「53件1700万円相当を盗んだ事件も」いまどきの空き巣が家に忍び込む前に使っている"あるもの"
プレジデントオンライン / 2021年11月30日 9時15分
■スマホで簡単に「下見」をしている
興味深い事件を見つけた。11月10日、熊本県で空き巣を53件繰り返し、現金や掛け軸、古銭や指輪など約1700万円相当を盗んだとして、41歳の無職の男など5人が窃盗容疑などで送検された。毎日新聞の記事によると、5人は「スマートフォンの地図アプリの画像で、草が伸びたり昼なのに雨戸が閉まったりしている家を物色し、住民の不在を狙ったと供述している」という。
犯罪内容は昔ながらの空き巣だが、その手口が興味深い。今どきの泥棒は下見のために現地に赴く必要はなく、自分のスマホで「入りやすそうな家チェック」ができるというわけだ。
かつて、スマホはもちろんパソコンなどの情報を取り扱う電子機器がそれほど普及していなかった時代、電子機器を用いた犯罪は「ハイテク犯罪」などと呼ばれていた。そうした犯罪ではコンピューター化の進んでいた銀行などの機関が狙われることがほとんどで、その被害額も大きなものであった。そうしたことから、私たち庶民はハイテク犯罪のターゲットとは無縁であるという認識が長く続いていた。
■中高年こそ「ネット犯罪」に注意するべき
しかしその後、インターネットの普及によりパソコンが一般家庭でも普通に使われるようになった。さらに時代が進んでスマホの時代になると、パソコンでしかできなかったことが個人所有のスマホで行えるようになり、個人情報の電子化が一気に進んだ。
もはや子供ですらスマホを使いこなす時代に、空き巣だけがスマホの利便性を活用していないということはあり得ない。かつての「ハイテク犯罪=庶民とは無関係」というイメージはとうの昔に過去のものになっており、すでにあって当然の「ローテク犯罪」に変貌して久しいのである。
このようなことを小学生、中学生たちに尋ねれば「そんなこと当たり前でしょ。学校で習ったよ」という返事が来るだろう。どこの学校もメディアリテラシー教育には力を入れており、それをちゃんと理解している子供たちも増えている。
一方で、すでに学校で学ぶ機会のない中高年の中には、いまだに過去のイメージに引きずられて「インターネットのようなハイテクを利用した犯罪に、自分は関係ない」と思っている人も少なくない。
■適切にネットを使えば犯罪リスクを減らせる
地図アプリを使った空き巣を防ぐのは難しいかもしれないが、適切なネット利用を心がければ、犯罪リスクを減らすことはできる。
例えば、最近SNSを始めたおばあちゃん。今はつつましい1人暮らしだが、昔旦那に買ってもらった高価なアクセサリーを大切にしている。アクセサリーを旦那の思い出話と一緒にSNSにアップしたところ、たくさんのいいねや感想が寄せられた。
気分をよくしたおばあちゃんは、散歩中に見つけた植物や、近所の中華料理屋で食べた食事などを盛んにSNSに書き込むようになった。
■クワガタを置いて自宅を特定
秋のある日、自宅玄関前に季節外れのクワガタを発見。面白いのでパチリと撮影して「玄関前に季節外れのクワガタムシ。どこから飛んできたのかしら?」とSNSにアップ。
後日、そのおばあちゃんの家は空き巣に入られて、大切なアクセサリーは盗まれてしまった。
一見、何の因果関係もないように見える、SNSへの写真アップロードと空き巣。しかし、季節外れのクワガタは、空き巣の犯人が置いたものだったとしたらどうだろうか。
犯人はツイートでおばあちゃんが高価なアクセサリーを持っていることを知り、日頃のツイートや写真からどの地域に住んでいるかを推測。居住区域をかなり絞った後に、最後の決め手としておばあちゃんの家であろう玄関前にクワガタを置いた。これをおばあちゃんが撮影、アップロードしたことで家は確定。おばあちゃんが買い物などに行ったことを確認して、空き巣に入ったのである。
これは決して僕が適当に考えた架空の話ではない。
実際にそのような手口でターゲットの家を特定したと思わしき事件が起きているのである。
決して裕福ではなくても、家にわずかばかりの高価なものを置いている人は少なくない。そうした人を狙って、個人の住所を特定するために空き巣がSNSを活用することは、決して珍しくないのである。
■電信柱に記載された住所が写り込むことも
では、こうした犯罪のリスクを減らすにはどうしたらいいだろうか。
もちろん「SNSをしない」という解決法も存在するが、それでは生活の楽しみを奪ってしまうので、SNSを楽しみながら空き巣に情報を与えないためには、何に気を付ければよいかを紹介したい。
なお、これらの対処法はあくまでも「最低限」であって、これをすれば絶対に自宅を特定されないということではないので、注意してほしい。
まずは、自宅を特定されるような情報をアップしないことだ。
当然、わざわざ自宅の住所を公開する人は少ないだろう。しかし、自宅近くで撮影した写真には油断が発生する。家の近くで何気なく撮った写真に、電信柱に記載された住所が写り込むことは十分に考えられる。
そして先ほどの例のように、自宅玄関前の写真を撮ってしまうことも自宅特定につながりやすい行為である。クワガタのような特徴がなくとも、外からでも扉の形や壁の色は見えてしまう。
また、「雪が降ってきた!」などとベランダや窓から外の景色を写すのも危険である。それこそ写真に写った家の色や形と地図アプリを突き合わせて「この家からの撮影ではないか」と推測することができてしまう。
部屋の中での撮影でも、カーテンなどが開いていれば外が見えてしまうし、カーテンの色や窓の形状なども特定のための情報になり得るので安心してはいけない。
身近な何気ない風景などを共有できるのがSNSの利点であるが、日頃の生活をツイートしていれば、見知らぬ他人であっても「どの地域に住んでいるか」くらいは推測できてしまう。
「今日もハセストのやきとり弁当」というツイートがあれば「函館近辺の人だろうな」くらいは簡単に分かるのである。
そのくらいは分かっても、住所という最後の一線を越えさせないために、自宅の中や外はもちろん、近辺で撮影した写真の扱いには気を使いすぎるということはない。
■旅行のツイートは「事後報告」で
また、逆に自宅から遠くに出掛けたときも注意が必要だ。
特に「○月○日から、家族みんなで一週間の旅行に行ってきます」のようなツイートは御法度。これではみすみす犯罪者に「この期間は誰も家にいないので、安全に空き巣ができますよ」と教えているようなものである。
一番簡単な対処法は、外出関係のツイートは「後で書く」ことだ。
「これから旅行に行ってきます」とか「今、旅行を楽しんでいます」ではなく「この間、旅行に行ってきました」と事後報告の形にするのである。
そうすれば少なくとも留守の期間を空き巣に教えることはしなくて済むし、旅行を楽しんでいる最中にSNSの反応を気にする必要もなくなるのである。
2021年もあと1カ月弱。
年末の忙しい時期には家を空けがちになるし、物入りの時期なので現金が家にあることも多く、空き巣などの犯罪が多くなりやすい時期として知られている。最近はキャッシュレス決済の機会も多くなったが、高齢者であるほど現金派が多いのが現状だろう。
こうした機会に、改めて犯罪事例を確認して、みんなでネットを利用した犯罪のリスクについて話してみるのはどうだろうか。
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フリーライター
1975年栃木県生まれ。2007年にフリーターとして働きながら『論座』に「『丸山眞男』をひっぱたきたい――31歳、フリーター。希望は、戦争。」を執筆し、話題を呼ぶ。以後、貧困問題などをテーマに執筆。主な著書に『若者を見殺しにする国 私を戦争に向かわせるものは何か』『「当たり前」をひっぱたく 過ちを見過ごさないために』などがある。
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(フリーライター 赤木 智弘)
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