、休校が続き、友達と遊んだりすることもなく、ずっと家で過ごしていました。

その後、5月下旬に緊急事態宣言が明け、学校が始まりました。新しいクラスです。密を避けるために分散登校になり、出席番号で半分に分けて登校するので、クラスメイトの半分には会えません。授業時間も短縮していて、なかなか友達ができず、クラスでもほとんど話さない日々が続きました。

6月中旬からは完全に元通りの授業になりました。しかし、感染予防のため、マスクを着用して、密を避けた行動をしなくてはなりません。学校行事も中止になり、給食でも全員が前を向いてしゃべらずに食べなさいと指導されます。第一、新しいクラスメイトのマスクを外した顔を見たことがないのです。友達ができないまま1学期が終わりました。

■ゲームをしていてもオンライン授業で出席扱いに

夏休みが短縮され、8月下旬から2学期が始まりました。しかし、状況はあまり変わりません。クラスでは友達がいなくて孤立し、悪口を言われることもありました。しだいに、週に2~3日休むようになり、11月からは全く学校に行けなくなってしまいました。

ただ、前出の文部科学省の意向を受け、学校ではコロナの感染不安で登校できない生徒のために、授業をオンライン配信しています。ショウスケくんはそれに出席しているので、出席停止扱いになり、欠席とはなりません。

しかし実際は、タブレットに学校の配信をつなぎっぱなしにして、日中はずっとゲームをして過ごしているのです。しだいに学校以外の外出も渋るようになってしまいました。ひきこもりの危機です。

このショウスケくんのように、実際は不登校でも、文部科学省の方針によりコロナで不利益を受けないような対処が全国の小中高校でされているため、欠席していることにならないのです。

その後、ショウスケくんのお母さんから高卒支援会に相談があり、アウトリーチ支援(訪問支援)を続けて、翌年4月からは中学校に登校できるようになりました。ショウスケくんのケースは、たまたまお母さんが迅速に行動してくれたために、立ち直ることができましたが、コロナで不登校になったままの児童生徒も多いと思われます。欠席扱いにならないため、本人も保護者も危機意識が薄いのです。

■高校の進級・卒業のハードルが大きく下がった

高校では、休んでも欠席日数としてカウントされないことはもっと大きな意味を持ちます。

小学校と中学校は義務教育なので、欠席日数がいくら多くとも進級・卒業できますが、一般的な全日制の高校では、欠席日数が総授業日数の3分の1を超えると、進級・卒業ができません。高校にもよりますが、おおよそ60日休むと、留年(原級留置)の可能性が出てきます。また、60日以内であっても、一つの科目につき3分の1以上の欠席があれば、単位をもらえず、これも留年になります。

これまでの指導経験からいうと、ゴールデンウイーク前後から欠席し始めると、1学期の終わりには留年がほぼ確定してしまいます。留年して1学年下の生徒ともう一度その学年をやらなくてはならないのですから、留年より退学のほうを選択するケースがほとんどとなっています。

しかし、そこへきてのコロナです。休んでも欠席になりません。例年なら進級や卒業ができない生徒が、欠席日数をカウントされていないので、進級・卒業ができてしまうのです。

令和2年度の高校の不登校数は4万3051人で、前年の5万100人よりかなり減っているように見えますが、実際はコロナ感染回避の欠席者9382人がいるので、実質は合わせて5万2433人と増加しているのです。

■「君たちは人間以下です」が口癖の担任

実際の不登校のまま進級・卒業ができた例です。

【ユメさんの事例】(現在18歳。不登校状態でもコロナで高校卒業できた後、浪人中)

ユメさんは中学受験をして、毎年東大に10人前後の合格者が出る中高一貫の進学校に入学しました。中学の頃は部活も行事にも積極的に関わり、元気に通っていました。成績も上位で何も問題がなかったといいます。

それが高1になってから、変わってきました。担任の先生は東大出身の先生で、授業中も「こんな問題も解けないと、東大に合格できないぞ」とクラス全員に罵声を浴びせます。ユメさん自身が個人的に怒られたわけではありませんでしたが、常に強いプレッシャーを受ける生活に疲れ、しだいに休みがちになってきました。

指をさすビジネスマン
写真=iStock.com/bee32
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/bee32

高2になって担任は変わりましたが、その先生も「君たちは人間以下です」というのが口ぐせの先生でした。受験勉強に追い立てられ、人としての尊厳を踏みにじるような言葉ばかり浴びせられて、ユメさんは体調が優れない日が増え、ますます学校を休む日が増えてしまいました。

■欠席扱いにならないなら「無理に行かなくてもいい」

高2の3学期になると、○○の授業をあと1回休んだら留年になってしまう、というところにまで追い詰められます。各教科の残りの授業数と欠席日数を数えると、3月の全ての授業に出席すれば、高3に進級できますが、休んでしまえば留年になってしまいます。

留年になるなら、通信制高校への転入も考えなくてはなりません。ユメさんもお母さんも、高3の進路が決まらないままで不安だったといいます。

そんなとき、安倍元首相の判断で、新型コロナウイルス感染拡大防止のため学校が休校になったのです。これで3月は出席停止扱いになり、無事高3に進級できることになりました。

高3に進級したものの、学校にあまり行けない状態は変わりません。休校中から学校はオンライン授業を開始しましたが、ほとんど授業に参加していませんでした。5月下旬から学校が再開し、対面授業が始まりましたが、行けない状態に変わりありません。ただ、それも“新型コロナウイルス感染回避のための出席停止”とされ、欠席日数としてカウントされません。ユメさんも、それなら無理に学校に行かなくてもいいと思うようになってしまいました。

■行き過ぎた受験指導が不登校の引き金になる

学校から通知があったのは、9月下旬。10月からは、新型コロナウイルスへの感染が疑われる場合や、濃厚接触者になった場合のみ、出席停止扱いとなり、それ以外は通常の欠席になることが文書で明記され、保護者全員に配布されました。

高3は例年通り、1月以降は受験のために自由登校となり、出席しなければならない授業はありません。すると、ユメさんが行かなければならないのは、実質10月から12月中旬までの約2カ月半です。ユメさんは、ときどき休みながらも、なんとかぎりぎりの出席日数で、卒業できました。

卒業証書
写真=iStock.com/kazuma seki
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazuma seki

ユメさんのケースは、前著『不登校・ひきこもりの9割は治せる1万人を立ち直らせてきた3つのステップ』(光文社新書)でも指摘したように、私立中高一貫進学校特有の問題で、不登校になっています。

このような行き過ぎた大学受験に偏った指導は、超名門校というより、その少し下のレベルにある進学校や、学校名を変更したり、共学化したりして進学校を目指す新規の学校に多い傾向があります(詳しくは前著2章を参照)。

■不登校を克服できないままで良かったのか

もし、コロナでなかったら、ユメさんの場合は高2から高3に進級できていなかったでしょう。今まで休みが多く、五月雨登校(行ったり行かなかったりを繰り返す)が続いていたのに、急に3月だけ全て出席というのは現実には難しいからです。仮に、高3に進級できたとしても、やはり、高3の4月から急に出席ができるようになるのは難しいでしょう。どちらにしても、退学となったと考えられます。

それが一転、コロナによって、進級もできて、卒業もできてしまった。一見、それは喜ばしいことに思えます。しかし、学校に行けない状態のまま卒業してしまったら、その後はどうなるのでしょうか。ユメさんは大学受験を目指して浪人しているといいますが、塾にも行ったり行かなかったりを繰り返しています。

このままで大学に合格できるのかも心配ですし、大学に合格したとしても、その後、毎日通えるのでしょうか。社会人になったとしても、毎日出社して仕事をすることができるのでしょうか。

もしコロナでなければ、進級や卒業ができなかったことをきっかけに、高卒支援会などの相談機関に相談すれば、通信制サポート校やフリースクールなどに毎日登校できるように訓練できたかもしれません。しかし、結局ユメさん本人は、そういった相談機関に行かないままになっています。立ち直る機会が奪われてしまったともいえます。

■「コロナだから…」が便利な言い訳に

ショウスケくんやユメさんのように、不登校状態になっているのにもかかわらず、学校で出席停止扱いになっているので進級できたり卒業できたりするため、当事者の生徒も保護者も危機感が薄くなっています。家にずっといても、周囲からの視線も「コロナだから」という言い訳があるので、それほど気にならなくなっているのです。

杉浦孝宣×NPO法人高卒支援会『不登校・ひきこもり急増 コロナショックの支援の現場から』(光文社新書)
杉浦孝宣×NPO法人高卒支援会『不登校・ひきこもり急増 コロナショックの支援の現場から』(光文社新書)

そのため、高卒支援会での相談件数もコロナ以降は減っています。2017年度には447件の不登校・ひきこもりの相談件数がありましたが、コロナ禍になった2020年度には293件になりました。

不登校やひきこもりになっても、相談機関などに相談して、きちんと立ち直って毎日登校したり通学したりできるようになれば、その後の人生はいくらでもやり直せます。しかし、ひきこもった状態で、立ち直るきっかけがないまま毎日が過ぎていくと、これは大変な問題になります。中高年の引きこもりを高齢の親が支える8050問題につながっていくのです。

私の指導経験上、不登校やひきこもりになったら、その相談や指導を開始するのが、早ければ早いほど、立ち直りやすいですし、立ち直るのにかかる時間も短くなります。

しかし、コロナのために、立ち直るきっかけを失っている子どもが多くいるのです。

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杉浦 孝宣(すぎうら・たかのぶ)
一般社団法人 不登校・引きこもり予防協会理事長
1960年生まれ。小学3年生で保健室登校を経験するも、養護学園に半年間通い克服。カリフォルニア州立大学ロングビーチ校卒業後、不登校や高校中退、ひきこもりの支援活動を36年以上行っている。2020年、新たに「一般社団法人 不登校・引きこもり予防協会」を設立し、AIによる無料での不登校・ひきこもりステージ判定などにも取り組む。著書に『不登校・ひきこもり急増』、『不登校・ひきこもりの9割は治せる』(光文社新書)など。

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NPO法人高卒支援会 不登校やひきこもり、中退で悩む小中高校生、20代の若者を対象に支援活動を行う。「子どもたちが規則正しい生活をし、自信を持ち自律し社会に貢献する未来を実現します」をスローガンに掲げ、水道橋、新宿、池袋、横浜に校舎を展開している。

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(一般社団法人 不登校・引きこもり予防協会理事長 杉浦 孝宣、NPO法人高卒支援会)

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